KDDI、太陽光・蓄電池・深夜電力活用の新型基地局を運用開始


トライブリッド方式の基地局で使われる太陽光発電パネル

 KDDIは、太陽光発電や深夜電力を活用した“トライブリッド方式”のau携帯電話基地局を開発し、12月3日から新潟県新潟市で第1号機の運用を開始した。同日には報道関係者向け発表会が埼玉県春日部市のKDDI工事関係者向け研修施設で開催。実機とほぼ同型の実験用設備を用いて技術解説も行った。

 新型基地局は、電力供給手段として太陽光パネルで発電した電力、深夜電力で充電した蓄電池、電力会社から購入する商用電力の3方式を組み合わせることから、“トライブリット方式”と呼称される(ハイブリッドは一般的に2方式の組み合わせ)。昼夜の時間帯に応じてもっとも効率的な電源を選択するため、同社の実験結果によれば電力およびCO2排出量とも20%~30%の削減が見込まれるという。

トライブリッド方式の概念図

 KDDI ネットワーク技術本部 技術戦略部 課長の今成 浩巳氏は「基地局にはこれまでもバッテリーが搭載されていたが、停電時などのバックアップのためにしか利用されていなかった。これを消費電力の節減にも活かそうというのが発想の原点」と、トライブリット方式基地局開発の経緯を説明する。実際には、KDDI社内で「Type VII」と呼称されるバージョンの基地局に太陽光発電システムなどを組み込み、発展させた構成になっている。フィールドテストも兼ねて今後10局ほどの開設が計画されている。

 基地局は通常、全時間帯を通じて常に一定の電力を消費し続ける。トライブリッド方式では、昼時間帯の1/3程度の価格とされる深夜電力を使って、23時から翌朝7時まで蓄電池の充電を行う。朝7時以降はこの充電分を消費しながら、さらに太陽光発電分もあわせて基地局へ電力を供給する。もし、蓄電池と太陽光発電だけでまかないきれない場合は、商用電力で補填するという仕組みだ。


こちらは発電量検証のための実験用太陽光発電パネル。下にあるのが整流器や蓄電池を収納しているボックスボックス内部。赤いリボン状の目印をつけている中央部分がリチウムイオン電池。その下部には鉛電池が設置されている

 トライブリット式基地局の太陽光パネルでは、基地局の運用に必要な直流電源(DC)を直接発電できる。一方の商用電力は、一般家庭のコンセント同様、交流電源(AC)が供給されているため、施設内の整流器を使って直流電源へ変換する必要がある。変換にあたっては、発熱などを伴う損失がどうしても発生してしまうが、太陽光発電ではこの変換ロスがないため、一層の電力削減に効果を発揮するという。

 新型基地局では13平方mの太陽光発電パネルで1.5kWの電力を発電。リチウムイオンおよび鉛電池も併用しながら、基地局に48Vの直流電源を供給する。今成氏は、4日間にわたって行った電力積算量実験のグラフを例示しながら「通常の運用であれば期間中に96.0kWhの電力を消費するのに対し、新型基地局で消費した商用電力は78.1kWh。約20%の電力削減が確認できた」とその効果を語った。


KDDI ネットワーク技術本部 技術戦略部 課長の今成浩巳氏4日間の実験では、約20%の電力削減効果が確認された

 KDDI研究所 開発センター 企画調査グループ 課長の入内嶋洋一氏は、トライブリッド式基地局とほぼ同型の研究用設備を用い、リアルタイムでの電力供給状況を解説した。発表会が開催された12月3日午前11時ごろは雨天だったため、太陽光発電量は34W程度。その落ち込み分を補填するために充電池から90W、商用電力として600Wが供給され、基地局全体では731Wの電力を消費していた。

 ただし好条件下における太陽光発電パネルの発電効果は非常に大きいという。晴天だった前日(12月2日)の10時台には748Wを計測。「10~11時ごろの条件が良い時間帯であれば、太陽光発電分での基地局稼働に加え、余剰分で電池充電も可能」と説明する。なお余剰分は電力会社へ「売電」されるケースもあるが、新型基地局では売電せず蓄電池の充電に割り当てている。


設備構成図発表会開催時の電力状況。太陽光発電は雨天のため34Wと低い。晴天だった前日の同時間帯では700W以上の発電を計測したという

 KDDIでは今後、トライブリッド方式の本格運用に向けて、技術的な検証も並行して行っていく。特に太陽光発電についてはパネルの設置角度や方位だけでなく、雲や周辺の鉄塔、柵が落とす影も発電量に影響を与えるため、さまざまな環境を想定して最適化していく必要があるという。

 新潟市の第1号基地局には、パネル設置角度の調整が可能な専用架台も設置。積雪対策も必要とされる同地の地理を活かして、より正確なデータ収集を実施する計画だ。また新基地局配備時の大きな課題となる投資についても、設置コスト圧縮や充電の効率化などを通じて早期回収を目指すとしている。



(森田 秀一)

2009/12/3 16:49