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バーゼルワールドを見て歩き 2017~サムスンが初出展を果たす
2017年4月7日 17:38
スマートフォンと腕時計の関係を確かめに、2016年に「Basel World」(バーゼルワールド)を初めて取材(前編、中編、後編)してから、1年が経った。今年も取材するかどうか悩んでいたが、別件の都合もあり、1日だけだが昨年に続いてのバーゼル現地取材が実現した。本稿は、前編に続く後編となる。
サムスンが出展
2016年に高級ブランドのドゥ グリソゴノ(de GRISOGONO)に、GEAR S2をムーブメントとして提供するという形でバーゼルに登場したサムスンだが、2017年は自社によるブース出展を実現させた。出展場所は三層で構成されるメインホールの「1階」(スイスでは日本と表記が異なり、地上フロアは0階。スイスの1階は日本で言う2階)で、セイコー、シチズン、カシオといった日本メーカーもブースも構える好位置を確保した。ブース配置は既得権の影響も大きく、アクセスしやすい0階はスウォッチグループ、ルイヴィトングループをはじめとする老舗スイスブランドががっちりと固めている。そうした状況下における、出展一年目で得られる配置としては、最良に近い結果と言えそうだ。
出展されていたのは、2016年9月のIFAで発表されたGEAR S3シリーズが中心。「Gear S3 frontier」、「Gear S3 classic」をそれぞれ試着して、スマートフォンとの連携が実際に試せるようになっている。展示のなかでは、デザイナーとのコラボレーションも強調しており、アリク・レビー(Arik Levy)氏のデザインハウスによるウォッチフェイスとベルトの組み合わせなどを積極的に紹介していた。
Android Ware 2.0搭載の新モデルが続々
「Samsung GEAR S」はTizenをOSとしているが、スマートウォッチの主流はAndroid Wearが占めているという状況は、2016年とさほど変わりがない。ここ1~2週間で、既存のAndroid Wear製品には、新OSである2.0へのローリングアウトが始まっている。もちろんこうしたタイミングであるので、バーゼルに新モデルとして出展されているものはすべてAndroid Wear 2.0対応を表明している。
一方で、展示されているものはAndroid Wear 2.0搭載とはいえ、順番に画面を切り替えて表示するだけのオートデモになっているものがほとんど、あるいはウォッチフェイスが点灯しないままのものも少なくない。各社ごとに多少の前後はあるものの、出荷時期は概ね今秋以降を予定している。
バーゼルワールドで注目を集めるような腕時計は、装飾品としての側面も強く、基本的にはそのデザインに惚れて手にするものだろう。一方でスマートウォッチという視点からは「機能」は決して見逃せない。いち早くAndroid Wear 2.0の機能を使いたいのであれば、2.0のローリングアウトが始まっている既存モデルということになる。あるいは、SoCをはじめ内部の進化も遂げている新製品を、今秋まで待つという選択肢もある。スマホやPCの世界にいるとこのふたつはほぼ間を置かずにやってくるが、やはりこちらは少しばかり時間の流れがノンビリしている。
タグ・ホイヤーのスマートウォッチ第二世代モデル
さて、そうしたAndroid Wear 2.0搭載の新製品のなかでも代表的な製品と言えるのは、やはりTAG Heuer(タグ・ホイヤー)だろう。バーゼルワールド開幕に先立つ3月14日には、同社スマートウォッチとしての第二世代モデル「TAG Heuer Connected Modular 45」を発表した。
ケース径は45mmで、製品名にもあるようにバンドやラグ、バックル、ベゼルなどをモジュールとして、ある程度自由に組変えることが可能。いわゆるBTOに近い仕組みで自分好みの1本を作り出せるほか、TPOに合わせた外装の選択もできるようになっている。加えて、ケース自体も機械式クロノグラフに取り替えることができるとしている。この辺りは、高級モデルへの入口としてスマートウォッチを位置づけていることが窺える仕様だ。
スマートウォッチとしては、直径部で400ピクセルの真円形有機ELパネルを搭載。Android Wear 2.0搭載により、GPSやAndroid Pay等に利用できるNFC、Wi-Fi機能などを内蔵する。プロセッサーは継続してIntel製のAtomを採用しており、筆者の見た限り、会場の新製品では唯一のIntelプロセッサー採用例となっているのも注目すべき点だ。
インテル、GUESS
そのIntelも、おそらく初めてバーゼルワールドにブースを出展した。配置は第二ホールにあるムーブメント専業の各社が主に商談用のブースを構える一角で、Intelのブースも明らかに商談を意図したものであることが一目瞭然だ。一部ではこの分野からの撤退も囁かれていたが、今後も動向を注視する必要がありそうだ。
加えて、Android Wearを新たに採用したのがGUESSだ。同ブランドは2015年から、一色一行で表示できるELパネルを搭載するモデルを「GUESS Connect」シリーズとして展開してきた。2017年はこのGUESS Connectに、Android Wear搭載モデルが追加される。
展示はケースに入った状態で行われており、男性向けモデルのケース径は44mm、女性向けはやや小さい41mmとされている。女性向けはベゼルにクリスタルなどの装飾があるのも特徴。プロセッサーにはクアルコム製のSnapdragon W2100シリーズを採用している。
GUESSでは、GUESS Connectの現行モデルも継続販売するほか、ELパネルのないHybrid型の製品「IQ+」もあわせて準備している。
Fossilグループ
GUESSと同様にAndroid Wear 2.0とハイブリッド型の両面で展開を目指すのがFossilグループだ。昨年も触れたが、Fossilグループはバーゼルワールドに出展していない。代わりに、会場のすぐそばに位置するヨーロッパ本社を使ったプライベートイベントを開催し、商談やメディアへのデモンストレーションを行っている。
Fossilは、それ自身がファッションブランドである一方、腕時計においてさまざまなインターナショナルブランドの管理も手がけている。代表的なものに、マイケル・コース(Michael Kors)、スカーゲン(SKAGEN)、ディーゼル(DIESEL)、マーク・ジェイコブス(MARC JACOBS)、エンポリオ・アルマーニ(EMPORIO ARMANI)などがある。これらのブランドは皆、今秋に向けた新モデルを展示した。
メディア解禁の都合で写真が掲載できない製品もいくつがあるが、これらの多くはAndroid Ware 2.0を搭載したスマートウォッチと、ハイブリッド型の両方で展開される。同社によるとハイブリッド型スマートウォッチは、現行製品でも特に好調なジャンルだという。ユーザーの嗜好も、ブランドの指名買いはあっても、機能の指名買いは少数派。商談のなかでハイブリッドだと知ると「じゃあ、それで!」ということになることも少なくないという。
以前、Fossilのブティックでは、同ブランドのConnectedである「Q」に特化したコーナーを設置していたが、これは必ずしも正解ではなかったそうだ。Connectedも、ウォッチフェイスやクロノグラフ、各種コンプリケーションといった“腕時計の特徴のひとつ”として、同列にしてユーザーに訴求すべきことが明らかになったとしている。
Fossil、Android Ware 2.0搭載の新モデルの特徴
ブランド毎に個性はあるものの、Android Ware 2.0搭載モデルの基本的な機能はほぼ横並びとなる見通し。製品によってはそれに、いくつか特徴的な機能を加えるという。
今秋モデルで共通しているのは、ウォッチフェイスとなるパネルが真円になったこと。従来モデルでは下部に半月状の表示できない部分が残っていたが、今秋以降のモデルからはウォッチフェイス全面の表示が実現する。
またリュウズを含めて複数のファンクションボタンを搭載する製品では、すべてのファンクションボタンに任意の機能を割り当てることができるようになる。従来モデルではこうした割り当てが特定のボタンに限られていた点をハード、ソフトの両面で改善したという。
とはいえ、これらは今秋以降のモデルのハードウェアにも依存している内容。現行モデルをAndroid Wareを2.0に更新しても、ウォッチフェイスの表示範囲やボタンの機能拡張が行われるわけではない。
このほか、ブースをまわり切れていなかったが、ドイツの紳士服ヒューゴ・ボス(Hugo Boss)と、アメリカのトミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)のブランドをそれぞれ冠したAndroid Ware 2.0搭載モデルが、これらのブランドを管理するMOVADOグループから発表されている。また、出展自体はないものの、明確にこのタイミングに合わせたものとしては、モンブラン(MONTBLAMC)からもAndroid Ware 2.0搭載製品の発表が行われた。これらはいずれも今秋の発売を予定している。
真の“Hybrid”はKickStarterから登場
よりカジュアルなものでは、MyKronozが出展したZeTimeが面白い。2月開催のMobile World Congressでも紹介はされていたが、バーゼルワールドのタイミングで、KickStarterでの出資を募り始めた。特徴は、針の中心の軸になる部分をくり抜いたディスプレイパネルを採用することで、フラットな表示パネルと、実体としての時計の針を共存させている点だ。
クラウドファンディングという点で水物感はあるが、現時点では製品を入手できる最低出資額である119ドルのコースは終了。最低139ドルからの出資で製品を入手できる可能性がある。製品出荷時期は2017年9月を予定。ちなみに、5万ドルのゴールに対して、現時点で135万ドルを集めているので、プロジェクト自体は成立している。
ZeTimeは、現時点ではプロトタイプしかない。Android WareやApple Watchなど、既存の全画面型のスマートウォッチの泣き所である、立体感に乏しいというか、文字どおり“絵に描いたような針”は、本物の針になることでその存在感は増すだろう。さらに、通知などを表示する際に、その針が邪魔になるようであれば、一時的に通知を覆わない位置まで待避するというアイデアもあり、よく考えてある。加えて、まったくの新参メーカーではなく、カジュアルウォッチやスマートリストバンドなどの出荷実績があるというあたりは、ポジティブな要素だ。
一方、ZeTimeのリスクだが、OSが独自であることで実装される機能には制限があること、サードパーティからの機能やアプリの追加が期待できないことがある。また、ケース背面には心拍計なども装備しており、かなりの高機能をうたっているものの、最終製品の価格が安すぎること。そしてクラウドファンディングにつきものの、十分な品質が担保できるかどうか。これらがネガティブ要素だろう。
完成後はAndroidおよびiOS向けのアプリケーションも用意されるとのことで、送料を含めても2万円弱。リスクも含めて投資に見合うかどうかは個人の判断次第だ。