キーパーソン・インタビュー

LINEを柱とした多数のコンテンツを擁するNHN Japan


NHN Japan株式会社 代表取締役社長 森川 亮氏

 無料通話やメッセージ交換などで楽しめる大人気コミュニケーションアプリ「LINE」をはじめ、「NAVERまとめ」や「livedoor」など多数のWebサービス、さらには「ハンゲーム」も抱えるNHN Japan。最近ではKDDIとの提携も発表し、さらには「LINE」上で展開するゲームサービス「LINE GAME」の提供を開始するなど、積極的な事業展開を進めている。

 急激に成長を続けている同社だが、10月1日には観光スポットとしても話題を集める「渋谷ヒカリエ」にオフィスを移し、心機一転、新たなスタートを切った。そんな同社の現在の状況と、今最も注目度の高いLINEのビジネス展開を中心に、代表取締役社長の森川亮氏にお話を伺った。

LINEは年内に1億ユーザーを目指す

――御社の最新の状況を教えていただけますか。

森川氏
 細かい数字も含めてお話ししますと、ハンゲームのユーザー数は累計が5182万IDとなっていて、特に「ドラゴンネスト」、「エルソード」、「TERA」といった大型タイトルのユーザー数が伸びています。このうち「ドラゴンネスト」については、今年、ファミリーマートさんとのタイアップや、池袋と秋葉原でのイベント開催などを行っていまして、PCゲームの市場全体がさほど伸びていない中にありながら、他社と比べればユーザーを多く集めています。

 ブラウザゲームも強化していまして、カジュアルなものからコアなものまで取り揃えています。最近ではセガさんのゲーム「戦場のヴァルキュリアDUEL」のユーザー数が増えていて、いい成果が出ています。自社タイトルについても堅調な数字が出つつあり、来年度に期待がもてる内容となっています。ガンホー・オンライン・エンターテイメントさんと共同でリリースしたPS VITA向けのタイトル「ピコットナイト」も好調です。

――Webサービスのほうはいかがでしょうか。

森川氏
 「NAVERまとめ」は堅調ですね。9月末の時点で、月間PVが7億1700万、ユニークユーザー数が3138万人となっています。食べログさん、Amazonさん、ゲッティ イメージズさんなどの画像をユーザーが使用できるようにした提携も行い、これによって個別に利用許諾を得ずに、高品質な画像コンテンツを使った “まとめ”をしやすくしました。また、livedoorではブロガーを支援する「ブログ奨学金」という制度があるのですが、10月23日からそれと似た位置づけの「NAVERまとめ 編集コンペ」というのを開始しています。

 livedoorの方も数字が伸びていまして、月間PVが94億、ユニークユーザー数が4750万人に達しました。ブログとニュースが特に好調で、ブログはアメブロさんを超えて業界2位になっています。FC2さんが1位なんですけれども、それも射程距離に入ってきていますね。一方のニュースはスマートフォン向けのPVが伸びていまして、スマートフォン向けニュースサイトのスタンダードになるべく、今後も伸ばしていきたいと考えています。

――LINEはどうでしょう。

森川氏
 LINEに関しては、ワールドワイドのユーザー数が7000万人で、そのうち国内ユーザーが3200万人超。伸び率自体が伸びているという状況で、今後年内に1億ユーザーを目指します。さらに、LINE内では9月25日から「シークレットセール」というのを始めています。LINEでしか入手できない限定アイテムを購入できる、というものですが、初回のぬいぐるみはわずか30秒で完売になり、2回目は若干苦戦しましたが、セシルマクビーの限定バッグが2分で完売となったということで、Eコマースの可能性が見えてきました。ソーシャルコマースやO2Oについては、スマートフォンにおける将来性がありそうだなとすごく感じています。

 首相官邸のLINE公式アカウントもできまして、より公共性が高まってきています。海外でも公式アカウントは続々登場していて、台湾、タイ、インド、インドネシアでも増えています。年内にはアメリカ、中国をはじめとした海外へのテストマーケティングなども徐々に進めています。

――ゲーム、Webサービス、LINEなど、さまざまな事業を抱えていますが、売り上げの内訳はどのようになっていますか?

森川氏
 ゲームが一番大きいのですが、今後はスマートフォンで「LINE GAME」をやっていきますので、ゲーム事業とその他の事業は同等程度の規模になっていくと予想しています。我々の場合は単に売り上げのみが重要ということではなく、どれだけ大きなユーザー規模を狙えるか、というところが重要ですので、ゲーム、ニュース、まとめ、ブログ、LINEという事業全てがキーとなってくると思います。ただ、韓国を含め、NHNグループ全体でいえば、グローバルで成功しているのはLINE以外にないので、LINEはグローバル全体としても注目すべき領域だと思っています。

――KDDIとの提携も発表しました。提携した理由と、今後の展開について教えていただけますか。

森川氏
 Androidを中心とした展開においては、KDDIさんがlivedoor、というのがまずあります。日本においてはキャリアさんが積極的に我々にアドバイスしてくれますので、競合というよりは、一緒にビジネスを展開していくパートナーとして考えています。独自アプリの提供ですとか、スタンプの販売、未成年への対応、回線など、さまざまなことを話し合いながら進めています。安心・安全という部分で、キャリアさんと組まないとできないことがたくさんあるので、LINEを新たなコミュニケーションスタイルの象徴だと感じていただき、サービスに共感していただいており、LINEのプラットフォーム化には欠かせない大切なパートナーを得られて大変うれしく思っています。

――LINEについては一時期トラフィックについての問題が騒がれました。

森川氏
 トラフィックについては各キャリアさんと話をしています。一時トラフィックの問題が取りざたされたときにLINEではないのか、という憶測があったことがありますが、具体的にLINEが原因だというお話をいただいたわけではありませんでした。ただ、トラフィックについては、弊社でできるところは企業努力として取り組まなければなりませんので、まずはお互いどんなことから始められるのか、各キャリアさんとお話を進めているところです。

NHN Japanは“ダイバーシティ”を意識した組織

――日本法人は、NHNグループの中ではどのような位置付けなのでしょうか。

森川氏
 NHN Japanとしては全社的にスマートフォン分野に注力しています。結果が出れば伸ばすし、結果が出なければ伸ばさないというシンプルな考えでやっています。日本はたまたまモバイルが強くてLINEがブレイクして成長しているので、それをより強化していこう、というのが全体の方針ですね。国によってそれぞれに合うサービスが異なるので、各国で人気のある分野をどう活かしながらアジア全体を強くしていくか、というイメージでやっています。LINEを中心として、NHN Japanの資産であるゲーム、ニュースなどあらゆるコンテンツ・サービスを連携させていくことにより、スマートフォンNo.1としてのポジションを目指したいと思っています。

――日本法人は韓国本社から完全に独立してビジネス展開しているのでしょうか。

森川氏
 基本的には、日本でのビジネスは日本法人に権限を持たせてもらって、日本での事業展開を行っています。LINEも日本がヘッドクオーターとして事業を行っています。ただ、完全に自由、というわけではないですね。数字はやっぱり大事です。そこはしっかりと結果を出していかなければいけない。その結果を出すために、それぞれの強みを発揮して、お互いがお互いの応援団のような関係性でものを進めています。

――スマートフォンのコンテンツビジネスにおけるコツみたいなものはありますか。

森川氏
 スマートフォンのビジネスは、明らかにPCやフィーチャーフォンとは違うところがあります。フィーチャーフォンの延長でスマートフォンコンテンツを作っていたりする会社も多いんですが、ユーザーにとってみれば、それはスマートフォンでやる意味があるのだろうか、と思われて、敬遠されがちになります。改めてスマートフォンの価値ってなんだろう、というところにフォーカスすることで、いろいろと見えてくるところがあると思うんですよね。

 かつてのPCにしろフィーチャーフォンにしろ、その時代からユーザーが費やす時間や金額はそんなに変わっていないのではないでしょうか。そういう意味で、コンテンツの料理の仕方が重要ですし、新しいインターフェイスとかデバイスが登場したときに、そこに特化しなければ生き残れないんじゃないかと思います。

――スマートフォンの端末自体についても、おサイフケータイなど日本が進んでいるところもありながら、国内メーカーやキャリアは苦戦しています。

森川氏
 これまでのフィーチャーフォンでは、メーカーが日本国内にあって、キャリアも日本で、コンテンツも日本にあって、ある意味緩い形での垂直統合というのができていたと思うんですけども、今や端末は海外から入ってきますよね。キャリアさんも状況が変わっているところで、コンテンツを作る側はそういった状況の中でどれだけ以前に近い形でコンテンツを作れるか、あるいは垂直が水平になったときに生き残れるものは何だろうと考えることが大切なのかなと思います。

 既存のものをプラットフォームだけ変えてパッと出すとか、ジャストアイデアを具現化するとか、それだけで生き残るのはけっこう難しいのかなと思います。世界中でいろいろなサービスが日々生まれているので、こういった現在のスマートフォン業界や厳しい環境の中で、“どういう戦略をとるのか”というのがいっそう重要になってきていると思います。今は技術より戦略が大事な気がしますね。

――NHNに対しては、漠然と“技術屋集団”というイメージを抱いていたりします。その一方でLINEのようなユルいところもあって、そこに面白さを感じます。どういう人たちが集まっている会社なのでしょう。

森川氏
 日本の多くの会社では、根底の“考え方”というのがあって、それに合う人が集まるという形になっていますよね。仕事のやり方についても、プロセス化されたりフォーマット化されたりして、いかに早く回してコストを下げて利益を出すか、というのが得意だったと思います。でも、今は変化が早い時代ですので、同じような人が同じような考え方をしているだけではたぶん生き残れないし、新しいものも生まれにくいのではないでしょうか。

 私たちの会社では“ダイバーシティ”(多様性)を意識しています。やり方とか考え方というのはある意味どうでもよくて、結果主義というか、“何を出せるか”というのが価値になっています。社内には外国人もいますし、いろんな文化の人たちに来ていただいています。

 とはいえ、さまざまなアイデアは出てくるんですけれど、今はそういうやり方だけで成功するのは難しいとも感じていて、成功の精度をさらに上げないといけません。精度を上げるには、リリースして、検証して、(問題があれば)早く直す、ということになるんですが、たとえばスマートフォンアプリなどでは、初回のクオリティがけっこう重要だなと。やみくもにやるよりは、ある程度品質を担保してから出す、という流れに変わってきているところがあります。

 じゃあ“品質”ってなんなのか、というところを突き詰めると、スマートフォンの成功って技術じゃないんですよね。デザインとか、コーディネートとか、コンセプトとか、そこがスマートフォンが生まれた本質なんじゃないかなと思います。なので、スマートフォン向けのサービスについても、技術というよりは使い勝手とか、モバイルのコンセプトとか、そういうところが重要で、それをもとにどういう技術を使うべきか、ということを考えるように変わってきていますね。

LINEがここまでブレイクするとは思っていなかった

受付横のブラウンとコニーの大きなぬいぐるみとともに

――御社が提供しているサービスを見ると、どれもコミュニケーションというものを大事にしていると感じます。グループ全体としてそういう意識を徹底されているのでしょうか。

森川氏
 どれだけユーザーを味方につけられるか、というのがマーケティングとして重要な1つのポイントだと思っているんですね。会社としてうまくいかない時期が非常に長かったので、ユーザー1人1人を大事にしよう、という気持ちがあるんです。

 そのユーザーの方に提供するサービスのクオリティという観点から言うと、単にいいものを出せばいい、ということではなくて、サービスの内容と、デザインと、サービスそのもののクオリティという3つが大切だろうと考えています。そのあたりをいかにKPI(Key Performance Indicators)化して伸ばしていけるか、というのが重要だと思っています。

 今のインターネットでは、1個1個がとんがっていないと、たぶん伸びません。際だった“これ”という部分を作っていかないと存在意義がなくなると思うんですよね。そういう意味では社内の1人1人なり、グループなり、それぞれがその分野でNo.1を取れれば、結果的に会社としてNo.1になれるかなという考え方でやっています。

――ちなみに、LINEがここまでブレイクするとは思っていましたか?

森川氏
 こんなに伸びるとは思っていなかったですね(笑)。検索とかコミュニケーションというのは、誰にでも必要となるジャンルのサービスですが、そのぶん事業として成長するのは時間がかかると思っていました。ただ、逆にここを取らないと会社の規模が大きくならないというジレンマもあって、チャレンジしたわけです。

 技術や戦略ももちろん大事ですけれど、「やりきる」というのがけっこう重要かなとも思うんですよ。なかなか儲かるものでもないし、競争も厳しいから、長くは続けられません。3年も大きな投資を続けることってやっぱり難しいと思います。僕たちは幸いそれができたから、LINEが成功したのかなと思います。

――LINEがブレイクした要因はどのように自己分析していますか?

森川氏
 今でこそ、NAVERまとめは多くのユーザーにお使いいただけるサービスに成長しましたが、NAVER検索事業を始めたときになかなか日本市場で浸透しませんでした。もうすでに「Googleがあるから他のは別にいらない」というような空気ができあがっていたんだと思います。

 我々は技術力は高いと自負していますが、それを売りにしているわけではないので、韓国(NAVER)とアメリカ(Google)を比べたらやっぱりアメリカの方がすごい、と思われがちだったのと、そもそも女性のユーザーが多かったんですね。LINEも同様で、リテラシーのそれほど高くない人に人気が出たからこそ、ユーザーボリュームができあがって、ここまで普及したのかなと思います。

 LINEとSkypeを比べたとき、Skypeの方はPCをベースとしたサービスというのもあるのか、どちらかというとリテラシーの高い人が使っていて、そういう一部のネットユーザーやITリテラシーの高い人たちだけの利用から他のユーザーに広げるというのはおそらく時間がかかると思うんです。なので、リテラシーのそれほど高くない方に使ってもらえてLINEがブレイクしたのは、やはり、誰でも手にできるスマートフォンをベースとして、誰もがシンプルに操作でき、カジュアルなコミュニケーションを可能にしたからだろうと思っています。

――今年の夏には「LINE GAME」などでLINEのプラットフォーム化も開始しました。

森川氏
 もともと我々にはビジネスモデルに関するいろいろなノウハウがあって、アイテム課金も早期からやっていますし、キーワード広告もやっていました。それらの経験から、ユーザーが集まれば、プラットフォーム化などを行うことで、収益化は難しくないと思っていたわけです。ユーザー規模を増やすのが本当に一番難しいんですよ。

 先ほども申し上げたとおり、まずはユーザーを集めることだけに集中できる会社ってあんまりないんですよね。幸い、我々の場合はユーザー集めに集中できたので、大きく成長できそうだ、という期待はありました。

――「LINE GAME」とハンゲームとの棲み分けは今後どのようにしていくのでしょうか。また、ターゲットユーザーはハンゲームとは異なりますか?

森川氏
 最近では、自宅でハンゲームのようなPCゲームで遊んでいるのはある意味マニアに寄ってきているのかな、という感じがします。一方でスマートフォンの場合は、初めてスマートフォンを買った、使い始めた、という人が増えてきているところなので、ゲームをプレイしたことのない人、あるいはライトなゲームユーザー層にもアピールできます。

 特にLINEの場合は、コミュニケーションのきっかけになったりとか、コミュニケーションが活性化するようなことが重要だと思っていて、本当に初期のハンゲームのような状況でもあるし、昔のFacebookのゲームのような、そういうイメージで今は考えています。

――本格的な3Dグラフィックを使ったPC顔負けのゲームなどもスマートフォンに出てきていますが。

森川氏
 まだそこまでのものは作らない……という感じです。スマートフォンがはじめての人、使いはじめてまもない人が主なターゲットで、タイミングやユーザーの流れを見ながら逐一判断していこうと考えています。

「いつかここで働きたい」と思われる会社にしたい

――ところで、なぜ渋谷のヒカリエに引っ越しされたのでしょうか。

森川氏
 我々としては、少数精鋭でレベルの高い人を採りたいという気持ちがあるので、働く人がプライドをもって働ける場所に移りたいなと思っていました。また、社員がずっと座りっぱなしで疲れてしまったりとか、刺激がなかったりということもあって、人、もの、情報が集まる最新の場所、渋谷にある最新の施設の中で刺激を受けて自分の内部から変化できるような、そういうことができる場所に移りたいなとも考えていたんです。

――スマートフォン業界はやはり人材難のようですね。

森川氏
 IT業界自体、もともとそういう一面がありますけどね。我々としては、いろいろな会社を経てきて、最後に働きたい、と思える会社になりたいと思っています。「いつかここで働きたい」とか、「すごいメンバーと一緒に働けるらしい」と思われるような、そんな会社にしたいですね。

――ズバリ、一番のライバルは?

森川氏
 ライバルというか、Facebookくらいの規模感を目指したいなという気持ちはありますね。我々としては、スマートフォンに特化しているところが強みだと思っていますが、Facebookでは、PCでうまくいっていたビジネスモデルをそのままスマートフォンに活かすというのは、スピード感も含めてなかなか難しいんじゃないでしょうか。我々がつけ入るとすれば、そのあたりでしょうね。

――本日はありがとうございました。

受付の様子ムーンの巨大ぬいぐるみもある
受付の前には広い待ち合わせスペース。将来的にここは蔵書スペースになるという床のカーペットに描かれた棚のような絵の中に、さりげなく社名やサービス名などが紛れ込んでいる
受付から先の廊下には、会議室や休憩室の方向を示す標識が描かれているブラインドテストなどを行うリサーチルーム。壁の模様のような部分はマジックミラーで、壁のさらに向こうから部屋の中を覗けるようになっているらしい
外の光の入り込みを抑えた巨大スクリーンが設置されているミーティングルーム役員用の会議室の床は、国土地理院の航空写真をもとにして作ったという特注カーペット
和室タイプのミーティングルームも用意されているオフィス内で各フロアを結ぶ階段も雰囲気たっぷり
昼食などを摂ることができる休憩室。お昼時は弁当が販売される休憩所の床のあちこちには遊び心あふれるペイントが
小上がりになっているプレイルーム風のスペースもあるブロックを自由に組み立てて、新しいアイデアを発想する



(日沼諭史)

2012/11/20 11:30