キーパーソン・インタビュー
KDDI田中社長が描く、新しいKDDIの姿とは
12月1日、KDDIの代表取締役社長に田中孝司氏が就任した。KDDI誕生から10年が経過し、スマートフォンに注力する展開で大きな変化を見せ始めているKDDI。同氏が描く、KDDIの今後の展開を聞いた。
KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏 |
■料金体系を含めて、FMBCの実現を目指す
――「FMBC」の実現を小野寺社長の時代から訴えてきましたが、こういった全社的な取り組みは今後どういう方針になるのでしょうか?
法人向けでは進んでいる印象です。「ビジネスコールダイレクト」は結構売れていますし、PBXレスの時代を切り開いているのかなと思います。
ただ、個人向けとなると、携帯電話系、携帯コンテンツ系、固定通信系などのように社内が縦割りで、ケーブルテレビなどの関連会社もそれぞれの事業体になっています。FMBCはこれに横串を刺そうということになるのですが、これまで実現できているのは「KDDIまとめて請求」ぐらいでしょう。
本当にやっていこうと考えると、それぞれのネットワークを繋げなければいけませんし、物理的なネットワークは違っても、ユーザーから見てひとつにならないといけません。IPレイヤーで統合し、認証がキーポイントになると思います。
一方、端末側では、スマートフォンは携帯電話網、Wi-Fi網の両方を使えるものになっていますし、ビジネスモデルを変え、縦割りの料金体系ではなく、横串の料金体系に変えようと考えています。その上で何をするのかという議論もあります。
究極的には、そういう(横串をさしたような)形でないと意味がないでしょう。携帯網を使っている人なら、固定網を使いたくなるようなサービスにならないといけない。CATVも、基本はテレビの視聴ですが、逼迫したデータ通信の先という面でも、リビングまできているわけですから。
――最近では、マルチデバイスでの展開、あるいはクラウドといった概念のサービスも増えていますが。
徐々にそういうものが出てくるでしょうが、クラウドに関しては、レイヤーのすべてを当社でできません。パートナーと一緒に開拓することになるでしょう。
■リソースは国際展開にもシフト
――KDDIの前身のひとつにKDDがありますが、統合から10年が経過し、KDDが持っている強みはこれから先、どう活かされていくのでしょうか?
アセット(資産)という意味では、KDDのケーブルネットワークはそれなりのものを持っています。法人向けという意味ではKDDだった当時よりも大きくなっていると思います。国内発海外という利用は縮小の一途ですが、法人向けのワンストップソリューションでは2012年には2000億円規模の事業になると考えています。ただ、ことコンシューマという意味ではこれからということになります。
ひとつの考えは、国際のインターネットビジネスを手がけたい、という点です。まだまだここは開拓の余地があると思いますし、これをひとつの柱にしたい。もうひとつは、コンテンツレイヤーを頑張って、外に出していく取り組みです。
国際的な展開をやっていける資産はあると思います。そこに力を入れてこなかったと言われれれば、その通りなのですが、成長分野ですし、リソースをシフトしていきたいと考えています。
■海外端末メーカーを拡充
――Android端末の展開ではGoogleと連携していますが、海外の企業と連携していく取り組みは今後も増えるのでしょうか?
そうですね。経営の意思決定という観点からすると、海外のISPは回線の敷設も含めてやらないといけないので、そういうISPに出資したり、提携したりは、できると思います。コンテンツもノウハウがあるので、気合を入れて、ジョイントベンチャーを作ったり、提携したりすることもあると思います。
――端末メーカーで見れば、セットトップボックスでMotorola、携帯ではPantechが国内に供給しています。
これから、スマートフォンではグローバルメーカーが入ってくると思います。
――今後、かなり増えるということでしょうか?
そうですね。
■「勢いをつけることにまず焦点をあてたい」
――現在、KDDIは携帯電話業界で2位ですが、トップを目指すのでしょうか? 2番手を磐石にしようということなのでしょうか?
はっきりしているのは、3位との差は縮まっていますし、MNPという面でも流出しているわけです。最初にやるのは、解約率を低下させ、純増を確保し、MNPで負けないようにする、ということです。勢いをつけることにまず焦点をあてたいと思っています。
結果として、ドコモとの差が縮まることを期待していますし、ソフトバンクに抜かれることを是としているわけではありませんから、回線というビジネスからすると、ちゃんと、もう一度戦える状態に持っていきたい。
とはいえ、コンシューマ市場の人口は増えていませんから、急成長が期待できる市場ではありません。回線という部分でちゃんと戦えるようにするということに加えて、もうひとつは、上位レイヤー、端末レイヤーを含めてドメインを広げようということです。ただ、海外のように2割増えるとか、そういう市場ではないでしょう。そういった意味で、成長を担保するために海外にリソースをシフトしていくことになります。
■2011年度はラインナップの半数がスマートフォン
――大きな注目を集めた「IS03」の発表会では、「auの復活」が掲げられました。実際のところ、復活の鍵を握るのはスマートフォンなのでしょうか? それとも既存の市場が大きいフィーチャーフォンなのでしょうか?
スマートフォンに、よりシフトしていくことは間違いないと思います。IS03だけを見れば、これまでの垂直統合型モデルと変わらないですよね。確かに、目先の製品であるこれらの端末でも競争力が出るようにはしますし、それは戦う前にやらなければいけないことです。
しかしそれだけでは面白くない。マルチデバイス、マルチネットワークと謳っているように、ビジネスモデルを変え、複数のデバイスを前提にビジネスモデルを作っていく。ビジネスモデルを変えるんだという意気込みです。
――スマートフォンを軸に、そのほかの端末との連携も考えていきましよう、と。
そうです。
――デジタルフォトフレームのような展開も一環でしょうか?
それもそうですし、スマートフォンにしても、5インチ(ディスプレイの端末)があっていいし、7インチがあってもいい。デジタルフォトフレームはビジネス的には小さいですが、ああいう多様性があっていいと思います。テレビも、ビジネスモデルに組み込みたいですね。
――スマートフォンではAndroidを前面に押し出しています。Androidだけにコミットしていくということでしょうか。
そうではないですね。
――スマートフォンのラインナップは、今後はどうなるのでしょうか?
来年度は、ラインナップの半分ぐらいがスマートフォンになります。
――販売数に関しては、スマートフォンの販売が半数を占めるのはまだ先ということですね。
来年度では難しいですね。何割までいくのか、今まさに検討しているところです。IS03が発売され1週間少しが経過した時点で、販売数の3.5割ぐらいをIS03が占めていましたが、もう少し、見極める必要があります。
――フィーチャーフォンの機能が成熟してきた現在、スマートフォンへの買い替えを躊躇しているユーザーもいると思います。
そうですね。IS03はハイエンドからミドルクラスのユーザーも手にしていただいているようですが、これだけではカバーしきれない。差別化というのは、形であったり、ハードウェア的なスペックであったり、全体的なデザイン、中のコンテンツなど、総力をあげて作っていかなければいけない。中身はAndroidでも、フィーチャーフォンのような形状でもいいでしょうし、そこまでくるとスマートフォンの定義もあいまいかもしれませんが、少なくともオープンOSを採用した機種はラインナップの中に増えてくるでしょう。
■Skype auに手応え
――Skype auの手応えはどうですか?
使っている人は多いですね。評判も良く、手応えはあります。どういうふうに使われているかをもう少し分析する必要はありますが、思ったよりも多く使われています。
――ビジネス的に、儲かる仕組みというのは?
チャーンインという意味と、(従来の)通話は減りますがデータ収入は増えます。
――田中社長はSkypeを使っていますか?
私は毎日使っていますよ(笑)。UQの時代は社員のパソコンがWiMAXでインターネットにつながっているので、頻繁に利用していました。
■WiMAX対応スマートフォンを投入
――UQコミュニケーションズとの連携は今後どうなるのでしょうか?
そもそも思っているのは、WiMAXは基地局を含めて“安い”ということです。無線LANのアクセスポイントを少し高くしたような価格帯ですし、スピードも出る。無線LANの延長線上なので、データ通信に非常に向いていますし、端末も安い。将来的には、PCに近い端末はWiMAXで、携帯電話系の端末はLTEという流れになるのでしょうが、その境目ははっきりするものではないでしょう。
私たちはLTEを開始するのが2012年末ですし、エリアが十分に整うのには、さらにもう少し必要です。これからスマートフォンをどんどん展開していく上で、バックホールのネットワークは、3GとWiMAXのデュアルのネットワークにしようと考えています。そうすれば、ドコモのLTEよりエリアが広く、ハイスピードを実現できます。
――スマートフォンもWiMAXに対応していく?
そうですね。全機種ではありませんが、入れていきます。
――グローバル市場という観点では、各社のWiMAXの展開状況について、厳しいニュースも聞こえてきますが。
私は、そうは思っていません。VerizonはLTEへの投資で先行していますが、Clearwireの(WiMAXの)ネットワークをSprintが使っている。噂では、ほかにもWiMAXを検討している大手キャリアがある。
基地局では、マルチモーダルと呼ばれる、ひとつの基地局で複数の通信方式に対応するものが出てきます。昔のようにコストの高い無線システムで戦うという状況から、マルチな無線システムをうまく使う、ローカルな話であればコグニティブなどと呼ばれる、そういう形が主流になっていくと思います。音声通話があるので今の3Gは残ると思いますが、これらに加えて、“ローカル最強”の無線LANも加わります。
WiMAXは今後WiMAX 2などと呼ばれている規格も出てきますし、データ通信向けのネットワークとして非常に強力になると思います。
■「今ある資産をどう活かすか、スピードアップを図るかが私の仕事」
――auはこれまで先進的なサービスや端末で注目を集めていましたが、ここのところは他社を追いかけているようなイメージでした。そこは、端末の調達を含めて、再び力を入れていくと。
おっしゃる通りですね。当然です。うちの会社のあるべき姿はそうだと思っています。まずスタートラインに立つためには、MNPで流出しているのを止める。固定系サービスもこれまでやってきたことがやっと花開くところまできている。今ある資産をどう活かすか、スピードアップを図るかが私の仕事だと思っています。
――MNPの転入超過は、いつごろを目標にしていますか?
できるだけ早くにしたいですね。
■「わりとオタクなんですよ」
――ちなみに、現在、個人的に使われている携帯電話は何でしょうか?
こういう立場なので(笑)、頻繁に機種変されてしまうんですね。IS03は並行してずっと使っていますが、数週間前からメイン端末として使っているのは「X-RAY」です。
――ご自身で選ばれるのですか?
これを使ってください、と機種変させられるんですよ(笑)。
――IS03は発売前から?
9月ぐらいから使っていますね。ソフトウェアのバージョンが今よりももっと古い時からです。発売前はバグが修正されるとバージョンアップされるのですが、一般ユーザー向けではないのでアップデートで端末が初期化されるんですね。せっかく入れたデータも消えて、勘弁してよ、と(笑)。
――正直なところ、端末メーカーを含めて、幹部クラス以上の方が日常的にスマートフォンを使っているのは珍しいと思います。
私はわりとオタクなんですよ(笑)。社長室のパソコンはデュアルモニター環境で、自宅では3台のパソコンを使っています。わりと、この手の新しいものは好きなんですよ。
――そういった経験が今後活かされるのでしょうか?
そうですね。自分でやりたいタイプですから。
――過去、最高だったと思う端末はありますか? 他社を含めてもいいですが。
そんなこと言えるわけないじゃないですか(笑)。
――印象に残っているのは?
ずっと法人向けを担当していたので、「E03CA」には思い入れがありますね。電池が大容量で、モバイルソリューションを担当していた当時のお気に入りでした。
――最後に、ケータイ Watchの読者にメッセージをお願いします。
来年は、変化の年だと思っています。いままで当たり前だったことが、そうではなくなる。いろんなことが生まれてきます。再来年になれば、「そういうことだったのか」と気づくと思います。来年は、古い考えで進めていくことと、新しいことがミックスされて出てきます。そういう変化の時代は楽しい。変化の兆候を見つけてもらえると、楽しいのではないかと思います。
――IS03を買うと、変化が見えてくる?
IS03は「すべての始まりだ」と言っています。
――本日はどうもありがとうございました。
2010/12/8 19:30