【IFA2014】
Xperiaシリーズやウェアラブルの戦略、ソニー平井CEOに聞く
(2014/9/5 12:48)
ソニーはIFA 2014が催されているドイツ・ベルリンにおいて、3日、プレスカンファレンスを開催し、Xperia Z3をはじめとした新製品を発表した。翌4日、日本のプレス関係者を対象に、代表執行役兼CEOの平井一夫氏、ソニーヨーロッパ社長の玉川勝氏が、ラウンドテーブル形式のインタビューに応じた。冒頭、平井CEOから今回の発表内容について、簡単に説明が行なわれた。
平井氏
まず、昨日のプレスカンファレンスではいくつかの新しい商品を発表させていただきました。モバイルではソニーの技術を結集したXperia Z3を中心に発表しました。デジタルイメージングのジャンルでは、昨年のIFA 2013で発表したレンズスタイルカメラ「QX」シリーズのラインアップを充実させるということで、新たに「QX-30」と「QX-1」を発表しました。また、オーディオの領域ではソニーとして力を入れている「ハイレゾ」に対応する製品として、7機種を新たに発表し、その中には世界最軽量のウォークマンのハイレゾ対応モデルをラインアップに加えました。そして、液晶テレビの「BRAVIA」については、今年の秋に欧州で導入する画面がカーブしたモデルを発表しています。また、今年のInternational CES 2014で発表したLifestage UXの商品群では、小型の単焦点のプロジェクターを発表しました。
私はCEOに就任して以来、お客さまの好奇心を刺激し、感動をお届けすることをテーマに掲げてきたが、今回のIFA 2014でもその路線に沿ったものを発表することができたと考えています。
――昨日のプレスカンファレンスではテレビの出荷が70%も伸びたという話があった。平井さんがCEOに就任以来、体験重視の製品を展開するとしてきたが、どういう要素がユーザーに響いてきたと考えているか。
平井氏
私がよく使う「感動」を軸に考えると、先日、PS4が世界で累計1000万台を超え、お客さまに受け入れられたと考えています。これはゲームだけでなく、インタラクティブエンターテインメントを通して、感動していただけるように、いろいろな仕込みをした結果が花開いたと見ています。また、ハイレゾ対応の商品ラインアップやQXシリーズなどもこれまでになかったほど、徹底的に内容を追求して、商品を出したことが受け入れられています。デジタルイメージングについてもローエンドのモデルがスマートフォンに取られていると言われている中で、写真や撮影を新たな感動軸で考えると、ミラーレスの市場を大きくしていこうということになり、α7などが登場し、受け入れられてきました。私が一貫して、「感動をお届けしたい」と訴えてきたことに対し、弊社の技術陣や商品企画などのスタッフが応えてきてくれたことが現在の結果に結び付いていると捉えています。
――オーディオについてはポータブルに注力してきたが、今後、ハイレゾ対応についてはどのようにするのか。
平井氏
ハイレゾ対応の商品ラインアップは、家庭用についてはいろいろな商品を展開できたが、その一方でお客さんからは普及価格帯のウォークマンが欲しいという声も多く、今回、それに答えました。ポータブルヘッドホンアンプも好評を得ていますが、今後、どうするのかを技術陣に訪ねたところ、バランス型のヘッドホンをやるんだという話があり、ポータブルでそんなことをやるのかと思っていたら、ちゃんと商品が仕上がってきました。ポータブルでも徹底的にいい音で楽しんでもらうんだというこだわりを持つことで、魅力的な商品に仕上がっています。
――今回、XperiaがZ3を発表したが、ライバル商品が数多く市場に存在する中で、今回のモデルでサポートされたPS4のリモートプレイは起爆剤になるのか?
平井氏
ソニーモバイルの鈴木邦正社長からも説明しましたが、PS4のリモートプレイはXperiaエクスクルーシブ(Xperiaシリーズ独占)の機能としてやりましょうという話になりました。欧米の市場、なかでも米国市場でいろんなキャリアさんとお話しさせていただいている中で、PS4リモートプレイはXperiaを採用してもらうひとつの材料になっている。ただ、それだけでマーケットを取ることは難しい。一方で、ソニーらしさをキャリアさんにアピールする、そして、キャリアさんがお客さんにアピールするという点においては、ポイントは高いと思います。もちろん、それに合わせて、アプリなども必要になるでしょうし、スマートフォンとしての基本性能も重要です。
――Xperia Z3ではカメラのレンズの性能が向上してきたが、スマートフォンのカメラ性能を向上することで、逆にコンパクトデジタルカメラの市場を浸食することにはならないか。
平井氏
ここ数年、世界的なトレンドとして、スマートフォンがコンパクトデジタルカメラの市場を侵食しているのは事実です。そのトレンドに逆らってもあまり意味がないでしょう。ソニーモバイルの鈴木社長とも話していますが、むしろXperiaにソニーがコンパクトデジタルカメラやハンディカムで培ってきた技術を積極的に投入していくことを考えています。そうすることで、スマートフォンのカメラ機能としてはピカイチのものが搭載できることになります。仮に、Cyber-shotは買ってもらえないかもしれないが、そのノウハウが活かされたXperiaを買っていただければ、結果的にソニーグループとして、お客さまをキープできたということにもなります。こうした取り組みは他のカメラメーカーにはできないものですし、これをソニーのアドバンテージとして、徹底的に追求していきたいと考えています。一方、デジタルカメラについては、α7をはじめ、DSC-RX1/10/100シリーズなど、スマートフォンでは撮影できないようなレベルの撮影、撮像技術を体験できるモデルにシフトしていく一方、レンズスタイルカメラのように面白く、新しい体験ができるモデルを提案することで、ビジネスを牽引し、バランスを取っていきたいと考えています。
――7月に発表された決算では、スマートフォンの通期の販売目標を5000万台から4300万台に下方修正したが、今回、Xperia Z3を発表することで、修正した目標は維持できそうか。
平井氏
ソニーモバイルについては、260億円の下方修正を発表しましたが、この段階では今回のXperia Z3などの商品ラインアップを発表することは織り込み済みなので、達成できるものと考えている。年初に発表した5000万台という数字はアグレッシブな数字ではあるものの、十分達成できるものと考えていた。しかし、モバイルは市場がダイナミックに動くので、その動きを捉え、タイムリーに修正したものを伝えていく必要があり、今回は下方修正を発表することになりました。
――下方修正に合わせ、Xperiaの戦略を見直すことが発表された。これはどういう意図があるのか。
平井氏
これから機会があれば、改めて説明したいと考えていますが、基本的にはマーケットシェアだけを徹底的に追うのではなく、きちんと利益が出せるオペレーションをしようということです。そんな中、今回発表した「Xperia E3」のようなミッドレンジの商品も提供していくつもりですが、やはり、Xperia Z3やXperia Z3 Compact、Xperia Z3 tabletなど、ソニーらしさを発揮できる商品に注力していくことが大事かなと考えています。よくマーケットシェアを取ることが大切という議論もありますが、そこに深入りしてしまって、マーケットシェアが取れても赤字になってしまうと、将来的にビジネスを展開できなくなってしまいます。今回の見直しは、そのあたりを軌道修正したということです。
――最近、新興の中国メーカーが増えてきているが、そうした企業と同じ土俵では戦わないということか。
平井氏
彼らがどういう商品戦略を展開してくるのかがわからないので、何とも言えません。ただ、くり返しになりますが、ソニーが持つ技術的な強み、ソニーグループとして貢献できるもの、ソニーが持つコンテンツやアプリなど、ソニーらしさを活かした商品を提供していくことが大切だと考えています。
――今回もウェアラブル端末が発表された。ウェアラブルの市場は有望だと言われているが、ポートフォリオをどのように考えているのか。
平井氏
ウェアラブルの市場のポテンシャルは大きいと言われています。2014年で20億ドル、4年後には200億ドルという予測もあります。もちろん、ソニーもそこに商品展開をしていきたいと考えています。ただ、いつも私が言っていることなのですが、ウェアラブルは基本的に『不動産ビジネス』です。身体に装着するという意味では場所が限られているからです。
腕に装着できるのは多くて2つでしょうし、メガネは4つかけませんよね。つまり、参入障壁が高いわけですが、もし、一等地を確保できれば、いいビジネスが展開できます。現在、ウェアラブル端末はさまざまなジャンルの商品が登場して、過当競争だと言われていますが、どちらかと言えば、現在は何がお客さまにヒットするのか(響くのか)を探っているトライアルの段階だと考えています。今回も商品を出しましたけど、まだ商品ごとにバッテリーライフも大きさも違います。ウェアラブル端末のどの要素が受け入れられるのかはまだ答えが出ていませんし、我々ソニー自身も含め、各社とも切磋琢磨していかなければならないと思います。
また、もうひとつ付け加えると、社内でもよく話していますが、ウェアラブル端末のうち、腕に装着するタイプは現在でもそれなりのデザインに仕上がります。しかし、これがグラス系になると、かなり目立ちます。社内のデザイナーもいろいろなデザインのものを持ってくるわけですが、デザイナーに対し、「あなた自身が装着して、山手線に乗って、恥ずかしくないレベルのものに仕上げないとダメ」と話しています。機能も大事なんですが、ファッション性というものをよく考える必要があります。ソニーがメガネのファッション性を発揮できるかというと、そこはやはり、メガネメーカーさんとコラボレーションをすることなどを考える必要があります。機能一点張りで推すことはなかなか難しいと思います。先日、別のインタビューで「現在のウェアラブル端末は男性っぽいデザインだ」という指摘を受け、私も「まさしくその通りだと思う」と答えたのですが、そういったことも克服していく必要があります。
――現在、国内ではMVNO市場が盛り上がり、SIMロックフリー端末が増え、さまざまな機器に通信機能を搭載したものが注目を集めている。ソニーとして、こういった市場に端末を供給したり、参入することは考えていないのか。
平井氏
議論はしています。ただ、市場性やニーズがどのまであるのかをよく見ながら、検討しています。決して、その市場には参入しませんということはありません。市場の動向をよく見極めていきたいと思います。