端末からネットワークまで、選べる楽しさを狙うauの秋冬モデル
9月26日、KDDIはauの2011年秋冬モデルの新ラインアップを発表した。昨年、IS03を発表し、本格的にスマートフォンのラインアップを展開してから約1年になるが、このわずか1年の間に、市場の主役は完全にスマートフォンに置き換わってしまった。auをはじめとした各社の端末ラインアップに限らず、サービスやコンテンツなどもスマートフォン対応が一気に進んできている。今回、auはスマートフォンへのシフトをさらに加速させるラインアップを展開し、料金やサービス面でも新しい展開を見せようとしている。発表会の内容については、本誌レポートで詳しく解説されているので、そちらを参照していただきたいが、ここでは筆者の目で見た今回の発表内容と全体の捉え方などについて、説明しよう。
■キーワードは「未来は、選べる。」
あれから約1年。KDDIが田中孝司代表取締役社長の体制に移行し、IS03を皮切りに、本格的にスマートフォン市場に展開し始めた2010年秋から早くも1年が経過した。今回の発表会でもこの1年間のauの動向が振り返られたが、2010年11月に日本のユーザーが求める機能を搭載したスマートフォン「IS03」を発売して以来、今年4月には初のWiMAX搭載スマートフォン「HTC EVO WiMAX ISW11HT」、夏モデルではG'zOneやXperia、AQUOS PHONEなどの個性的なラインアップを展開し、iidaでもauのデザイン端末の代名詞だった「INFOBAR」をスマートフォンで復活させ、8月には新しいプラットフォームとして、Windows Phone 7.5を搭載した「Windows Phone IS12T」もラインアップに加えた。もちろん、この1年間でNTTドコモやソフトバンクもさまざまなスマートフォンをラインアップに加えているのだが、個性やバリエーションの広さという点では、auは十分にアドバンテージのあるラインアップを展開してきたというのが率直な感想だ。
サービスでは1年前に「禁断のアプリ」として、「Skype | au」を携帯電話事業者ではじめて採用し、音声通話の無料にチャレンジした。夏モデル発表時には「Facebook」との提携も発表された。ケータイ時代からのリソースも活かし、昨年秋の段階から「ナビウォーク」や「助手席ナビ」などの人気サービスをスマートフォンに移植し、今夏にはブランドを活かした「LISMO unlimited」も発表された。
インフラ面ではHTC EVO WiMAX ISW11HT投入時に「+WiMAX」、夏モデル発表時には10万エリアを目指す公衆無線LANサービス「au Wi-Fi SPOT」が発表された。
こうして振り返ってみると、auがIS03投入時に掲げていたスマートフォンへのシフトは、単純に端末ラインアップを展開するのでなく、アプリを揃え、サービスを拡充し、インフラを充実させるなど、着実に積み重ねてきたことがわかる。ただ、惜しむらくは着実な積み重ねが必ずしも『純増』という評価には結びついておらず、一見、奮わないように見えてしまっていることだろう。純増という評価軸については、また別の機会に触れたいが、フォトフレームやモバイルWi-Fiルーターなど、さまざまなデータ通信端末が増え、キャンペーンなどで月々の実質負担額の少ない(ない)端末がばらまかれている現状を考えると、通信事業者の勢いを計るものとして、もはや純増数というのはあまり意味をなさなくなっている。既存契約者の動向に限られるが、発表会の質疑応答でも触れられたように、MNPはひとつの指針であり、この点で見ると、auのMNP転出数は確かに少しずつ改善されつつあるようだ。
こうした1年間の動向を踏まえ、今回の2011年秋冬モデルの発表会を迎えることになった。昨年はIS03の発表後、秋冬商戦と春商戦に投入する端末が一気に発表されたが、今回は秋冬モデルと春モデルの発表が別々に実施されるようだ。これが単純な開発スケジュールによるものなのか、春商戦へ向けた秘策があるのかはわからないが、iPhone投入の噂などが飛び交っていることを踏まえると、ちょっと意味ありげだと勘ぐってしまいそうだ(笑)。
そして、今回のauの発表会で、auのこれからを表わすキーワードとして掲げられたのが「未来は、選べる。」だ。これまでのケータイを中心とした時代は、どちらかと言えば、通信事業者がユーザーに対し、「こういう使い方をしてはどうでしょうか」と提案を持ちかけていたが、その提案はあくまでも通信事業者の価値観をベースにしており、必ずしもユーザーのニーズにマッチしていなかった。そこで、今後はユーザーがさまざまな選択をできるように、端末ラインアップやサービスなどを拡充していこうというのが今回の「未来は、選べる。」というキーワードに結びついているようだ。
■選べる「端末」「ネットワーク」「サービス」「料金」
では、具体的にどういう選択肢があるのだろうか。まず、もっともわかりやすい端末ラインアップについては、夏モデル発表の段階から予告されていたスマートフォンが6機種、フィーチャーフォンが3機種(内1機種は法人向け)、タブレット端末とモバイルWi-Fiルーターが1機種ずつの合計12機種が発表された。
このラインアップの内、もっとも目を引くのは当然のことながらスマートフォンということになるが、今回は形状こそ、いずれも一般的なストレートボディ(スレート状)を採用しているが、メーカー別ではNECや富士通が初のau向けコンシューマー向けモデルを供給していたり、Motorola Mobility(モトローラ・モビリティ)も回線契約が可能なau向け端末としてはおそらく2000年のC100M以来の復活を果たしたり、さらには京セラも初のスマートフォンを投入するなど、かなり新鮮な顔ぶれが揃ったという印象だ。個々の端末については後述するが、スマートフォンは機能面で見ると、日本のケータイユーザーを意識した三種の神器(ワンセグ、おサイフケータイ、赤外線通信)を搭載し、防水にも対応したモデルが4機種、グローバルモデルが2機種、+WiMAX対応モデルが4機種といった具合だ。
ハードウェアのスペックでは、デュアルコアプロセッサ搭載モデルが4機種、ディスプレイサイズは6機種中5機種が4インチ超で、解像度は1280×720ドットという業界最高スペックARROWS Z ISW11Fを筆頭に、QHD(960×540ドット)が2機種、フルワイドVGAクラスが3機種となっており、夏モデル以上に大画面・高解像度への移行が進んでいる。プロセッサについては、今までau向けでは米Qualcomm製が標準的に採用され、市場全体で見てもスマートフォンの定番プロセッサであるSnapDragonを採用するモデルが圧倒的に多かった。しかし、今回のauのラインアップでは、通信部分を担うベースバンドチップは米Qualcomm(クアルコム)製が占めているものの、アプリケーションプロセッサを別に搭載する2チップソリューションを採用するモデルが登場している。
具体的には、「MOTOROLA PHOTON ISW11M」がNVIDIA製Tegra2/1.2GHz、「ARROWS S ISW11F」が米Texas Instruments製OMAP4430/1.2GHzをそれぞれ採用している。なかでも注目されるのはOMAP4430で、Androidの次期バージョンである「Ice Cream Sandwich」のリファレンスとして採用されたという噂がインターネット上で伝えられており、将来的なバージョンアップで先行できることを狙った採用ではないかという見方もできる。一方、米QualcommのSnapDragonも以前から発表されていた第三世代となる非同期デュアルコアを実現したMSM8660/1.2GHzがHTC EVO 3D ISW12HTに採用されている。
次に、ネットワークについては、今回のラインアップの目玉でもある+WiMAX対応モデルが選べることが挙げられる。夏モデル発表時から予告されていたが、これまで+WiMAX対応モデルがHTC EVO WiMAX ISW11HTのみだったことを考えると、ユーザーとしてもかなり選びやすい状況になったと言えそうだ。特に、スマートフォンだけでなく、モバイルWi-Fiルーターの「Wi-Fi WALKER DATA08W」、業務用としても利用できるタブレット端末「ビジネスタブレット -TOUGH- ETBW11AA」という新しいジャンルの製品が加わったことも評価できる。
ただ、WiMAXを使ううえで、どうしても気になってくるのが電力消費だ。本誌の「みんなのケータイ」でも紹介したが、従来モデルのHTC EVO WiMAX ISW11HTを一定期間、使った印象として、常時、WiMAXをONにした状態で利用すると、あっという間に電池残量がなくなってしまうため、大容量のデータをダウンロードするときや高速通信が使いたいときのみ、WiMAXを有効にするという使い方が実用的だ。
今回の+WiMAX対応のスマートフォン4機種については、異なる製品であるため、実際の電池残量の減り具合は違ってくるかもしれないが、筆者が得た情報の範囲では+WiMAX対応スマートフォン4機種は、従来のHTC EVO WiMAX ISW11HTに搭載された仏Sequans(シークアンス)製のWiMAX用チップと同じ、もしくは同程度のWiMAX用チップを採用しているという。WiMAXのチップは世界的な需要がそれほど多くないこともあり、省電力を狙った改良や製造プロセスの向上が進んでいないため、基本的には今回のモデルも従来モデルと同程度の電力消費になってしまうことが推察される。ただ、それでも各社は省電力のための工夫に取り組んでおり、その効果次第では従来モデルほど、厳しい結果にならないかもしれない。いずれにせよ、これらは製品が市販された段階で、十分な情報を確認することをおすすめしたい。
ちなみに、もうひとつの選択肢として、敢えて+WiMAX対応モデルを購入せず、通常の3Gのみに対応したスマートフォンを購入するというのも手だ。Androidのバージョンが進んだことで、1年前に比べると、確実に連続利用時間は伸びており、フィーチャーフォン並みとは言わないまでも十分に実用になるレベルになっている。速さよりもロングライフを選ぶのであれば、こちらも有力な選択肢だ。
端末に関する「選べる」については、製品そのものだけでなく、プラットフォームが選べるというのもauならではの状況だろう。auと言えば、昨年の「Android au」のキャッチコピーとともに、積極的にAndroidを展開してきたが、今夏には世界に先駆けて、Windows Mobile 7.5搭載端末を発売している。巷で話題の次期iPhoneが本当に加わるのであれば、「スマートフォンのプラットフォームも選べる」という状況になるわけで、ユーザーとしてはいい意味で迷ってしまうほど、選べることになる。
ちなみに、今回の発表会直後にAndroid auのキャンペーンサイトが閉鎖され、一般メディアでも「iPhone発売へ向けて、アップルへの配慮か?」という憶測記事が書かれたが、Android auのキャンペーンが始まって約1年が経過し、Androidという言葉もある程度、周知が進み、Windows PhoneというAndroidではないプラットフォームを採用する端末がラインアップが加わったことで、キャンペーンサイトを終了したというのが実状だろう。どうも一般メディアは次期iPhoneを巡る動きを無理やり、いろいろな事象に結びつけたがっており、今ひとつ冷静さに欠けるように見受けられる。
サービス面についてもいくつか新サービスが発表されたが、スマートフォンのユーザーにとって、うれしいのは、セキュリティサービス「安心セキュリティパック」の提供が開始されることだ。パッケージの内容は3LM Securityの「リモートロック」と「位置検索」、トレンドマイクロのセキュリティ対策アプリ「ウイルスバスター モバイル for au」、オプティムの「リモートサポート」で、月額315円で提供される。NTTドコモが「McAfee VirusScan Mobile」を無償で提供しているのに対し、有料サービスで提供されるのはちょっと気になるところだが、リモートロックなどの機能を組み合わせていることを考慮すると、しかたのないところだろうか。欲を言えば、セキュリティ対策は無償で提供し、リモートロックなどの機能は必要な人だけが月額200円程度で契約できるような形の方が良かったかもしれない。
そして、今回の発表の中で、もっともインパクトがあったのが新しい料金プランだろう。2年契約を前提とするが、auユーザー同士なら、1~21時の間は国内通話が無料で、Cメールも24時間無料という「プランZシンプル」だ。これは言うまでもなく、ソフトバンクのホワイトプランに対抗するものであり、約3000万超のユーザーを抱えるauとしては、収益的にもネットワーク的にもなかなか思い切った策と言えそうだ。
ただ、ホワイトプランの「Wホワイト」に相当する通話料を割り引く追加プランがなく、プランZのユーザーが他事業者宛てや21~1時の間に発信すると、必ず21円/30秒が請求されるが、家族割が適用されていれば、家族宛は24時間無料になり、指定通話定額(月額390円)を組み合わせれば、3件までのau携帯電話宛ての国内通話が24時間無料になる。自分の周囲にどの事業者と契約するユーザーが居るのかにもよるが、もし、auユーザーが多いのであれば、十分に検討する価値のあるプランと言えるだろう。Skype | auとの組み合わせも上手に使えば、全体的な通話料をグッと抑えることができそうだ。
■スマートフォン6機種とフィーチャーフォン2機種をラインアップ
さて、ここからは今回発表されたスマートフォン6機種とフィーチャーフォンの2機種について、タッチ&トライコーナーでの印象を踏まえながら、説明しよう。ただし、いずれも開発中の製品であり、タッチ&トライコーナーで試用した印象に過ぎないため、実際の製品とは差異があるかもしれないことをお断りしておく。また、本誌にはすでに各端末の詳しいレポート記事が掲載されているので、そちらも合わせて、ご覧いただきたい。
【スマートフォン】
台湾HTCのau向け+WiMAX対応スマートフォンの第2弾。従来のHTC EVO WiMAX ISW11HTが2010年に米国で販売されていたものをベースにしていたのに対し、HTC EVO 3D ISW12HTは、2011年6月から米Sprint Nextelで販売されているモデルをベースにする。QHD(960×540ドット)表示に対応した3D液晶ディスプレイ、約500万画素の2つのカメラ、デュアルコアを実現した第三世代のSnapDragon MSM8660/1.2GHzを搭載するなど、auの秋冬モデルのラインアップでは、もっともハイスペックなモデルのひとつ。3Dカメラについては、国内ではシャープ製端末でも採用されていたが、被写界深度の違いやツインカメラの配置の関係なのか、シャープ製端末で撮影したものよりも少し広い範囲で立体視が可能な印象を受けた。基本的なユーザビリティはHTC独自のHTC Senseを採用するが、ロック画面からロックを解除しながら同時にアプリを起動できるようにするなど、新しい工夫も見られる。
ただ、端末としては約171gと相変わらずのヘビー級で、男性でもちょっと持つことに躊躇するユーザーがいるかもしれない。注目すべき点は、HTCがグローバル向けに展開する映像サービス「HTC Watch」で、ハリウッド映画などをダウンロードして、本体などで視聴できるようにする。ただ、米Huluのようなサブスクリプション(定額で見放題)契約ではなく、ユーザーがタイトルをひとつずつ購入し、最大5台までのデバイスで再生できるようにする方向で検討しているそうだ。タッチ&トライコーナーではダウンロードした映像も流されていたが、現在、公開されているのは米国版のコンテンツで、日本版では映画などを字幕付きで提供する予定だという。
MOTOROLA PHOTON ISW11M(Motorola Mobility)
米Motorola Mobilityの+WiMAX対応端末だ。HTC EVO 3D同様、米Sprint Nextel向けに供給されている「Motorola Phton 4G」をベースにしたモデルだ。QHD(960×540ドット)表示が可能な液晶ディスプレイ、約800万画素のCMOSカメラ、アプリケーションプロセッサにNVIDIA製Tegra2を採用するハイスペックモデルだが、HTC EVO 3Dよりもわずかに軽量で、手に持ったサイズ感はIS12SHなどに近く、意外に持ちやすい印象だ。パフォーマンスについては十分なレベルで、ストレスなく、使うことができるが、やはり、電池の持ちは不安が残る。
注目すべきは、Motorola Mobilityによって別売される「HDステーション」を利用したWebtop機能だろう。HDステーションに端末をセットすることにより、端末内のLinuxベースのWebtopアプリケーションが自動的に起動し、HDMI出力でPC用モニタなどに映し出された環境で、Webページの閲覧やメールの作成などができる。つまり、MOTOROLA PHOTONをパソコンのように使えるわけで、同様のしくみを採用したMOTOROLAATRIXは2011 International CESでも来場者の注目を集め、各方面で高い評価を得ている。Cメールが受信のみというのが残念だが、auが来年にもSMSのシステムを見直すと言われており、意外に早い時期にフル活用できるタイミングが来るかもしれない。
ARROWS Z ISW11F(富士通東芝モバイルミュニケーションズ)
東芝と携帯電話事業を統合後、はじめて富士通ブランドでauのコンシューマー向けに供給されるモデル。別ブランドの製品ではあるが、基本的には昨年秋に登場したREGZA Phone IS04の流れをくむモデルと言えそうだ。1280×720ドット表示が可能なHDディスプレイ、約1310万画素カメラ、日本仕様の三種の神器(ワンセグ、おサイフケータイ、赤外線通信)、防水、microHDMI端子、GLOBAL PASSPORT CDMA/GSM両対応など、今回発表されたモデルの中でも群を抜くハイスペックを実現している。タッチパネルはNTTドコモ向けのF-12Cなどと同じように、快適な操作性を実現する「サクサクタッチパネル」を搭載し、今回のデモ機も快適に使うことができていた。ただ、今回の発表会に展示された実機のスマートフォン(MEDIAS BR IS11Nを除く5機種)の内、もっとも開発が後発のようで、タッチ&トライでも再起動が必要なケースが見受けられた。前述のように、チップセットがモデム部分に米Qualcomm製MDM6600、アプリケーションプロセッサにTexas Instruments製OMAP4430を搭載しており、Androidプラットフォームの次期バージョンへの対応に期待が持てる一方、これまでに採用例が少ないアプリケーションプロセッサだけに、予期しないトラブルが起きることも懸念される。素直に見れば、auの秋冬ラインアップでもっとも期待できるモデルだが、まったく不安がないモデルとは捉えにくいという見方もできる。
京セラとしては、国内市場向け初となるスマートフォンだ。同社はすでに「Zio」や「Echo」といったAndroidスマートフォンを北米市場向けに展開しているが、今回のモデルはこれらのモデルをベースにしているわけではなく、au向けに新たに開発されたモデルということになる。国内メーカーの多くは、初のAndroidスマートフォンの開発で苦労をすることが多いと言われるが、すでに海外向けにAndroidプラットフォームを手掛けているからか、今回のモデルもタッチ&トライで試した限り、かなり安定して使えていた。
スペック的には約4.0インチの有機ELディスプレイ、約808万画素カメラ、シングルコアのSnapDragon MSM8655/1.4GHzを搭載しており、おサイフケータイ、ワンセグ、赤外線通信、防水といった日本仕様のスマートフォンに求められる機能もひと通り対応している。+WiMAXにも対応し、GLOBAL PASSPORTもCDMA/GSM両対応となっている。これだけの要素を実現しながら、約8.7mmのスリムボディにまとめ上げており、初の国内向けAndroidスマートフォンでありながら、かなり完成度の高いモデルとなっている。同じ有機ELディスプレイを搭載しているからというわけではないが、手に持ったサイズ感はNTTドコモのGALAXY Sなどに近い印象で、スリムで扱いやすい端末に仕上げられている。ロック画面から起動できる「すぐ文字」など、機能面も作り込まれており、auの2011年秋冬モデルの中では、AQUOS PHONE IS13SHと並んで、もっとも堅実かつ実用的な選択と言えそうだ。
昨年、auのAndroidスマートフォンの市場を切り開いた「IS03」のコンセプトを受け継いだモデルだ。開発元のシャープは国内市場でAndroidスマートフォンをもっとも多く手掛けてきたこともあり、機能面でも国内他社を一歩リードしていると言われているが、今回はユーザーからのニーズが高い省電力に取り組み、パフォーマンスを維持しながら、適切なクロック制御をするなど、独自の「エコ技」機能を搭載する。従来モデルで評価されてきた簡易留守録やWi-Fi周りの簡易設定、撮影した写真の処理など、使いやすさはそのまま継承している。
スペック的には約4.2インチのQHD(960×540ドット)液晶、804万画素CMOSカメラ、シングルコアのSnapDragon MSM8655/1.4GHzを搭載し、ディスプレイ下にはIS03同様、常時表示が可能なメモリ液晶を備える。IS03ではメニュー/ホーム/バックキーや日時の表示のみだったが、今回はディスプレイが高解像度化されたこともあり、時計表示にバリエーションが増えたうえ、メール着信時には送信者名も表示できるようにするなど、ケータイのサブディスプレイに遜色のないレベルの表示を可能にしている。もちろん、おサイフケータイをはじめとする三種の神器にも対応し、IPX5/IPX7等級の防水性能も実現している。
ちなみに、auでは9月にXperia acro IS11S、HTC EVO WiMAX ISW11HTのアップデートに伴い、共通のメールアプリが公開され、今回発表された各機種に搭載されているが、シャープはすでにIS03以降もIS05/IS11SH/IS12SH/INFOBAR A01と採用してきたこともあり、独自のシャープ製メールアプリが搭載されている。DIGNO ISW11K同様、auの2011年秋冬モデルではもっとも堅実かつ実用的な選択であり、はじめてスマートフォンを手にするユーザーにも安心しておすすめできるモデルだろう。惜しむらくはカラーバリエーションが2色しかないことだ。auらしさとシャープらしさを兼ね備えた追加カラーモデルの発売を期待したい。
au向けとしては、NECブランド初となるAndroidスマートフォンだ。NECはすでにNTTドコモ向けに「MEDIAS」のペットネームを使い、Androidスマートフォンを展開しているが、au向けにも同じネーミングを与え、輝かしいなどの意味を持つ「brilliant(ブリリアント)」の頭文字を取った「BR」をつけたモデル名となっている。NTTドコモ向けのMEDIAS2モデルは、どちらも超薄型をひとつの特徴としているが、こちらのモデルはMEDIAS WP N-06Cの「女性向け」というコンセプトを受け継ぎ、auのラインアップでは数少ない女性向けスマートフォンとして開発されている。
ただ、今回の発表で公開されたのは背面と前面キー間のLEDイルミネーションが光るモックアップのみで、端末としての実際の動作は見ることができなかった。スペック的には約3.6インチの液晶ディスプレイ、約808万画素カメラ、約32万画素のインカメラ、シングルコアのSnapDragon QSD8655/1.4GHzを搭載する。ワンセグ、おサイフケータイ、赤外線通信に加え、IPX5/IPX8等級の防水、IP5Xの防塵に対応する。女性がはじめて持つスマートフォンとしては標準的なものをサポートしており、機能的には十分なレベルに達しているが、約4インチが主流となりつつある現状で、約3.6インチの液晶ディスプレイは少し小さく感じてしまうかもしれない。
また、NTTドコモ向けに展開されているMEDIASが超薄型であるのに対し、こちらは標準的約11.9mmの厚さで、デザインのテイストもソリッドなイメージから女性向けらしさを強調した柔らかいテイストに変更されている。こうした違いがありながら、同じMEDIASというネーミングを使っていることに、少し違和感を覚えたのは筆者だけだろうか。au向けでNECブランドの端末がどのように受け入れられていくのかが注目されるモデルと言えそうだ。
【フィーチャーフォン】
ARROWS Z ISW11Fと並び、富士通ブランドとしては初のau向けコンシューマ向けモデルだ。折りたたみボディのスタンダードな形状の端末で、閉じたときの厚みも約14.2mmと比較的、薄くまとめられている。フィーチャーフォンの機能としては、ワンセグやおサイフケータイ、防水・防塵なども含め、ほぼフルに対応しているが、Wi-Fi WINのみが非対応となっている。富士通ならではの「はっきりボイス Basic」や「ゆっくりボイス」といった通話サポート機能も充実する。
特徴的なのはアクリル絵具のブランドとして知られる「Liquitex」のカラーを再現した7色のカラーバリエーションだ。単純に7色のボディカラーを揃えるだけでなく、ボディ周りではカラーごとに合うキープリントのフォントを選んだり、Liquitexで描いたFlash壁紙をプリセットするなど、カラーバリエーションを活かす工夫も施されている。カラーバリエーションを揃える端末は、どちらかと言えば、廉価モデルという印象が強いが、KCPの最新版をプラットフォームに採用するほか、約1310万画素の裏面照射型CMOSカメラを搭載するなど、ハイエンドモデルとして開発されたフィーチャーフォンという印象だ。
大人のケータイとして、展開されてきたURBANOシリーズの最新モデルだ。昨年の秋冬モデルとして発表された「URBANO MOND」の後継に位置付けられる。プラットフォームとして、KCP3.2を採用しており、約3.3インチの液晶ディスプレイ、約1.1インチの電子ペーパーサブディスプレイ、810万画素の裏面照射型CMOSカメラなどを搭載する。丸みを帯びた背面、視認性とデザインをバランスさせ、独立キーを採用したダイヤルボタンなど、URBANOシリーズで好評を得てきた機能がそのまま受け継がれている。CPUにSnapdragon QSD8650を採用し、防水・防じん対応、GLOBAL PASSPORT CDMA/GSM両対応など、このクラスの端末としては、十分すぎるスペックを持つ。スマートフォンやタブレット端末と2台持ちをするようなユーザーのニーズにも応えられるレベルの端末と言えそうだ。
■「選べる」楽しさと「選べない」不満
auのスマートフォンラインアップの起点となったIS03の発表から約1年。「スマートフォンに出遅れた」と言われたauだったが、この1年間で国内メーカーを中心にラインアップを拡充し、フィーチャーフォン向けのサービスもNTTドコモを一歩リードしていると言えるほど、着実に移行を進めてきた。CDMA方式を採用しているがゆえに、なかなかバリエーションが確保できないと言われたグローバルモデルも新800MHz帯への完全移行を目前に控え、徐々にラインアップを拡充しつつある。NTTドコモのXi、ソフトバンクのULTRA SPEEDという高速データ通信サービスに対抗し、+WiMAX対応スマートフォンのラインアップを一気に4機種も追加し、料金プランでもここ数年、話題をリードし続けてきたソフトバンクのホワイトプランに真っ向から立ち向かうプランを打ち出してきた。1位のNTTドコモ対する攻めの姿勢を強めつつ、3位のソフトバンクに対する守りを固めるという意味において、バランスの取れた2011年秋冬モデルの発表内容だったと言えるだろう。
発表会において、田中孝司代表取締役社長が掲げた「未来は、選べる。」というキャッチコピーは、今後、auがユーザーに対し、さまざまな選択肢を提案していくという姿勢を表わすものだ。事業者のお仕着せではなく、自分の好みに応じて、端末やネットワーク、サービス、プラットフォーム、料金プラン、使い方などを選べるという環境は、ユーザーとしても非常に歓迎したいところだ。
ただ、本当の意味において、今回の発表内容が十分な選択肢を提示してくれたかというと、読者のみなさんはどう感じられただろうか。2011年夏モデルも継続販売されるため、店頭は十分に賑わうのだろうが、現時点で新鮮な印象を持って受け入れられる2011年秋冬モデルは、HTC EVO 3D ISW12HTやMOTOROLA PHOTON ISW11M、ARROWS Z ISW11Fといったハイスペックな重量級モデルが中心で、エントリーユーザーが購入できるスマートフォンは選択肢が限られ、カラーバリエーションもそれほど多くない。
たとえば、IS03を購入したユーザーが1年で買い替えを考えたとき、連続利用時間を重視すると、+WiMAX対応端末は選びにくく、AQUOS PHONE IS13SHとMEDIAS BR IS11Nの2機種が有力候補になる。しかし、AQUOS PHONEはカラーバリエーションが2色しかなく、MEDIAS BRは女性向けなので、購入しようとするユーザーが男性だった場合は、かなり選びにくい状況になってしまう。
また、売れ筋がスマートフォンに傾いているとは言え、2011年秋冬モデルでフィーチャーフォンが2機種しか追加されないというのもちょっと不安を覚えるユーザーも多いだろう。スマートフォンが売れていることは十分にわかるが、なかにはスマートフォンを使いたくない人、使えない人、スマートフォンとは別の1台が欲しい人など、いろいろなニーズがあるはずだ。こうしたニーズに対し、今回の2機種だけで十分に応えられるだろうか。これも夏モデルが継続販売されることで、免罪符になってしまうのかもしれないが、正直なところ、あまり選択肢は多くない。できることなら、継続販売する既存モデルでカラーバリエーションを追加するなど、継続販売するなりの工夫を見せて欲しいところだ。
そして、細かい部分ではあるが、相変わらず、auが卓上ホルダに積極的ではないのも非常に残念だ。今回は「防水モデルには卓上ホルダが必要」という考え方を支持している富士通が対応しているが、その他のモデルはauとしての方針なのか、まったく対応していない。かといって、NTTドコモのように、ワイヤレス充電に取り組んでいるわけでもなく、結局、ユーザーは毎日のように、端末の外部接続端子のキャップを開けて、コネクタを挿して充電しなければならないわけだ。これはもう「卓上ホルダを選べない不満」でしかない。この他にも気になる細かい点はいくつもあるが、それらはまた製品が発売されたときに譲るとしよう。
さて、今回発表された2011年秋冬モデルは、10月上旬から順次、発売される予定だ。端末を購入する前には、ぜひとも実機を一度は試すことをお勧めしたいが、愛知・名古屋のau NAGOYAではすでにデモ機の展示が開始されている。休館中だった東京・原宿のKDDIデザイニングスタジオは9月30日にリニューアルオープンし、こちらでもデモ機を試すことができるようになる見込みだ。本誌でもインタビュー記事やレビュー記事なども掲載される予定なので、じっくりと読んでいただき、自分に合った新機種を選んでいただきたい。
【お詫びと訂正 2011/09/30】
記事初出時、URBANO AFFAREについて「KCP3.0を採用」と記載しておりましたが、その後の調べで「KCP 3.2」であることが判明しました。お詫びして訂正いたします。
2011/9/28 15:30