第500回:LTE-Advanced とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


3Gの次々世代移動体通信システム「IMT-Advanced」

 2010年現在、携帯電話の通信方式の世代は、3G、つまり第3世代が主流となっています。「3G」にあたる携帯電話方式の定義は、ITU(国際電気通信連合)が定める「IMT-2000」規格に準拠した通信システムを採用していること」になります。

 「IMT-2000」は、2000年に商用化が開始されて2000年代の通信の主流となること、新しい周波数帯である2000MHz(2GHz)帯を利用することなどを踏まえ、整備された規格です。NTTドコモのFOMAやソフトバンクが採用しているW-CDMA方式、auが採用するCDMA2000方式などもIMT-2000に含まれます。

 3GであるIMT-2000の“次”と、“その次の世代”となる規格の検討もまた、ITUのWP8F(Working Party 8F)で進められています。

 WP8Fで検討され、、2002年にITU-R(ITUの無線部門)から勧告となった文書(M.1645「Framework and overall objectives of the future development of IMT-2000 and systems beyond IMT-2000」)によれば、3Gの次は「高度化IMT-2000(Enhancements to IMT-2000)」となります。現在、実用化されている方式としてはLTE(ドコモが「Xi」として商用サービスを2010年に開始)などが、これにあたります。

 そして、その次の世代とされているのが「IMT-advanced」です。当初は“IMT-2000を超える方式”(systems beyond IMT-2000)と表現されたこのシステムは、静止時と低速移動時でも最大時のデータ通信速度1Gps以上、高速移動時でも100Mbps程度の速度で利用できるシステムである、とされています。このIMT-Advancedに適合するシステムとして、2011年現在、「LTE-Advanced」方式と「WiMAX2(IEEE 802.16m)」方式が採用されています。

LTEを発展さた「LTE-Advanced」規格

 LTE-Advancedは、LTE規格を標準化しているプロジェクト「3GPP」がLTE規格の第10版(Release10)、そして11版以降として準備されている規格を指します。その名前からも想像できるように、LTEを発展させ「IMT-advanced」を満たすような性能にした無線通信規格です。

LTE-AdvancedはIMT-advancedを満たす無線通信規格だ。最大1Gbpsの速度で通信可能で、低速移動時も静止時に近い性能を保つよう配慮されている

 2011年2月に勧告が予定されているこの規格の特徴としては

  • IMT-Advancedを満たす通信スピード・静止/低速移動時最大1Gbps、高速移動時100Mbps
  • LTEとの互換性を保っての性能向上
  • 進化した基地局側システム
  • 世界どこもでも使える各種機能とローミング

などが挙げられます。

 LTE-Advancedの高速化された通信スピードを支えるのは、LTEよりも高度化したMIMO技術と広帯域化です。MIMOは、複数のアンテナを組み合わせてデータ送受信の帯域を広げる技術ですが、LTEの4×4MIMOよりも一度に多くのアンテナで通信する8×8MIMOが定義され、さらに多くに帯域を一度に使うことができるようになるとされています。さらにLTEでは利用されていなかった上り方向のMIMOも、LTE-Advancedでは利用されます。

 また、通信速度を向上するには利用する周波数帯域を広げることで可能になりますが、LTE-Advancedでは、帯域としてLTEの20MHzの5倍にあたる100MHzまでの帯域をスケーラブルに利用できるようになっています。ただし、100MHzという大きな幅ともなると、まとめて確保できる周波数帯はどの国でもほとんどないと見られています。

 そこでLTE-Advancedでは「キャリアアグリゲーション」という技術を利用します。LTEで使われている搬送波を1つの搬送波コンポーネント単位として扱い、連続していても、あるいはバラバラの周波数帯でもこれらを複数同時に利用する技術を利用します。この最大100MHzの帯域を端末の能力によって、たとえばLTE Release8対応端末であれば1単位20MHz、ある能力の低いLTE-Advanced端末では3単位60MHz、あるいはフル能力のあるLTE-Advanced端末では100MHzをフルに使うことが可能になります。また、この方式であれば、LTE端末はLTE-Advance対応基地局に接続でき、LTE-Advance端末はLTE基地局しか存在しない場所でも、LTE端末としては使えるとされています。

キャリアアグリゲーション概念図。LTEで使用する搬送波を1コンポーネント単位として複数を同時に扱うことで一度に多くのデータを送受信する仕組みとなっている

 また、基地局側システムも多く進化点が多くあります。その代表としてはCoMP(多地点協調、Coordinated multipoint transmission/reception)という電波の送受信方法が挙げられるでしょう。

 複数の基地局が協調して送受信をより密なものにします。たとえば、複数の基地局から端末が同時に電波を受信することで高速にデータを受信したり、逆に複数の基地局へ同時に端末から電波を送信することで高速なデータアップロードが可能になります。

 ちなみにLTEではRelease8において「HeNB」という名前で、いわゆるフェムトセルが定義され、Release9ではHeNBの特定ユーザー以外への開放方法(in-bound mobility)も定義されています。LTE-AdvancedのCoMPではこのフェムトセルへの通信も含まれています。

 他の特徴としては、LTEでは基地局側ネットワークがSON(自己組織化ネットワーク、Self Organizing Network)という仕組みを採用しています。自己最適化とも呼ばれるこの特徴は、基地局が自動的に隣接する基地局リストを認識し、電波によるカバー範囲などの最適化を基地局自身が行います。カバー範囲の広いマクロセル内に極小範囲をカバーするマイクロセルを配置することをより容易にしたり、あるいは基地局からの通信をリレーする中継局を設定してセルのカバー範囲の端でも通信速度を落とさないようにしたりするなど、場所により通信速度が大きく変わってしまうことを防いでいます。

 こうした技術を組み合わせることによって、LTE-Advancedでは、モビリティ性能を確保し、時速350kmでも通信可能、時速120kmまでは静止時に近い通信速度を確保できることも目指しています。

 既に世界中のメーカーや事業者により実験などは開始されており、LTE-Advancedは2014年ごろの実用化を目指し、開発が進められています。

 



(大和 哲)

2011/1/25 13:24