iPhoneの「App Store」、Androidの「Android Market」のような、アプリケーション配信プラットフォームが、にわかに注目を集めている。だが、日本には、そのはるか前から、同じ道を目指していたサイトが存在する。それがスパイシーソフトの運営する「アプリ★ゲット」だ。
ネイティブアプリとJavaアプリという違いこそあれ、幅広いアプリを一般のクリエイターから募り、それをユーザーに配信していくという点は共通している。最近では、アプリ★ゲットと同じ発想をベースにした「マンガ★ゲット」もスタート。これらのサイトの特徴はどこにあるのか。スパイシーソフトの代表取締役社長、山田元康氏に聞いた。
また、同サイトでシリーズ累計1000万ダウンロードを超えた人気アプリの「チャリ走」を生み出した、クリエイターの星野裕太氏に、ケータイアプリ制作を始めた動機やアプリ★ゲットの魅力を語ってもらった。
■ ケータイ世代のクリエイターを巻き込むアプリ配信プラットフォーム
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スパイシーソフト 代表取締役社長 山田元康氏
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2001年1月に発売された503iシリーズに搭載されたJavaは、徐々に対応機種を増やしていき、国内外を問わず、ケータイのスタンダードな機能になった。アプリ★ゲットがスタートしたのも、そのタイミングだ。同サイトは2001年1月に始まり、今では「配信しているアプリは7000本以上。推定だが、200~250万のユニークユーザーがいる」(山田氏)という規模にまで成長した。山田氏は当時を振り返りながら、次のように話す。
「スパイシーソフトは、元々、PC用ソフトの会社だった。2000年の夏ごろに事業を見直した際に、周りからモバイルのすごさを聞いていたこともあり、ケータイで何かやりたいと思っていた。当時は待受画面や着信メロディを配信するサイトが儲かっていたが、それはやりたくない。だったら『フロンティアに行こう』と考え、間もなく始まると言われていたアプリを配信する“仕組み”を作ることにした」。
同サイトの目標は「個人や小さな会社がメジャーになるためのプラットフォーム」という山田氏。実際、「チャリ走」や「糸通し」といった個人クリエイターによるアプリが、それぞれ累計で1000万以上のダウンロードを記録している。これらのアプリは、同サイトが紹介したことをきっかけに、「高校生が口コミで広めてくれた」(同氏)という。アプリ名が、ある検索エンジンで、キーワードの上位に顔を出すこともあったそうだ。
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7000本以上のアプリを配信するアプリ★ゲット
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こうした人気アプリは、どれも手軽だが、ちょっとした工夫が凝らされており、何度も遊べるミニゲームが多い。クリエイターの多くは「初期のケータイ世代」(山田氏)だ。同氏は世代による違いを、次のように説明する。
「PCから入ると、RPGやシミュレーションゲームを作りがちで、確かにiアプリ初期のころは、そういったジャンルのゲームが多かった。一方、彼らはゲームをプレイするのがそもそもケータイが中心で、そんな世代だからこそケータイにマッチしたゲームを生み出せる。ケータイアプリで遊んでいたユーザーが、そのうち自分でゲームを作るようになったということ」
中学、高校時代に同サイトでダウンロードしたゲームを遊び、「ケータイアプリのゲームとはどのようなものか」を体得したユーザーが、今度はクリエイターとして、アプリを提供し始めているのだ。かつて家庭用ゲームで遊んだ子どもたちも、今ではゲーム制作の最前線にいる。それと同じことが、ケータイアプリの世界でも起きている。もちろん、単にサイトを作っただけでは、クリエイターは集まらない。同サイトからヒットアプリが多数生まれるのは、同社の「クリエイターを尊重する姿勢」が鍵となっている。
■ アプリクリエイターを尊重したビジネスモデルを構築
アプリ★ゲットでは、売上をクリエイター個人に還元するための、さまざまな仕組みを用意している。山田氏は、同社の取り組みを次のように説明する。
「クリエイターには主に4つの方法で、お金が支払われている。1つが専属フィー。もう1つが会員制のSNSへ誘導した際のアフィリエイト。ユーザーサイトに貼った広告も、還元の仕組みの1つだ。有料版の『アプリ★ゲットDX』で配信する時には、ライセンス料も支払っている」
元々、同サイトでは、アプリをダウンロードする際に、ユーザーを個人のサイトへ誘導していた。ダウンロードサイトに広告を貼れば、売上は全て作者のものになるというわけだ。また、同社はアプリ★ゲットDXという公式サイトも運営しており、アプリ★ゲットで人気のゲームの特別版などを、有料で配信する。有料版は元々のゲームの作者が作ることもあれば、別の会社に発注して作者にライセンス料だけを支払うこともあるそうだ。「ビジネスとして展開することを考えると、『続編』を作らざるをえない」(同氏)というが、有料サイトでビジネスが回れば、アプリクリエイターが新作に専念することができる。
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SNSとゲームやマンガを連動させる試みも
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また、スパイシーソフトと専属契約を結ぶと、固定の料金が支払われる。この契約を結んだからといって、必ず、毎月何らかのアプリを作らなければいけないわけではない。だが、山田氏は「ごく少数の人は、何もしなくても毎月生活できるぐらいの固定の報酬額を支払うようにしているが、そうは言っても何かは作ってくれる」と話す。お金でノルマを課すというより、自由な環境でアプリを作るための支援金。専属契約は、こう捉えるべきだろう。同社は「広告収益を分配し、広告宣伝費をクリエイターに還元する」(同氏)という考えで、「500人が日本の平均年収(約430万円)を超えること。そのうち数人は、1億円を超えるようにしたい」(同氏)という目標を掲げている。
一方、山田氏は、同サイトの弱みを「会員制ではなく、アプリは毎日ダウンロードするものでもないので、PVが伸びない」と分析する。それを解決するために、マンガ★ゲットと同時に、マンガやゲームと連動する、会員制のSNSを立ち上げた。ここにクリエイターのゲームを置き、会員登録に結びつくとアフィリエイトが発生する仕組みを採用している。将来的には「APIを用意して、クリエイターがSNSのデータを使えるようにしていきたい」(同氏)という。
こうしたクリエイターを応援する姿勢は、新たに立ち上げたマンガ★ゲットにも貫かれている。
「本来、ゲームよりマンガの方が個人で作りやすいはずなのに、実際はかなりシンドイ状況になっている。1年間、1日100話ずつぐらいケータイでマンガを読んでいた。その修行の結果、『時代はケータイマンガだ』と悟り、マンガ★ゲットを始めた。今度はマンガのクリエイターを支援していきたい」
アプリ★ゲット、マンガ★ゲットともに、将来は海外を目指す。「ドコモのDoJaは、海外ケータイのMIDPに変換しやすい。複雑なものでなければ、日本のアプリもそのまま海外ケータイで動く」(同氏)ため、実現すれば、iPhoneやAndroidだけで配信するよりはるかに対応機種が多くなり、クリエイターのチャンスも一気に増える。マンガ★ゲットにも「自動翻訳とユーザー翻訳をつける予定」(同氏)とのこと。日本初のケータイ文化が世界に羽ばたく日も、そう遠くはないのかもしれない。
■ 「チャリ走」作者が語るケータイアプリと「アプリ★ゲット」
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「チャリ走」作者の「護美童子」こと星野裕太氏
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12月5日に、同社は「アプリ★ゲットから年収1000万円の個人クリエイターが生まれた」という趣旨の発表を行った。作者は「護美童子」の名で活躍している、星野氏。強制スクロールで自転車を走らせていき、到達距離を競う「チャリ走」の作者だ。星野氏は前述の独占配信契約を結んでおり、専属契約フィーも支払われている。同社の魅力は「ちゃんとアプリ作りをサポートしてくれた」(星野氏)こと。「今までのようにサポートしてくれるなら」(同氏)と、専属契約に同意したそうだ。
星野氏がアプリクリエイターの道を志したのは、自身がケータイゲームのユーザーだったから。「高校生の時に、ケータイのアプリにハマっていた。クラスでも簡単にできるアプリがかなり流行っていた」(同氏)という。当初はWindows向けのゲームを作ろうと考えていたが「参考書を買ってきたらあまりに難しくて断念した」(同氏)そうだ。一方、ケータイ向けのJavaの参考書は「思っていたよりも簡単だった」こともあり、そこからケータイゲームの制作に没頭していく。作ったアプリは友達に見せて反応を試すなど、試行錯誤を繰り返し、次第に腕を上げていった。
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シンプルゆえに何度も遊べる「チャリ走」
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シンプルだが、軽快で奥が深い
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「チャリ走」の制作を思い立ったのは、大学2年生のころ。星野氏は「スーパーマリオのような横スクロールのものを作りたかったが、実際作ったら面白くなかったので、強制スクロールをいれ、身近な自転車をモチーフにした」と、「チャリ走」誕生の経緯を振り返る。とは言え、「当初は全くヒットするとは思っていなかった」(同氏)と、気軽なアプリ作りの延長線上だったことがうかがえる。だが、結果として「チャリ走」は大ヒットを記録。人気アプリの作者ゆえに「他社からのオファーもある」というが、思いついたものだけを納得いくまで作れるアプリ★ゲットから、離れるつもりはないようだ。
ユーザーとクリエイターを結びつけ、そこで得た利益をしっかりとクリエイターに還元する。これが作り手にとっての、アプリ★ゲットの魅力だ。同サイトに斬新な発想のゲームが多いのは、スパイシーソフトのクリエイターを尊重する思想があってこそといえるだろう。
■ URL
スパイシーソフト
http://spicysoft.com/
アプリ★ゲット
http://appget.com/
マンガ★ゲット
http://author.mang.jp/
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