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新世代ブロードバンド研究会で総務省・谷脇氏が講演

総務省の谷脇氏

総務省の谷脇氏
 新世代ブロードバンド研究会は10日、同研究会会員などを対象にしたセミナー「通信プラットフォームオープン化で拡がるモバイルビジネス」を開催した。

 第一回となる今回は、「『垂直統合』から『水平分業』へ、鍵となる『認証・課金プラットフォーム』を考える」をテーマに、総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課長の谷脇康彦氏が、「通信プラットフォームの連携による新ビジネスモデルの創造」として、オープン型モバイルビジネス環境の構築や、認証・課金プラットフォームのあり方について講演した。

 谷脇氏は冒頭、国内の携帯電話契約者数が2008年3月末には1億件を突破し、そのうち、第3世代携帯電話(3G)の比率が85.8%に達していることを示しながら、「モバイルの世界においても、ピカピカのハイウェイといえるブロードバンド環境ができている。だが、その一方で、契約者数の対前年増加率は6%台で推移しており、成長期から成熟期に移行している。成長期には、キャリアブランドによる端末の提供や、ネットワークインフラや通信サービスもキャリアが提供し、さらにキャリアが承認した公式サイトが利用の中心となるなど、垂直統合型のビジネスモデルが形づくられていた。キャリア主導の垂直統合モデルは、ワンセットでよいものを、効率的に提供できるメリットがあるという点で、成長期においては悪い構造ではない。だが、IP化の流れや、移動と固定の融合という流れ、さらには成熟期に入ったことを踏まえると、異なるビジネスモデルの世界に入ってきたといっていい」とした。

 総務省では、これまで「オープン型モバイルビジネス環境」の構築を目指して、様々な施策を講じてきた。


オープン型モバイルビジネス環境のイメージ
オープン型モバイルビジネス環境のイメージ 取り組みの結果の1つとして、携帯電話本体の価格が明確になった

いくつかのレイヤーに分けて議論を進めている
 ビジネスモデルの環境を、「端末レイヤー」、「物理網レイヤー」、「通信サービスレイヤー」、「プラットフォームレイヤー」、「コンテンツ・アプリケーション・レイヤー」の5つの枠組みに分けており、「レイヤーとレイヤーの間をどう明確にするか、上位レイヤーとの連携をどうするか、ネットワークとネットワークをどう結びつけるか、というような観点から、各種施策を講じてきた」とする。

 例えば、新競争促進プログラム2010に盛り込まれた、端末価格と通信料金との分離プランも、レイヤー区分を明確にする取り組みのひとつとする。

 「端末にいくら支払い、通信にいくら払っているのかを明確にするのが狙い。総務省では、販売奨励金を全廃するということを言っているのではなく、ユーザーから見て、料金体系を明確にして欲しいとお願いしたもの。また、従来は電気通信事業費用のなかに計上していた販売端末奨励金を、付帯事業として端末価格に計上するといったように、会計費用の変更を行った。もし、これが電気通信事業費用のなかに含まれたままだと、そのコストが回線の卸費用などに上乗せされ、MVNOが負担する費用が嵩上げされることになりかねない。これもレイヤーごとの区分を明確にする取り組みに1つ」とした。


 一方で、新競争促進プログラム2010において盛り込まれているSIMロック解除の検討について、谷脇氏は、「基本的には、SIMロックを外すべきだと考えている。だが、SIMロックを外しても、移行した先で、音声通話とショートメッセージしか使えないという問題などもあり、ユーザーの利便性を損なうだけである。影響が大きいことは理解しており、ステイクホルダーに話を聞くといったことを進めていく。だが、1年半後の2010年時点には、総合的評価、本格導入に向けた結論を出す方向でのスケジュール感を持っている」とした。

 また、MVNOの新規参入促進も、モバイルビジネスにおけるオープン化の取り組みのひとつとし、今年5月にガイドラインの再改訂を行ったことに触れながら、「MVNOの促進は、ネットワークとサービスのインターフェースのオープン化が実現されるものといえる。様々な業態からの参入も見込まれ、また、新たなビジネスモデルにも期待している。MVNOは、諸外国でも、バージンモバイル以外は成功していないと言われるが、日本は、高速データ通信ができるモバイル先進国であり、日本から成功モデルを作っていくことが重要であるという意識を持つべき。さらに、xVNOといったように、様々な業種からの参入を期待している」などとした。

 クレジットカード会社や電子マネーの会社が、認証・課金などの機能を活用しながら、xVNOのひとつとして参入することもできる可能性もあるという。

 一方、ネットワークの中立性を保つために、総務省では、「消費者がネットワーク(IP網)を柔軟に利用して、コンテンツ・アプリケーションレイヤーに自由にアクセス可能であること」、「消費者が技術基準に合致した端末をネットワーク(IP網)に自由に接続し、端末間の通信を柔軟に行うことが可能であること」、「消費者が通信レイヤーおよびプラットフォームレイヤーを適切な対価で公平に利用可能であること」の3つを、新競争促進プログラム2010において、中立性のための大原則に定義していることを説明し、「これらはすべて消費者が主語になっている。レイヤー間のインターフェースをオープン化することで、消費者の選択肢を広げ、消費者がわがままをいえる仕組みに変えていく。コンシューマユーザー、企業ユーザーの双方の視点に立った、施策に取り組んでいく」とした。


野村総研による市場予測 携帯サイトの利用動向

 野村総合研究所の予測によると、通信レイヤーの市場規模は、2012年にかけて、ほぼ横ばいで推移するのに対して、BtoCやインターネット広告のほか、モバイルコンテンツをはじめとするメディアコンテンツなどで構成される上位レイヤーは、大幅な市場拡大が見込まれている。

 「携帯電話は垂直統合モデルとなっているため、ネットワークレイヤーでの強みが、上位レイヤーの強みに影響することになる。中立性を確保する意味で、視点を変えた仕組みが必要である」とする。

 ネットワークレイヤーの強みが、上位レイヤーへの強みにつながっている例では、キャリアが承認する公式サイトがある。

 「成長期においては意味があったものだが、iモードのスタートから10年近く経ち、実態を失ってきているのではないか。公式サイトを多く利用しているという人は全体の26%に過ぎず、意識していないという人が50%近くに達する。公式サイトと非公式サイトの区分の垣根が低下してきているのではないか」などとした。

 また、「認証基盤をどうするのか、といった問題も解決していかなくてはならない」とし、「認証、課金の仕組みも、垂直統合のなかに組み込まれているため、キャリアを移ると、認証や課金には別の仕組みを利用しなくてはならない。キャリアが変わっても、同じサービスを利用するのであれば、同一の認証基盤を使えるといった仕組みが確立できないか、といった視点も必要」と語った。


IDポータビリティという概念も プラットフォームをレイヤーごとに切り分けて、異なる携帯会社に乗り換えてもIDやコンテンツを移行できるようにするという考えも

 クラウドコンピューティング環境を活用すれば、ネットワークや端末を意識しない認証基盤ができる可能性も指摘し、「IDポータビリティという手法を用い、各キャリアが構築した認証基盤だけでなく、インターネットなどにおけるOpen IDなどの活用、NGN環境におけるSDP(サービス・デリバリー・プラットフォーム)による共通的認証基盤の可能性も必要だろう。これにより、消費者主導型のコンテンツ配信の新たな収益モデル、新たなビジネスモデルが創出される」とした。

 さらに、「これは、現時点では固定と移動を分けて議論していく必要があるだろうが、将来的には固定と携帯のプラットフォーム機能の連携強化が図られる。ユビキタスネットワークの円滑な推進という点において、双方の環境を融合したなかで、もっと議論の幅を広げていく必要もあるだろう」とも語った。

 一方、MNPについても、「番号だけの持ち運びでいいのかという要求が出始めている。キャリアを移動した際に、コンテンツサービスについては、一度解約してから、もう一度契約しなくてはいけないという手間がかかる。さらに、従来利用していたキャリアでのポイントやアイテムはご破算になり、最初から積み上げなくてはならない。これからは、コンテンツポータビリティの考え方が必要ではないかだろうか。また、メールアドレスの継続利用も現時点では不可能だが、これもお金払ってもいいから、継続してもらえないかという声もある。携帯電話がインターネットマシンとなったことで、番号以外にも持ち運びたいものが増えており、それを臨む声も顕在化している。ここまで踏み込むことで、競争がさらに促進され、ユーザーの利便性が促進されることになる」とした。

 最後に、谷脇氏は、プラットフォームの連携強化に向けた多角的視点が必要だとし、「移動系ビジネスモデルと固定系ビジネスモデルが融合する一方、FMC/通信放送の融合・連携が促進されることになる。そのなかで、コンテンツプロバイダーなどには、新たなビジネスチャンスが生まれることになる。新たなビジネスを立ち上げる上で、認証・課金の連携は必要となり、IDにおける連携強化はコアになるテーマと見ている。研究会としては、この点の議論に取り組んでいきたい」とした。



URL
  セミナー案内
  http://www.bba.or.jp/bba/70/post_84.html

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(大河原克行)
2008/07/11 19:21


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