総務省で1日、「モバイルビジネス活性化プラン評価会議」の第2回会合が開催された。「モバイルビジネス活性化プラン」発表後の施策の推進状況などを評価する会議で、今回は総務省および携帯電話に関係する業界団体の代表者らが、3月に開催された第1回から進展のあった分野に加え、現状の課題、今後の取り組みなどについて紹介した。
■ 全体の市況や第1回評価会議以降の施策
総務省 総合通信基盤局 事業政策課長の谷脇 康彦氏は、携帯電話の加入者数や増加率、人口普及率、市場シェア、ARPUなど各種データの推移を示し、「安定成長の時期に入っており、普及率は上がっている」と紹介。「集中度は若干低下したが、依然として寡占性が高い」としたほか、「ARPUは低下の傾向が続いており、データARPUの増加が音声ARPUの低下を補いきれていない」と現状を紹介した。
販売奨励金(インセンティブ)は、各社のインセンティブ費用が横ばいで推移する中、NTTドコモが2006年度の平均3万7000円から2007年度には3万1000円に低下。また直近の動きではKDDIが割賦販売を導入したとし、割賦販売が出揃った形になった。
MVNO事業化ガイドラインについては、ドコモと日本通信の紛争事案の裁定内容が同ガイドラインに取り込まれる予定となっている。
市場活性化環境の整備の項目は、通信プラットフォーム研究会で検討中されており、12月にも報告書をまとめ、一定の成果を得る考えが示された。通信プラットフォーム研究会でも議論されている「IDポータビリティ」については、標準化に向けて情報通信研究機構(NICT)で技術検討を進めていく。
2.5GHz帯での施策では、UQコミュニケーションズとウィルコムの2社の事業登録に加え、固定系地域バンドで地域WiMAXの実現に向けて42社に免許を付与している。
また、3.9Gの通信方式については、4Gへの移行を視野に技術検討が進められており、4月より審議が開始され7月に基本コンセプトを、2008年内に具体的な技術的条件が策定される予定となっている。
フェムトセル基地局の扱いについては、導入促進のための現行規制の緩和、適用される規律の明確化が盛り込まれた改正電波法が5月に成立しており、ガイドラインや固定通信網との責任分担など、方針の策定が進められている。
■ 分離モデルのほか、さまざまな事項を議論
谷脇氏からのプレゼンテーションが終わり、前半の質疑応答では、リーマン・ブラザーズの津坂 徹郎氏から、「ソフトバンクモバイルはインセンティブ分離モデル“のようなもの”で、ドコモ・KDDIと方式が違うのでは?」という問いが投げかけられた。総務省の谷脇氏は、「新スーパーボーナスでは通信料金と端末料金がクロスする部分がある」と述べ、明確な分離モデルではないとする一方、「(スーパーボーナスでは)端末価格全体は見える。モバイルビジネス研究会では分離プランの中身まで議論していないが、今後議論していければ」とした。
■ 野村総研の北氏、「私が考えていた方向とは逆」
野村総合研究所の北 俊一氏からは、「市場がどうなっているのか、ユーザーがどう評価しているのか、市場関係者がどう評価しているのか、具体的な数字のデータが示される予定ではなかったか?」との発言があり、推進状況の紹介に際して、市場への影響・効果などの部分で数字のデータが示されていないとの不満が聞かれた。総務省の谷脇氏からは、現在までにまだ数字のデータは用意できていないことが明らかにされ、今後準備を行なっていくとされた。
一方、神戸大学大学院の泉水 文雄氏から北氏に対して現状の感想が求められると、北氏は「ユーザーの大半は、初期費用が安いことに反応している人が多い。割賦なら初期費用が0円で、以前のインセンティブで0円などとなっていたユーザーの初期費用に対する感覚を引きずっている。さまざまな端末グレードがあっても、24回払いなら毎月の負担は、大きな差にはならない。どうせならトップエンドの機種を、という傾向」と北氏は述べ、結果的に以前と変わらない傾向が続き、高機能な端末に人気が集中する傾向にあるとした。
さらに北氏は、「日本の携帯はハイエンドに偏っていて、そのまま海外市場に持っていくとハイエンド過ぎる」として、海外展開にふさわしいミドルエンドの端末が活性化するような市場が、端末メーカーの国際競争力という観点から重要との見方を示し、「端末価格を見えるようにして、ミドルクラス、ローエンドの安い物も売れるという市場を考えていたが、現実には逆の方向に向かっている」と語った。
上記のような展開を踏まえた上で、今後の展望について北氏は「買い替え・機種変更市場が減少している。ソフトバンクは特に機種変更が激減している。市場全体の端末販売台数は、去年よりも減るだろう。いわば副作用的なものが出始めている」と語り、割賦販売と2年契約の常態化で直近の販売台数が減少するとの見方を示した。
一方で北氏は、「一巡すれば、機種変更のサイクルが戻るだろう」と販売台数の減少を「産みの苦しみ」とするものの、「秋から来年の春までは端末の販売は厳しい状況だろう」との予測を示し、「その間、立ちゆかなくなる販売店やメーカーが出てくる可能性もある。その先に明るい未来があるのかどうかも、見えていない状況」とした。
北氏は「今までやってきたことが良いのか悪いのか、結論を出せる時期ではない。しかし場合によっては、方向転換や、あるいは方向の維持といったことを、情報を得た上で議論をしなければいけない」と語り、モバイルビジネス活性化プランの影響を見守る中でも方向性に対する議論が常に行なえることが重要であるとした。
■ ハイエンド端末しか出せない構造があるのか
イプシ・マーケティング研究所の野原 佐和子氏は、北氏の語った、海外展開のためにミドルクラスの市場を活性化するという考えに「海外で売れないのは、メーカーがマーケティングをしないのが悪い」と疑問を投げかけ、端末メーカーの努力不足と断じた。「海外で高スペックが売れないから、国内でロースペックを売れるようにするというのは少し違うのではないか」とする野原氏は、「国内では、ユーザーがハイエンド端末を欲しがっているかもしれない。また、らくらくホンのような、いろいろな方向性があることも見えている。端末ニーズは細分化しており、うまく海外展開するのが端末メーカーの工夫するところ」と語った。これを受ける形で情報流通ビジネス研究所の飯塚 周一氏からは、「消費者の選択でハイエンドが選ばれるならいいが、メーカーがハイエンドしか出せない構造があるなら、もう少し詰めて議論しなければいけない」という意見が出され、ハイエンド端末に人気が集中する構造を需要と供給の両側面から明らかにする必要性を語った。
なお、総務省の谷脇氏からはこの件に関連し、「モバイルビジネス研究会では、海外でハイエンド過ぎるから国内でローエンド、とは書いていない。いろんな選択肢をユーザーに提供することが基本」との方針が改めて確認された。
■ 販売店のビジネスモデルは?
一橋大学大学院の松本 恒雄氏は、契約数が1億件を突破し契約数の伸びが漸減傾向にある中で、携帯電話販売店の店舗数が目立って減少していない印象であるとして、将来的な見通しでは販売店の店舗数は減る傾向にあるとの同氏の予測から鑑み「モバイル周りのビジネスモデルの発展についても考えるべきだろう。販売店数、従業員などのデータも明らかにされるとよい」との見方を示した。
一方で、座長で東京大学名誉教授の齊藤 忠夫氏からは「機種変更の販売を考えると、2~3年前と比べても販売台数自体は増えているのでは」との意見が出され、流通・販売市場では一定の規模が確保されているとの見方が示されると、松本氏からは「はたして2年単位で魅力的な端末が登場し、買い替えざるを得ないような速度で技術革新が進んでいくのか」と疑問が投げられた。ガートナーの石渡氏はこれに関連し、「割賦の導入で販売形態が変化している。販売施策・ビジネスモデルの変遷もじっくり見ていく必要がある」との意見が出され、総務省に対し、流通や販売の現場での変化についても注目する必要があると提言した。
■ MVNOとコンテンツプロバイダから提起される課題
後半にはMVNO協議会、MCF、AMDからプレゼンテーションが行われ、主に現状の課題などが報告された。
MVNO協議会の福田 尚久氏は、開発費負担や通話・メール・ブラウザといった基本的な機能の標準インターフェイスの用意などについて、MNO側に対応を求めたほか、顧客対応に必要な情報の提供についても情報を整理して議論する必要性が語られた。
料金面では、第二種指定電気通信設備を持つNTTドコモ、KDDIとの相互接続に透明性が確保されているとしたものの、卸料金や2社以外のキャリアについて、相対契約が基本であり、予見性や透明性の確保が課題であるとした。また、帯域幅料金についても算出基準の標準化といった取り組みが早急になされるべきであると提言された。
端末については、MVNO独自の端末調達にMNOが難色を示す傾向が強いと指摘し、一方で海外の端末メーカーが日本市場に参入したがっていると紹介。MVNO経由で海外メーカーの参入が促進されることで市場の活性化につながるとした。
■ MCF岸原氏「メニュー入札はユーザーが不在」
MCFの岸原 孝昌氏は、モバイルコンテンツの市場について、成長が鈍化傾向にあることを示し、「シュリンクも近いのでは」と危機感を明らかにした。同氏は市場形成の初期段階において、キャリア主導の「垂直統合型ビジネスモデルで成長したことは否めない」とするものの、「今後もこのままでは、非常に少数のプレーヤーが決定権を持ち、ユーザーの選択肢は狭まる」として、ユーザーが競争メリットを享受し、各レイヤーで公正な競争環境が確保されるべきであるとして、ネットワークのオープン性、中立性が重要であるとした。
同氏は今後の検討課題として、キャリアのポータルサイトではパケット通信料が無料などの施策や、広告を見ないとメニューにアクセスできない施策といった例を挙げ、競争環境の公平性という観点から疑問を呈した。
特に、ドコモが「プレミアムメニュー」として導入した「メニューリスト」における入札方式(オークション)の広告表示(システムの不具合により導入は延期されている)については、「現在は一般的なルールがない。ガイドラインや禁止事項もない。メニューリストの前段階で広告を表示するもので、広告を見ないとアクセスできないのと同義。これまではキャリア、コンテンツプロバイダ(CP)、ユーザーの方向が一致していたが、オークションではユーザーが不在。25%以上のシェアで第二種指定電気通信設備を持つドミナント事業者がこれを実施する。結果的にCPは限界まで広告費を支払うことになるなど、弊害の検証も重要」と語り、導入に大きな疑問を投げかけた。
後半のプレゼンテーションを終えた後の質疑応答では、ドコモのプレミアムメニューに議論が及んだ。甲南大学の佐藤 治正氏が、「希少資源になっている部分がオークションになるのは、議論が必要ではないのか」と問題を提起すると、総務省 総合通信基盤局 料金サービス課長の古市 裕久氏は「公正競争の観点からいろいろな議論をしていかなければいけないだろう」と回答した。総務省の谷脇氏は、「オークション自体は、すぐに差別的取り扱いになるとは考えていない。広告である旨をユーザーに明示するという方針も聞いている。しかし実質的に広告費が高額になり、一部のCPしか利用できないなら競争性が問題になる。ドコモは第二種指定が前提であり、今後のオペレーションを注意深く見守っていく必要があるだろう」との見方を示した。
■ ユーザーに近い部分で多様性を
AMDの寺田 眞治氏からは、コンテンツや端末のオープン化などについて現状に対する懸念が語られた。同氏は、定額制が中心となっている現在において、端末メーカーへのキックバックといったキャリアの施策により、メーカー間の公平な競争が阻害されるとの懸念を明らかにしたほか、端末搭載のブラウザやアクセスできるネットワークについて「パソコンを買ったのに、1つのブラウザしか利用できず、ホームページ設定も変えられないようなもの」と例えて、「ユーザーに近い部分に多様性・開放性が無い。グローバルスタンダードなどと言われるが、本質的にはインターオペラビリティが確保されていなければいけないところを、Javaひとつとっても独自仕様で、相互接続が担保されていない。ユーザーの行動履歴といったライフログのデータ提供はIDポータビリティでも懸念される事項」と指摘。新たな技術を導入するにあたっては事前に議論される場が必要であると訴えた。
なお、モバイルビジネス活性化プラン評価会議の第3回は、9月下旬に開催される予定。
■ URL
総務省
http://www.soumu.go.jp/
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(太田 亮三)
2008/07/01 21:50
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