携帯電話・PHS向けコンテンツプロバイダの業界団体「モバイル・コンテンツ・フォーラム」(MCF)は4月28日、「モバイルプラットフォームの今後」と題したセミナーを都内で開催した。
■ アライアンス仕事術
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ネットストラテジー 平野敦士氏
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ネットストラテジーの平野敦士氏は変化するモバイルビジネスのあり方をテーマに講演。良いものを安く製造して販売という日本の製造業が行なってきた既存モデルは、1990年代後半から「楽天」や「eBay」に代表されるオークションサイトのように、企業は人と人をつなぐプラットフォームを用意するという、新しい形に変化した。平野氏は不特定多数のユーザーを仲介し、グループ間の相互作用を触媒とするビジネスに必要なものとして、ブランディングの確立とプラットフォームの共用によるコスト削減を2つを挙げ、「オークションの評価機能やブログによる情報の相互流通が普及した現在は、実際に商品の購買まではたどり着かなくても、買い物の前には価格比較サイトをチェックしてから行こう、といった安心感をユーザーに持たせることは欠かせない」と述べた。
また、プラットフォームを提供するビジネスモデルでは、既存のユーザーを満足させるために常に進化が必要であるとし、ブランドの確立とプラットフォームの拡大に成功した企業として、チケットのオークション制度を導入した「Ticketmaster」を、失敗した企業としてはSkypeを買収した「eBay」を、ブランド力は申し分ないが(コンテンツ提供側の)コスト低減という面で失敗した製品として、家庭用ゲーム機の「PLAYSTATION 3」を例に挙げた。
平野氏はこれからの競合は同業者ではなく、まったく異なる分野から出てくる時代となる。NTTドコモの「iモード」が成功したのは、いち早く他社と組んだことがポイントであり、異なる発想、着眼点を持てる他業種と組むことが必要だと述べた。
■ 通信放送融合法時代のモバイルプラットフォーム
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インデックス 寺田眞治氏
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インデックス プリンシパルの寺田眞治氏は冒頭で、「よくある例えではあるが、日本の携帯端末市場はガラパゴス諸島」とし、携帯ビジネスの問題点をユーザーのことを考えない、日本のビジネスモデルの内側だけで考えていると解説した。その一例として、欧米を中心に流行したiPhoneが日本国内で使えない理由に、ネットワークの違い、キャリアが仕様を決めて端末を買い上げるシステム、キャリア端末以外では(独自の)メールサービスやWebが使えないといった問題点が従来は挙げられてきた。
しかし、寺田氏はこれらの問題点には既に解決方法が用意されているとし、携帯ビジネスでもっとも大きな問題はキャリアが仕様を決定し、端末を買い上げるという独自システムにあると述べた。このシステムは国内キャリアが安定し強い業界になるというメリットがある反面、現在のような輸出も輸入もできないモバイル鎖国を作り、国際競争力は低下する一方で、市場が飽和した時に関連した他の市場に与える影響も多いと寺田氏は指摘した。また、携帯端末に限らず、国内では放送事業、モバイルIP放送、FMC、ネットワーク家電などの分野は既に国際競争力が極めて低く、今後に期待できるのはNGN(次世代ネットワーク)と家電、デバイスなどと説明した。
今後の日本の携帯市場がどうなるかについて、端末とネットワークの仕様は長期的な展望を持つ欧州の影響を、デジタルコンテンツとサービスは米国の影響を受けると予想。2011年へのロードマップとしては、「放送が見られる携帯電話が生まれたように、メディアプレイヤーが携帯電話の機能を持つ、携帯ゲーム機で放送も見られる製品が一般化し、今まで以上に通信と放送の融合が進む。伝送経路と端末の組み合わせを選ばない時代がくれば、コンテンツ&サービスは構造変化を起こすだろう」と寺田氏は説明した。
■ アクロディアが考える携帯電話UIの問題点と今後の課題
アクロディア取締役兼CMO 佐藤淳氏は、同社製品の「VIVID UI」をベースに、現在の携帯電話UIの問題点と今後の課題について講演を行なった。佐藤氏は万人に対して完璧なUIは存在しないと断ったうえで、まず世代別のUIに対するニーズを説明。40代以降からシニア層は文字入力の使いやすさといった基本機能を重視し、携帯端末やUIへの抵抗感をなくすことが大切だが、一方で10代のティーン層は仲間同士の連帯感、あるいは自分なりの個性をカスタマイズで表現できるものを求めているとのこと。また、携帯電話やPCに抵抗のない20代~30代の中間層は、自分のライフスタイルやコミュニティに合ったUIを求める傾向があると説明した。
また、携帯電話の機能が高度、複雑化した結果、「個々の機能とUIがそれぞれ独立してしまい、ユーザーが自分の携帯に搭載されている機能を把握しきれない、UIがユーザーを誘導できず、携帯電話を使いこなせる層と使いこなせない層という、二極化を招いてしまった」と佐藤氏は述べた。
■ ノキア、サービス分野への進出を強化
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ノキア・シンガポール ケニー・メイシス氏
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この日最後の講演は「Nokiaの携帯サービス事業展開と世界携帯電話市場」で、ノキア・シンガポールよりAPACデベロッパーリレーションズ統括 ケニー・メイシス氏が登壇。ノキアのデバイス事業概要とインターネットビジネスへの展開について説明を行なった。
メイシス氏は同社の中核戦略であるデバイスビジネスについて2007年のデータを示し、「弊社のモバイル端末販売台数は17%増、加入者は33億人に達し世界的に増加の傾向を見せており、マーケットシェアは弊社としても初の40%台に到達した。2009年には40億人達成が予想されている。モトローラ、ソニー・エリクソン、サムスンとの競争が今後も続く中、PC系やネット企業、家電メーカーなど従来とは異なる、新たなライバルも登場し始めた。また、これらの競合他社の描いているビジョンは、ノキアのそれと非常に共通点が多い。それがインターネットビジネスである」と述べた。
2つ目のトピックスとしてメイシス氏は、今後の戦略としてケータイ端末メーカーからインターネットサービス企業への方向転換を挙げた。同社の調査によれば、2010年にはインターネットサービスの市場規模は、1千ユーロを超える見込みだ。「この大きな可能性を秘めたマーケットをユーザーに普及させるためには、サービスとデバイスをうまく繋げて、手軽にかつ充実した利用体験が不可欠であり、ノキアはこの点においては強みを持っている」「今、誰が、どこで、何をしているかという情報を入れ込むことで、従来にはなかった新しいサービスをユーザーに提供できると考えている」と述べたうえで、ノキアのインターネットサービスへの参入を支えるのが、2007年8月に発表したオンラインサービス「Ovi」であると説明した。
また、「日本の携帯電話市場は海外と大きく異なる仕様とニーズであり、ノキアにとって魅力的なマーケットとはいえないのでは? いささか日本市場に対して楽観的すぎないか」という会場からの質問に対してメイシス氏は、「日本では、高機能なカメラやGPS機能が携帯端末に標準で搭載されていることが多く、こういったテクノロジーを活用したオンラインサービスを楽しむことに関して市場もユーザーも成熟しており、また、コンテンツ制作側も経験を積んでいる。日本市場への参入にあたっては国内の通信事業者と連携をはかり、ノキアのデバイスを使ってさまざまなサービスをユーザーに提供していきたい」と答えた。
■ URL
MCF
http://www.mcf.to/
(麻生 ちはや)
2008/05/01 18:46
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