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総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課長の谷脇 康彦氏
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「WIRELESS JAPAN 2008」のビジネスコンファレンスでは、総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課長の谷脇 康彦氏が登壇し、「モバイルビジネス活性化に向けて」と題した講演を行った。MVNO(Mobile Virtual Network Operator/仮想移動体通信事業者)に関連するフォーラムの中での講演とあって、MVNOに関する施策に触れながら、総務省がこれまで行なってきたモバイルビジネスに関する施策や今後の方針が語られた。
谷脇氏はまず、モバイルビジネスにおける販売モデルの見直し、MVNOの新規参入の促進といったこれまでの施策を振り返った。販売モデルの見直しでは、「インセンティブの撤廃を求めたように言われることもあるが、総務省として撤廃を求めたことは無い。ユーザーから見て端末価格と通信料金がどれくらいの価格なのか、分かるようにすることを求めたもの」と語り、現在の状況はあくまで価格面での透明性を求めた結果とした。また、端末価格と通信料金が明確に分離されることでいわゆるレイヤー構造が明確になり、「SIMロックの解除も現実的になる」とするが、「現時点でただちに解除というのは難しい。2010年の時点で解除の方向で検討しており、奨励という形で進めることになるだろう」との見方を示した。
また、端末販売のインセンティブ費用を営業費用に付け替える会計規則の変更にも触れ、通信サービスの費用に端末販売コストが含まれなくなることで、MVNOに対する原価計算がより適正な価格になるといった、MVNOの環境整備に対する取り組みも解説した。
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モバイルビジネス活性化プランについて、3つの柱で解説した
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販売モデルの見直しについて
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■ 日本型MVNOを世界に先駆けて誕生させる
MVNOに対する取り組みでは、欧米でMVNOの成功例が少ないといった意見に対し、「アメリカではプリペイドで音声通話主体のMVNOが多く、欧州でもデータ通信は主体ではない」と指摘。「日本は全ユーザーの86%が3Gで、世界にも例がない市場。日本型のMVNOが、世界に先駆けて誕生するべき。固定でもそうであったように、モバイルでもデータ通信を中心にすることがポイントになる。新しい事業を作れば、諸外国に持っていくポテンシャルも大きくなる」と述べて、MVNOにおいては、比較対象の無い日本市場で成功例を作り出すことがまず重要であるとした。
その一方で谷脇氏は、「MVNOはまだ途についたばかり」と述べ、MVNOガイドラインの策定や、NTTドコモと日本通信の紛争事案によって出されたような、透明性、同等性を高めた環境整備も進めているとした。
2.5GHz帯を利用して提供されるWiMAXの通信サービスについては、MVNOへの開放が「新しい試み」として紹介された。免許付与の審査時にネットワークのオープン性が審査基準に大きく影響したことが明らかにされ、また電気通信事業法における登録条件にも加えることで、審査時の事業者側のコミットメントだけでなく、事業開始後の施策についてもMVNOに対するオープン性が担保されているという。
フェムトセルについては、不感地帯を解消できる施策として前向きな姿勢が示され、「現行制度では想定していなかった範囲の内容」として、現在は電波法の改正など環境整備が終わった段階とした。同氏はフェムトセルの実際の提供形態について、「当初から売り切り制を推進していきたい。レンタルの考えもあるが、売り切り制にすることで生産数を上げれば、単価を下げられる」とし、秋までにガイドラインを改めて策定し、固定網やISPなどさまざまな通信事業者が関係するフェムトセルの環境整備を進めていくとした。
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2.5GHz帯のWiMAX事業は、MVNOへの提供がポイントに
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不感地帯解消策として期待されるフェムトセルの環境整備について
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■ 垂直統合型と共存を目指すもう一つのビジネスモデル
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認証プラットフォームに対するアプローチ
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通信プラットフォームの連携強化の方向性
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そのほかの市場環境整備については、MVNO関連を中心に解説された。2008年に立ち上げられた通信プラットフォーム研究会は、モバイルビジネスの中心になっている垂直統合型ビジネスモデルに対して、水平分業のレイヤーの概念を導入して進められているもの。同氏は「垂直統合を否定しないが、レイヤーでユーザーが組み合わせられるものも、あってもいいのではないかという考え」とし、同研究会では主に課金・認証部分をプラットフォームとして検討していると述べた。これらは、課金・認証部分を垂直統合型のビジネスモデルから分離して扱えれば、水平分業型のビジネスモデルの発展が見込めるというもので、モバイルビジネスのみならず固定系ブロードバンドサービスでも重要になってくる概念とした。ネットワークの種類に依存しないクラウドコンピューティング領域での展開など、課金・認証プラットフォームの分離・独立の実現にむけたアプローチがいくつかあるとするものの、「共通化を考えているわけではない」として、同省ではそれぞれの方式で共通性を持たせるといった施策にとどめる考えを示した。
同氏はこれらの、新たな通信プラットフォームの登場により、「MVNOでは、考えもしなかった多様性が出てくるだろう」と予測。「クロスキャリアのMVNOが登場したり、各キャリアとの間をまとめるMVNEがでてきたりするかもしれない。そういう中では認証・課金プラットフォームがキーエレメントになる。固定とモバイルをクロスするFVNO(Fixed Virtual Network Operator)など、我々がxVNO(MVNOやFVNOなどさまざまな仮想通信事業者を指す言葉)と呼ぶものが出てくることが大切で、そのための環境整備が重要になる」と語り、MVNOの新たな可能性を示した。
同氏からは、上記のような通信プラットフォームの中心として「IDポータビリティ」が紹介され、「新事業の創出という観点からも重要になる。ライフログにしても、どこまで外に提供するのかといった課題があり、ID情報のコントローラビリティや消費者主権を確立することも重要。今年から総務省でもNICT(情報通信研究機構)を通じて研究開発を行っている」と解説された。
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MVNOモデルの多様化
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IDポータビリティのイメージ
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谷脇氏は最後に、「我が国の産業の4割程度をICT(Information and Communication Technology/情報・通信技術)産業が占めている。総務省がMVNOの旗を振っているのは、ほかの産業が(MVNOなどを通じて)市場に参入することや、ほかの産業でICTが活用されることが、産業の活性化、拡大につながるから」と語り、国内で新たな市場を創出し国際展開も視野に活動を行っていく方針が明らかにされた。
■ URL
WIRELESS JAPAN 2008
http://www8.ric.co.jp/expo/wj/
総務省
http://www.soumu.go.jp/
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(太田 亮三)
2008/07/24 15:16
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