「WIRELESS JAPAN 2008」の初日である22日、クアルコムジャパンの代表取締役会長である山田純氏が基調講演に登壇。同社のこれまでの歩みを振り返りながら、「ワイヤレス業界のイノベーションをもたらすクアルコムの事業戦略」として、今後の展開について講演した。
■ 2008年はcdmaOneスタートから10年目
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クアルコムジャパンの山田純氏
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CDMAの歴史
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冒頭、山田氏はクアルコム社を改めて印象づけるかのように、同社の歴史を振り返り、「2008年はクアルコムにとって極めて意味深い年である」と語りながら、特徴的なビジネスモデルを紹介した。
1988年にCDMAのコンセプトを発表してからの5年間は、サイドビジネスで会社を維持しながらCDMAの技術開発を行ったという。「CDMAは移動体通信では動かない」と言われながらも、多大な労力を費やして動くことを証明し続けるという努力が実り、1993年に標準規格として採択され、1995年に香港で最初のサービスを開始した。
その後1996年で韓国および米国でサービスが開始され、1998年にようやく日本でサービスがスタートした。現在ではウィルコムを除く通信事業者がCDMAを採用するに至っている。つまり、2008年は日本でサービスを開始してからちょうど10年という節目の年にあたる。
同社は1995年から2000年までの5年間は、携帯電話および基地局そのものも生産していたが、2000年に端末事業部門は現在の京セラに、基地局部門は現在のエリクソンに売却。現在では自ら「イネーブラーな事業モデル」と称するように、自社では最終製品を提供せず、技術開発における特許ライセンスをメーカーに提供する業態だ。エンドユーザが支払った代金が、最終的にロイヤリティとしてフィードバックされるという。
「果たして最終商品をもたず、メーカーという立場を捨てて、技術開発と半導体の提供のみで事業を発展させられるのかという大きな議論があった。当時はこのようなビジネスモデルをもった通信業界の企業は存在しなかった。今でも永遠に継続できるかどうかはプレッシャーを感じつつやっている」と語り、5年、10年後に使える有用な技術を開発し続けるために、2007年度は1900億円を超える研究開発費が投じられたと語った。また「このビジネスモデルは継続していくつもりであり、グローバルで世界をリードしつづける企業でありたい」と意気込みを語った。
ロイヤリティの是非に関する議論がたびたび起こることについても触れ、「1991年に設定した5%というロイヤリティのレートを現在まで変更していない。その間CDMAは何度も技術革新が行われ、特許件数も増大にも関わらず、標準価格は据え置きしている。これは業界に対する貢献と見て欲しい」として理解を求めた。
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クアルコムのビジネスモデル
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研究開発費の推移
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■ モバイルブロードバンドの5つの流れ
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モバイルブロードバンド・ロードマップ
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CDMAの変遷を示した「モバイルブロードバンド・ロードマップ」をスライドで披露しながら、現在の取り組みについて説明。
「オリジナルにもっとも近い第3世代の方式」という「CDMA2000 1X」は、まだ発展の可能性があるとして、「1X Advanced」という技術開発を進めている。現時点では標準化の明確なスケジュールは経っていないが、「1Xは極めてローコストで多くの容量を収容できる重要な回線交換技術であるという認識がある。2倍以上の通信容量の増加を目指して取り組んでいる」とした。ちなみに「CDMA2000 1X」は、新興国、発展途上国でGSMに対抗できる極めてローエンド、ローコストの通信技術であり、多くの加入者を得ているという。
日本ではKDDIが導入しているCDMA2000のEV-DO系列については、「データに特化した極めて効率のいい方式」として、現在はRev.Bまで標準化が進んでいる。こちらもさらなる発展の可能性があるということで「DO Advanced」という形で取り組みを進めている。「標準化の具体的なスケジュールはないが、MIMOや環境キャンセリング技術の導入等によってまだまだ通信容量の改善である」とした。
「WCDMA」については「HSPA+」がほぼ実用化に近づいているという。「チップセットの提供等において、もっとも早く通信事業者の商用化をサポートできるような技術提供をしていけると考えている」と語った。
日本では3.9Gと呼ばれる(世界の一部では4G)LTE、UMBに関して、UMBはほぼ完成しており、米国本社では車に搭載しての200kmで走行するライブデモンストレーションも行っている。LTEも技術開発が着々と進んでおり「これら5つの流れに関して、通信事業者のニーズに応じてチップや技術の提供ができるよう、準備を整えていく」と語った。
■ MediaFLOは今夏「ユビキタス特区」で実験
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端末用チップの処理能力の変遷
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同社の主力ビジネスの1つである端末用チップ(半導体)に関しては、この10年で飛躍的にMIPS値を上げており、特にこの2年間でさらに処理能力が大きく向上している。
サンプル出荷として、ARM11のCPUを「スコルピオン」と呼ばれる独自開発のCPUに置き換えたチップ「SnapDragon」の提供も開始。1GHzで、2370MIPSの性能が出せるという。同氏は「携帯端末におけるもっとも大きな制約は消費電力。このチップの低消費電力にもっとも注力している。インテルのAtomと比べても桁違いに消費電力が少ない。将来のモバイルコンピューティングの重要なデバイスとして認識いただけるよう取り組んでいる」と説明した。
なお、「SnapDragon」がカバーする製品群は、4~6インチまでのデバイス、もしくはモバイルコンピューティングと呼んでいるディスプレイが7~12インチのデバイスと考えられている。
通信事業者を介したデジタルコンテンツの配信の仕組みである「MediaFLO」の状況については、すでにサービスが開始されている米国のビジネスモデルを紹介。日本におけるコンテンツビジネスと同等であるとした。香港、台湾、マレーシアでトライアルが開始されたことや、この夏から島根県の「ユビキタス特区」で電波の送信実験が開始されることにも触れ、「携帯電話向けのTVというよりは、ユニークなあらたな端末を想定したビジネスモデルをやって行きたい」と述べた。
CDMA携帯電話向けアプリケーションのプラットフォームの「BREW」については、アドビ社との提携によりAdobe Flash/AIRをBREW Mobile Platformへ統合するなど、使い勝手の向上に取り組んでいるとした。また、リコメンド機能の強化にも取り組んでるという。
将来の無線通信ネットワークの取り組みに関しては「マクロ、フェムト、ピコがどのように入り組んでも、もっとも自分に近い基地局と最大限の通信能力で通信できる技術開発がなされるべきであり、このコンセプトが次世代の技術開発の根底にあってしかるべき。当社としてもフォーカスして取り組んでいく。今後もイネーブラーとしての役割を十分に持ち続け、業界の拡大に貢献したい」と語った。
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米国におけるMediaFLOのビジネスモデル
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BREW
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■フォトギャラリー
■ URL
クアルコム
http://www.qualcomm.co.jp/
WIRELESS JAPAN 2008
http://www8.ric.co.jp/expo/wj/
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(すずまり)
2008/07/23 14:23
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