俺のケータイ of the Year
WX12K
WX12K
橋本 保編
(2013/12/27 12:35)
今年は国内ブランドのスマートフォン撤退などもあり、機種選びの選択肢が狭まるとの見方からすると残念な年だった。だが、こうなることは数年前から言われてきたほか、そもそも撤退に至ったところは、それなりに理由があると筆者は見ている。厳しいかもしれないが、スマートフォンシフトが進む過程での自然淘汰が進んだということであり、これを携帯電話会社の戦略に振り回されたことなどに理由を求めていくのは筋違いだろう。ほとんどゼロの状態からシェアを積み上げた外国のメーカーもあれば、日本メーカーながら健闘しているメーカーもある。要は売れるものを作っているメーカーは残り、そうでないメーカーは退場を強いられる。それだけのことで、たとえば京セラは生き残り組の典型例だろう。
京セラはKDDIの筆頭株主であり、その前身である第二電電(DDI)をソニーや三菱商事らと設立した企業としてよく知られているにも関わらず、ソフトバンクにも同社スマートフォン「DIGNO」シリーズを展開しているうえ、いまやソフトバンクグループの尖兵としてKDDIを侵食するウィルコムの主要メーカーでもある。ウィルコムが会社更生法を活用した再建の過程では多額の損失を強いられたほか、2014年4月にはイー・アクセスに吸収合併されることが決まっていることからすると、今後ソフトバンクとの関係が良好で在り続けられるかは不透明な面もあるが、二言目には携帯電話会社に恨み節を吐くメーカー関係者に比べれば、しぶとく、したたかであり、ときどきいぶし銀のような面白いものを作ってくる。
そんな京セラがウィルコム向けに提供しているPHS「WX12K」を、今年の「俺のケータイ of the Year」に選ぶことにした。
その理由には、(1)Bluetoothを活用したスマートフォン連携の充実、(2)折りたたみ型ケータイとしての使いやすさの2点が挙げられる。これに、PHSそのものの魅力を加えてみたい。
(1)に関連して特筆したいのは、「だれとでも定額パス」の内蔵だ。同機能は、Androidスマートフォン(iPhoneは非対応)を経由して、PHSの発信ができるもので、当初は専用機「WX01TJ」で提供されていた。これにより、ドコモ、au、ソフトバンクなどのAndroidスマートフォンを使いながら、PHSの電話番号もアクティブに運用可能になった。“アクティブ”と形容したのは、「WX01TJ」の場合、それ単体で電話の受発信ができないため、Androidスマートフォンが必要だった。たとえば電池切れのときなどにはPHSの電話番号が使えなくなってしまう恐れがあったが、「WX12K」は、独立した電話機そのものなので、Androidスマートフォンの電池残量に左右されることがない。従来から使用しているAndroidスマートフォンでインターネットアクセスを行ない、通話は(月額980円払うと)10分以内なら無料の「だれとでも定額」にすることで、通信費を抑えることができる。とくに音声通話が多い方は、30秒21円という法外な通話料に悩まされずに済むだろう。
余談になるが、私は現在の携帯電話で主流になっている30秒21円という通話料は異常だと感じている。というのも筆者のように固定電話へ頻繁に電話をかける機会が多かったり、外回りの営業仕事をしていたりすると、固定電話や自分が契約している携帯電話会社以外の相手と通話することは避けられない。となると、30秒21円という通話料が適用され、バカにならない請求書が届くことになる。料金が安いか高いかについての評価を軽々にすることは避けるが、各種割引適用前と各種割引適用後の範囲を自分の利用状況から推測すると、電話を頻繁に使う人にとっては何年も前の水準になっているように感じる。「最近はメールやSNSを使うから、電話は使わなくなった」という話もあるので、通話料は安くなっているように思われるかもしれないが、通話料が高くなったから電話をしなくなったとはいえないか? メールやSNSも楽しいコミュニケーションだろうが、筆者は声で相手の様子がわかる電話のほうが好きなコミュニケーション手段だ。携帯電話会社はコミュニケーションを豊かにするようなことを謳いながら、高い通話料という制約を設けられることで、何だかプアなコミュニケーションを強いてはいないか、と考えたくなるほど、いまの通話料の水準は高くなっているように感じる。
ゆえにウィルコムの「だれとでも定額」は、筆者を含めて通話料が高いと感じている方にとっては、とてもありがたい。今年11月からは、070で始まる番号が携帯電話にも割り当てられるようになり、070=PHSではなくなった。現在PHSは、070-5△△△と070-6△△△のみに割り当てられているが、2014年にはPHSと携帯電話間でもMNPが導入される見込みなので、070で始まる電話番号に対する印象も、来年以降は変わるだろう。いまのスマートフォンの通話料の高さに利用者が覚醒し、PHSがより一般的になることを筆者は応援していきたい。
さらに余談だが、070の電話番号に変えると、それを知らせるのが面倒だし、自分の電話番号を知っている人と連絡が取れなくなるから不便を感じるかもしれない。それは否定はしないが、高い通話料金を払い続けるコストと、連絡が取り合える便利さを天秤にかけてみるのも一考ではないか。また、それこそ最近はメールアドレスやSNSで連絡が取り合うことが多いので、電話番号がわからなくてもやり取りに困らない面もある。そして070の電話番号で発信を続けていると、そのうち070の電話番号のほうに着信が集中してくることに気づく。
理由は簡単で、電話をかけるとき大抵の場合は、発着信履歴を使うため。これは電話をよく使う人ほど速く浸透するようで、筆者の場合は使い始めてから1カ月もすると、頻繁にやり取りする相手先からの連絡は、概ね新しい番号(=070)に集約されていった。その背景には、メールやSNSなどが普及して、コミュニケーションの手段が多様化していることもあるようで、電話番号を変えたからといっての不自由は、(本人が気づいていないだけかもしれないが)いまのところはない。ただし、今後困るであろうことが想像されるのは海外渡航時。国内で都市部の生活をしていればPHSのエリアで困ることはないが、海外にいったときにはローミングができないのでお手上げ。が、これもメールやSNSで対処できるうえ、そもそも電話をかけてくる相手が限られていたり、会社の同僚に伝えておけば済むなど、対策はあると楽観している。繰り返しになるが、その背景には、やはりコミュニケーション手段の多様化が挙げられるだろう。
このように高い通話料から解放されるためPHSを使い始めるときに「WX12K」の「だれとでも定額パス」機能は重宝する。そしてもうひとつ便利なのが、Androidスマートフォンの子機モードとして使えるようになる機能。ここでいう「親機」とは、家のコードレス電話を想定してもらうとわかりやすいが、直接電話回線につながっている機器のことを指す。「誰とでも定額パス」では、PHS回線で発信するため、「WX12K」が親機になっていたが、「WX12K」の子機モードでは、Androidスマートフォンで着信した電話を受話することが可能になる。
たとえば090の電話番号と070の電話番号を併用しているときに、「WX12K」をAndroidスマートフォンの子機モードにしておくと、090の電話番号にかかってきた着信を「WX12K」で受話できる。前述のとおり、070の電話番号で発信し続けていれば「WX12K」に着信が集まるようになり、それで溢れてしまう携帯電話への着信は、子機モードで受話ができる。ちなみに、この機能はウィルコムの「SOCIUS(ソキウス)」などにも備わっていて、ウィルコムの商品企画担当にBluetoothの活用を加速させるきっかけになったようと推測される。
話を整理すると、「だれとでも定額パス」機能はAndroidスマートフォンをメインに使いたい方に向いていて、Androidスマートフォンの子機モードは、電話機を中心に使いたい方に便利な機能といえる。「WX12K」は、その両方を備えて、ユーザーが使い方を選べるところに魅力がある。スマートフォンとPHSを併用したい方、スマートフォンの電話のみをPHSに移行したい方などに、電池切れを心配せずに低価格で音声通話ができて、スマートフォンとの連携をBluetoothで実現しているのが「WX12K」の魅力で、“スマートフォン時代の京ぽん”といえるだろう。
ただ、孫正義氏が株主総会で公言したのをきっかけに実現した、「ソフトバンク/イー・モバイル通話定額」(月額525円)はウィルコムのスマートフォンに限定されていて、「WX12K」では適用されない。月額利用料がかかることはさておき、スマートフォンに限定するというアリバイ作り的なメニューの作り方は、とても残念だ。ぜひ再考いただきたい。
こうしたBluetooth関連のほか、(2)の電話機としての使い勝手についても触れておきたい。実はPHSながら充電器を同梱していたり、防水・防塵・耐衝撃性能を備えていたり、緊急地震速報に対応しているなど、メインの機種として遜色ない内容を揃えている。そして何よりも折りたたみ型ケータイゆえにダイヤルボタンが押しやすく、安心して通話ができるのが最大の特徴だ。スマートフォンは、電話機能を統合したインターネットデバイスとして時代を画した製品だが、私たちの感覚には未だケータイで記憶が染み込んでいるからだろうか、「最近、ガラケーに変えたんだよね」といって「WX12K」のこと、PHSのことを話題にすると、とても興味を持ってもらえる。
携帯電話に対するPHS、スマートフォンに対するガラケーと、非主流のものに着目することで、スマートフォン全盛の2013年を相対化して考えられる機会を得た意味でも「WX12K」を使い始めたことは有意義だったと思っている。繰り返しになるが、2014年は、携帯電話とのMNPが始まるなど、PHSにとっては節目の年になる。これを機会にPHSの存在意義が見直されることを期待したい。