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1日980円の「世界データ定額」をニューヨークで試してみた!

1日980円の「世界データ定額」をニューヨークで試してみた!

auの新しい国際ローミングサービス

取材で訪れたニューヨーク。街中でもスマートフォンをいつもの感覚で使うことができた

 海外に渡航したときは、地図を確認したり、ブラウザで情報を検索したり、翻訳アプリでわからない言葉を調べたりと、スマートフォンが役に立つ。ただし、国内のスマートフォンを持っていくと、気になるのが国際ローミングの料金。

 auは7月22日から従来の「海外ダブル定額」に加え、1日あたり980円の追加料金で、世界32の国と地域でスマートフォンのデータ通信が利用できる「世界データ定額」というサービスを開始した。当初、8月1日からの提供を予定していたが、夏休みを控えていることもあり、前倒しで7月22日からのサービスを開始した。今回、筆者は取材で米国ニューヨークに出かけることになったので、早速、世界データ定額を試してみることにした。

一般的な国際ローミングの料金体系

 国内で契約している携帯電話やスマートフォンを海外で利用する場合、海外のキャリアのネットワークに接続する国際ローミングという形で利用するため、一般的に国内とは異なる料金体系が適用される。たとえば、音声通話の着信に応答したとき、国内では着信側に通話料はかからないが、国際ローミング中は着信側にも国際転送料が課金される。国際転送料は北米で1分あたり170円前後に設定されているため、かかってきた電話に出て、10分ほど通話をするだけで、1700円もの料金が請求されるわけだ。

 データ通信についても同様だ。かつては、「国内でパケット定額サービスに加入しているから、海外でも定額だろう」と勝手に解釈してしまい、渡航中にメールやインターネットを利用し、帰国後に高額の請求を受けたという事例が数多く報告されたが、現在は各社とも一定の条件の下に、国際ローミング中でもデータ通信を定額で利用できる海外データ定額サービス(海外パケット定額サービス)を提供している。

 具体的には、渡航先で指定の携帯電話事業者のネットワークに接続すれば、1日あたり最大2980円で利用できるというもので、指定の携帯電話事業者への接続についてもアプリで確認できるようにしたり、あらかじめ端末に必要な情報を設定しておき、自動的に指定の携帯電話事業者へ接続するしくみなども提供されている。

 ただ、この1日あたり2980円という料金も必ずしも安いものとは言えない。たとえば、一週間ほどの旅行になると、軽く2万円を超える料金になってしまう。しかも1日の区切りを日本時間で計算するため、渡航先に到着した時間帯によっては、わずか数時間で1日分の料金がかかってしまうこともある。

 これに対し、ここ数年は海外で利用できるモバイルWi-Fiルーターのレンタルなどが普及し、海外旅行や出張などで広く利用されている。渡航先にもよるが、1日あたりの料金も1日あたり1000円前後と割安で、複数の国と地域を1台のモバイルWi-Fiルーターでカバーするサービスも提供されている。。筆者も取材などで海外に渡航するとき、よく利用している。

 また、ローミングという形ではないが、SIMロックフリー端末を用意し、渡航先でプリペイドSIMカードを購入して、旅行中のデータ通信料や通話料を節約する方法も選べる。ただ、本誌の「みんなのケータイ」でも多くの著者陣が触れているが、海外でのプリペイドSIMカードの購入には予想以上の手間がかかったり、開通作業がうまくできないなど、慣れた人でもなかなか扱いにくい面があるのも事実だ。

auの世界データ定額

 今回、auがサービスを開始した「世界データ定額」も海外データ定額サービスのひとつだが、これまでauが提供してきた「国際ダブル定額」とは少し扱い方が異なる。

 まず、料金は1日(24時間)あたり980円に設定されているが、この1日の単位はユーザー自身が開始時間を決めることができる。もう少し正確に表現すれば、「世界データ定額」のアプリで「利用開始」のボタンをタップしてから、24時間使うことができる。24時間を過ぎると、データ通信は自動的に切断され、再び「利用開始」ボタンを押せば、そこから24時間のカウントが始まるわけだ。

 たとえば、24時間の終わりがちょうど寝るタイミングであれば、利用開始ボタンはもう押さずにおいて、朝起きてから押すといった使い方もできる。欧州などでは鉄道で複数の国と地域を移動することがあるが、このようなときも移動中の国と地域が対象エリアで、利用開始から24時間内であれば、定額で利用することが可能だ。ちなみに、この「利用開始」ボタンは世界データ定額によるデータ通信に対するもので、音声通話の着信やSMSはこのボタンの操作にかかわらず、使うことができる。

 もうひとつの特徴がデータ通信量のカウントだ。これまでの海外ダブル定額は24.4MBまでのパケット通信料が1日あたり1980円、これを超える場合は1日あたり2980円でデータ通信量は無制限という設定になっていた。

 これに対し、今回の世界データ定額では渡航先で利用したデータ通信量が、国内で契約中のデータ定額サービスのデータ通信量からカウント(消費)される。つまり、国内で5GBのデータ定額を契約していて、渡航中に1GBを使えば、帰国時の残りのデータ通信量は4GBになるというわけだ。契約しているデータ通信量がなくなれば、国内で利用しているときと同じように、通信速度が128kbpsに制限されるが、データチャージでデータ通信量を追加すれば、再び元の通信速度で利用できる。

 このあたりの動作は基本的に国内で利用しているときと同じだ。1日あたり2980円で使い放題の海外ダブル定額と違い、データ通信量がきっちりとカウントされるため、制限が厳しくなった印象もあるが、国内で契約しているデータ通信量を消費する形なので、ある意味、理にかなった計算方法とも言える。

 auの世界データ定額が利用できる対象地域は、別表の通りで、米国やハワイ、台湾、タイ、ドイツ、フランス、イタリア、イギリスなど、32の国と地域となっている。海外ダブル定額に比べると、対象地域は少ないが、日本人の海外渡航先の約7割をカバーしており、旅行などで人気の主要な地域ではほぼ含まれている印象だ。ちなみに、世界データ定額の対象外の国と地域では、従来同様、海外ダブル定額を利用することになる。

「世界データ定額」対象国・地域(2016年7月22日現在)
エリア国・地域
北米アメリカ(本土)、アメリカ(アラスカ)、カナダ
アジア韓国、台湾、タイ、香港、シンガポール、マレーシア
オセアニアハワイ、オーストラリア、ニュージーランド、クリスマス島
ヨーロッパドイツ、フランス、イギリス、イタリア、オランダ、スペイン、ベルギー、オーストリア、チェコ、スロバキア、スイス、ルクセンブルク、サンマリノ、バチカン、リヒテンシュタイン
中南米プエルトリコ、米領バージン諸島
アフリカカナリア諸島、スペイン領北アフリカ

 世界データ定額を利用する条件としては、無料のオプションサービスである「データチャージ」に加入していること、対象となる料金プランを契約していることとなっている。データチャージはすでに提供されているサービスだが、ユーザーがデータ定額で契約するデータ通信量を使い切り、低速通信になってしまったとき、追加のデータ通信量をチャージするためのサービスだ。対象となる料金プランはデータチャージに加入できる料金プランで、別表の通りだ。

世界データ定額 対応プラン
端末プラン
4G LTEスマートフォンデータ定額1/2/3/5/8/10/13
LTEフラット、シニアプラン
4G LTEケータイデータ定額2/3/5/8/10/13 (VK)
4G LTEタブレットタブレットプランds (3年契約/2年契約)
LTEフラット for Tab ds、LTEフラット for Tab
4G LTE対応PCLTEフラット for DATA (m)
LTEフラット for DATA (m) ds

※(V) (L) (i) が付くプランを含む。
※「LTEフラット cp (f・2GB)」「LTEフラット cp (1GB)」「データ定額CP (0.8GB)」も対象。
※「au世界サービス (旧GLOBAL PASSPORT)」非対応機種は利用不可

国内で事前に設定が必要

 さて、実際に世界データ定額を利用するときの流れだが、渡航前に設定を確認しておく必要がある。

 まず、ひとつめはくり返しになるが、データチャージに加入していることを確認する。これはデータチャージに加入しているかどうかは、データ通信の残量などが確認できる「デジラアプリ」を起動し、[MENU]をタップして、[データチャージサイト]を選んで、データチャージサイトが表示されていれば、加入されていることになる。ちなみに、データチャージはあくまでも加入するだけで、残量があれば、データ容量を新たにチャージする必要はない。

世界データ定額を利用するにはデータチャージの加入が必要。auお客さまサポートのアプリを起動し、[ご契約内容の確認]-[各種変更・お手続き]-[サービス・機能・データチャージ]-[「データチャージ」申し込み]-[au IDでログイン]の順にアクセスすると、「データチャージ・データシェアご利用のお手続き/ご利用状況照会」のページで確認できる
デジラアプリを起動し、[MENU]から[データチャージサイト]を選んで、購入手続きが可能な状態であれば、データチャージは加入済み

 次に、端末のモバイルネットワークの設定を確認する。Androidスマートフォンであれば、設定画面の[モバイルデータ通信]の[ネットワークモード]を[自動]に設定する。[データローミング]もオンに切り替えるように説明されており、やや不安な印象もあるが、auの案内には「データチャージに加入されている場合、渡航時に「利用開始ボタン」を押すまでは、料金が発生することは絶対にありません」と記載されているので、これを信じて使うしかなさそうだ。

 auではこれらの事前設定が簡単にでき、渡航先でも利用状況などを確認できる「世界データ定額アプリ」を提供しているので、これも渡航前にダウンロードしておくと便利だ。Android版はau Market、iOS版はApp Storeで、「世界データ定額」と検索すれば、すぐに見つけることができる。

世界データ定額のアプリを起動すると、まず、利用規約が表示される
続いて、プライバシーポリシーの確認
世界データ定額の内容説明その1
世界データ定額の内容説明その2。国内で初期設定が必要である旨が強調されている
世界データ定額の内容説明その3。au IDでログインして、初期設定を開始
まずデータローミングの設定が必要。データチャージが設定されていれば、利用開始ボタンを推さない限り、データ通信料金が発生することはない
Galaxy S7 edge SCV33でデータローミングを有効に切り替え。確認画面が表示される
データローミングを有効に切り替え完了。その他の項目は変更する必要がない
設定が完了。渡航先に到着したら、画面右下の[海外で使う]をタップし、[利用開始]をタップすれば、データ通信が開始できる

無事にニューヨークに到着。しかし!?

 渡航前にひと通りの設定を終え、無事にニューヨークへ出発。成田空港からは約13時間を超える長いフライトだ。

 ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に到着後、タクシーでマンハッタンへ移動。今回は本誌でもおなじみの石川温氏と同じ便だったので、一緒にタクシーに乗り込み、それぞれのホテルへ向かった。

 お互いにauの世界データ定額を試すことは話していたので、それぞれに自分の端末を取り出し、世界データ定額のアプリを起動してみたが、[海外で使う]をタップして画面が切り替わったものの、「エラーが発生しました。しばらくしてからもう一度お試しください」と表示されるだけ。画面右上の[再読込]をタップして、リロードして見るものの、同じエラー画面が表示され、変化なし。隣の石川氏も同じ状況で、接続できず……。ブラウザから利用開始ができるページもあるのだが、こちらも「現在オフラインです」と表示され、インターネットに接続できない……。

ニューヨークに到着後、使い始めようとアプリを起動してみたものの、エラーで利用開始の画面が表示されない
右上の再読込をくり返しタップしていると、[利用状況を表示できません]のエラーが表示される
SMSが届くが、URLにはアクセスできない状態が続く

 そうこうしている内に、石川氏がiPhoneのブラウザ経由で接続することに成功し、しばらくして筆者のGalaxy S7 edgeでも、ブラウザで「au世界サービス」のページが表示され、世界データ定額の[利用開始]ボタンが押せるようになり、無事に利用開始。当初のエラーなど、何もなかったようにインターネット接続ができるようになり、FacebookやTwitterなどのアプリも無事に使うことができた。

 とは言え、ここまでのトラブルをそのまま見過ごすこともできず、撮影したキャプチャ画像をKDDIの広報担当に送り、状況の確認と今後の対策をお願いしておいた。

空港からマンハッタンへ移動中のタクシー内で作業
ようやくブラウザで利用開始の画面が表示された
[利用開始]ボタンをタップすると、24時間のカウントが開始される
無事に利用を開始することができた
世界データ定額を利用中は24時間のカウントダウン画面が表示される

いつもの感覚で使える安心感

 さて、実際に利用したときの印象についてだが、エリアやネットワークの速度などに違いはあるものの、国内と同じ端末を利用していることもあり、「いつもの感覚」で使うことができた。

 筆者自身もそうだが、海外渡航が多いユーザーは国内で利用している端末とは別に、海外渡航用のSIMフリー端末を用意することが多いが、別の端末になると、どうしても環境に違いが出てきてしまう。渡航先でアプリのアップデートをしていないことに気づいたり、最近使い始めたアプリが海外渡航用の端末にはインストールされていなかったりといったことが起きる。

 しかし、国内で利用している端末をローミングするときは、こうした心配もなく、いつもの使い心地をそのまま、海外渡航先に持ち出すことができる。LINEなどのように、携帯電話電話番号とサービスが紐付いているようなサービスも普段のまま、使い続けられるわけだ。

 また、海外でプリペイドSIMカードを購入し、SIMフリー端末で利用するときは、設定やデータ通信量などが気になってしまうが、いつもの端末であれば、ローミング利用時の設定のみで済み、データ通信も多少、地図の表示や写真のアップロードなどで増える傾向があるものの、いつもと同じペースで使っている限り、それほど極端に増える心配もない。

 こうした「いつもの感覚で使える安心感」は、海外渡航に慣れていないユーザーはもちろん、ある程度、海外渡航に慣れたユーザーにとっても有用だろう。たとえば、渡航した国と地域によっては、空港などでプリペイドSIMカードを購入できなかったり、手続きが煩雑だったりすることがあるが、そんなときは1日分だけでも世界データ定額で過ごし、翌日以降、どこかでプリペイドSIMカードを調達するという使い方もできる。あるいは、今回の筆者のように、滞在期間が短く、プリペイドSIMカードを購入するほどでもないといったときにも便利に使うことができそうだ。

 追加の費用については、海外ダブル定額の1日あたり2980円に対し、世界データ定額は1日あたり980円であり、その分、データ通信量が国内の契約しているデータ定額のデータ容量が差し引かれるしくみのため、テザリングでパソコンと接続し、1日に何GBも使うといった使い方でもしない限り、世界データ定額の方が負担は少ない。実際に、データ通信をどれくらい使ったのかは、国内で利用しているときと同じように、auの「デジラアプリ」を起動すれば、確認できるのも安心だ。

 データ通信量が足りないときについては、前述のように、データチャージサイトでチャージするが、auでは家族間でデータ容量をプレゼントできるデータギフトも使うことができる。たとえば、海外渡航時に家族の余っているデータ容量をプレゼントしてもらったり、海外旅行に出かける家族にお小遣い代わりに、データ容量をあげるといった使い方もできるわけだ。

帰国後にデジラアプリを起動すると、写真なども多く送信したせいか、1GBほど、減っていた
ニューヨークから到着した直後もカウントダウンは継続していた。カウントダウンが終了しないのは、日本経由で乗り継ぎ、次の国へ移動したときにも使えるからだという。もっとも、この場合の1時間半ではどこにも行けないが……。

 最後に、筆者が今回の到着直後に遭遇した利用開始ができないトラブルについては、その後、アプリやネットワークの設定などに不具合が見つかったとのことで、8月4日には、エラーメッセージなども見直されたアプリの最新版が公開され、ネットワーク側の設定もすでに修正されているという。auによれば、今後、こうしたトラブルにはユーザーからの情報発信も含めて、できるだけ早く対応できるように体制を整えているとしている。

 auの世界データ定額はサービス開始直後ということもあり、利用開始に少しトラブルがあったものの、利用できるようになれば、非常に快適かつ簡単に使うことができた。これから海外に出かけるauユーザーには、ぜひ上手に活用して欲しいサービスと言えるだろう。