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KDDI田中社長、総務省のタスクフォースに「議論の行く末、見守る」

 KDDIは5日、2015年度の第2四半期および上期の決算を発表した。同日行った報道関係者向け説明会の席上で、総務省で開催されている料金引き下げ関連のタスクフォースに関する質問を投げかけられた代表取締役社長の田中孝司氏は「議論の行く末を見守る」と慎重な姿勢を見せた。会見後の囲み取材の終盤には、「総務省での議論は、競争政策に矛盾するのではないか」と指摘が投げかけられると、それに同意し、どういった方向の結論に落ち着くのか不透明な現状に「聞いてから決めようというのが本音」と語った。

プレゼンでauの取り組み示す

 総務省のタスクフォースでは「携帯電話料金の低廉化」「長期間、同じ端末を利用するユーザーと、頻繁に端末を買い替えるユーザーの間の不公平性」「端末代金と通信料が一体化して不透明」といった指摘がこれまで挙がっている。

 国が主導して議論することについて「真摯にご意見を受け止める。必要であれば改善を加えていく」とコメントした田中社長は、業績を説明するなかで、auの料金プランや長期契約ユーザーに向けた施策を具体的に取り上げて、これまでの取り組みをアピールする。たとえば今年9月に導入した「スーパーカケホ(※関連記事)」、あるいはジュニア向け・シニア向けのスマートフォンとセットで提供するプラン、はたまたMVNOサービスの「UQ mobile」は、“そんなに使わないのに料金プランが選べない”という声に応えるものと位置付けられる。また「長期優待データギフト」「アップグレードプログラム」は長期契約者に向けた施策、あるいは無理に長く同じ端末を使わせずに買い替えを促進する狙いがある取り組みと言える。こうしたプレゼンテーションは総務省のタスクフォースでの論点に対して、KDDIは既に具体的な施策を行っている、と暗に示す格好となり、国内の携帯電話料金は、先進国のなかでも中くらい、品質は最先端であり「決して高いということはない」と述べる。

 また端末代と通信料が一体になって、わかりにくいと指摘されていることについて「ある程度の販売奨励金を入れないと、何年か前の(モバイルビジネス研究会後に端末販売が急減したような)不況になる。過度なものはよくないが、最近のハイエンド機種は10万円程度のものもあり、割賦でなければ購入しづらい。一括払いで購入したい人もいるだろうから、そちらに向けて検討も必要だろうが、プランが多すぎるとわかりづらい。ほどよいところがどこか、というのが求める回答だろう」と語り、明確な区分けは難しいことを示唆する。

「矛盾している議論だらけでよくわからない」

 auとしての取り組み、あるいは議論の着地点を見守る姿勢を示した田中社長は、囲み取材において「ただ安ければいいというのはあるかもしれないが、ビジネスもある。どこに重点を置くかは難しい。データを使う人、使わない人に向けた料金で小刻みにやってきたつもりだが、100MB単位にすると(定額制ではなく)従量制になる。(議論の行く末を)聞いてから決めようというのが本音」と述べて、あらためて慎重な姿勢を示した。

 こうした回答をする背景には、政府の進め方にやや混乱とも言える状況があることが挙げられる。昨年12月「モバイル創生プラン」を打ち上げた総務省は、MVNOによる競争促進を意図してきた。ところが、今年9月になると突如、安倍首相から鶴の一声で料金値下げに関する議論がスタート。安易に大手携帯キャリアが値下げするとMVNOの事業がたち行かなくなる可能性があるところへ、2015年内にも結論を出す、という早急な進め方もあって、落としどころがどういった内容になるか見当がつかないようだ。総務省では、次回のタスクフォースを非公開としているが、田中社長によれば11月16日の週に開催されるという。

 囲み取材では、「総務省は競争させようとしているというが、たとえば長期ユーザーを優遇すると競争が止まるのでは? 矛盾ですよね」という問いも挙がり、田中社長は「そうですよ、ホントに矛盾している議論だらけでよくわからない。あまり安すぎるプランを出すとMVNOに影響が出る。長期契約のユーザーの優遇も度が過ぎると(他社への乗換が進まず)競争に影響する」とコメントしていた。

上期は増収増益

 2015年度上期の業績は、売上高が2兆1518億円(前年同期比6%増)、営業利益が4514億円(同18%)となった。増益の主要因は、モバイル事業におけるau通信ARPA(Average Revenue Per Account)収入や付加価値ARPA収入をあわせた総合APRA収入とのことで、田中社長は「健全な増益だ」と胸を張る。

純増は95万件

 この上期、auの純増数は95万件を記録した(プリペイド、MVNO除く)。これは前年同期の82万件より16%の増加。マルチデバイス化を推進するauでは1人あたりのモバイルデバイス数という指標も示しており、これは1.39台となり第1四半期よりも0.1ポイント増えた。最近は四半期ごとに0.1ポイントずつ増加しており、「スマホとかフィーチャーフォンの伸びが鈍化していくなかで、今はタブレットやモバイルルーターが増えている」(田中社長)とのこと。

 このほか、固定網とのセット割である「auスマートバリュー」は、モバイルが1037万契約、固定が514万世帯という契約数になり、auのスマートフォン契約のうち54%が利用している。

 ジュニア向けの「miraie」、シニア向けの「BASIO」をあわせた累計契約数も増加傾向にあり、「予想より多かった。万の一桁じゃなくて、二桁に達している。特にシニア向けが好調だったと思う」と田中社長。

 9月より提供されている「スーパーカケホ」の契約数は非開示だったが、「1700円でスマホが持てるということで、フィーチャーフォンからの乗り換えが予想より多い」(田中社長)とのこと。

au Wallet Marketとau Walletについて

 このほか8月にスタートしたau Wallet Marketについては、“au経済圏”の取り組みの一環として紹介しつつ、具体的な実績はスタートから間もないこともあって開示されなかった。田中社長は「まだ始まったところ。仮に利用数が多くても最初だけだろう、と言われるかもしれない。それなりに先が読めるようになった数字を出したい」とした。電子マネー&クレジットの「au Wallet」は契約数が1580万件で「弱含み」(田中社長)として、伸び悩んでいるとのこと。ただしある程度の規模に達したとも評価しており、利用頻度を向上させるキャンペーンなどを実施することで、au Wallet事業は2015年度こそ赤字になるが、2016年度には黒字化したいと意欲を示した。

関口 聖