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LINE、青少年のネットリテラシー教育への取り組みを紹介

全国の学校と協力して「いじめ」原因の実態調査を実施へ

 LINEは28日、青少年に対するインターネットリテラシー教育についての同社の取り組みを紹介した。

 同社は、企業の社会的責任(CSR)活動の一環として、青少年に対するネットリテラシー教育取り組んでおり、全国の小学校、中学校、高等学校に講師を派遣して、ネットリテラシーの啓発授業を行っている。

 今回、LINEでは、ネット利用でのトラブルや、いじめの原因を実態的に把握するために、全国の小学校、中学校、高校の児童・生徒を対象とした10万人規模でのアンケート調査「青少年におけるネット利用実態調査」を実施する調査期間は2015年9月~12月。

 調査結果は2016年の3月ごろを目途に公開し、研究機関や教育関係者に向けては、匿名化後の集計前データも公開される。

 そのほか、8月末より、現在ワークショップで利用している教材を強化し、複数回の授業で利用できるようにした新教材を公開する。また、9月にはインターネットにおけるコミュニケーションと対面でのコミュニケーションの違いを考えるマンガ教材を公開する。

左から、静岡大学の塩田真吾准教授、LINE 政策企画室室長の江口清貴氏、LINE CEOの出澤剛氏

青少年のトラブルに対するLINEの取り組み

LINE 代表取締役 CEOの出澤剛氏

 28日に実施された記者向けの説明会にて、冒頭登壇した同社の代表取締役 CEOの出澤剛氏は、LINEの青少年に対する取り組みの概要を説明した。

 2011年の東日本大震災時をきっかけに誕生したチャットアプリ「LINE」は、身近な人とコミュニケーションを取れるメッセージツールとして開発された。2013年7月の山口県で発生した豪雨災害時には、女子高校生がLINEで避難を呼びかけるなど、災害時に利用されるといった利用がされている。

 一方、LINEを舞台として、いじめなどのコミュニケーショントラブル、意図しない大人との出会いや、炎上等のインターネット上のトラブルに、未成年が巻き込まれる事例も発生している。

 LINEではこうしたトラブルを減らすため、アプリ上では18歳未満のID検索を利用できないよう、年齢認証制度の導入や、注意喚起のためのホームページ「LINE安心安全ガイド」を公開している。

 また、生徒・児童に対するネットリテラシー教育に取り組んでいる。社長直轄の政策企画室の中にCSR推進チームを設置し、啓発活動の専門講師を5名配置している。講師を全国の小学校・中学校・高校などに派遣し、ワークショップ形式や講演形式の授業によって、ネットリテラシーの啓発活動を行っている。

 こうした活動は2012年の11月より行っており、2014年には年間336回行われた。2015年には予定分も含めて766回を実施するという。

ネット上のトラブルの原因はコミュニケーションの受け取り方の違い

LINE 政策企画室 室長の江口清貴氏

 LINEで政策企画室の室長を務める江口清貴氏と、ワークショップ形式の授業で利用されている教材を開発した静岡大学教育学部 准教授の塩田真吾氏が登壇し、LINEのインターネットリテラシー啓発活動に対する考え方や実際に利用している教材を紹介した。

 江口氏は、LINEのネットリテラシー啓発活動における基本姿勢を、「インターネットを安全に利用できる環境を整える」ことだと説明した。「安全」については安全工学に基づいた「受容可能な程度までリスクを低減すること」だと述べ、その実現のために、必要な人間、社会、システムの3面からの対策に取り組んでいるとした。

 システムとしては「18歳未満のLINE IDの設定・検索を不可とする」ことや、社会の面では、自主規制ルールの策定などの具体策を提示し、その上で「使う側の人間が意識してはじめてシステムも社会も動く」と述べ、ワークショップや講演形式による啓発活動の重要性を述べた。

 未成年のネット上でのコミュニケーショントラブルについて、江口氏は、「既読スルー」といった行動が原因ではなく、コミュニケーションにおける受け取り方の違いに原因があるのではないかという仮説を示した。

 江口氏によると、ネットを用いたコミュニケーションでは、話し方や表情といった情報が抜け落ちているため、次々と言葉を返すテンポ感などが対面してのコミュニケーションとは異なり、同じ内容を話しても受け取られ方が異なり、それがトラブルを誘発する要因となっているという。

 そのため、LINEが行っているワークショップ形式の授業では、自分と他者との「違い」を気づかせ、ネットの特性を学ぶことができる内容としているという。

「違い」を気づかせるワークショップ授業

静岡大学 教育学部の塩田真吾准教授

 LINEと共同でネットリテラシー教育の研究を行っている静岡大学 教育学部の塩田准真吾教授からは、ワークショップで使われている教材の内容や目的が紹介された。

 ワークショップの授業は、数人のグループを組み、「子どもに人気の辛い料理といえば?」や「夜遅い時間は何時から?」といった質問に一斉に答えて比較したり、「まじめだね」「個性的だね」といった言葉の書かれたカードの中から言われて嫌なものを選ばせて見せ合ったり、「すぐに返信がない」や「自分が一緒に写っている写真を公開される」といった行動がかかれたカードを“されて嫌な順”に並べて比較したりといった内容。

 グループワークの目的は「コミュニケーションが発生するのはお互いに違いがあって理解しようとする必要があるから」、「嫌な言葉や行動は人によって異なる」「文字だけで伝わる印象と実際に会って会話する印象は違う」といった内容を考えさせて、自発的に気づかせることだという。

充実化した教材配布、10万人規模の実態調査

 今後の取り組みとして、複数回の授業で利用可能なワークショップ教材の第二弾を、8月末に公開する。基本編と応用編でモジュール化して組み合わせて使える内容としており、内容面では生徒達が持っているトラブルの解決策を共有できる形としたという。教材はインターネット上からダウンロードして、誰でも利用できるようになる。

 また、マンガ形式の教材も9月に公開される。実際の学校でヒアリング調査の結果を盛り込んだ内容となっており、主人公が体験する対面やインターネットでのコミュニケーションシーンについて、語りあうことができるものだという。

 全国の小学校、中学校、高等学校の生徒・児童を対象とした10万人規模の実態調査も実施される。「青少年におけるネット利用実態調査」として、全国の学校でアンケート形式での調査を行う。

 調査結果は来年3月頃に公開され、誰でも閲覧できるようにするという。教育関係者には、研究目的に限って匿名化後の集計前データ(ローデータ)も公開するという。

 アンケート結果の公表後、LINEでは、青少年のネット利用におけるトラブルを撲滅するための対策を研究し、「青少年のネット安全利用メソッド」をまとめるという。また、インターネット関連企業などとの連携についても取り組んでいきたいとしている。

石井 徹