ニュース
社会問題の現場を知る「TRAPRO」が最優秀賞、KDDI∞Labo第4期
(2013/7/24 12:20)
KDDIは23日、起業支援プログラム「KDDI∞Labo」第4期の結果を発表した。最優秀アプリには、社会問題の現場へのスタディツアーを企画、提供する「TRAPRO」(トラプロ)が選出された。
またKDDIでは、あわせて第5期のメンバー募集も開始している。
社会問題を他人事ではなく“自分事に”
「TRAPRO」は、一般社団法人リディラバが提供するサービス。今回は学生枠として参加していた。当初は、大小さまざまな社会問題の解決に向けた情報を提供するプラットフォームという構想だったが、3カ月間、KDDI側のメンター(助言者)と検討を重ねていく中で、現場を訪れるツアーという形に仕上げられた。
TRAPROのスタディツアーの案内は、9月以降、auスマートパスのタイムライン上で表示され、参加者を募っていく。TRAPROのWebサイトは既にオープンしており、社会問題関連の記事が多数掲載されている。そうした記事では、食肉加工、ホームレス問題、難民問題、海外の大規模災害などが取り上げられている。
KDDI∞Labo、卒業生の今
「KDDI∞Labo」は、3カ月ほどの間、参加するベンチャーに対してさまざまな支援を行っている。KDDI社内の担当部門だけではなく、たとえばKDDI研究所と行き来してサービスを評価したり、KDDIの法人営業部門を通じて、ベンチャー側が接触したい企業にアクセスしたりするなど、KDDI内のリソースをフル活用してきた。
一方、かつてKDDI∞Laboで支援を受けていた企業、つまり“卒業生”に対しては、一部に対して出資などを行うほか、KDDI側が「KDDIエンジニアリングプール」という仕組みを設けて、協力関係を維持している。これはKDDI側から卒業生に、何らかの仕事を発注する、つまり卒業生の受託業務を発生させるというもの。KDDI∞Labo長でもある新規ビジネス推進本部 戦略推進部長の江幡智弘氏は、第4期にあわせて「エンジニアリングプール」を活用してきたと説明。通常、社外との取引ではKDDI社内で一定のルールに基づいて進めるが、「エンジニアリングプール」では、一定の規模で、KDDI∞Laboに決裁権が割り当てられておりスピーディな処理が可能になっているという。
今回の発表会では、卒業生である株式会社ギフティ 代表取締役 太田睦氏(第1期と株式会社エウレカ代表取締役の赤坂優氏(第2期)が登壇。太田氏は、ユーザー同士でギフトを贈りあえるサービス「giftee」が、KDDI∞Laboへの参加によって、いわゆるナショナルクライアント(全国規模で展開する企業)とのタイアップが増加したことに触れて、ファミリーマートやクリスピー・クリーム・ドーナツとの実績を紹介。またユーザー同士ではなく、企業からユーザーへギフトを贈呈できる仕組みへのニーズがあることも判明したとのことで、新たなシステムを構築した。これにより、詳細は明らかにできないものの、大型案件をKDDIと協力して受注したという。
一方、エウレカの赤坂氏は、先述したエンジニアリングプールで数千万単位の売上が発生したと語る。経営を安定させつつ、自社サービスの開発にリソースを割けるようになったほか、受託業務でも大手との取引が増加し、リクルートのアプリ「cameran」シリーズの一部や、ニュースアプリ「Gunosy」などの制作を担当した。
赤字でも続ける理由
KDDIにとって、設立から間もないベンチャーを支援する「KDDI∞Labo」は、2010年の開始以来、収益面で見れば数千万単位の赤字になっている。それでも続けているのはなぜか。
「イノベーティブな人たちを支援する。本気でそう思っているし、外からもそう見てもらえる」
KDDI代表取締役執行役員専務で、新規事業統括本部長の高橋誠氏は、そう語る。ベンチャーへの積極的な姿勢を示すことで、社内からは登場しづらいようなアイデア、新規サービスも、外部から持ち込まれて実現しやすくなる。実際の事業を進める上でも、そしてブランド構築という面でも、他社との差別化要素になり得る、という。
初期の「KDDI∞Labo」ではマネタイズ(収益化)も注意していたが、その結果「サービスがこじんまりとしてしまった」(高橋氏)という反省が出てきた。そこで最近では、まずはユーザーを集めるといった面を重視しており、今回最優秀に選出された「TRAPRO」についてはバーチャルだけではなく、リアル(現実)を組み合わせており、発想の広がりを重視した、と評価する高橋氏は「KDDI∞Laboは投資対象ではない」として、収益面を重視するベンチャーとの協力体制については、KDDIの投資ファンド「KDDI Open Innovation Fund」が担うとした。
今後の展開のうち、HTML5について高橋氏は「HTML5は、KDDIが進める3M戦略にあわせて、マルチデバイス、マルチユースという側面で進めている。FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏が『HTML5はまだ早すぎた』と述べたこともあったが、先日、来日したFacebook COOのシェリル・サンドバーグ氏は『確かにそう述べたが、次の姿として重要と考えている』と述べていた」と語り、Firefox OSだけではなく、他の環境も踏まえた取り組みとした。
また「KDDI∞Labo」ではシニア向けサービスやハードウェアベンチャーとの連携も視野に入れているとした。
KDDIをいかに活用するのか
23日のこのほか、KDDI Open Innovation FundでKDDIが出資した、Mutations Studio 代表取締役の桑田一生 氏、MONOCO 代表取締役の柿山丈博氏、nanapi 代表取締役の古川健介氏と高橋氏のトークショーも行われた。テーマは「KDDIと、さぁどう組む!?」というもので、高橋氏は「以前はKDDIへのシナジー発揮を気にしていたが、発想を転換して、KDDIと組むことで提携先がいかに大きくなるか、を重視することにした、ということ」と説明する。
これに対して、Mutation Studioの桑田氏は「auスマートパスのゲーム関連部分を切り出して、ゲーム制作会社の我々に任せてみては。リスキーかもしれないがベンチャーのスピード感で(成功の)確率を上げる」とコメント。
一方、nanapiの古川氏は、「キャリアの持つ顧客のビッグデータのうち、個人情報で問題ない範囲で他社でも活用できないか。ハウツー情報を提供するnanapiでは、たとえば不倫関連の記事を読む人が、国内旅行の記事も読んでいる。本人は無意識だろうが、不倫していることが分かる。そうした行動があると、ユーザーの抱える問題を解決できる。nanapiは行動直前情報を所有しており、キャリアのデータと組み合わせると(ユーザーが)見たくなるものが出てくるのではないか」と述べていた。