ドコモとボーダフォン、法人営業関連で事業提携


 NTTドコモは、英ボーダフォンと、多国籍企業への法人営業を中心に、事業提携を行うと発表した。ドコモが所属する国際間の通信事業者団体、Conexus Mobile Alliance(コネクサス モバイル アライアンス)でも、ボーダフォンと同様の提携を締結する。

 20日、シンガポールで会見が催される一方、東京ではドコモから報道関係者向け説明会が開催された。ドコモ法人海外事業室長の玉野 浩氏から事業提携の概要や目的などが紹介された。

 

アジアの通信事業者と欧州の巨人が提携

 ボーダフォンは、英国に本拠を置きつつ、世界各国で子会社、あるいはパートナーによるビジネスを展開している。一方、コネクサスは、ドコモなどが主導して2006年4月に結成された通信事業者の連盟で、参画企業はアジア地域の事業者ばかり。ボーダフォンは、アジアでも子会社でのサービス提供、あるいはパートナーとの協力体制を整えているが、ドコモの玉野氏は、ボーダフォンがコネクサスとの協業に踏み切ったのは、今後の成長が見込めるアジア地域に注力するためではないか、と指摘する。

 コネクサス参画企業のうち、ドコモのほか、FarEasTone(台湾)、Hutchison Telecom(香港)、SMART(フィリピン)、StarHub(シンガポール)、TrueMove(タイ)の6社が第一弾として、ボーダフォンと提携する。そのうち5社はかねてよりボーダフォンのパートナーとのこと。ただし、インド市場については、BSNL、MTNLの2社がコネクサスに参画しているが、両社ともに今回の枠組みに手を挙げる意志がないとのこと。またボーダフォンの子会社が存在することもあり、インドは提携対象から外れる格好となっている。ドコモが資本を出資するタタ・ドコモも関わることはないという。

 こうした枠組みについて、ドコモの玉野氏は「今回はドコモと、というよりもコネクサスとボーダフォンの提携」と説明。ドコモ以外のコネクサスメンバーは、法人営業に限らず、ローミングなど他のサービスでの提携も視野に入れているとのことだが、ドコモは法人営業を中心にまずは協力していく。

 なお、ボーダフォンが既に提携しているアジア各国のパートナーと、別の事業者と今回の枠組みで提携する場合、既存パートナーとの契約が終了次第、ボーダフォンは新たな現地事業者と協力する。日本においては現在、ソフトバンクモバイルがボーダフォンのパートナーとのことで、ドコモでは「その契約が終了して、12月1日を目処に、ボーダフォンとの提携によるサービスが提供できる」としている。

 

窓口一元化、料金水準のすりあわせ……多国籍企業の意向を反映

 ドコモでは、ボーダフォンとの業務提携を「法人営業を中心にしたもの」とする。これは、1つの国だけではなく、複数の国に拠点を置いて展開する多国籍企業をターゲットにしたもの。外資系企業が契約すれば、各国の現地事業者と契約することになり、外資系企業の日本支店、あるいは日本法人はドコモと契約する、といったことが想定される。こうした外資系企業のうち、日本に拠点を置く企業は300社存在するとのことで、ドコモでは、当面、これらの企業に向けて営業活動を行う考え。

 そうして提供されるサービスは、「営業窓口の一元化」「利用料の管理」「端末管理」などが想定されている。12月以降、ドコモでは、まず多国籍企業が、国ごとで管理していた携帯電話の利用料を一元的にWeb上で確認できるサービスを提供する予定。これは、ドコモの法人向け既存サービス「ご利用料金管理サービス」のグローバル版と言えるもの。システムは、既に多国展開しているボーダフォンのものをまずは利用しつつ、日本企業の海外展開に向けて、M2M(Machine to Machine、機器間通信)への対応も含め、ドコモ側もシステムを開発していく。

 こうしたサービスが登場する背景として、玉野氏では「5年ほど前から、欧州各国で契約しているサービスを一元的に契約したい、というニーズが出てきた。さらに2年ほど前から、欧州だけではなく全世界で、というニーズも出てきた」とする。

多国籍企業が抱える課題そうした課題に応えるための提携

 国ごとに契約すると、料金などの交渉窓口が各国ごとになって煩雑となる上、導入側である多国籍企業にとって同じような業務を行う部門を国ごとに設けなければならない。「たとえばロンドンに拠点を置く企業なら、英国の窓口だけで、各支店のサービスについて交渉し、管理できるようにする」(玉野氏)ことで、企業にとっては管理部門の集約化によるコストダウンが実現できる。

 また料金についても、国ごとの物価にあわせ、同じような水準にすることも可能となる。こうしたサービスは、多国籍企業側が年々、求めるようになってきており、「ここ数年、欧州のオペレーターがアジアの競争入札で主導的な役割を果たして、コネクサスが対抗する、つまりお客様を奪われるというリスクが高まっている」と玉野氏は述べ、多国籍企業のニーズに合致したサービスを展開する上で、今回の提携は必要なものだったとする。

 エリアで見ても、ボーダフォンが進出しているオーストラリア、ニュージーランド、マレーシアについては、コネクサス側のメンバーが存在しないため、国際ローミングサービスというシンプルなサービスでも補完できるという。

 囲み取材において玉野氏は、世界規模の展開で見た場合、北米はボーダフォンが出資するVerizon Wirelessが存在するため、今後の展開で期待できるとした一方、南米は、スペインを拠点に置くテレフォニカ・モビレスの勢力が強く、導入企業側の意向次第で、テレフォニカとの協力関係構築もあり得るとの見方を示す。

 玉野氏は「資本提携なしで協力できるのは珍しい事例と言えるかもしれない。これは互いにビジネス上のメリットが補完関係にあるため。まずは法人から、という発想で、それが実際にうまくいき、関係が深まればその先もあるかもしれない」と今後の状況を見ながら、提携の深化を検討する姿勢を示した。

 

今後の展開

 これまでボーダフォンでは、日本のパートナーをソフトバンクモバイルとして、法人営業などを展開してきた。11月末でその契約が切れる予定で、新たにドコモとのパートナーシップという形になるが、会見で「ボーダフォンから評価されたポイントはどこだと思うか?」と尋ねられたドコモ国際事業部 キャリアビジネス担当部長の高木 克之氏は「1つはドコモの顧客基盤、日本国内のマーケットシェアだろう。もう1つ、別の話として、これからグローバルで拡大が見込まれるLTE、NFCといった先進性もアピールになったのではないかと思う」とコメントし、法人営業以外での協力に向けて、協議する方向とした。

左からドコモ玉野氏、小関氏、高木氏

 提供が予定されるサービスの1つである、スマートフォンの端末管理(MDM)について、囲み取材で問われた玉野氏は、企業側のセキュリティのニーズに幅があるため、複数のラインナップを用意する方針を示した。またドコモが開発したサービスのグローバル展開も今後2年くらいかけて検討していくという。

 端末の共同端末については、現時点では何も決定していないとのことだが、ドコモ法人ビジネス戦略部長の小関純氏は、「LTEやNFCなどの情報共有に加えて、端末の共同調達もテーマにあがっており、今後の検討課題になる」と述べ、今後の課題の1つとした。

 2007年以来、ボーダフォンと提携してきたソフトバンクモバイルでは、「これまで多国籍企業への営業、国際ローミングでの協力などで提携してきた。提携期間が終了しても、個人ユーザーについては国際ローミングサービスは継続して提供され、料金などでも当面影響はない」と説明。法人ユーザーでも、ボーダフォンと関わりがない部分は影響がないものの、何らかの影響がある法人ユーザーは、引き続きソフトバンクモバイルと契約するか、ドコモに切り替える形になる見込み。なお、ボーダフォン日本法人時代に提供されていた「vodafone.ne.jp」も引き続き利用できるとのこと。

 




(関口 聖)

2011/9/20 16:39