スマートフォンEXPO開幕、ドコモとソフトバンクの将来戦略とは?


 モバイル分野の専門展示会「第1回スマートフォン&モバイルEXPO」が東京ビッグサイトで開幕した。11日から13日までの会期中、オンラインサービス提供会社やサーバー機器メーカーなどが最新製品のデモンストレーションを行っている。

 初日の11日には、NTTドコモ 代表取締役副社長の辻村清行氏とソフトバンクモバイル 代表取締役副社長兼COOの宮内謙氏による特別講演が行われた。両社それぞれの立場から、独自のスマートフォン・タブレット戦略が語られた。

ドコモ辻村氏、スマートフォンへの注力姿勢示す

NTTドコモ 代表取締役副社長の辻村清行氏

 ドコモの辻村氏からは、まず東日本大震災への対応状況が明らかにされた。道路の完全な途絶などによって修復作業自体に取りかかれない17局を除けば、福島第一原発周辺も含めて震災発生前のレベルにほぼ復旧。その一方で、震災発生時のインフラ面では課題が残った。通常であれば2倍増程度のトラフィック集中に耐えられるというが、当日はトラフィックが通常の50倍に達し、通話が繋がりにくい状況が発生した。今後はパケット通信を使った音声伝言サービスなどを新たに開発し、より災害に強いサービスの構築を目指す。

 震災、さらに原発事故に伴う電力不足によって、日本人のライフスタイル、ひいては携帯電話の使われ方が変貌する可能性はある。しかし携帯電話は、パソコンやその他の機器とは異なる、数多くの特徴を備える。たとえば家族間で携帯電話は共有されず、個人が肌身離さず持ち歩くのが通例だ。移動中でも常にネットワークへ接続されている。「これらの特徴をさらに活かすことが、今後の携帯電話には求められる」と辻村氏は説明する。

 携帯電話の進化を語る上での第1のトピックとなるのが、ブロードバンド化だ。iモードの開始当初、携帯電話の通信規格は第2世代(PDC方式)だ。通信速度は9.6kbpsで、一度に送れるメールの文字数は250字、加えてコンテンツはモノクロ表示だった。その後、FOMA(3Gサービス)が始まり、さらにHSPAによる高速化も進展した。それに伴ってコンテンツもリッチ化し、写真付きメールやデコメールが当たり前になった。大容量化の極地と言える動画配信サービスでも、「BeeTV」は約150万人の有料会員を集めているという。

ケータイ・スマートフォンの進化を考える上で重要な3つのポイント通信トラフィックは急増している

 ドコモでは、昨年12月、高速通信サービス「Xi」の提供を開始した。辻村氏はこのLTE時代の1つの例として、クラウド型の同時通訳サービスを挙げる。低遅延というLTEの通信特性と相性が良く、クラウドであることから端末のCPU性能にも影響されないのが特徴で、辻村氏は「我々の研究所で非常に良いものにできあがりつつある。ベータ版という形にはなるだろうが、今年度中にも提供できるのではないか」と自信を示した。

 とはいえ、通信トラフィックについての懸念はある。ドコモ社内のデータによれば、2010年度の総トラフィックは前年比の1.7倍と、急激な伸びを示した。2011年は対前年比2倍との数値も予測されている。「Xiの導入によって、現在の3倍程度の通信量は確保できるだろうが、数年後に予想される数十倍という量はまかないきれない。ヘビーユーザーの帯域制限を進めたり、無線LANへのオフロードを推進したりする必要がある」と、辻村氏は補足する。

 そして、おサイフケータイを活用した「リアルとネットの融合」もまた、さらに飛躍が期待される分野だ。海外ではNFCによる非接触IC通信機能が普及しつつあるが、日本のおサイフケータイは約6年先にサービスが開始され、利用範囲もいまだ広がっている。辻村氏は「日本はガラパゴスではなく、世界に一歩先駆けで市場を作り上げた」と強調。日本のマクドナルドが実施しているおサイフケータイ連動型マーケティングを研究すべく、海外のマクドナルド関係者が来日している例にも触れ、海外へのノウハウ輸出にも光明を見いだしている。

 一方、市場ではスマートフォンに加え、タブレットの存在も高まっている。画面サイズの異なる複数端末を用途に応じて使い分ける、つまり「マルチデバイス化」も注目点という。法人では特にタブレット端末の導入が増えているといい、ドコモとしてもタブレットで利用できる法人向けWebサービスを強化していく。

 辻村氏は「フィーチャーフォンで提供してきたiモードのサービスは、スマートフォンにも早急に提供していきたい」と語る。iモードメールとの互換性を備える「spモード」、あるいは、おサイフケータイといったサービスは、既に一部のスマートフォンでも利用できるが、iチャネルやiコンシェルについても同じスタンスという。「将来的にはフィーチャーフォンとスマートフォンとも、利用できる機能は同じものになり、違うのは画面サイズだけという状況になるかもしれない」と辻村氏は予測。機能の“融合”を今後も進めていく。


スマートフォンの販売比率も増加iモード機能とスマートフォンは融合させる傾向に

ソフトバンク宮内氏「iPad+動画=最強の営業ツール」

ソフトバンクモバイル 代表取締役副社長兼COOの宮内謙氏

 辻村氏に続いて、ソフトバンクモバイルの宮内氏が登壇した。同社グループでは約2万人の従業員に業務用iPhoneとiPadを支給しており、その導入効果、実例を主に紹介した。

 宮内氏が講演中、特に強調したのが、営業プレゼン用ツール、ビジネスツールとしてのiPadの優秀さだ。「ソフトバンクの役員会議では出席者全員がiPadを使い、ペーパーレスを実現できた」「iPadを約6000台導入したトステムでは、約350冊におよぶカタログを電子化しており、営業担当者はその管理から解放された」などと、多くの事例に触れた。

 また同氏は、社内で制作したプレゼン用動画が営業面で大きな効果を果たしていることも指摘した。「動画といっても広告代理店に制作依頼するわけではなく、出演者も従業員」と述べ、社内に専門チームがあることに触れ、数分程度の動画を自前制作し、iPadを使って訪問先で見せることは、営業先の理解を深めることに役立つとした。

 ソフトバンクでは“脱PC”も進めている。6月をメドに、従業員2万人が通常タイプのパソコンの使用を辞め、シンクライアント環境へ移行するという。サーバー上にデスクトップ環境を保存し、シンクライアント、iPad、iPhoneを使って、好きな場所からアクセスする。この決定の背景には、東日本大震災発生後の対策として、在宅勤務体制を完備させたいという狙いもあるようだ。

 宮内氏は「社内アンケートの結果によれば、iPhoneやiPadの導入による業務効率化で1日あたり約50分の時間創出ができた」「これは1カ月で考えれば約5万円のコスト削減。ここまで分かっていながら、なぜ情報システムをケチるのか」と持論を展開し、「企業はフィーチャーフォンを導入するくらいなら、騙されたと思ってiPhoneを使ってみて欲しい。上司を説得できないなら私が口説き落とします」とまでアピールしている。


ソフトバンクグループ社員約2万人にiPhoneとiPadを支給導入による業務の効率化で、1日あたり平均50分を創出できたという

 さらに宮内氏は、社内SNSの重要性にも言及する。直近では、東日本大震災の対策プロジェクト発足時、被災地へ派遣する人員の募集、物資の所在確認、被害施設の把握などに役立ったという。普段の業務においても、現場社員の意見を“見える化”することは、経営者にとっても有益であり、SNSには部署を超えて共有すべき情報が集まると訴えた。

 そして宮内氏は、iPadの普及が一般消費者優先で進んでいるとする。「かつてなら情報革新は産業界や軍需が先導した。しかし今の情報革新は、消費者のほうが一歩先」と語り、企業の情報システム導入が後れをとりがちな点に懸念を示した。一般ユーザーはFacebookなどのソーシャルメディアも率先して利用しており、消費者こそが“コミュニケーション革命”の中心になりつつあるとした。

 「企業のシステム担当者は考え方を切り換え、クラウドコンピューティングが消費者に普及していることを認識しなければ」と語る宮内氏。シンクライアント、iPad、iPhoneを3種の神器として活用することで、営利企業の共通目的である生産性向上、コスト削減を達成してほしいと呼びかけた。


営業担当者の訪問件数も増加社内SNSの重要性も指摘した

盛況の展示会場~スマートフォン用データ消去ソフトなどが出展

NTTドコモの展示ブース

 スマートフォン&モバイルEXPOでは、モバイル関連各社による最新製品の展示・プレゼンテーションも行われている。NTTドコモでは、スマートフォン関連ソリューションをおもに展示した。パソコンやAndroid端末からリモートアクセスできるWindows仮想デスクトップ環境「モバイルセキュアデスクトップ」は、情報漏洩への危惧からノートパソコンの社外持ち出しを禁止する企業の活用を想定する。また、夏季の電力逼迫に備えて、在宅勤務を検討している企業からも導入の相談があるという。

 法人向けの「スマートフォン遠隔制御サービス」では、端末紛失時の遠隔ロック・リモートワイプを手軽に実現。発信先を制御して私的利用を禁止するといった用途にも対応している。このほかに中小企業でも導入しやすいスマートフォン対応グループウェアなどをドコモとして提供している。


GALAXY Tabから「モバイルセキュアデスクトップ」を利用してWindows環境にリモートアクセスできる「モバイルセキュアデスクトップ」の概要

「スマートフォン遠隔制御サービス」のPC向け管理画面スマートフォン対応のグループウェアも提供中

 フィンランドを拠点に活動するデータ消去ソフトメーカーの日本法人「ブランコ・ジャパン」は、スマートフォン用のデータ消去ソフト「Blancco Mobile Edition」を出展した。パソコンの廃棄時に問題になるHDD内データの完全消去と同様に、スマートフォンのフラッシュメモリ上のデータを完全消去することができるという。AndroidやWindows Mobile、BlackBerryなどに対応しており、データ消去ソフト自体はWindows用。USBケーブル経由でスマートフォン側にデータ消去用ソフトを送り込む仕組み。

 なお、6月にはiPhoneへの対応も予定している。ただし、アップルではデータ完全消去のための仕様を公開していないため、具体的な実施される行程は音楽データの削除、工場出荷時のイメージによる上書きなどに留まる。ただし、他のスマートフォン同様、作業ログの集計などは行われる。


ブランコ・ジャパンの展示ブーススマートフォン用のデータ消去ソフト「Blancco Mobile Edition」を出展。スマートフォンを買い取る業者などの使用を想定


(森田 秀一)

2011/5/11 19:17