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キーパーソン・インタビュー

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長谷川常務が語る、シャープが新しいことに挑戦できる理由

 2014年、フレームレスデザインで世界を驚かせた「AQUOS CRYSTAL」や、ユーザーに話しかけるスマートフォンを実現した「emopa」など、新しい領域への挑戦を続けてきたシャープ。国内メーカーがスマートフォン事業から撤退していく中、一時は会社自体の存続も危ぶまれる状況だった同社が、なぜここに来て勢いを取り戻せたのか。シャープ 常務執行役員 通信システム事業統轄 兼 通信システム事業本部長の長谷川祥典氏にその背景を聞いた。

シャープ 常務執行役員 通信システム事業統轄 兼 通信システム事業本部長の長谷川祥典氏

面白いと思ったら「じゃあ、やろうか」

――AQUOS CRYSTALをはじめ、ここ最近、シャープが元気になってきたと感じるのですが、その背景にはいったい何があったのでしょうか?

長谷川氏
 私が(携帯電話の開発を担当する通信システム事業本部に)戻ってきたのが2013年の4月です。それまで4年間、液晶デバイス事業を担当していたのですが、その間に外部環境が厳しくなっていました。そこで何をやろうかと考えたのですが、シャープはもともと新しいところに取り組んでいく会社です。そこをもう一回巻き直そうと考えました。

 ただ、最初は浦島太郎状態で(笑)、「こんなことをやりたいんです」という人がいれば、その人の話を聞いて、面白いと思ったら「じゃあ、やろうか」という風に、現場にいるみんなの話を聞きながら、まずは進めていきました。

 最初は、三辺狭額の「EDGEST」という企画でした。私が戻ってきてから早々にハードウェアのメンバーが「こんなネタがあります」と言ってきて、「それは面白いから、やろうか」となり、実際に商品にできたのが8カ月後でした。

 その後、「AQUOS CRYSTAL」で実現したフレームレスデザインの企画も出てきました。ソフトバンクさんがスプリントを買収したタイミングで「北米向けにいかがですか」ということでご紹介したところ、面白いということで話が動き始めました。

EDGESTをうたったAQUOS PHONE Xx 302SH
フレームレスデザインのAQUOS CRYSTAL

 実は、コンセプトは相当前からあって、イベントなどでモックアップを展示していたのですが、誰も実現できるとは思っていなかったんです。でも、ソフトバンクさんの強い期待もあり、やろうということになった。もちろん、実現できるだろうと、ある程度はあたりをつけていたのですが、そこから実際に開発して立ち上げるのは大変なことでした。

 当然、液晶パネルの額縁はゼロにはならないので、前面パネルにアクリルパネルを使い、光学的な効果でフレームが無いように見せています。これに加えて、液晶パネル自体も額縁をできる限り狭くするという2つの技術開発で、あそこまでできました。

――フレームレスは海外でもかなり注目されていますね。手応えはいかがですか?

長谷川氏
 向こうのメディアでもずいぶん取り上げられていまして、8月の終わりに発表して、その際にもニューヨークまで行ってきたのですが、結構な数のメディアが集まっていました。そういう意味では、だいぶ知名度が上がってきたなと。メディアにしても、ユーザーにしても、やはり見た目の驚きがあったのだと思います。

――AQUOS CRYSTALについては、搭載しているチップセットを見てもハイエンドモデルでは無いことが分かります。意識してミドルレンジのスマートフォンを作られたわけですよね?

長谷川氏
 日本と米国の市場がちょっと違うというところがありまして、いろいろとお話を聞くと、今の米国市場にはハイエンドとローエンドしかないのだそうです。我々もやり始めてから分かってきたのですが、ハイエンドはサムスンやアップルで、あとはみんなローエンド。ミドルの商品は、ハイエンドの型落ちという状況で、なかなか難しいのではないかというところもありましたが、いろいろと話を聞いていくと、価格帯がそれぐらいだろうということで、そこを目指してやることになりました。

ハイスペックよりも高品質を追及

――日本もMVNO市場が立ち上がり、2極化が進むのでしょうか?

長谷川氏
 日本もそういう傾向が出てきていますが、まだ米国ほど極端ではありません。それでも、やはり価格を優先されるユーザーさんもいらっしゃるので、MVNO市場はある程度伸びると思います。我々としても、ご要望があれば検討するといった状況です。

――現時点では、大手キャリア向けの端末をMVNO向けに少しだけカスタマイズして供給するという形ですが、最初からオープンマーケット向けに端末を作るということはあり得ますか?

長谷川氏
 本来はそうあるべきなのでしょう。ただ、今のMVNOの規模から考えると、専用で作ってしまうと開発費が回収できないというところもあります。ですから、今後は海外モデルとの共通化なども考えていかないといけないと思っています。

 もしMVNO向けを本気でやっていくとしたら、日本メーカーの得意な領域と言いますか、安心感や信頼性の高さがありますから、修理対応などのアフターケアやユーザーサポートもきちんと考えなければいけません。もう少し様子を見てみないと分かりませんが、求められているのはハイスペックではなく、安心して使える高品質なのだと思います。

ユーザーに話しかける「emopa」(エモパー)

――新しい取り組みとしては「emopa」(エモパー)もあります。

長谷川氏
 当社での音声を使ったインターフェイスは、まず最初に「COCOROBO」(ココロボ)というロボット掃除機から始まったのですが、これを「ココロエンジン」として、エアコンや冷蔵庫など他の白物家電に搭載が広がってきています。単に機械を操作するのではなく、人と家電の新しいコミュニケーションを提案しています。この考えを通信で応用したのがemopaです。このemopaをどんどんバージョンアップしながら将来的には一つのプラットフォームになったらいいなと思っています。

――プラットフォームにするということは、他社向けにも技術を公開していくのでしょうか?

長谷川氏
 まずはシャープ製のスマートフォンとシャープの他のプロダクトへの適用かな、と考えています。他社向けについては、どういうメリットがあるのか、どういうことが考えられるのか、もう少し考察してみないといけません。まだ結論は出ていません。

まだ世の中に出ていないようなものを模索

――他社はスマートフォンの周辺でウェアラブルデバイスを作り始めていますが、この市場については、どう見ていらっしゃいますか?

長谷川氏
 我々もいろいろと検討はしているのですが、現時点で事業にしようとすると、端末と紐づけてしまうと端末の台数に制限されてしまいます。本当にウェアラブルデバイスだけを事業にしようとすると、他社の端末もあまねく繋がるようなデバイスにしなければいけません。そこで少し悩んでいるというのが本音です。

 見ていると、腕時計型が多いですが、他社と同じようなことをやってもな……と私自身がピンと来ないんです。通信するとして、電池がどれだけもつのか。1日も電池がもたない腕時計など自分でも持ちたくありませんから。最低1週間は使えないと。

 ただ、周辺機器はいろんな形のものがあると思うんです。今はまだ世の中に出ていないような形の周辺機器を模索しているところです。まだ具体的にどんなものなのかは言えないですが、いくつか候補があって、それが事業として見えそうなら、やっていこうと考えています。

 今世の中にあるようなものを出しても、販促ツールぐらいにしかならないですよね。それじゃ面白くないなと思っていますから、世の中の流行になるとか、みんなが持ちたいと思うようなものを出したいと検討を進めているところです。ユーザーの生活シーンが変わるというものでなければならないと思っています。

――アップルなどは典型的ですが、キャリア各社に同一モデルを供給することについてはいかがでしょう?

長谷川氏
 キャリアさんの話は立場上なかなか言いづらいところですが(笑)、料金施策から見ると、同じものを買って、価格競争をしているように見えます。我々の立ち位置としては、キャリアさんごとにカスタマイズして、それぞれ特徴をつけることで、新しい価値をお客様へ提案できるような形になっていくのが良いと考えています。そこはキャリアさんにお話を伺ってみないといけませんが、そうしないとゆくゆくは市場が行き詰ってしまうのではないかと思うのです。

――その面でSIMロック解除に関するガイドライン改訂の影響はありそうですか?

長谷川氏
 SIMロック解除になったから共通化というのはちょっと見えにくいというか、そこはみなさんの意見も伺いたいところなのですが、一応は他のキャリアでも使えますが、対応している周波数が同じでないので、SIMロックフリーになったからといって、フルに快適に使えるかというと、なかなかそういうわけには行かず、そう考えると、3キャリアを渡り歩くメリットがどれだけあるのか分かりません。そこからMVNOに行くという場合にはメリットがあるのかもしれませんが。

通信を外して商品を考えられない世界を支える

――最初の話に戻りますが、通信システム事業本部に戻ってきて感じたことや変えたところはありますか?

長谷川氏
 いや、4年ぶりに戻って来たんですが、ほとんど変わっていなかったんです。メンバーもほとんど一緒だし、会議のやり方も全然変わっていなかった。こんなに変わらなくていいのかなと思って(笑)、そう思った時からおもいっきり変えに行きました。商品というより、事業運営の仕方を液晶でやった経験も踏まえて変えていきました。

 中の仕組みの話になりますが、会議だったら、昔からこんな会議やってますからという風になっていたが、必要か必要じゃないのかをはっきりして、時間を短くして人数も限定して会議も減らして、という風に全部見直しをしました。

 それから品質基準の考え方。信頼性試験は必ずするのですが、商品が変わっても昔から同じ試験をやっていたんです。この商品にそんな試験が必要なのか? ということを含めて、細かいことを1年ぐらいかけて見直していきました。こうしたことが固定費を押し上げ、全部コスト高につながりますから。担当者はそれぞれ自分では言いだしにくいようだし、どちらかというと無理やりやりました。

――それもあって新しいことにチャレンジする余裕が出てきたのでしょうか。

長谷川氏
 なんとなく閉塞感があったのも事実です。現場の意見を聞いて、新しいことをやりたいというときには、感覚的に面白いと思ったら、とりあえずやろうよということにしました。それが何個か出てきて、emopaなんかもそうです。やってみないと分からないことって、たくさんありますから。

――emopaは、これまでのシャープのモノづくりのイメージからすると少し違うというか、液晶やカメラといったデバイスとは必ずしも結びつかない切り口ですよね。

長谷川氏
 そうですね。そういう意味では、液晶もカメラもこれ以上高機能なものが必要かという時期に来て、これ以上のものになるとCPUのパワーを食うので電池もちにも影響が出ます。もっと他のことをやらなくてはいけないんじゃないか、ということでいろんなことをやっています。

 もっとも、カメラの性能については、私が離れている間に落ちていたと感じたので、リコーさんに協力してもらいながら、もう一度真剣に取り組みました。1年前のものと比べていただくと、その差は歴然だと思います。

――最近では円安の影響などもあって一括の販売価格が10万円を超えるスマートフォンも出てきていますが、正直なところ、せいぜい5~6万円、現実的には3万円ぐらいがスマートフォンに出せる金額かなと思うのですが。

長谷川氏
 そうですね。だんだんとそんな価格帯にしていかないといけないのだと思います。価格については、どんな機能が載っているのか、チップセットをどれにするか。基本はこの2つで決まります。我々も海外向けをやるということでいろいろと調べました。同じ部品を使ったらシャープ製がめちゃくちゃ高くなるかというとそうでもない。違いはというと、出荷する際の検査や故障率の見方など、品質の分だけちょっと高い程度なんです。中国から安いメーカーが入ってきても、私自身はそんなに心配はしていません。

――Firefox OSの世界観などを見ていると、IoT市場がわりと現実的で身近に感じられるようになってきたのですが、そうなるとシャープの中での通信システム事業本部の役割も大きくなりそうです。

長谷川氏
 シャープの中のハブとして我々の本部が機能しなくてはいけない、通信を外して商品を考えられない世界になってきています。ですから、頑張らなくてはいけないと思っています。

 今現在も他のプロダクトの人たちと話をしながらやっているのですが、商品のサイクルが違うのでスピード感が合わなくて難しい部分があるのも確かです。そこをうまく合わせながらやっていく必要はあるでしょう。例えば、Androidベースでプロダクトを作るのであれば、我々が開発をサポートするとか、先ほどもお話ししましたがemopaのような音声AIをやるのであればプラットフォーム化して提供するとか、ベースの部分を支えるようなことを少しずつ始めています。

――2015年にシャープからどんな製品が出てくるのか楽しみです。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

湯野 康隆