キーパーソン・インタビュー

位置情報プラットフォーム事業に軸足を移すコロプラの狙い


 位置情報ゲーム「コロニーな生活」を運営するコロプラは、事業の軸足を位置情報プラットフォームに移そうとしている。この背景について、同社の取締役CSO 長谷部潤氏に伺った。

コロプラ 取締役CSO 長谷部潤氏

――コロプラは位置情報ゲームを提供する会社から位置情報のプラットフォームを提供する会社に変わろうとしているように見えますが、そこにはどんな狙いがあるのでしょう?

長谷部氏
 コロプラは、おっしゃるように位置ゲーから始まりました。そして位置ゲーをより多くの人に楽しんでもらうための次のステップとして、2つの選択肢があると考えました。1つは、数千万人規模のプラットフォームにSAP(Social Application Provider)として乗ること。もう1つは、自分自身がプラットフォームを運営し、多くの事業会社さんに参画してもらうことです。

 色々考えましたが、位置ゲーの認知度に着目し、後者を選択しました。我々コロプラの認知度もさることながら、そもそも位置ゲーそれ自体への認知が低かったんですね。であれば、まずは位置ゲーを広めることが先であろうと考えたわけです。

 それには、まず位置ゲーを手掛けてくれる事業会社さん、我々はSAPではなくLAP(Location-based Application Provider)と呼んでいますが、これを増やす必要があります。ところが、まだ皆さん、位置ゲーを開発し運営するノウハウをお持ちではないですから、我々がオープンなプラットフォームを提供し、皆さんにそこで展開していただく、という方法を取りました。位置ゲープラットフォームを提供することで業界全体が盛り上がることを狙った、ということです。

――他社がコロプラのプラットフォームを利用するメリットというと?

長谷部氏
 位置ゲーを提供するにあたって問題となってくるのが、一部のユーザーによる不正位置登録です。移動距離を不正にかさ上げする、というものです。技術的にこれに対抗しなければならないのですが、コロプラのプラットフォームであれば、それへの防止策は万全です。不正位置登録防止特許も取得しております。

 また、「まとめて位置登録」もメリットの1つです。複数の位置ゲーを行っている場合、通常であれば位置ゲーの数だけ位置登録を繰り変えなければなりません。場所は同じであるにもかかわらずです。しかし、コロプラのプラットフォームであれば、複数の位置ゲーをまとめて1回の位置登録で完了できます。ユーザーの位置登録から「漏れる」というリスクはこれでなくなります。

――プラットフォームはゲーム向けということになるのでしょうか。

長谷部氏
 長期的には位置情報サービス全般を扱っていきたいですね。ただ、最初はユーザーに認知してもらいやすく、収益につながりやすいゲームからスタートしています。位置情報そのものがリアルとの連携が行いやすいということもあり、そういった視点で一緒にできないかという提案をリアル事業会社さまから数多くいただいているのも事実です。

8月末にはハローキティの位置ゲーも登場した(ニュースリリース

――foursquareやロケタッチもそうですし、その他のSNSでもチェックイン機能が提供されることが多くなっています。それらのとの違いは?

長谷部氏
 いわゆるチェックイン系サービスとコロプラとの最も大きな違いは、位置登録を行う頻度になります。前者は目的地やさらには特別な場所に行ったときのみ位置登録をする傾向が強いのですが、コロプラですと日々の通勤・通学でも、また移動の途中でも位置登録をするユーザーが非常に多いのです。当社が運営する「コロニーな生活」が代表例になるかと思いますが、目的地にたどり着くまでこまめに位置登録すれば、獲得できるプラ(仮想通貨)も増えるというゲームの特性もあり、位置登録が生活の一部になっていくのです。

――SNS事業者にソリューションを供給するようなことは考えていないのでしょうか。

長谷部氏
 国内の大手SNS事業者は、ゲームを主力とするプラットフォーム事業者になってしまっているように見えます。しかしながら、SNSを標榜する以上、原点はやはりソーシャルグラフであり、そこでのコミュニケーションだと思うのです。もちろん、ゲームをベースとしたバーチャルグラフも有効な一面はあるのですが、社会インフラとしてのSNSを目指す場合、リアルに寄せて行くという方向は避けられないと思っています。そして、その一歩としてバーチャルグラフに位置情報というエッセンスを注ぐという考え方があると思っています。

 というのも、バーチャルに位置が加わると、途端にユーザーの間にリアルなコミュニケーションが生まれ、グラフがリアルへと近づく傾向があるからです。「コロニーな生活」がまさにその証左であると言えるでしょう。つまり、バーチャルグラフのリアル化ということで、弊社がSNS事業者に対しソリューション供給含め、何かしらのサポートの余地があるとすると、そこかなと思っています。

――海外のマーケットについてはどのように見ているのでしょう?

長谷部氏
 海外では、単に位置登録していくというだけで、位置情報をゲームに使おうという発想はまだまだ弱いように見えます。それでも、今後は海外の事業者さんと組んで一緒にサービスを立ち上げていくシーンも出て来るかもしれません。

――AR(拡張現実)などもそうですが、位置情報サービスについては、「面白いんだけど、どうやって収益につなげるの?」という疑問がつきまといます。この点については、どう解決していくのでしょうか。

長谷部氏
 アイテム課金というマネタイズ装置を持っている位置ゲーではなく、いわゆる広い意味での位置情報サービスにおけるマネタイズは、世界的に見てもまずは広告からスタートするのが一般的となっています。中でもこれまでのネット広告との差別化として位置情報連動の広告が広がりつつあります。

 ただ、位置というセグメントで切って広告を回して行こうとすると、どうしてもエリアごとの広告在庫というのは小さくなってしまいます。それを補うには精度を改善することで広告効果を上げ、高い広告単価を実現しなければなりません。これについては、まだいろいろと研究しているところです。クラシファイド広告などは、位置情報が絡むと成立しやすいのではないかと思っています。

――「コロニーな生活」などを見ていて面白いのは、位置情報と個人情報を敢えてヒモづけていないところです。これには何か理由があるのでしょうか。

長谷部氏
 当社では、基本的に個人情報は取得しないというスタンスでやっていて、今後もそのスタンスを変える予定はありません。広告という視点でも、個人情報をベースに年齢、性別などでカテゴライズするM1、F1といった思想はもう古いのではないかと個人的には考えています。もう年齢や性別で一律に趣味や消費傾向を定義付けできる時代ではないと言うことです。

 今の時代なら、Web経由での行動履歴から趣味や消費傾向などをカテゴライズした方がより精緻かつ効果的と言えるでしょう。これはネット全般に言えることですが、氏名、性別、年齢などの個人情報そのものにはあまり意味がなく、何を検索しているのか、何を買っているのか、友人は誰か、どんなところに行っているか、そうしたユーザーの行動そのものに価値があるのだと考えています。

――本日はお忙しい中ありがとうございました。




(湯野 康隆)

2011/9/2 11:54