第445回:One Voice とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 2009年11月、AT&T、Orange、Telefonica、TeliaSonera、Verizon Wireless、ボーダフォン、アルカテル・ルーセント、エリクソン、ノキアシーメンスネットワークス、ノキア、サムスン電子、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの12社からなる任意団体「One Voiceイニシアチブ」は、次世代の通信規格である「LTE」で音声通話サービスやSMSサービスを実現するための仕様をまとめました。これが、「One Voice; Voice over IMS profile」です。現在、V1.0.0版の仕様書が公開されています。

 「LTE」とは、次世代(国内では3.9世代と呼ぶことが多い)移動体通信方式「Long Term Evolution」の略称です。3GPPが定めた規格で、2010年ごろをめどにサービス開始が見込まれています。別名、3GPP Release-8とも呼ばれます。データ伝送速度が最大で下り100Mbps、上り50Mbpsという高速通信が可能となります。

 また「One Voice; Voice over IMS profile」に含まれている「IMS」とは、“IPマルチメディアサブシステム(IP Multimedia Subsystem)”の略です。これまで固定網や移動体通信、放送などで行なわれていたサービスをIP化し、融合したマルチメディアサービスなどを実現するための規格です。携帯電話のコアネットワーク部分で、電話としてのサービスと、インターネットなどで使われているIPベースのマルチメディアサービスを1つにまとめるための存在と言ってもいいでしょう。

 One Voiceは、Voice over IMS profileとも呼ばれていることからわかるとおり、次世代携帯電話や固定電話のコアネットワークであるIMSを使って、音声通話をするための規格の1つということになります。

LTEでどのように音声をやりとりするか、

 3.9GであるLTEでは、データ通信サービスが提供される、という見通しです。では、音声通話をどうするのか、その方法に関しては、いくつかの手段が3GPPの定めた標準に含まれていますし、通信メーカーや通信事業者などから提唱されています。

 たとえば「CS Fallback」という方式があります。これは、LTEの標準規格である3GPP Release-8に含まれている方式で、音声通話の場合は、回線交換方式の3Gでの音声通話を行うようLTEと3Gでのモードを切り替えるというやり方です。LTEは、3Gの携帯電話の方式であるW-CDMA(UMTS)とある程度互換を持つ規格であるため、このような方式も可能なのです。サービスエリアの展開などを考えると、従来の3G網で音声通話サービスを提供することは現実的な手段と見られています。コアネットワークが、IMSによるVoIP(Voice over IP。IP通信上での音声通話のこと)をサポートせず、「最初はパケット通信だけサポートしたい」と段階的に設備の整備を進めたい場合には、この方式は有利でしょう。

 ただ、いずれ事業者の持つ回線や交換機、特にコアネットワーク部分が全てIP化された場合、音声通話もIP通信上で行うVoIPで行ったほうがシステムもシンプルで扱いやすくなり、将来的にはその方向で進んでいくことが考えられます(いつになるかはわかりませんが)。

 そのためには、いずれは音声通話もパケット通信化して、ネットワーク上で他のパケットデータと同じように扱うことが考えられます。ただし、LTEを規定した3GPP Release-8には、このようなIP化したコアシステム上で音声通話も全て扱うような方法の実装方法は規定されていません。そこで、これまで3Gの音声網で行ってきたサービスをOne VoiceのようにIMS上で実装する方法が提案されているわけです。技術が乱立しないよう、One Voiceイニシアティブでは技術プロファイルを公開する方針を示しています。

 ちなみに欧州のように、GSMと3G(W-CDMA)方式が混在したエリアでは、3Gでの通話中にユーザーが移動すると、GSMに切り替えてハンドオーバーするという「InterRAT」技術が用意されています。

 



(大和 哲)

2009/12/1 13:01