iPhone駆け込み寺
アップル純正の紛失防止タグ「AirTag」はどうやって使うの?
2021年5月11日 06:00
長らく噂されていたアップル(Apple)製の紛失防止タグ「AirTag」が発売された。1個3800円。アップルストアなどで購入できる。
紛失防止タグとは、コインサイズの小さなデバイスで、それがどこにあるのか、スマートフォンなどから位置情報を検索できるというものだ。携行品に付けて紛失時の捜索に役立てる。
こうしたジャンルの製品は「AirTag」が初めてというわけではなく、かなり以前から、いろいろなメーカーからさまざまな製品が登場している。その呼び名も多岐にわたり、ひとつの製品ジャンルとして成立している。
そうしたなか、「AirTag」のユニークなポイントは、「世界中のiPhoneで位置情報を取得できる」ということと、「超広帯域無線でより細かい位置を探せること」の2点となる。これがアップルのプラットフォームに統合されて利用できるというのが使いやすく面白い。
そもそも「紛失防止タグ(忘れ物防止タグなどとも)」がどんなものか知らない人も少なくないだろう。今回はAirTagの大まかな使い勝手とその仕組み、どんなことに役立つかなどについて解説しよう。
設定簡単・機能シンプル・使い勝手はドラゴンレーダー
AirTagを使うためには、iOS 14.5以降のiPhone、もしくは、iPadOS 14.5以降のiPadが必要だ。アプリを追加する必要はない。
買ってきたAirTagの保護シート(電池の絶縁シートも兼ねている)を引き抜き、設定したいiPhone/iPadの近くに持って行くだけで、iPhone/iPad上に設定画面が表示される。設定もそのAirTagの名称と絵文字を選ぶだけだ。
ちなみにAirTagは、iPhoneとではなく、 Apple IDと紐付け される。同じApple IDでサインインしているほかのiPhone/iPadからも利用できる。そのため、ほかのApple IDの家族などとは共有できない。もちろん、他人が勝手にAirTagとApple IDの紐付けを解除することもできない。
「探す」アプリで
AirTagの位置検索は「探す」アプリを使う。
「探す」アプリは自分の所有しているiPhoneやMacなどのアップル製品、あとは登録した家族や友人の位置情報を検索するために使うアプリだが、今回、その検索対象にAirTagが追加された形式だ。
Macの「探す」アプリからも検索できる。
部屋のどこにあるか探す
「探す」アプリ上では、対象となるAirTagの位置が地図上に表示される。使っているのがU1チップを搭載するiPhone(11以降)であれば、そのAirTagが近く(だいたい10m以内くらい)で「探す」をタップすることで、より細かい位置を探すことができる。
この細かい位置を探す機能、10m以内という近さでなければ利用できないものの、 目的のAirTagがある方向と0.1m単位の距離 が表示される。ほとんどタイムラグがないので、かなり散らかった環境でも、AirTagを容易に探し出すことができる。
どんなに遠くにあっても地図上で位置を確認できる機能は、まるで願い事を叶えようと世界中に散らばった球体を探し出すための、あの“レーダー”で、目的のAirTagまでの方角と距離を確認する機能は、強敵の能力を数字ではじき出す“片目タイプのARゴーグル”みたいな使い勝手である。どちらも筆者は使ったことがないし、読者にも使ったことがある人はいないと思うが、それでも使ってみると「あ、それっぽい」と思う人は少なくないハズだ。
アラート音を鳴らす
このほかにもAirTagのアラート音を鳴らしたりもできる。iPhone XS以前やiPadを使っているときは、近くにあるAirTagを探すときには音を鳴らせ、というわけだ。
また、iPhoneやHomePodのSiriに「Hey Siri(ヘイシリ)、◯◯はどこ?」と聞くことで、アラート音を鳴らすこともできる。
スマホにかざしてみると
AirTagにはNFCが内蔵されていて、対応するiPhoneやAndroidスマホで読み込むと、シリアル番号に紐付いたそのAirTag専用のWebページが表示される。
NFCマークが刻印されてるわけではないので、あらかじめ知っていないと気づきにくい機能ではあるが、隠し機能というわけではない。
AirTagを紛失したときは「探す」アプリ上で「紛失モード」に切り替える。
そのときに設定したメッセージや連絡先が、NFCをかざしたときにアクセスできるWebページ上に表示される。
逆に言うと入力しなければ、連絡先などの情報が誰かに知られる心配もない。その代わり、紛失したAirTagが戻ってくる可能性は減るかもしれない。
位置情報検索には世界中のiPhoneを活用
地図上で「AirTag」の場所を探す際にはBluetoothが使われている。
もしGPS機能や、モバイル通信機能(セルラー回線)を内蔵すると、サイズや価格、消費電力が大きくなるので、個人向けの紛失防止タグはBluetoothを使うことが多い。
しかしBluetoothは10mほどしか届かず、直接インターネット通信はできない。
そこで、紛失時には近くにある誰かほかの人のスマートフォンを中継地点として利用する。その誰か別の人のスマートフォンの位置情報と通信機能を使い、紛失防止タグの位置情報を所有者へ伝える、という仕組みだ。
他社の紛失防止タグの場合、その製品の専用アプリがインストールされているスマートフォンを中継地点として利用する。この場合、そのアプリがインストールされているスマートフォン=その紛失防止タグ製品のユーザーの数が多くないと、広範囲での位置検索を期待できない。
しかしAirTagの場合、とくにアプリをインストールしていなくても、世界中のインターネットにつながるiPhoneやiPadが中継地点となる。AirTagを使っていないiPhoneでも、そこそこ新しいOSバージョンで、位置情報などの設定がオフでなければ、誰のiPhoneでも、だ。
iPhoneのシェアが高い日本においては、この仕組みは強力だ。人通りがある場所、人が集まる場所なら、どこだって近くに誰かのiPhoneがあり、それが中継地点となる。これならば、かなり広い範囲での位置情報検索が期待できる。
iPhoneのバッテリー消費が増えるのでは、と思われるかも知れないが、それは半分正解で半分誤りだ。貴方のiPhoneは以前からこの機能を使っているので、以前と比べてバッテリー消費が増えることはない。このあたりはOS標準機能の強みと言える。
プライバシーやセキュリティには強く配慮
知らない人のiPhoneを中継地点に利用するということは、位置情報などが知られてしまうのでは、と思われるかも知れないが、ここは徹底的に匿名化と暗号化が施されている。
アップルですら、特定のAirTagを追跡することはできないらしい。識別子も頻繁に変更されるので、それを元にトラッキングすることもできない。このあたりの仕組みはCOCOAなどに使われている接触通知APIの考え方に近いのかもしれない。
ストーキングも防ぐ
他人の位置を追跡するストーキング行為にも対策されている。所有者のiPhoneのBluetooth圏外にあるAirTagは、動かされると近くにあるiPhoneに通知が表示され、さらにAirTagがアラート音も発する。
これで知らないうちに携行品に他人のAirTagを紛れ込まされても気がつく、というわけだ。
ただしこのアラート、すぐに発されるわけではないようだ。また自動車のリアバンパーあたりに取り付ければ、アラーム音が鳴っても気がつかない、ということもあるだろう。対策はされているが、万全ではないと考えておこう。
このアラート音や通知機能、携行品をどこかに置き忘れたとき、それを拾った人がAirTagの存在に気がつきやすくもしてくれる。AirTagの存在に誰かが気がつけば、それをNFCで読み取って連絡してもらう、みたいな使い方だ。
一方でこのアラート音と通知機能は、当然のことながら、悪意のある行為を全て防げるわけではない。たとえば盗難に遭う場合、AirTagそのものは先述したように他人に初期化されることはないのだが、AirTagを付けていた物が盗まれようとする場面では、AirTagの存在にすぐに気づかれる。
AirTagによる追跡を避けるためにAirTagが投げ捨てられたり、電池が抜れたりされるだろう。プライバシー保護が大前提となるので、このあたりはしかたないところだろう。
AirTag以外でも使える「探す」機能
全世界のiPhoneを中継地点とする「探す」機能、これで探せるモノは、AirTagだけではない。
AirTag発売のずっと以前から、iPhoneやMac、iPad、AirPodsなどを探すことが可能だった。なので、MacBookやAirPodsをなくしたくないからAirTagを付けておこう、なんて考えている人は、考え直して欲しい。それは不要だ。
さらにこの「探す」機能、アップル製品以外のサードパーティからも、対応製品が登場している。いまのところ対応が発表されているのは、VanMoof製の電動アシスト自転車、ベルキンのワイヤレスイヤホン「SOUNDFORM Freedom」、そしてChipoloの紛失防止タグ「ONE Spot」だ。こうしたサードパーティ製品の充実も期待したいポイントである。
iPhone/iPad/Mac以外で使えない「探す」機能
AirTagの位置検索は、iPhone/iPad/Macの「探す」アプリからしかできない。これがちょっともどかしい。
たとえばicloud.comのWebサイトでは、iPhoneやiPad、AirPodsなどの機器を探すことができるが、現状ではAirTagの検索ができない。iPhoneごと携行品を紛失するケースもあるので、WindowsパソコンやAndroidスマホのWebブラウザなどからも検索できるようにして欲しいところだ。
あとはApple Watch上の「探す」アプリからもAirTagを探せない。
Apple Watchはあらゆる携行品を失っても最後に手元に残る可能性が高いデバイスだ。温泉入浴中に脱衣カゴをまるごと持って行かれて、パンツは履いてないけどApple Watchは着用してる、というケースもあり得る。そういったときのためにも、Apple WatchでAirTagを捜索できるようにして欲しいところだ。
「超広帯域無線」でより正確な場所を探知
ここまでで紹介した地図上での「探す」機能に加え、AirTagは「より正確な場所」を調べることができる。これはiPhone 11以降が搭載するU1チップの超広帯域無線(ウルトラワイドバンド、UWB)を使った機能だ。一昨年のiPhoneから搭載されていたU1チップがようやく活用されることになる。
前述した地図上で位置を示す「探す」がグローバルな位置検索だとすると、これはローカルな位置検索だ。AirTagが発する指向性の高い専用電波をiPhoneが受信することで、AirTagまでの方向と距離が画面上にリアルタイムに表示される。
UWBは、そこそこの遮蔽物があっても届くようで、金属製の簡易金庫(指紋センサー部だけ金属製ではない)に入れても検索できた。しかし距離はそこまで届かないようで、裸の状態でも10mくらいに近づかないと接続できない。遮蔽物があるともっと届きにくくなる。
前述のグローバルな位置情報だと、地図上で目的のAirTagがどこにあるか、たとえば○○ビル周辺や○○駅周辺、といったことがわかるが、高度情報はないので、何階にあるかはわからない。
UWBでもこのあたりはすぐ解決できるわけではない。仮に同じビルの同じフロアに行ったとしても、ある程度は近づかないと正確な場所はわからない。もし紛失したAirTagが大きな建物にあることがわかっても、このあたりのギャップに当てはまってしまった場合は、ちょっともどかしいことになりそうだ。
しかしUWBは、近づけばかなりの精度で方向や距離が示される。自宅内で紛失した場合はかなり役立ってくれるだろう。筆者の家のようにかなり散らかっていても、ほぼほぼ問題なく捜索できそうだ。
ちなみにこの正確な場所を探す画面でAirTagの名称を4回タップすると、開発者モードが起動する。しかし表示されてる情報の意味はわからない。また、ナゾのパラメーターを変更できたりするが、不具合が起きるかも知れないのでほどほどにしておこう。
硬貨大だけど、もうちょっと小さいと良いのに、と感じるサイズ
AirTagの大きさは、直径31.9mm、厚さ8.0mmで重さは11g。表裏ともに完全な平面ではなく、「最厚部が8mm」という感じだ。500円硬貨が直径26.5mm、厚さ1.8mmで重さは7.2gなので、ひとまわりくらい大きい。
キャッシュレス化が進行して使う機会の少ない財布の小銭入れにちょうど良い、と思うのだが、500円硬貨ギリギリの小銭ポケットには入らない。極端な例だが、筆者が愛用しているabrAsusの「薄い財布」の小銭ポケットはムリだ。
表裏で素材が違っていて、片方は白い樹脂、もう片方が鏡面仕上げの金属になっている。アップルのロゴは金属側にあり、逆の樹脂側にはアップル公式サイトで購入した場合、好きな文字や絵文字を刻印できる。アラーム音などはこの樹脂部分全体が振動して発するので、スピーカー穴を塞いで音を小さくする、といったことはできない。
AirTagホルダーがアップルやサードパーティからいくつか登場している。財布やポーチに入れるなら、裸のままでも良いが、カバンや鍵などの携行品につけるなら、キーチェーン型やストラップ型などのホルダーを使うと便利だ。
こうしたアクセサリは、たいていAirTagの裏表両面が露出するデザインになっている。ネームタグみたいになるので、アップル公式サイトで購入して名前などを刻印すると面白いだけでなく便利そうだ。
充電式ではなく、コイン型(CR2032)を使う。1年程度、もつとされている。金属面を少し回転させると外れて、そこに電池が入っている。慣れると簡単に外せるので、小さい子どものいるご家庭は注意が必要だ。キーチェーンなどのアクセサリを使った方が良いだろう。
外出先での紛失防止効果は限定的? 盗難防止にはならないかも
さてこのAirTag、どんなモノに使えば良いのだろうか。けっこう難しい問題だ。
まず出先での携行品の紛失に備える、という用途はどうだろうか。
外出先で貴重品を紛失したときのため、という用途では、AirTagは万全とは言えない。拾った人に窃盗(あるいは遺失物等横領)の意思があれば、AirTagを外して持ち去られることを防ぎようがない。しかし誰にも拾われなかったときや遺失物管理所などに届けられたときは、その探索にAirTagは役に立つ。
どのようなモノにAirTagを付けるべきか。まず考えられるのはカバンだ。とくに普段持ち歩かないカバン、たとえば荷物が多いから追加で持って行くようなカバンなんかは、移動中などに置き忘れがちなので、AirTagを付ける価値がある。また、学生ならばサークル活動や特別な授業に使う道具を入れるカバンやケースなんかもAirTagがあると良いかも知れない。
あとは買い物したり、借り物を受け取ったり、あるいはお土産をもらったりして出先で増えた荷物も、手元から離れると存在自体を忘れやすいので、紛失の危険性は高い。そういったケースに備え、普段からAirTagを持ち歩いて、臨時の荷物が増えたときに装着する、というのも良さそうだ。
カバン以外の携行品となると、デジタルカメラなどの高価な携行品や財布、鍵束などに付けることも有効かも知れない。上着に付けるのも有効だろう。しかし高価なガジェットや財布、ブランド衣類などは、拾われたときに窃盗・横領されやすいので、被害額が3800円ほど増えるだけ、という可能性も覚悟しておこう。
傘や自転車など、手元から離れる機会が多く、盗まれやすいモノはどうだろうか。盗難を抑制する効果、あるいは万が一の際に見つけやすくする効果があるかもしれない。とはいえ、これ見よがしな位置につけるか、あるいは隠すようにつけるかは意見がわかれそうだ。
ついでに公共施設などで傘立てや自転車置き場が広大なとき、自分のモノがどこかを調べられるというメリットもある……かもしれないが、3800円のAirTagを付けるほどか、とも言える。
家の中での紛失対策には万能ではないものの便利
一方、家の中での小物の紛失に備える、という用途では、AirTagはどんなモノに使えるだろうか。かなり正確な位置がわかるので、筆者のように家の中がゴチャゴチャな人間にとっては、けっこう使う機会がありそうでもある。
しかし、「家の中で見つからなくて困るモノ」というものは、たいてい「頻繁に使わないからどこにあるかわからないモノ」だ。そういったモノは無数にあるので、いちいちAirTagを装着するのは難しい。最初から置く場所を決めておくことを徹底した方が良い。
一方で家族などで共有する道具などに付けるのはアリではないだろうか。とくに備品管理能力の甘い子どもなどとも共有するなら、AirTagで親が場所を確認できるようにしておくのはアリだろう。職場や学校で共有するモノ、たとえば鍵束とかに付けるのも便利かも知れない。
しかし共有するモノに付ける場合、AirTagを紐付けされた所有者のiPhoneから離れた場所でアラート音が鳴ったりするので、運用がちょっと難しい。そうした共有物管理のためのモードも欲しいところだ。
役に立つかは、その人次第。興味があるなら試しに買ってみよう
大前提として、外出時にモノをよく紛失するという人は、AirTagを使う前に、まずは携行品の管理方法について見直すべき、と考えよう。AirTagは紛失したモノを確実に取り戻せるというものではない。窃盗や紛失後の汚損で取り戻せない可能性の方が高いとも思う。まずは紛失しないことがなによりだ。
自宅内での物品管理も同様だ。確かにAirTagを付けていれば見つけ出すのは容易になるが、すべてのモノにAirTagを付けるわけにいかない以上、物品管理をキッチリとやった方が良い。
しかし携行品管理や物品管理がちゃんとしていればAirTagは不要、というわけでもない。筆者は携行品を紛失することが少ないほうだが、それでも、普段持ち歩かない追加の荷物があったりすると、飲食店を出るときに「あ、荷物荷物」となりがちだ。自宅も果てしなく散らかっているので、自宅内での捜索用途にも使えると思う。
AirTagが必要かどうかは、その人次第だ。不要と思っていても意外なところで活用できたり、必要と思って買っても役に立たないこともあるだろう。買うかどうかの判断は簡単ではない。しかし1個3800円と高価なデバイスではないので、気軽に買ってしまっても良いと思う。モノを紛失することがなく、役に立たないなら、それはそれで良いことでもあるのだから。