インタビュー
「MEDIAS X N-06E」開発者インタビュー
「MEDIAS X N-06E」開発者インタビュー
NECカシオらしいスリムさと使いやすさを実現
(2013/6/12 11:19)
NECカシオは今夏、ドコモ向けにMEDIAS X N-06Eを投入する。一通り最新のスペックに対応しつつも、薄さ8.5mmというNECカシオらしいスリムなデザインが特長だが、そのためにプロセッサー冷却用にヒートパイプを搭載するという大胆な作りになっている。また、新しいUIや特徴的なイルミネーションなど、カタログスペックに表われない部分の作り込みも特長だ。
今回はこの最新のMEDIAS Xについて、開発を担当したNECカシオのモバイル事業本部 商品企画部 エキスパートの神尾宗久氏、同エキスパートの上久保雅規氏、同部の服部美里氏、モバイル事業本部 事業推進部 マネージャーの細見孝大氏、商品開発本部 先行設計部 部長の尾崎和也氏、同本部マネージャーの志摩誠氏、クリエイティブスタジオ クリエイティブマネージャーの迎義孝氏、ソフトウェア商品開発本部 仕様開発部 主任の蓮井亮二氏にお話を伺った。
「エレガントスリム」のために搭載されたヒートパイプ
――まずはMEDIAS Xのコンセプトのご紹介からお願いいたします。
服部氏
「エレガントスリム」に最新のテクノロジーを、というのが新しいN-06Eのコンセプトになっています。セールスポイントとしては、エレガントスリムとイルミネーション、最新スペック、使いやすさの4つがあります。
まずエレガントスリムとしては、今までのNECカシオ端末と同様のスリムボディとし、片手での持ちやすさにこだわりました。また、着信にも気づきやすいように、イヤホンジャックとオーロライルミネーションの2つのイルミネーションを搭載しています。
最新スペックというところでは、今回はヒートパイプというスマートフォンとしては世界初の試みをしました。使いやすさとしては、UI関連やセンサーを使ったオート機能、さらに今回初となる新しいホーム画面のLIFE UXを搭載しています。
今回のMEDIAS Xはフィーチャーフォンユーザーの方はもちろん、すでにスマートフォンをお使いの方にもご満足いただけるかと思っています。初期のスマートフォンのユーザーですと、いろいろ不便を感じられた部分もあるかと思いますが、そういったところを解消しました。スマートフォンからの乗換の方にも積極的にお使いいただきたいと考えています。
――ヒートパイプ(封入された液体を使って熱を高効率で伝導させる部品)搭載というところは非常に気になります。まず、なぜヒートパイプを搭載しようと考えたのでしょうか。
神尾氏
商品のコンセプトとして、MEDIAS X=ヒートパイプ、というわけではありません。ただ、エレガントスリムということを実現する上で、熱の拡散方法が重要になってきます。そこで先行技術開発の設計チームが検討していた中で、選択肢としてヒートパイプという手があるのでは、となりました。
尾崎氏
スマートフォンもCPUが高性能になると、それだけ熱が発生します。薄型ではないスマートフォンの場合、電池と基板を上下に重ねるので、端末内の温度は全体で均一にしやすくなります。しかし、電池と基板が水平に並ぶ形になる薄型デザインでは、熱が基板側に偏りがちになってしまいます。基板側で発生した熱を、より温度の低い電池側にも伝えることで、端末の温度を均等に下げていくことが必要です。そういったことを考える中で、ヒートパイプに行き着きました。ヒートパイプは、通常使われるグラファイトシートよりも熱伝導率が13倍以上あるので、端末内の温度をより高速に均一化できます。これを使って、CPUの熱を効果的に発散させ、CPUのクロックダウンを防いでいます。
――ヒートパイプのような部品をスマートフォンに搭載するというのはなかなか想像できませんでした。どのようにして実現されたのでしょうか。
尾崎氏
新開発の超小型ヒートパイプを搭載しました。細い円筒のパイプをさらに潰し、薄くしています。
――本体サイズを厚くするのならば、ヒートパイプは必要ないものなのでしょうか。
尾崎氏
グラファイトシートを厚くしたりすることで、同じパフォーマンスを出すことはできます。しかしスリムなデザインを維持した中で、となると、ヒートパイプが有利です。
志摩氏
MEDIAS Xでもグラファイトシートは基板の表裏に貼ってあります。グラファイトシート自体は、フィルムでラミネートされているような形になっています。
――NECというと、水冷システム搭載の家庭用パソコンを販売されていたことがあります。こうした冷却システムはNECのDNAなのでしょうか(笑)。
尾崎氏
私は元々パソコンの開発もしていたので、人材的な意味でのDNAは入っているかも知れませんね(笑)。
細見氏
自分で言うのもなんですが、NECカシオは新しい技術に対して非常に貪欲だと思っています。スマホの防水とか、耐衝撃構造など、新しいことに対して積極的に取り組んできました。そしてノウハウを蓄積していくことに長けています。
美しさと実用性を追求したイルミネーション
――イルミネーションについても、イヤホンジャックの端子穴を光らせるというアイディアには度肝を抜かれました。NECというとフィーチャーフォン時代からイルミネーションに力を入れてましたが、今回もその流れを汲んでいるのでしょうか。
服部氏
当社はフィーチャーフォン時代からエレガントスリムとイルミネーションをセールスポイントとしていて、これらの特徴を気に入ってお使いいただいているお客様もいます。それらの特徴をスマートフォンに搭載できないか、と考えました。
フィーチャーフォンではテンキーを光らせたりしましたが、スマートフォンにはテンキーはありません。どうすればご満足いただけるか、ということを考えました。フィーチャーフォン時代のイルミネーション機能をそのまま搭載するのではなく、スマートフォンの特徴を考慮したイルミネーションにできないか、と検討しました。
スマートフォンはポケットやカバンに入れておくシーンが多いですが、そこで通知がわかりやすいように端が光るように、ということで、イヤホンジャックの穴を光らせることにしました。最近、イヤホンジャックに装着するアクセサリー(スマホピアス)が流行っていますが、店頭で見てみると、透明なものも多く販売されています。これは使えるのでは、と考えました。イヤホンジャックが光って着信に気がつきやすいだけでなく、アクセサリと組み合わせてもっと楽しめるイルミネーションになっています。
神尾氏
元々は全周を光らせるといったアイディアもありましたが、最終的にはイヤホンジャックができるよね、となりました。まずは光らせたらどうなるか、というところで、イヤホンジャックの試作機を作ってもらい、光らせたものを見て、「これで商品が広がるな」と判断し、技術チームも光らせる方法を考案し、この2つの意思がぴったり重なることで、イヤホンジャックのイルミネーションが実現しました。
志摩氏
全周を光らせるということについても、開発にあたり一通りの試作をしましたが、光らせ方がなかなか難しかったです。それに変わる技術として、イヤホンジャックを光らせることにしました。
――このように光るイヤホンジャック部品があったのでしょうか。
上久保氏
そういったものはないので、新たに作ってもらいました。
志摩氏
企画意図を実現できる素材は柔らかいものが多いのですが、強度にもかかわるところなので、強度を落とさずに光らせることに苦労しました。
――しかし、イヤホンジャックを光らせるというアイディアにたどり着いたのが凄いですね。
神尾氏
企画チームとしても、技術チームにアイディアを提案されたとき、「えっ」と驚きました。
――下端のオーロライルミネーションも含め、イルミネーションに力が入ってますね。
服部氏
開発には苦労しました。本体下側のオーロライルミネーションについては、何度も試作を繰り返し、端面まで光るようなに実現できました。デザインを活かして光らせたい、という企画の想いと、コツコツと実現に動いてもらった開発チームの努力の結晶です。「オーロライルミネーション」という名前にふさわしくなるように、いかにキレイに光らせるかということにこだわりました。
細見氏
イルミネーションは元々、点で光らせるつもりでしたが、フィーチャーフォンで実現したオーロライルミネーションのコンセプトを継承するということを全員が理解していたので、開発チームから「ここまで光らせられるよ」という提案もありました。もちろん企画チームからの提案もありました。それらが一致した結果として、良い感じに光らせられるようになったと思います。
――エレガントスリム、ということで、薄くて持ちやすいラウンド形状になっています。
神尾氏
片手で使うには、というところから、ラウンド形状デザインになりました。単純にカタログスペックの数字だけではなく薄くすることを考え、手に取ったときに薄く感じられるデザインになっています。
――ラウンド形状だと中身の部材を搭載するスペースが難しいと思いますが、そこはNECカシオが培ってきた小型化技術ということでしょうか。
神尾氏
そうですね。部材の並べ方だけではなく、内部の熱などもあります。ヒートパイプを含めた全部の技術があわさって、今回のサイズを実現しました。
――そういえばこのモデル、内部を見ると、上からカメラ、電池、メイン基板の順番に並んでいますが、これは薄型化に関係が?
尾崎氏
これは、下半分を薄くするためです。電池は物理容積が電力容量に直結するので、安易に薄くできません。一方、メイン基板は部品配置を工夫することで薄くできそうだったので、位置をひっくり返し、手に馴染ませるために薄くしたい下半分にメイン基板を持ってきました。
細見氏
発想を変えています。メイン基板側をいちばん薄いポイントにすることで、横から見たときにくさび形となり、手に持ちやすい厚みを実現しました。この配置は、N-06Eではこの配置が必須の要件でした。
神尾氏
デザイン的なところでいうと、背面カバーパネルのスピーカーの穴は切削をしています。コストがかかるので他メーカーもあまりやっていませんが、デザイナーの話として、細かいところを表現したい、とのことだったので。切削加工により、細かい表現が可能になっています。
LIFE UXなどソフトウェア面でも新機能を多数搭載
――音声系では、通話音声の補正機能に加え、マイクを3つ搭載し、ノイズキャンセリングしてしゃべってコンシェルなどの認識率を向上させています。こうした機能を搭載された意図は。
神尾氏
スマホは最近、通話が減っているとか言われていますが、やはり通話の機能も重要だと考えました。
細見氏
通話はもちろん大事ですが、しゃべってコンシェルなど、音声によるコミュニケーションが重要です。通話が減っていても、それでも声でコミュニケーションします。今回は背面にサブマイクを2つ搭載し使い分けることで、騒音下において音声認識の認識率を向上させています。音声でコミュニケーションするとき、通話のマイクだけでは認識率向上には不十分だと考え、このような仕組みにしました。背面のマイクからの音を積極的にノイズとして認識し、内部でノイズと音声を推定する処理を行っています。
――音声認識のソリューションはさまざまなものが登場していますが、NECカシオとしては今後、どのようになると見ているのでしょうか。
神尾氏
日本人はシャイ、というところもあると思います。しかし、未来の姿としては、手足を動かさずに音声に反応するという機能は広がってくると思っています。
上久保氏
UIはメーカーにとって最大のテーマの1つです。入力も出力も情報量が増えますが、人の入力が追いつかずにネックになっていきます。そこをどうするか、声かジェスチャーか、まだ手探りの段階です。もっとほかにも生体センサーなどがあるかも知れません。情報量は、今後、増やしていかなければいけないところなので、まずは声から入っていこう、と考えました。
――今回、ホームアプリとしては独自のLIFE UXを搭載されています。こちらはどのようなものになるのでしょうか。
迎氏
今回、初めてMEDIASのホームアプリなど顔作りをしましたが、一番にこだわったことは、「NECらしさ」をどう表現するか、ということになります。他社がすでにメーカー独自のホームアプリに取り組まれていて、サードパーティ製のホームアプリも人気があって、そういった中で当社がどういったものを作ると良いか、ということに時間を費やしました。
――着信履歴やFacebookなど「過去」とスケジュールなどの「未来」の2つを統合したタイムライン、「LifeWay」が今回のモデルの特長かと思います。これはどのようにしてこのような考えに至ったのでしょうか。
迎氏
「タイムライン」は、いろいろな使い方をしている多くの人をつなぐキーワードかな、と考えました。タイムラインという考え方は、時代が変わっても、価値が変わらない考え方だと思います。そこでLIFE UXでもタイムラインという考え方を取り込めば、と。
蓮井氏
タイムラインという考え方は、ユーザー認知が高いので、操作に迷うこともないかな、と考えています。LifeWayのコンセプトを検討する中で、今までタイムラインで過去を見るものはあったので、過去の情報から未来のコミュニケーションにつなげよう、ということで、未来の方のタイムラインも表現しました。
――未来のタイムラインではどういったことができるのでしょうか。
蓮井氏
今回、今までなかったリマインダー機能を搭載しています。たとえば後で連絡するようなリマインダーでは相手の連絡先も登録できるので、あとで通知されるとき、すぐにメールを作成したりできます。
――最近、コミュニケーションではLINEなどサード製のアプリの利用頻度が高まっています。そういったものへの対応は?
迎氏
たくさんの機能を詰め込みすぎず、なるべくシンプルにしたいので、基本のメールや電話に絞りたいと考えています。やはりいろいろな機能を盛り込むと、使い方も見え方も複雑になります。しかし実際にリリースして使ってもらうとなると、ユーザーからいろいろな声が出てくると思うので、そういったところを踏まえつつ、仕様、デザイン、使い勝手を考えながら取り込んでいければ、と考えています。
――LIFE UX自体のデザインコンセプトは?
迎氏
ロック画面とホーム画面の2つに注力しています。ホームの方はLifeWayという新しい機能を追加しているほか、アプリランチャー(アプリケーション画面)で新しいUIを採用しました。アプリランチャーは片手操作でもカテゴリーを切り替えやすいとか、そういった部分にこだわって作り込んでいます。
ロック解除画面の方は、1日に何度も見ることになるので、通知にしても表現にこだわりたいと考えました。そのひとつが「インフォフレイク」です。スマートフォンを身近に感じてもらうために、柔らかい表現、親しみやすい表現を取り込みたいと思い、フワフワした、楽しく見える表現を取り入れました。
――今後のMEDIASにはLIFE UXが搭載されるのでしょうか。
迎氏
そうですね。MEDIASの名前が付いていれば、基本的には搭載したいと考えています。画面を見ればMEDIASだとわかるような顔にしたいと思っています。
――LIFE UXをPlayストアなどで配信したりはしないのでしょうか。
迎氏
現時点では、何も決まっておりません。
――LIFE UXは、過去のMEDIASにはアップデートで対応させたりするのでしょうか。
蓮井氏
まだ発売していないので、なんとも言えませんが、実際にお客様の反応を見てから色々検討していきたいと思います。
――標準設定のホームアプリは「シンプルUI」なのですよね。シンプルUIについてはドコモ共通になっていますが、メーカー側も開発に携わっているのでしょうか。
上久保氏
MEDIAS Xの企画前から、基本的な使いやすさを向上させたもの、フィーチャーフォンからの移行でも障壁がないものを考えていました。ドコモさんの側でも同時期UIに注力しようという動きがあり、お互い意見を交換しながら進めてきました。
――LIFE UXのホームアプリ以外のところも初心者向けの配慮が多いですね。
上久保氏
細かいところですと、設定画面のシンプルメニューなどもやっています。データBOXアプリやフォントなどにも取り組みました。ホーム画面だけでなく、全体として使いやすさをコーディネイトしています。
エンドユーザーの方々とお話をすると、とくに年配の方を中心にフィーチャーフォンからの移行に躊躇されている方が多く見られます。そういった層に、今回のコンセプトは受け入れられると考えています。フィーチャーフォンから移行してもらって、LIFE UXで楽しんでもらう、というストーリーを想定しています。
――最後に、それぞれご担当箇所で苦労されたポイントは?
志摩氏
ハード面では、やはりエレガントスリムを実現するためのヒートパイプに尽きます。ヒートパイプ以外にもCPUクーラーやヒートシンクも真面目に検討した中で、実際にスマートフォンに搭載する現実的なものということで、ヒートパイプという答えを導き出しました。
尾崎氏
毎回いろいろな面で苦労していますが、今回はこの形状を実現するための部品の実装や構成に苦労しました。毎回、開発にあたっては何十回も基板の位置などをいじって検討して最終形にたどり着いています。
Androidスマートフォンは、構成する要素・部品が同じなので、どの機種も似たものになりがちです。しかし、イヤホンジャックのイルミネーションなど、一般的なところから機能を持たせて、こだわって作っているので、より長く楽しんで使ってもらえるかな、と思います。
上久保氏
一通り苦労しています。たとえばセンサーを使った機能、電話が鳴ったとき、カバンの中にあることを検知して着信音を大きくするとか、やってそうでやってないことをプラスアルファの便利さとして盛り込みました。ここは開発チームからもアイディアを出してもらって、特徴的な端末ができたかな、と思います。
細見氏
コンセプトを先に作って、それに沿ってものを作っていくというプロセスは、たいていどうしても、いろいろな都合が重なって、「これは辞めよう」とか「これは入れよう」とか、ブレていくものです。しかし、今回のMEDIAS Xは、使いやすさとかエレガントスリム、これまで培ってきたコミュニケーションへのこだわりといった、プロジェクトを進める上で、しっかりした骨太のコンセプトがあり、それに沿って邁進してきました。
神尾氏
最初のコンセプトとして、われわれがずっとやってきた「エレガントスリム」を、というのがありました。そして薄くするためにスペックを落とすのではなく、エレガントスリムの中にいろいろなものを入れています。UIも含め、お客様に満足に使ってもらえる製品だと思っております。
――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。