DATAで見るケータイ業界
約10年のスパンで観る携帯市場の累積シェアトレンド
2025年2月22日 06:00
先日、NTTの島田社長がNTTドコモに対して「絶対にシェアを落とすな、35%を維持するのだ」と檄を飛ばして注目を集めたが、今回はこの約10年の携帯市場の累積シェアトレンドを分析していきながら、その動向について考察していきたい。
NTTドコモのiPhone取扱開始で累積シェア増/総務省のタスクフォースがスタート
2014年よりNTTドコモがiPhone取り扱いをはじめたことで、それまでの『KDDI&ソフトバンクvsNTTドコモ』の「2強1弱」だった景色は様変わりした。NTTドコモは音声定額サービス「カケホーダイ&パケあえる」で顧客流出に歯止めがかったことで純増ペースが急伸し、2016年度の累積シェアは前年度比0.6%増の46.0%へ跳ね上がった。
それに対してKDDIは携帯電話と固定電話のセット割引でMNPトップの安定した強さを発揮し、2015年度に29.3%だった累積シェアは2019年度には31.7%まで順調に拡大。ソフトバンクは新体制の下、それまでの数を追う姿勢を改め、利益を伴う質へ事業転換した結果、累積シェアが同1.1%減の24.2%となった。
こうした状況下で、当時の安倍首相が「携帯電話料金の家計負担の軽減が課題」と軽減策を検討するよう指示を出し、総務省で「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」動き出す。
MVNOが「第4勢力」に成長するもMNO対抗策で累積シェア減/楽天モバイルが第4のMNOとして名乗り
2017年度はMVNOが携帯市場の年間純増の半分以上を占める「第4勢力」として急成長を果たし、MVNOシェアが10%を突破する。背景には、MNO大手3社による料金横並びの協調的寡占状態を危惧した総務省による「SIMロック解除」や「端末の実質0円禁止」「2年縛り廃止」など一連のMVNO支援が挙げられる。
こうした市場環境の変化にMNO3社はMVNO並みの低料金プラン投入とサブブランド強化で反撃を本格化。契約継続を前提に割賦期間の半分を支払えば残債を無料にする端末アップグレードプラグラムを導入し『守り』を固めた。実際、こうした施策によって2021年度のMVNOシェアは前年度比0.4%減の13.0%に着地。新たにiPhone 8がMNO各社に加わったこともあり、MVNOの純増ペースが鈍化していった。
そんな中、「第4の携帯会社(MNO)」として名乗りを上げたのが楽天だった。『世界初の仮想化ネットワーク』を掲げ、1年間無料で利用できる「Rakuten UN-LIMIT V」で契約数増加を一気に狙うも、十分なエリア整備が追いつかず序盤は苦戦を強いられた。
『端末と通信の完全分離』など「モバイル市場の競争に関する検討会」が立ち上げ/政府の値下げ要請でNTTドコモが「ahamo」投入
2018年8月には当時の菅首相が「携帯料金は4割程度下げる余地がある」と発言したことを受け、総務省が10月に端末と通信の完全分離や料金の値下げ、料金プラン単純化などを柱とした「モバイル市場の競争に関する検討会」を立ち上げた。端末購入を条件とする通信料金割引の廃止と端末買い換えサポートプラグラムについて抜本的な見直しを迫った。
この影響で、MNO各社は通信料収入の減少で苦しむも、『5G商用化』と『NTT持株によるNTTドコモの完全子会社化』という大きな節目を迎える。5Gネットワークの展開にあたっては、ソフトバンクとKDDIが3Gや4G向け周波数を5Gに切り替えていくLTE周波数のNR化(5G転用)を優先したのに対し、NTTドコモと楽天モバイルは5G向けに割り当てられた新周波数によるエリア整備を行った。
また、NTT持株によるNTTドコモの完全子会社化は、MNO3社の中でNTTドコモの営業利益が最下位となるなかでの決断だった。政府の携帯料金値下げ要請は更に強まり、海外キャリアと比較して特に20GB以上の大容量プランで日本の料金が突出して高いことを問題視。
これを受けKDDIとソフトバンクはサブブランドで対応するも、政府はメインブランドで値下げを要請し、これにいち早く応える形でNTTドコモが投入したのが「ahamo(20GB/月2980円)」だった。
これまで後手に回ることの多かった新生ドコモが仕掛けたゲームチェンジで、MNPが一時的にプラスになるなど一定の効果があったものの、2021年度の同社累積シェアは前年度比0.6%減の42.4%とシェア反転までのインパクトはなかった。
楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」で解約者発生/5Gエリア整備の評価でMNO間に格差が発生
累積契約数が2億回線を突破した2022年、市場を揺るがしたのが楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」で、1GB以下であれば月額0円で利用できる仕組みを廃止したことだ。これによって同社契約者の解約者が発生し、一時的に草刈場と化した。
一方、期待を集めた5Gは契約数こそ順調に増加しているものの、「5Gシフト」にはギアが入らない状況が続いている。背景には5Gならではの利用用途がほとんどないことだ。MNO各社は政府による値下げ要請を受け、5Gエリアの投資に積極的なスタンスを取りにくいという事情もある。
事業の柱である通信料収入の減少に悩まされてきたが、新たな収益源として強化を急いでいるのが「金融+通信」を組み合わせた「ポイ活料金プラン」だ。これらは最初からポイント還元の原資を含んだ料金設計のため基本料金が高額となり、自社の経済圏の利用促進を図ることで全体の収益向上にもつながっている。
ネットワーク品質の指標として重視されている Opensignalの「モバイル・ネットワーク・ユーザー・エクスペリエンス・アワード」で2022年と2023年はソフトバンクが、そして2024年はKDDIが首位を獲得するなど、4Gを5Gに転用した低い周波数帯の基地局で広いエリアをカバーするエリア戦略の評価が高かった。
直近(2024年度Q2期)の各社の累積シェアでは、NTTドコモが2022年度比1.1%減の41.0%、KDDIが同0.5%増の31.4%、ソフトバンクが同0.9減の23.8%となっている。なお、ソフトバンクの減少は3G停波による影響が大きいと推測される。また、MVNOについては、同1.3%増の15.6%となっている。
約10年でNTTドコモの累積シェアは41.6%→34.7%(MVNO除き)まで低下
改めて、各社の累積シェアを、この約10年スパン(2015年度〜2024年度Q2期)で見ると、NTTドコモは45.4%から41.0%と4.4%減、KDDIは29.3%から31.4%と2.1%増、ソフトバンクは25.3%から23.8%と1.5%減となっている。楽天モバイルは2020年度に1.5%だった累積シェアは3.8%まで増加している。
一方、MNO各社からMVNO分を除外した真水の累積契約数では、NTTドコモが41.6%から34.7%と6.9%減、KDDIは27.1%から27.4%と0.3%増、ソフトバンクは23.6%から19.3%と4.3%減となっている。そして2015年度に7.8%だったMVNOの累積シェアは2024年度Q2時点では15.6%まで増加している。
NTTの島田社長がNTTドコモに対して「絶対にシェアを落とすな、35%を維持するのだ」と檄を飛ばしているというが、それが仮にMVNO除きの累積シェアであるなら、すでにその危険水域に到達していることになる。かつて60%以上の累積シェアだったこともあるだけに、なりふり構っていられないのだろう。
当然だが、収益の柱が「法人」や「非通信」領域に移っても携帯会社の顧客基盤は『通信契約』にあり、これが減少すればその上で提供するサービスをいくら頑張っても稼ぐ力は弱くなるのは明らかだ。
同社では、2026年3月に3Gサービスの停波が予定され解約増加が見込まれることから、更なる累積シェア減少に影響を及ぼす可能性がある。どのように失地回復するのか、王者ドコモにとっては、この1年が正念場となりそうだ。