ニュースなどでGalaxy S6 edgeの写真を見た方々は、おそらくこう思ったのではないだろうか。
「スマートフォンの画面が曲がっている必要はないんじゃないか?」
スマートフォンの画面は平らなものだ、というのが多くの人が持っている“常識”だ。長年そうだったし、それで不便を感じたわけではないから仕方ない。
Galaxyシリーズと言えば、出荷台数で世界シェア一位のスマートフォンブランドだ。日本国内でも、グローバルスタンダードな高性能端末を求める人から高い評価を受けてきた。にも関わらず、Galaxy S6 edgeはエッジディスプレイを搭載し、あえて常識からはみ出した。
Galaxy S6 edgeは、なぜスマートフォンの常識を壊そうとしたのだろうか。その理由を調べるべく端末を触っていると、ふと数年前に仕事用の靴を買いに行ったときのことを思い出した。
ジャーナリストにとって足は大事な商売道具だ。取材に出ねば取れないネタは必ずあるし、歩き疲れて原稿を書けないでは話にならない。だから、靴には気を使う。少しでも疲れを減らし体力を温存すべく、とにかく軽いランニングシューズを好んで使っていた。
あるとき、より自分に合ったシューズを探すため、スポーツシューズで有名なミズノの旗艦店へ向かった。入店してすぐランニングシューズを見ていたら、店員に声をかけられた。用途を聞かれたので素直に答えたら、店員は合う靴を探すこともなく、こう答えた。「でしたらウォーキングシューズの方がいいですよ!」。
ウォーキングシューズのことをよく知らなかった私は、店員に従って売り場を移動。そこでウォーキングシューズの担当者は、「長い距離を歩くなら、もっと靴底が硬く、より衝撃を吸収する靴の方がいい」と説明してくれた。実際に試してみると、やはりランニングシューズよりも重い。しかし足の裏から伝わる感覚はずいぶん違う。堅い靴底のはずなのに、かかとに衝撃が響かない。
この時点では私もまだ半信半疑だったが、感覚の違いは確かだったので、物は試しと買うことにした。特殊な機械で足のサイズを測定し、スニーカーっぽくて通気性のいいデザインを選び、複数あるインソールから良いものを選択。私にぴったりの一足が完成した。それからしばらく実際に履いてみると、足への衝撃がゆるいおかげか、疲労感が少ない。以後は何足もウォーキングシューズを試し、今も後継品を愛用している。
よく考えてみれば、ウォーキングシューズと名の付いたものなのだから、ランニングシューズよりも私に合うのは必然だ。しかし私の中に「靴は軽い方がいい」という常識があって、ランニングシューズ以外はそもそも眼中になかったのだ。
思い込みや固定観念を壊すと、新たな世界が開ける。そういう教訓を与えられた出来事だった。スマートフォンの常識から外れたGalaxy S6 edgeのエッジディスプレイにも、きっとそういうものがあるに違いない。
ここからは本題のGalaxy S6 edgeに移ろう。実際のところ、曲がったディスプレイはどうなのか。
今回は平面ディスプレイのGalaxy S6も同時にお借りしたのだが、この2台を並べてみると、Galaxy S6 edgeの方がかなり薄く、小型に見える。しかし2台を重ねると、大きさや厚みはほとんど同じだ。違うのはエッジディスプレイの丸みだけなのに、印象は驚くほど違う。
手に持ったときのフィット感も違う。Galaxy S6も何気なく持てば薄くていい端末だと思うのだが、Galaxy S6 edgeを持つと際立って薄く感じる。エッジディスプレイの曲面部分が手に触れない分、厚さが半分程度に感じられる。Galaxy S6は武骨で安定感があり、Galaxy S6 edgeはシャープで薄さが際立つと同時に、手の中での収まりがいい。持ったときの大きさもまるで違って感じられるのがおもしろい。
ではエッジディスプレイの曲がった画面の見え方はどうか。きっと歪みを感じるのだろうと思っていたのだが、正面から見ていても意外なほど違和感はない。ブラウジングはもちろん、写真や動画再生などでも、曲面部分に何ら問題を感じない。
結局のところ、エッジディスプレイで何か困ることがあるかと言われると、別に何も困らないのであった。最初にエッジディスプレイを見たときのインパクトに比べて、使っているときは極めて自然で曲面が気にならない。本当は画面が曲がっていないんじゃないかと、思わず斜めから見て確かめてしまった。
Galaxy S6 edgeとGalaxy S6を並べて置くと、Galaxy S6 edgeの方が小さく見える | エッジディスプレイを正面から見ると、むしろ臨場感が増す |
Galaxy S6 edgeの使用感について、今度は実際のアプリを試して話をしたい。ウォーキングシューズと最新のスマートフォンがあったら、今なら拡張現実・位置情報ゲーム「Ingress」を試してみるしかない。
私が普段使っている端末は1年半ほど前に購入したもの。当時はフラッグシップモデルだったが、都市部でIngressをプレイするとだんだん処理が重くなり、しばらくすると強制終了してしまう。ではGalaxy S6 edgeではどうだろう。せっかくなので日本有数の激戦区(=端末への負荷が極めて高い)である、秋葉原でテストしてみた。
結論から言うと、ゲームプレイは快適そのものだった。フルHDを超える2,560×1,440ピクセルの高解像度に表示される仮想世界は精細で、密集しているはずの各種ゲーム情報が少なく感じられるほど。それでいて処理速度は申し分なく、各種操作のもたつきもなければ、長時間のプレイでも強制終了するようなことはなかった。
加えてこの日は晴天で、気温も真夏日に迫ろうかという暑さ。端末の負荷が上がれば放熱もしたいはずなのに、直射日光の下でもさほど端末が熱く感じられることはなかった。また日光の下でも画面が暗くて見づらいということもない。最高輝度600cd/m2という、明るい有機ELディスプレイは伊達ではない。
秋葉原で撮影したIngressのスクリーンショット。これだけの情報量でも処理はスムーズで快適に遊べる | 日光が当たる明るい場所でも、画面が見づらく感じることはなかった |
Ingressとの相性の良さはもう1つある。エッジスクリーンの曲面が、Ingressでよく使う横方向のスクロールに合うのだ。ゲームに限らず、スマートフォンの操作では横方向へのスワイプは高頻度で使われる。端末の端からスワイプしても、エッジディスプレイなら端末の角に触れる感覚がない。たったこれだけのことが、今までになくしっくりくる。
Ingressでもよく使う横スクロール操作が気持ちいい | スマートで手に収まってくれる端末形状もIngressのようなゲームではありがたい |
Galaxy S6 edgeを実際に触ることなく、「画面が曲がったスマートフォンなんて必要ない!」と言ってしまえばそれまでだ。それで何か不利益を被るかというと、別にそんなこともない。
しかし今の私が「エッジディスプレイとそうでない端末、どちらがいい?」と問われたら、迷わずエッジディスプレイがいいと答える。技術的に新しいからとか、奇抜さが目を引くからとか、そういうオタク気質なところも私にはある。しかし実際に触って、使ってみたからこそわかった良さも間違いなくある。
今までの常識に囚われていたら見えなかった世界がある。常套句だが、騙されたと思って一度触ってみていただきたい。「画面は平らでいいじゃん」という長年の常識を、「画面が曲がっていてもいいじゃん」に置き換えられた時に、今まで見えなかった新しい幸せに気づくはずだ。私が軽い靴より重い靴の方がいいこともあると気づくのと同じように。きっと常識なんて、次々と壊していく方が幸せなのだ。
(石田賀津男)
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