10月24日、同じ電話番号のままで他社へ乗り換えられる「携帯電話番号ポータビリティ制度(MNP)」がスタートする。例年より多くの端末がリリースされ、新サービスの充実が図られるなど、各社の競争は激しくなりつつある中、各社はどのような戦略でMNPに臨むのか。
今回はNTTドコモの担当者に話を聞いた。
■ 全体的な戦略とは
NTTドコモ松谷氏 |
まずMNPに対するドコモの全体的な方針について、営業本部 営業部 営業推進担当部長の松谷 正輝氏に聞いた。
――ドコモではMNPに向けて「総合力」をアピールするとしています。松谷氏
かれこれ3年ほどMNP関連の業務に携わってきていますが、これまでもお客様第一、という姿勢でしたので、料金やネットワーク設備、アフターサービスなどの拡充を図ってきました。最初から「総合力」をいう単語は使っていたわけではありませんが、全体的・総合的にやってきたということになります。
仮に一時期、及第点といえるポイントがあったとしても、携帯業界は非常に動きが早いため、そのままにしておくと、すぐ古くなってしまいますので、全体的に高めてきたことになります。
――魅力あるサービスの提供は、MNPの導入に関わりなく実施されると思うのですが、MNPが与えた影響はどういった点になるのでしょうか?
松谷氏
当社の各種サービスの中で、「ドコモをやめて他社へ」と思われるような点がなかったかどうか、再点検する機会になりました。ユーザーがどう感じているか、あらためて調査してきました。
――MNPに対するユーザーの意向はどう見ていますか?
松谷氏
外部の調査を見ると、1年ほど前であれば2~3割のユーザーが利用するという話がありましたが、最近では1割程度と言われていますね。これはMNPの仕組みが知られるようになり、できること・できないことが明らかになってきたため、という面もありますが、「理解された上でMNPを利用する」方が1割程度ということなのでしょう。
松谷氏はターゲット層についても語った |
――ドコモユーザーの1割、つまり約500万ものユーザーが他社に乗り換えると見ているのでしょうか?
松谷氏
これまでも携帯電話を販売していく中で、一定数のユーザーが乗り換えてきました。ドコモの月間解約率は1%に満たない程度ですが、計算上は年間で10%に達することになります。MNPをきっかけに乗り換える方もいるでしょうが、全体的な傾向は今まで通りという見方ができるとも思っています。
時期についても、MNP開始直後、一気に乗り換えるのではなく、徐々に動くということになると思います。年末や年度末といった商戦期にMNPが利用されるのでしょう。
――MNP利用ユーザーはどのようなカテゴリーに分類できるでしょうか。またドコモが狙うユーザー層とは?
松谷氏
MNPを利用する人については、全ての層で可能性があると思っていますし、そのように想定していかなければならないと思います。
ターゲットする層として、1つは携帯のヘビーユーザー層、20~30代ですね。そういった方に向けてドコモの良さをアピールしていきたいところです。また、もう1つはMNPだからこそ乗り換える方、30~40代になるのでしょうか、そういった層も重要視していきたいと思います。
――ユーザーとしてMNPの利用で気になる点の1つは、長期契約による割引に関する点です。
松谷氏
継続期間は、その会社を長く利用していることの証で、重要な指標の1つです。それを引き継ぐというのは、既存顧客がないがしろになってしまわないかどうか、どういった影響があるかよく見極めなければなりません。可能性として、(継続年数を)各社共通にすることのメリットはあるかもしれませんが、その影響はよく考えていかなければならないでしょう。
――MNPに向けて各社の端末・サービスが出揃いましたが、ドコモの強みは?
松谷氏
携帯キャリアに求められる点は多くあります。多機能さやサービスなどについては903iシリーズでアピールできるでしょうし、通話を重視する方に向けて、エリア展開に注力してきました。また、家族層に対してはファミリー割引の拡充などを行なってきました。
「総合力」と一言だけの説明に落ち着きたくはないのですが、結果的に一番良いものができたと自負しています。とは言え、音楽については遅れをとっていた部分もありましたが、着うたフルもスタートしました。定額制音楽配信サービス「ナップスター」という良いものが出ましたので、強くアピールしていきたいですね。
我々は継続して良い製品、サービスを提供していきたいと思っています。当社を長く利用していただきたいですね。
■ iモード検索は「ナビゲーション」の1つ
NTTドコモの澤井氏(左)と水木氏(右) |
MNPを迎えるまでに、コンテンツ面で各社が打ちだしてきた特徴の1つは「検索」だ。auがGoogle、ソフトバンクがYahoo!とそれぞれ1種類の検索エンジンを採用したのに対し、ドコモのiモードは10社以上の検索エンジンが利用できる。
どのような思惑がその背景にあるのか、NTTドコモ プロダクト&サービス本部 コンテンツ&カスタマ部長の澤井 孝一郎氏とコンテンツ&カスタマ部 ポータルサービス担当部長の水木 貴教氏に聞いた。
――10月5日からiモードのトップに検索フォームが表示されるようになりました。MNPに向けたコンテンツ面での対策でしょうか? 複数のエンジンが用意された、ということのメリットは?澤井氏
我々としては、淡々とコンテンツサービスを提供しているという形です。検索サービスについては、時期が到来したので実施したということになるでしょう。もともと「かんたん検索」という名称のサービスを提供してきましたが、フリーワードでの検索機能については、以前から要望がありました。膨大な公式メニュー内から、コンテンツを探したいという声に応えた方策の1つですね。
水木氏
iモードの公式メニュー内だけでも、既に7,500に及ぶサイトが存在します。公式サイトは、一般サイトよりも少ないと思われがちですが、成長路線は継続しており、ニッチなコンテンツは探しにくくなってきています。検索サービスは、コンテンツのナビゲーションの一端を担うということになります。
また「複数の検索エンジン」についてですが、パソコンの世界と違い、携帯サイトでは「一日の長がある検索エンジン」は存在しません。それぞれ得意分野があるのです。たとえばGoogleはパソコン向けサイトの検索が得意と言えますし、ブログ検索はGooやAskモバイル、ニュース検索だとR25など、複数提供することで、公式サイトと一般サイトが補完関係になるよう提供することを目指しています。見つけたい情報にリーチするため、公式サイトは当社開発の検索エンジンを利用し、それ以外は各社の検索エンジンと、それぞれ提供することで利便性を高めているということになります。
――ネットに慣れ親しんだユーザーは、Googleなど検索エンジンを既にブックマークしており、今回のサービスは利用しない可能性もあると思うのですが。
澤井氏
確かにGoogleやGooなど、一般サイトとしてこれまでも利用できましたが、従来よりもリーチしやすい形になりましたので、さらに利用されることになるのではないでしょうか。
水木氏
キーワードを入力して公式サイト内で見つからなかった場合に一般サイトも検索できるという今回の仕組みでは、これまであまり検索サービスを使ってこなかった“初級者”層に、どんどん利用される可能性があると思っています。
澤井氏は携帯電話とパソコンからの検索利用の違いを説明 |
――携帯電話でのWeb利用としては、フルブラウザという流れがあります。検索エンジンとの連携については、どう考えていますか? ニーズ自体はどう見ていますか?
水木氏
機種によっては、フルブラウザ搭載のものもありますし、今後はそういったニーズは出てくるだろうと見ていますね。
――他キャリアも検索エンジンに注力している部分がありますが、こういった動向はどう見ていますか?
水木氏
検索サービス自体は、今まさに成長過程にあると思っています。検索精度は重要になっていきますし、そこは互いにチューニングしあって競争することになるのでしょう。当社も、日々更新してチューニングしていきますし、年内から来年にかけてフォーカスしていきたいところではあります。
澤井氏
パソコンから検索した場合と携帯からの場合は、少々異なる傾向があると思います。たとえば、パソコン向けサイトではリンクを貼ることが検索結果に影響を与えますが、携帯電話でリンクを貼る習慣はありません。そういった意味で、携帯電話からの検索エンジン利用は、パソコンユーザーと異なると思いますね。
適切な結果が得られるようチューニングすると語った水木氏 |
――検索する際には、適切なワードが思いつかなければ最適な結果が得られない、と言えると思いますが、初心者層の利用を踏まえると、どう対処していくのでしょうか?
水木氏
まずはどう利用されるか、どういう結果が望まれているのか。公式サイト対象の検索エンジンは当社開発のものですから、我々はそれを確認してチューニングできる立場にあります。それと同時に、検索対象となるサイトを収集することも重要です。
まだ開始して間もないですが、適切な情報が得られるような形で、他社よりもいち早くやっていきますし、それによって利便性向上が実現できると思います。
澤井氏
たとえば人気アーティストの着うたを探したい場合、フルネームを入力しなければならないのか、名前の一部だけで良いのか。浜崎あゆみの場合、一般的な検索エンジンでは「あゆ」と入力すると、鮎釣り情報がヒットする場合がありますね。携帯ユーザーの動向を見ることで、どういったワードが利用されるのか把握できますので、そういった面で工夫するしていくことになります。
■ 販売店での対応は?
販売店での施策も重要なポイントの1つ。この点については、営業本部 販売部 代理店担当部長の鳥塚 滋人氏に聞いた。
NTTドコモ鳥塚氏 |
――MNPに向けて、販売店ではどのような取り組みを行なっているのでしょうか?
鳥塚氏
店舗については、ドコモショップと量販店という形になりますが、まずはドコモショップについては顔の部分ですから、入りやすい店作りや統一イメージを演出する改装、そしてスタッフのスキルアップなど、1年以上かけてさまざまな施策を実施してきました。
どちらかと言えば、新規に販売するということよりも、既存顧客に対しておサイフケータイなど新サービスをきちんと説明できるということに注力してきました。これはMNPそのものよりも、携帯電話の多機能化に伴ったことと言えるかもしれませんが、サービスを利用されることは囲い込みに繋がりますので、「きちんと説明できるのはドコモショップ」ということで注力してきました。
一般の量販店については、販売が主になりますので、12月などの商戦期に向けて他キャリアに負けないようにスタッフを充実させるといった強化策を行なっています。これも例年行なってきたことですが、ただ今回の商戦期はMNPによって、商戦期の到来時期が少し前倒しになると見ています。
――ユーザーの動向はどう見ていますか?
鳥塚氏
24日だけは、MNPを待っていた方など、店頭が賑わうことになるかもしれませんが、MNPそのものは当日だけではなく、永続的なサービスですので、爆発的な動きにはならないと思っています。
商戦期がやや前倒しになる、と予測した鳥塚氏 |
――他社の動きではauがツーカーからの同番移行を行ないましたが、そういった動向を踏まえて、どのような準備を整えてきたのでしょうか?
鳥塚氏
コールセンターの人員を増やしたり、ショップや量販店の受付をサポートする人員や機器を増設したりするなど、入ってくる方・出て行く方、両方に対してトラブルが発生しないよう万全の体制を整えています。
ただ、24日に始まってみなければわからない点はあるでしょう。それでもご迷惑をかけない形にしていくつもりです。
――店頭での対応は、MNP開始を受けてどのような形になるのでしょう?
鳥塚氏
量販店については、903iシリーズを中心にしていくことになりますが、10~12月は試用コーナーを充実させる考えです。また、料金は他社と比べて高くない、というアピールや、エリアを拡充させていることを伝えていきたいと思います。
携帯ユーザーの半数以上が当社を利用、ということが1つの証であり、またテレビCMなどでも訴求していますが、エリアや端末、料金など全体的に見て判断してもらえれば、「やっぱりドコモでしょ」と考えていただけるのではないでしょうか。
――ありがとうございました。
■ URLNTTドコモ
http://www.nttdocomo.co.jp/
(関口 聖)
2006/10/23