ドワンゴのポータルサイト |
これまでの携帯コンテンツは、携帯電話を買い替えると、一度購入したコンテンツであってもあらためてダウンロードする必要があった。リニューアル後の同社のサイトでは、1度購入したコンテンツであれば、携帯電話を買い替えても追加料金なしで再ダウンロードが可能となり、コンテンツのポータビリティ化を実現した形になる。
携帯電話番号を変更することなく携帯電話会社を乗り換えられるMNPでは、ユーザーが流動的になるために、携帯電話会社のみならず、これまで会員ビジネスを展開してきたCPにとってもさらなる競争力が求められる。今回、従来の慣習を捨て、新たなステージに突入したドワンゴの戦略について、同社執行役員 副社長の太田豊紀氏、第二制作部部長の齋藤光二氏のお二人に聞いた。
■ ユーザーが買った着うたはキャリアを変えてもユーザーのもの
ドワンゴの第二制作部部長 齋藤氏 |
ドワンゴ 第二制作部部長 齋藤光二氏
MNPが導入され、携帯電話番号が引き継げることになりましたが、ユーザーがダウンロードした着うたや着うたフルといったコンテンツ、利用した履歴などが引き継げた方が良いのではないかと考え、導入しました。
――ユーザーの要望が多かったのですか?
ドワンゴ 執行役員 副社長 太田豊紀氏
とくに多かったというわけでないですが、普通に考えてその方がいいですよね。そもそも、本やCDを買えばずっと家に置いてあるのに、着うたを買ったのにどうしてないんだろう? という発想です。
――コンテンツポータビリティと同時に、新たにポータルサイトも立ち上げたのはなぜでしょう?
太田氏
インターネットの世界がモバイルの世界に入ってきて融合が進んでいます。そうなれば当然キャリアの公式メニューから外部に人が流出することが考えられ、現実、そういう状況が起こっていると思います。外に選択肢を求める人が増えた場合に、我々も外に入口を持っていなければ困ると考えました。そして、外からの導線を持ったことで、インターネットの世界の無料が中心のモデルに対応して広告モデルも導入したということです。
――キャリアのポータル、つまりiメニューのようなものがある中で、ドワンゴのポータルはどういうものになりますか?
太田氏
キャリアさんは、メニューリストとしてディレクトリを切ってそれぞれに集客を図る方式をずっと採用されてきており、現状非常に多くの選択肢が提供されています。今後ますます選択肢が増えていくであろう中で、ユーザーの使い勝手を考えた場合に、選択肢の多さは逆に分かりにくくなってしまっているという面も否定できません。そこで、我々は1カ所で全てのサービスを提供したいと考えました。
――MNPが導入され、これまでよりもユーザーが動きやすい状況になりました。乗換先でも追加料金を払うことなくコンテンツが使えるということは、ユーザーにとってみればオイシイ話です。これまでは1回購入したものであっても携帯電話会社を変えればもう一度買い直す必要があり、コンテンツプロバイダーとしては利益が少なくなるのではないかと思うのですが?
太田氏
ユーザーの利便性を考えてみれば、最初にお話ししたとおり、リアルなCDや本との対比で、むしろ買いなおしをさせるほうがおかしいですよね。そこは我々がコスト負担してでもサービスとして提供すべきだと考えました。
12月4日~8日にかけて香港で開催された「ITU TELECOM WORLD 2006」では、エイベックスらとブースを出展。海外にも日本のコンテンツ紹介した |
齋藤氏
きちんと企画書を提出してご報告しましたし、またご理解もいただいている状況だと認識しています。
――ポータルにはSNSも用意されていますね。
齋藤氏
ポータルを構成する要素には、コンテンツのamazon.co.jp、情報のメディア化、コミュニティが必須だと思います。その3番目として当初から導入することになりました。我々のSNSはmixiのようなクローズドなものではなく、マイスペース的なオープンコミュニティとなっています。単純にSNSだけではなくて、掲示板やブログなどのコミュニティスペースも提供していきます。
――今後提携の話も増えていくのでしょうか?
太田氏
そうですね。これまで組めなかった一般サイトのプレーヤーや、今後おそらく一般サイトになるであろう情報系のプレーヤーさんとも組んでいきたいと考えています。現在、いろいろ話をさせていただいています。
――広告モデルのビジネスも展開しやすくなりますが、有料課金のモデルとどちらにウェイトを置くのでしょう?
太田氏
総合的にいうと、重視しているのは従来の会員制のコンテンツ課金の仕組みです。ただし、成長率の面では、広告モデルの方に非常に期待しています。インターネットの世界は、そもそも無料すぎると思っています。課金のインフラが整備されれば、インターネットの世界も有料のモデルになってくるのではないしょうか。そうでなければ著作権が守られませんから。
――ドワンゴというと、「いろメロミックス」(現「dwango.jp(メロ)」)をはじめとした音楽に強いイメージがありますが、今後その方向性は変わらないのでしょうか?
太田氏
着メロから始まったこともあり、確かにラインアップ的にも音楽系は充分揃っていると考えていますが、それは単純にマーケットとして着メロや着うたが大きかったからです。我々の集客ポイントはそこではなく、これまでで言えば、タレントのキャスティング能力の方が大きいと思っています。
齋藤氏
要所要所できちんとタレントを抑えてきたことと、それをモバイルらしい方法でダウンロードコンテンツ化し、ユーザーに伝わりやすい形で訴求していった点がポイントだと思います。今後、ユーザーのニーズはさらに細分化されていくと考えています。キャスティングについても、もっとひろげていく方向です。
太田氏
流行の言葉でいえばロングテールということになりますが、ヘッドの部分が縮小して、テールが厚くなっている状況で、我々はこれまでヘッドに依存してきた面があるため、テールを厚くしていく方針です。
――御社が展開する「パケラジ」とポータルの連携はありますか?
太田氏
パケラジについては、これまでのテレビ番組的な映像配信の形を12月末で縮小し、パケラジの技術を使った、イベントやインタラクティブ性のあるライブチャットなどのサービスを展開していくつもりです。
齋藤氏
これまでやってきたパケラジの発展系として、蓄積したノウハウを次に活かしていこうという段階です。
■ 太田氏「著作権が守られなければ日本の産業が崩壊してしまう」
「MNPは危機でありチャンスでもある」と齋藤氏 |
齋藤氏
やはり、違法サイトを撲滅して欲しいというとことに尽きます。我々は著作権がしっかりしていることでビジネスが成り立っていて、我々自身としてもちゃんと取り組んできたという自負があります。ところが現在、検索サイトなどで検索すれば簡単に違法サイトが見つかる状況です。
――モバイルのオープン化が進めばさらにそういう弊害も生まれますよね。
太田氏
例えば、一般に流通しているソフトがあれば、違法な着うたが簡単に作成できてしまう状況があります。これはコンテンツのマーケットを潰しかねないと思っています。パッケージの文化からバーチャルなデジタルの文化にユーザーが流れている状況で、デジタルの著作権が守られなければ、日本の産業自体が崩壊してしまうことにつながります。これはもっと真剣に考えて頂きたいというのが正直なところです。
――著作権が守られていないことでの被害額は?
太田氏
非常におおまかですが、現在着うたのマーケットは昨年562億円程度で、更に成長を続けていますが、それと同程度の被害はあるのではと推測しています。
たしかに、ユーザーが作る文化はWeb2.0の時代には当然だと思います。しかし、やはり高度なものはコンテンツプロバイダーが提供していきたいですね。たとえば、Flashを使った高度なコンテンツはコンテンツプロバイダーのみ配信できるなど、やり方はいろいろあるかと思います。Flash Liteのツールが一般公開されている状況ではいけないと思います。
――では最後に、MNPはドワンゴにとってチャンスとなりますか?
齋藤氏
MNPは我々にとって、危機でもありチャンスでもあると考えています。それをチャンスと捉えて進めていきたいですね。発想と勇気、技術力でチャンスに変えていきたいと思います。
太田氏
インターネットのオープンな世界とモバイルの閉じた世界が融合していくにあたって、ドワンゴはほぼ全てのジャンルを網羅してダウンロードコンテンツを配信できている唯一のプラットフォーマーだと思います。
たとえば、SNSだったりコミュニティ、情報系サービスでは現時点で強いプレイヤーがいますが、では、そのプレイヤーが今から面白いモバイルのコンテンツを集めてすぐに提供できるかと言えば出せないでしょう。我々は、現時点で有料会員を持ってそれが出せています。
モバイルのユーザーは現在、ダウンロードコンテンツを求めてアクセスしている状況です。それを考えれば、我々はモバイル発の総合エンターテイメントポータルサイトを構築する上でもっともふさわしいと考えていますし、我々がやらなければたぶん誰もできないと思います。
――本日は、お忙しい中ありがとうございました。
■ URL
ドワンゴ
http://dwango.jp/
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(津田 啓夢)
2006/12/15