携帯ジャーナリスト 編
ケータイ業界を代表するジャーナリストが選んだケータイ of the Yearです。使い方や好みによって、ベストケータイは人それぞれ。このコーナーでは、そうした個人的な見地から、2007年のベストケータイを選んでいます。読者のみなさまの投票で決定された「読者が選ぶ ケータイ of the Year 2007」もぜひご覧ください。
石川温![]() アップル iPhone |
石野純也![]() NTTドコモ N905iμ |
村元正剛![]() ソフトバンク 812SH |
橋本保![]() NTTドコモ N905i |
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石川温: アップル 「iPhone」 | ▲ |

2007年のなかで、最も気に入った(というか驚かされた)端末をあげるとなると、やはり米アップルの「iPhone」となる。本当は、国内キャリアの端末を選んだ方が良いのだろうが、「この1台」となると、どうしても「iPhone」になってしまう。
この端末は、高いデザイン性、タッチパネルの操作性、エンターテイメント性のあるユーザーインターフェイス、日本以上の垂直統合モデルなど、世界のケータイ業界に大きな影響を及ぼしたと言っていいだろう。
操作に使うボタンは、ホーム画面に戻るためのものが1つだけ(あとは電源とボリュームのみ)。すべてを画面をタッチして操作する「割り切りの良さ」に感服する。説明書などはほとんど入っておらず、操作はアップルのWeb上にある動画を見て学ぶ。箱を開けると電話帳のような説明書が入っている日本のケータイとは大違いだ。
画像のサムネイル表示も俊敏で使い勝手がよい。友達に気に入った写真を見せるのもあっという間だ。画面の切り替わりやスクロールの終了時の動きなども、心地よい演出がされているのがにくい。
また、これだけ日本ではお役所を筆頭に「垂直統合は悪だ。オープンモデル、水平分離モデルを入れよ!」と叫ばれているのに、アップルの「iPhone」は究極の垂直統合モデルを貫いているのが面白い。
「iPhone」を供給するキャリアは1国1社のみ。ガチガチのSIMロック、アプリは勝手に入れることができない(ただし、いずれもすでにハッキングされてしまっているが)、2年間の期間拘束付きといったように、日本のモバイルビジネス研究会の議論を鼻で笑うかのような「垂直統合モデル」のオンパレード。スティーブ・ジョブズ(アップル社CEO)が「アップルと仲良くしないところは入れさせない」と言っているかのようなビジネスモデルだ。
やはり垂直統合モデルでなければ、魅力的な端末はつくれないのかも知れない。垂直統合モデルを脱却し、なんとか水平分離モデルになろうとしている日本は、もしかすると、世界の流れに逆行しているのかも知れない。アップルのビジネスモデルは、そんなことも感じさせてくれた。
「iPhone」の登場は、折りたたみという形状、テンキー、マルチキーを使ってアイコンを選ぶという操作が「常識」となっている日本のキャリア、メーカーにとって、いいカンフル剤になったはずだ。
ある国内メーカー担当者に話を聞いたら、「日本では某キャリアが2画面のタッチパネルケータイを出したものの、全く売れなかった。そのために、将来的にも、タッチパネルの端末は『二度と開発できない雰囲気』になっていた。しかし、「iPhone」のおかげでその流れも一気に変わるだろう」と話していた。
2008年、「iPhone」が日本に上陸されると噂されている。ソフトバンクモバイルなのか、NTTドコモなのか、それともダークホースがいるのかはよくわからない。しかし、何よりも期待したいのは、日本メーカーが「iPhone」に対抗できるだけの魅力的で先進性のある端末を出して欲しいということ。技術力は備わっているだけに、ぜひも日本メーカーには頑張ってもらいたい。
石野純也: NTTドコモ 「N905iμ」 | ▲ |

新販売方式の導入や、高速通信規格の本格化など、MNPで沸いた2006年に続き、何かと話題の多かったケータイ業界。昨年と比べると、端末数はやや少なめな印象だが、一方で、強烈な個性を発揮している機種も多かった。
私も、この1年は、端末選びが例年以上に楽しかったと感じている。個性的な端末も増え、どれを「ケータイ of the Year」に選ぶか相当迷ったほどだ。選考は困難を極めたが、結論として「N905iμ」をいち押しとしたい。理由は以下の通りだ。
まず、キャリアがドコモであること。身も蓋もないが、現時点で、これは欠かせない条件となっている。私は、「jigブラウザ」を筆頭に、公式・勝手を問わずJavaアプリを多用しており、アプリがなければ仕事に支障が出るほどだ。ゆえに、通信量制限がなく、かつ、メガクラスのアプリ容量が必須となる。auはそもそもBREWが中心で、Javaアプリを自由にインストールできない機種が多い上、通信にも制限がかかっている。ソフトバンクは特定のサーバーを経由しなければ勝手アプリがダウンロードできない。「ニコニコ動画」のau版が手回し式になっているのも、auやソフトバンクのケータイで「モバゲータウン」の大作ゲームを遊ぶことができないのも、そのためだ。
ケータイコンテンツは以前から多用しており、2007年の個人的な取材テーマにもしていたため、バイアスがかかった見方であることは、重々承知している。だが、勝手サイトは、もはや無視できない規模のユーザーを抱えていることも事実だ。両キャリアには、ぜひこれらの仕様を再検討してもらいたい。
もちろん、ドコモであれば何でもいいという訳ではない。アプリと同様、おサイフケータイを多用しているため、既に非対応機種へ引きかえすことは不可能だ。つまり、第2の条件としては「FeliCa対応」が挙げられる。また、おサイフケータイと同様に重要なのが、通信のスピード。一度高速通信を体感してしまうと、元の速度では“遅い”と感じてしまう。ゆえに、「HSDPA対応」で、機種を絞り込んでいる。
これらの次に重視しているのが「音楽再生機能」だ。音質がよければ、なおのことよい。一方で、カメラは200万画素以上であれば問題ないし、ワンセグがなくてもそこまでは困らない。上記の条件に当てはまる機種は、903iX、904i、905iシリーズの中にいくつか存在したが、最後は自らの直感を信じ、デザインで機種を選択した。
その結果残ったのが、「N905iμ」である。HSDPAを重視している以上、サイトも頻繁に見るのだが、この機種は、そのようなユーザーにもしっかり配慮している。ありそうでなかったiモードブラウザのタブ機能や、最大5つまでのサイトを一斉に開けるワンタッチマルチウィンドウは、使いこなすと、離れられなくなるほど便利だ。メールのインライン入力や、クイック検索など、iモードを含めたネットの使い勝手を追求している点にも満足している。
ニューロポインターを搭載した「N905i」なら、サイト閲覧はさらに便利になったはずだが、個人的には、デザインや厚みに少々抵抗がある。上記の条件を全て満たした上で、さらにプラスαの利便性を提示してくれた「N905iμ」に、私の「ケータイ of the Year」を贈りたい。
村元正剛: ソフトバンク 「812SH」 | ▲ |

今年は積極的に買い替えたくなるケータイがなかった、というのが率直な印象だ。私が実際に使った機種では、HSDPAのハイスピードでブラウジングできる「N904i」、5.1メガカメラを搭載した「W53CA」、20色展開(新色が追加されて現在は全24色)で話題を呼んだ「812SH」が満足度が高かった。個性の異なる3機種だが、この中で最も“2007年らしさ”を感じたのがソフトバンクの「812SH」だ。端末そのものの機能やUIだけでなく、ソフトバンクのユーザーを増やす要因となった「新スーパーボーナス」や「ホワイトプラン」も考慮に入れた選出だ。
ソフトバンクが導入した月額980円の「ホワイトプラン」は、個人的に今年のケータイ業界の最大トピックだと思っている。ケータイを待受メインで使ったり、家族など特定の人との連絡に用いるには、このうえなくお得なプランで、「2台目ケータイ」の需要を掘り起こした功績も評価したい。必要十分な機能を搭載しつつ、使いやすさに注力し、必ずと言っていいほど好きな色を選べるカラーバリエーションを用意した「812SH」は、まさに「ホワイトプラン」契約者に最適のケータイといえる。「新スーパーボーナス」を利用すれば、家族で一気に買い揃えても、購入時の出費0円。そんなことも市場に受け入れられた要因だろう。
「812SH」の最大の利点は手にしたときの心地よさ。エッジを丸く処理された筐体は手になじみ、17.6mmというほどよい厚みがありながら、約105gと軽量なのもいい。緩やかな隆起が施された「アークリッジキー」は買ったその日から押しやすさを実感する。円形ですり鉢状に凹んだ部分にセンターキーを配するカーソルキーも非常に操作しやすい。夏以降、同じソフトバンクの「912SH」も使っていたが、キーの操作性は圧倒的に「812SH」に軍配が上がる。唯一気になったのが発信キーと電源キーの配置。多くの機種では、これらのキーはそれぞれ「1」と「3」の上に配置されているが、シャープ製のソフトバンク端末ではカーソルの左右に配置されており、ときどき押し間違えてしまう。「812SH」のように、他社からの乗り替え、あるいは2台目としての用途が考えられる端末においては、この部分の改良を強く期待したい。
「812SH」のミドルクラスに位置づけられるため、ワンセグは搭載せず、ディスプレイも2.4インチのQVGAだが、おサイフケータイに対応し、PCサイトブラウザを備え、ソフトバンク3Gのほとんどのサービスを利用可能。さらにGSMローミング、Bluetoothに対応するなど、スペック面での不満は感じられない。メールを読んだり、ウェブを見たりする際に、液晶画面がやや狭く感じたのだが、表示フォントを小さく設定することで、その不満もすぐに解消できた。
背面パネルにサブディスプレイがミラーと一体化して目立たず配置されているのもよい。サブディスプレイは時刻やメール着信を確認するために“あれば便利な”機能ではあるが、デザイン的な見栄えを損なうこともある。「812SH」のサブディスプレイは、ときには鏡として使えて、メールを着信したときに閉じたままで本文まで確認できるのが非常に便利。外側カメラで自分撮りするときにも、ミラーの部分に頭のてっぺんが写るようにして撮るとちょうどいい構図で撮れるので役に立った。
多機能化競争が一段落し、ケータイの販売方式が変わって“2年縛り”が定着してきた2007年。長期的に使ううえで最も重視したいのは操作性。「812SH」は、そんな2007年を象徴するモデルであったと思う。
橋本保: NTTドコモ 「N905i」 | ▲ |

今年は「iモード」が登場した当時と似たパラダイムシフトが起き始めたと筆者は考えている。GoogleやYahoo!などのインターネットのプレイヤーが本格的にモバイルに照準を向け始め、パソコンとケータイの垣根がより低くなってきた。またケータイのインターネットの世界でも「モバゲータウン」が1カ月に約138.2億ページビュー、1日約4.6億ページビュー(いずれも07年11月末現在)と公式サイト以上ともいわれる求心力を持ち始めた。パソコンとケータイの関係が縮まり、公式サイト以外の一般サイトがアクティブになることで、新しい生態系が生まれているのだと思う。
こうした07年の潮流を感じ取り、具現化したのが「N905i」だ。よって「ケータイ of the Year」に選ぶことにした。
当初、紙資料で『N905i』の概要を知ったとき、「クイック検索」という機能があることに驚いた。“すわっ、「Googleモバイル」や「Yahoo!モバイル」がデスクトップ上で使えるのか!”と思ったのだ。実際は、待受画面上にあるアイコンをクリックすると検索窓が起動し、iモードサイトの中からキーワードにヒットした検索結果を表示するというものだった。12月末現在、iメニューのトップページに検索窓が設けられていない状態でデスクトップ上に「Googleモバイル」や「Yahoo!モバイル」の検索窓が設けられることは考えにくい。とはいえ、限られた条件の中で『N905i』の開発者が肌感覚でインターネットの潮流を感じ、それを体現したことは評価できる。
前述のとおり「クイック検索」は、iモードサイトの検索結果を経由して外部の検索エンジンとつながる。繰り返しになるが、iメニューのトップページに検索窓が設けられていない状態で公式サイトのコンテンツへ簡単にアクセスできることを考えると、「クイック検索」のメリットは十分にあるのだ。またエフルート、ケータイ livedoor、ニワンゴ、Yicha.jp、OH!NEW?など、各種ケータイ向け検索&ポータルサイトへキーワードを引き継ぐので、検索エンジンを選べるという副産物も生まれた。
たとえば「渋谷 居酒屋」というキーワードを「クイック検索」でサーチするとiモードサイトから「グルメぴあ」や「CLUBサントリー」などの検索結果を表示する。この状態でページの下に現れるYahoo!モバイルやGoogleモバイルをクリックすると、「渋谷 居酒屋」のキーワードを任意のサイトへ引き継いで検索してくれるのだ。
秀逸なのは、検索結果を表示した状態で機能ボタンを選ぶと、再び「クイック検索」が選べ、別のキーワードでも検索が可能になる。たとえば「渋谷 カラオケ」と新たに検索すると、新しいタブ(『N905i』ではタブブラウザの機能を「マルチウィンドウ」と呼称)で表示する。こうした使い方は、パソコンでウェブサイトを渡り歩く感覚に似ている。ケータイのインターネットは使いにくいと思われる方の不満に応え始めたという見方もできるだろう。
このほか「クイック検索」は、メールを表示した状態で、本文もしくは題名から任意の文章を選択して検索もできる。メルマガの本文からわからない言葉を調べたり、メール作成中にウェブサイトで何かを知るなど、ここでもPC的なインターネットをケータイで実現している。
象徴的なのは、文字の打ちやすさを考え、中央部が凹んだ角丸のダイヤルボタンを採用したことだ。パソコンメーカーとしての顔も持つNECがインターネットを意識すると、こういうデバイスを選ぶのだという意気込みが感じられ好感が持てた。実際の使用感でいうなら、もっさりしているとは言わないが、もう少し動作速度が速くならないかなと願う。
このほかHSDPA対応、VGA液晶、「ライフストーリービューアー」などサービスや利用シーンから積み上げた新しいポイントも挙げられるが、これらについては機会があれば触れることにする。強調しておきたいのは、公式サイト以外のインターネットがアクティブに使える小技が盛り込まれた機種がドコモ向けに出たことだ。