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交通事故のレスキューヘリ出動時間を短縮、モバイル回線を活用した自動通報システム

 救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net、ヘムネット)は、交通事故発生時に自動車から状況を自動通報し、ドクターヘリ出動の参考にするシステム「救急自動通報システム(D-Call Net)」の試験運用を開始した。

「D-Call Net」

 「D-Call Net」は、自動車に搭載されている交通事故通報システムを拡張し、交通事故の通報と同時に事故発生時に自動車に記録された情報を自動で送信するもの。同システムは、HEM-Netを中心に、日本緊急医療サービス、医療機関、国土交通省、警察庁、トヨタ、ホンダなどが開発に参画しており、システムの開発ではKDDIが参加している。

ドクターヘリ

 交通事故で怪我をした患者の場合、なるべく早期に治療を開始する必要があり、患者のもとへ救急隊が駆けつける時間を短縮する努力がなされてきた。そのひとつがドクターヘリで、高速で輸送することによって、治療開始までの大幅な短縮に成功している。

 一方で、ドクターヘリが出動を決定するまでには事故現場の状況を把握する必要があり、オペレーターによる会話が情報収集が中心の従来のシステムでは、出動決定までに10分程度の時間がかかることが多かった。

「D-Call Net」概念図

 今回の「D-Call Net」では、事故発生後平均1分、最大3分程度で自動車が記録した事故状況データを自動で送信、「死亡・重症率」を表示する機能を持つ。一定以上の「死亡・重症率」が表示された場合にドクターヘリを出動させることで、ヘリ出動までの時間を短縮できる。

デモンストレーションを行った日本医科大学千葉北総病院のフライトドクター、本村友一氏

 事故発生時に自動車が記録している衝突方向、衝突の厳しさ、シートベルトの着用有無、多重衝突の有無を自動で送信する。「死亡・重症率」は、過去の10年分の事故データをベースとして開発された専用のアルゴリズムによって算出される。

 オペーレーションセンターに設置されたタブレットに事故の情報が一画面に表示され、的確な把握が可能となる。ヘリが出動する基準となる「死亡・重症率」は県によってことなるが、千葉県の場合、当初は死亡率が5%以上の場合にヘリを出動させる運用となるという。

事故発生時に自動でコールセンターに接続し救急車が出動、あわせて事故情報を送信する
システムを解説した緊急ヘリ病院ネットワーク 理事の益子邦洋氏

 今までのシステムでは、交通事故の発生から治療開始まで平均38分の時間を要していたが、「D-Call Net」の導入によってこれを21分まで短縮できると見込まれている。試算では、すべてのドクターヘリに配備された場合、年間で282名の救命が可能になるという。

 30日に開始された実証実験ではドクターヘリを保有する9病院が参加する。自動車側ではトヨタ自動車(レクサス、トヨタ)の上位車種と、本田技研工業(ホンダ)の2013年「アコード」以降のナビ搭載車種で利用でき、順次拡大していく方針。

 自動車側の設備は、従来から搭載されている自動通報システムの更新の形で対応し、追加の利用料は発生しない。トヨタ自動車の車種では、カーナビに搭載されている「G-Link」や「T-Connect」のモバイル通信機能を利用して送信する。ホンダでは、車載ナビとBluetoothで接続したスマートフォンを経由して自動で送信する形となる。

 「D-Call Net」は今後、2018年に本格運用の開始を目指す。試験運用では、効果の検証やアルゴリズムの改善、ドクターヘリの出動を決定するための最適な基準値の決定を行う。

左から本田技研工業 取締役専務執行役員 福尾幸一氏、日本緊急通報サービス社長 倉田潤氏、緊急ヘリ病院ネットワーク 理事長の篠田伸夫氏と同会長 國松考次氏、同理事 益子氏、トヨタ自動車 専務役員 吉田守孝氏

石井 徹