ソフトバンク第2四半期決算、更なる成長をアピール


 ソフトバンクは27日、2011年度第2四半期決算を発表した。27日の決算説明会では、冒頭、代表取締役社長の孫正義氏が壇上中央に立ち、訃報が伝えられたスティーブ・ジョブズ氏を偲び、「今後も頑張って参りたい」と述べた。

 孫氏のプレゼンテーションは、同社の業績が好調を維持していること、その上でモバイルインターネットの普及に向けてスマートフォンで体制を整えており今後の成長も確信していること、そしてアジアのインターネット市場への取り組みも充分行っていることをアピールする形となった。また900MHz帯獲得に向けた強い意思表示や、エリア整備に注力していることも改めて紹介された。

「iPhone」について

 10月14日発売と、第3四半期に入ってからの出来事ではあるが、プレゼンテーションの中では「iPhone 4S」の発売についても紹介された。孫氏は、秋葉原のある量販店での発売直前の様子として「iPhone 4S買うならどっち?」と尋ねている写真を示し、「背筋が寒くなった」と語る。この写真では、ソフトバンクよりもauのほうが多い、という結果となっており、発売直前の時期に孫氏は「数百万のiPhoneユーザーから、100万規模の解約を覚悟した」と明かす。

 特にiPhoneを取り扱うようになって以降、業績の伸びを支えるのがiPhoneでは、との指摘を多く受けてきたと述べる孫氏は「もともと独占ではない、と最初から言ってきたが、この独占状態が崩れたらどうなるか懸念があった。しかし(実際に発売されてみると)霧は晴れた、というのが正直な感想」と不安が払拭されたとする。孫氏がこうした心境に至ったのは、ソフトバンクの「iPhone 4S」の予約数が過去最高になったことがあるという。

孫氏は量販店での「iPhone 4S買うならどっち?」というパネルの写真を示したユーザーの動向から「霧は晴れた」と語る

 au版が登場することから、今回の予約がこれまでより20~30%程度の伸びになると予測していたという。しかし「実際は数百%の伸び」と、具体的な数値は示さないものの、予想を大幅に上回る結果になったとして、システムダウンの要因になったと釈明した。

 さらに同氏は、au版とソフトバンク版のiPhoneの違いとして、ソフトバンク版でサポートしている機能を示し「外側は同じだが、中身は全く別物。通信規格も機能も違う」と断言。さらに、先述した“iPhoneのおかげでの業績”を払拭するように、2007年以来の月ごとの純増シェア1位を示し、「電波やブランドに力がないと言われながら、iPhone登場以前から純増シェア1位を獲得し続けてきた」と語った。

 なお、iPad 2についても在庫が品切れになったとのことで、アップルに対して緊急入荷を依頼したとのこと。

設備投資、900MHz帯について

まだ割当は決まっていないが来夏にも900MHz帯でサービスを開始すると意気込む

 ここで、同社唯一の弱点として紹介されたのが、ソフトバンクモバイルのサービスエリアだ。「今までのソフトバンクモバイルの電波は確かに悪かった、と私も認めている。認めているが故に努力してきた」と語る孫氏は、自宅接続率が他社並みに改善され、自宅以外でもドコモと同等の接続率になったとアピール。Wi-Fiスポットについても12万5000カ所の設置を達成し、他社よりも利用できる場所が多いとした。

 同社では、従来よりユーザーの意向調査を実施しており、ユーザーが解約を決断するのは自宅がたびたび圏外になるような状況、として、住宅地でのエリア整備に注力し、他社と同等まで引き上げたと説明。そうした点と、ヘビーユーザーの間でau版との違いが口コミで拡がったこと、iPhone 3GSユーザー向けのキャンペーンが評価され、解約が予想よりも少なくなったとの見方を示した。

 ただ、電波が届くようになったとしても、繋がりやすさ、あるいはデータが実際にやり取りできるか、といった“容量”での課題は残る。この面での解決策として、以前から同氏が強調する、新たな周波数帯の獲得については、総務省が近々に900MHz帯での割り当てを予定している。同氏は、ソフトバンクモバイルが900Hz帯に申請する予定として、「ドコモとauは900MHz帯、700MHz帯に両方申請するが、我々は900MHz帯だけ。日本のスマートフォンユーザーが最大なのはソフトバンク。スマートフォンのほうが10~20倍も(従来の携帯電話より)トラフィックが多い。そのユーザーが屋内や郊外での電波の到達で一番有利な900MHz帯を利用できないのは、ユーザーに対してアンフェア。不退転で獲りに行く。認可を受ければ来夏にはサービスを提供できる」と気勢を上げ、約10カ月後の2012年夏には900MHz帯でサービスを開始する、とした。

 他社に先駆けて、スマートフォンの導入を判断した同社だが、孫氏は、既に800MHz帯を利用するドコモとauに900MHz帯が割り当てられることはあり得ないとする。ソフトバンクモバイルと同じくイー・モバイルもまた800MHz帯を保有していないが、孫氏は「イー・モバイルには音声サービスのユーザーがほとんどいない。データ通信の場合はスピードが重要だが、山間部での利用、というユーザーは乏しい」と、都心部や住宅街での利用は触れず、切迫度合いが厳しいソフトバンクモバイルへの割り当てが優先されるべきと主張する。来夏のサービス開始に向けて、既に機材や工事担当者も発注したとのことで、「総務省では12月に申請を受け付け、来年1月~2月に(割当先が)確定するようだが、そこから発注しては普通は1年半~2年はかかる。しかし我々は既に多くの実験を行い、準備は万端。フライング寸前の状況で待ち望んでおり、垂直立ち上げを行う」と、既に投資を行っていることを明らかにした。万が一、900MHz帯が取得できなければ、その投資分と孫氏自身の怒りを含め、総務省に対する損害賠償訴訟をも辞さない、として意気込みを示した。また、地下鉄でのエリア改善についても同氏自身が“トンネル協会”(移動通信基盤整備協会のこと)の副会長に立候補したとして、改善に注力しているとした。

 900MHz帯の獲得および展開については、決算説明会後に、ソフトバンクモバイルCTOの宮川潤一氏が囲み取材に応じて追加の説明を行った。同氏は900MHz帯によるサービスが来夏開始された段階で、どの程度の端末・ユーザーが恩恵を受けるか、同氏自身がコメントする立場にない、としながらもiPhone 4以降では利用できるとの見通しを示した。

 900MHz帯のエリアは全国津々浦々で展開する予定で、来夏の時点では1.5GHz帯と同程度の約1万局の展開を見込み、最終的には他社と同等の基地局数を展開する計画とする。東名阪といった都市部では、より密度を濃くするとのこと。2015年までは5MHz幅しか利用できないため当初はHSPA+で展開し、2015年以降、10MHz幅(2波)が追加されればLTEへ一気に移行するという。一定期間使えない10MHz幅は、屋内で利用できるのであれば、LTEで展開したい、としたものの、現時点ではやってみなければわからないとして、不透明な段階とした。また、900MHz帯が実際に運用されれば、2GHz帯の一部を少しでもLTEに変えたい、とも語っていた。

 ソフトバンクモバイルとしては、既に基地局の場所を確保している2GHz帯においてLTEを導入するのが理想、としつつ、現実的には難しいことから、AXGPの活用をあわせて進めていく。Wi-Fiによるデータオフロードの効果は確実にある、としつつも、その分3Gが繋がりやすくなったかどうかを示す数字は算定しておらず今後検討する、とした。

移動体事業の業績とオペレーションデータ

 全体の業績(4月1日~9月30日)を見ると、連結ベースで、売上高は1兆5356億4700万円(前年同期比4.8%増)、営業利益が3732億2300万円、経常利益が3144億8500万円となった。

 このうち移動体通信事業については、売上高が1兆209億3700万円(前期同期比8.6%増)、営業利益が2500億8600万円(同20.7%増)となった。同氏は営業利益について、ボーダフォン時代は急落していたものの、買収後、V字回復したことを強調し、「買収時に、このようなV字回復の予想を示して買収する、としていたならば99%はおかしいと言っただろう。社内でももう少し保守的な計画だった。しかし実際はその保守的な読みより遙かに大きな成長を遂げた」と胸を張った。また、移動体通信事業の営業利益だけで、KDDIを抜いた、とした。

連結業績営業利益はV字回復
移動体通信事業だけの営業利益でKDDIを抜いたという通信料売上の増減率

 ここで孫氏は、通信料売上という項目において、その増減率を示す。あまり見慣れない項目だが、通信料売上は、移動体通信事業の売上高のうち、電気通信事業による売上を指すという。ソフトバンクモバイルは今上期で14%増になった一方、国内ではauが7%減となっている。ドコモはまだ第2四半期決算を発表しておらず、第1四半期だけでは1%減だったとした孫氏は、他社よりも、通信事業で高い成長を遂げたとアピールした。

 上期におけるARPU(ユーザー1人あたりの収入)は、前年同期から10円増加して4310円となった。音声ARPUは、事業社間の接続料の改定などで230円減少し、1780円となった一方、データARPUはスマートフォンの増加で240円増加して2520円となった。

 解約率は10.9%で0.13%増となった。これは大口法人の解約、プリペイド端末の解約増が要因とされている。新規ユーザーの平均獲得手数料は、前年同期から6700円減少し、3万800円となった。みまもりケータイなど、単価が低い機種の販売比率が上昇したため。端末販売全体でも、みまもりケータイ、モバイルデータ通信端末の拡大があったという。

基地局数自宅接続率
総合接続率Wi-Fiアクセスポイント数

ウィルコムの業績

ウィルコムの状況

 ウィルコムについては、「誰からも救済されないまま見放された。毎年純減し、救済を依頼されて悩んだが、我々の基地局増大のためにはやむを得ず、と救済に踏み切った」と、ソフトバンクモバイルの事業を踏まえた決断を行ったと孫氏は説明する。

 その後、ウィルコムが「だれとでも定額」を導入し、2台目の無料化などを行ったことで、ユーザー数は純減から純増に転じた。さらに第2四半期では営業利益が黒字になったほか、裁判所へ提出した更生計画では社員の半分をリストラする、としていたものの、(ソフトバンクへの出向数などは不明ながら)実際は1人も行っていない、と説明し、「ウィルコム社員の意気は高い」と述べた。

今後の成長を強調

 プレゼンテーションの後半は、今後の業績に関わる部分として、“インターネットカンパニー”を標榜する同社の展開に触れた。

 モバイルインターネット時代を予見したと主張する同氏は、iPhoneに代表されるデバイスが真のモバイルインターネットであり、10年前のiモード、フィーチャーフォンは「本物のインターネットではない」と指摘。3年前からは携帯電話メーカーに対して「スマートフォン以外は持ってこないでくれ」と依頼していたとのことで、同社ラインナップの92%がスマートフォンとなった現状を示し、インターネットへの取り組みを強化している状況を示す。こうした取り組みが、データARPUの向上、通信料売上の向上に繋がったとして「これ(ARPUや通信料売上の向上)を偶然と見るか、戦略と見るか、偶然はそんなに続くものではないと申し上げたい」と述べた。

スマートフォン比率今後の成長を約束

 またインドのバーティ・エアテルと新会社を設立することも紹介され、米国・日本・中国に続く、重要な海外展開と位置付けた。

 さらに同氏は「にわか仕込みのインターネットカンパニーではなく、筋金入りのインターネット原理主義者ということ。やっとモバイルが、音声中心からインターネット中心のマシンへ姿を変えようとしている。ソフトバンクは3000万回線を2010年代で4000万回線達成、連結ベースでの営業利益の1兆円達成を目指す。ドコモは8000億円代の営業利益であり、ドコモをいずれ追い抜く」とした。

 最後に同氏は、電話会社かインターネット会社か、という問いを出す。世界の通信企業のほとんどが電話サービスが起点となっている、とした同氏は「はたしてどちらの宗教が成長をもたらすのか。どちらの信じるものが成長を約するのか。皆さんの本能に聞いて欲しい」とプレゼンテーションを締めくくった。




(関口 聖)

2011/10/27 21:14