周波数オークション懇談会、各キャリアからヒアリング


 27日、都内で「周波数オークションに関する懇談会」第3回会合が開催された。今回は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・アクセス(イー・モバイル)、ウィルコム、UQコミュニケーションズの6社が揃い、周波数オークション制度の検討に対する各社の要望や懸念点が示された。

 各社からの意見陳述は、1社あたり5分、計30分程度設けられ、その後、1時間半かけて有識者の懇談会構成員から質問が投げかけられた。各社は、周波数オークション導入においては落札額が高騰する懸念、新規参入を妨げる可能性や、資本に余力のある事業者に電波が集中する可能性などが示された。こうした意見は、「先進国では日本だけが導入していない」と語る大阪大学名誉教授の鬼木 甫氏が「(各社は)諸手を挙げて賛成という雰囲気ではないようだ」と述べるなど、周波数オークションに消極的と見える部分もあった。

 質疑が進められる中でイー・アクセスが「まったくの更地で何をやっても良いという状況であれば夢は出てくる」と述べるなど、事業者側は周波数オークションそのものを全て否定するのではなく、公正な競争環境、落札額の高騰防止など、条件が整っていればメリットがあるという見方もなされた。

各社の見解

 NTTドコモでは、周波数オークションのメリットに国庫収入の増加がある、としながら、落札額の高騰は品質への影響、高度化の遅れに繋がりかねないと指摘。また、一度獲得した帯域の免許有効期間が切れ、新たにオークションが行われてしまうと、ユーザーに不利益が発生するとして、再割当はオークション対象にしないことが適当ではないかとした。このほか、オークションにかけられる帯域は事前に公平な情報公開が行われること、技術革新が早い現状にあわせて将来の拡張性を踏まえること、事前に想定していない電波干渉が起きた場合の対策などの検討も求めた。

 KDDIは、これまでの携帯電話サービスが新規市場を開拓し、ユーザーの利便性向上に貢献してきたとアピールし、こうした流れを止めるような制度は避けるべきとする。またドコモと同じく、事前の情報公開も求めた。

 ソフトバンクモバイルは、電波の公平利用という観点を掲げ、通信分野と放送分野の電波で用途を区別せず、横断的に使う必要があるのではないかとする。二次取引(転売)などの制限も指摘したほか、大資本の事業者が電波を独占するケースに懸念を示して、公正な競争環境への配慮も必要とする。

 イー・アクセスは、市場競争の停滞、新規参入の阻害を懸念する。また、大資本の事業者が電波を独占し、現在の競争力の差が、オークションによって拍車がかかり、格差を助長する可能性を不安視する。2005年に免許を得て携帯事業へ新規参入した同社ならではの見解として、もし2005年時点でオークションが行われていれば、上下5MHz幅で1000億円かかった場合、1ユーザーあたり4万円の追加負担が必要で、オークションにかかった費用を回収するためには競争力のある料金設定、積極的な投資は難しく、設備投資額にも影響するとした。

 ウィルコムは、電波の買い占めを排除しつつ、新規参入を促せる制度が実現できるかどうかと指摘。また、オークションだけではなく、電波利用料の負担が大きすぎるのではという意見も出された。

 UQは、小規模な事業者に配慮して、オークションにかけられる電波が細切れになる可能性を案じて、FDD方式では10MHz幅以上、TDD方式では20MHz幅以上など、一定の帯域をまとめるという考えを示した。電波利用料については、UQは年間29億円支払い、現行制度でも、周波数の有効利用を心掛けさせる仕組みになっているとして、オークションが行われる際は電波利用料を課すかどうか検討するよう訴えた。

 

オークションは競争を促進するか

 各社からの意見陳述が終わると、構成員の鬼木氏は「先進国で導入してないのは日本だけで他国からかけ離れている」と述べると、各社は、海外と比べ、日本のサービスの高度化は進んでおり、料金水準も含め、引けを取らないとの見解が示された。特にUQからは、比較審査で免許を割り当てる日本と、オークション導入済の諸外国とでサービス状況が同等と言えるのであれば、結果として「日本がオークションを導入していないのはまずいとは一概に言えない」と述べた。

 またオークション導入の時期について、イー・アクセスからは「海外でオークションが行われたのは、3Gの黎明期などで、各事業者にまんべんなく割り当てられる帯域があった。これだけ高度化してエリアが完成している日本の現状で、オークションを導入することに懸念を感じる」との指摘がなされた。こうした見方は、周波数オークションの対象とする電波帯域が、既存サービスも利用可能とするのか、あるいは新規サービスに限定するのか、今後の検討が必要な部分と言える。

 こうした事業者の意見に対し、鬼木氏は「もし日本の3Gサービス開始時に、オークションが導入されていれば、もっと良いサービスが実現していたのではないか。証明はできないが、だから導入したほうがいいと思っている」と語り、コンビニ業界を例に挙げる。同氏は、土地を自由に取得して店舗展開できるコンビニ業界は競争が激しく、店員のスキルも高いとする。コンビニと通信業界は同じではないものの、一定の土地(電波)に利用が制限された場合、政府が参入事業者を選定する方式と、オークションという競争で参入できる方式のどちらが望ましいか、各社に意見を求めた。

 これに対して各社は、現状であっても各社間で厳しい競争にさらされていると述べる。特にウィルコムは、「もしオークションが行われていれば、もっと競争があったのではということだが、参入者の顔ぶれは変わっても人数は同じではないか。移動体通信は生ぬるい競争ではなく、実際に、ウィルコムは一回潰れた。データ定額、音声定額と必死にやって、ここまできた。“オークションがなくてあぐらをかいていた”という状況ではないと思う」と、鬼木氏の見解を否定した。またソフトバンクモバイルも「コンビニは面白い観点だが、出店閉店が容易なコンビニと比べ、インフラ事業はそう簡単に動きにくい」とした。

電波利用料について

 質問に答える形で、各社からは、通信量の増大傾向は今後も続き、更なる周波数帯域が必要との予測も出された。また免許の有効期間も、オークションで割り当てられた場合は現状の免許期間よりも長い方が望ましいとされた。

平岡副大臣

 平岡秀夫総務副大臣は、電波利用料に関連し「電波利用料とオークションを1つにまとめたような形」と「電波利用料に加えてオークション費用という形」という例えを示し、「あのときこう言ったじゃないか、と後から責めない。この2つのほかにも第3のアイデアあがれば聞かせて欲しい」とざっくりした案への意見を求めた。

 ドコモは「オークションがどういう位置づけになるか、という議論になるだろうが、オークション導入後の電波利用料は、オークション対象の帯域から除外するのが適当」とし、KDDIも「オークション代金の一括払いか年ごとの支払いか、という点では会計処理上の課題もあり、今後(懇談会で)検討していただくとありがたい」とした。また、ソフトバンクモバイルは「現状の電波利用料は、管理費用としては高いのではないか。低い電波利用料とオークションの組み合わせはあるかもしれないが10年かければ結構な額になりそうだ」と高額な支払いを危ぶむ。またイー・モバイルやウィルコム、UQも「電波利用料+オークション代金」という形は、高額な支払いの可能性が高まるとした。

 電波利用料から派生する形で、A.T.カーニー プリンシパルの吉川 尚宏氏から周波数オークションの在り方として「1MHz幅あたりを定額にしたほうが利用効率が高まり、インセンティブが図られるのではないか」とアイデアが出された。今回のヒアリングの中でも、一部事業者の電波買い占めを懸念し、「1事業者あたり数十MHz幅まで」のような形で割当に上限を設定する考えは出ていたが、吉川氏の案は帯域1つの値段はそのままで、応札する事業者が取得する周波数幅を判断し、取得できた分の電波はできるだけ多くのユーザーに利用できるようにする……という流れが期待できる。この点について意見を求められると、UQは「長期的に見ればそうかもしれないが、電波の利用効率という観点では、新規参入においては徐々に費用が増えるという形のほうがやりやすく、初期費用が大きくなるのは厳しい。もっとも資金が潤沢であれば、そうした考えもありえる」と回答し、新規参入事業者にとっては壁になるとした。

 会合終盤には、オークションの導入が企業の投資判断に影響するかどうか、平岡副大臣が問うと、「入札者は経済価値を認めて応札するが、高騰すると企業努力で吸収できるもの、できないものがある」(ドコモ)、「ファイナンス面で金融機関が『余計なことをするな』と言う可能性はある」(ソフトバンクモバイル)、「(獲得した免許の有効期限が切れることがあれば)投資を続けていいか考えるだろう」(ウィルコム)など、各社がコメント。平岡副大臣は最後に「本当に難しい課題があるというのが率直な感想。しっかり整理して対応できるようにしたい」と語っていた。

 



(関口 聖)

2011/5/27 21:23