ドコモとDNP、携帯向け電子出版ビジネスで基本合意


ドコモの辻村氏(左)とDNPの高波氏

 NTTドコモと大日本印刷(DNP)は、携帯電話向け電子出版ビジネスにおける業務提携に向けて基本合意した。

 基本合意の主な内容は以下の通り。

【1】ドコモユーザー5600万人を核としたユーザー向け電子出版プラットフォームの共同構築
【2】書籍やコミック、雑誌、新聞など10万点を超える電子出版コンテンツの収集・電子化・販売
【3】ドコモ携帯電話、スマートフォン、タブレット型端末、電子書籍専用端末に対応した電子書店サービスの運営
【4】DNPグループのリアル書店(丸善、ジュンク堂、文教堂)やオンライン書店(bk1)との連携
【5】両社で新たな読書マーケットを創出する。

 NTTドコモとDNPでは、今秋にもサービスを開始する予定。これに向けて共同事業会社設立の検討や、出版社やメーカーなどの協力を働きかけていく。また、海外に向けた配信も想定したビジネス展開も検討するとしている。

「単なる紙の置き換えではなく、電子だからこそできるもの」

 発表会に出席したNTTドコモの代表取締役副社長の辻村清行氏は、両社の共同事業会社を設立し、「電子書店」を展開すると語った。同氏は「単なる紙の置き換えではなく、電子だからこそできるものを目指す」と語り、そのキーワードとして、「リアル×電子」と「オープン×マルチ」という2つを紹介した。

 「リアル×電子」は、リアル書店と電子書籍の連携を指すもので、リアル書店と電子書店をユーザーが自由に選択できるような環境を構築するという。サービスの詳細は未定だが、たとえば、書籍発売前に先行して電子書籍を配信したり、書籍と電子書籍をセット販売したり、リアル書店と電子書店のポイント統合するといった施策が検討されているという(DNP常務取締役 北島元治氏)。

 一方「オープン×マルチ」は、プラットフォームのオープン化を実施し、さまざまなフォーマット、さまざまなデバイスに提供することを意味する。出版社や端末メーカーにはすでに声をかけ、オープンにやっていくと述べた辻村氏は、両社による電子書店のサービス開始後、当初はメーカーブランド含めドコモ回線を利用する端末のみに対応が限られるが、将来的にはKDDIやソフトバンクモバイルへの対応拡大も予定していると語った。

 課金・決済プラットフォームはNTTドコモが提供する。両社は、ドコモの5600万の顧客基盤と安定した通信回線、販売チャネルなどの強みと、DNPのデジタル化のノウハウと出版業界での実績、そしてリアル/オンライン書店運営ノウハウなどを融合する。

 さらに、2011年春にも第2ステップとして、マルチデバイスで利用できるしおり機能などが提供される予定。たとえば、パソコンなどで読んでいた途中から、スマートフォンや専用端末に切り替えて読み進めることができるという。

ドコモの冬のスマートフォン、1つは電子書籍専用端末

 辻村氏は、共同事業会社が運営する電子書店のオープンを、10月末~11月頃とした。対応する端末は、当初スマートフォン端末に限られ、iモード対応端末への展開は2011年3月末~4月頃になる見込みとした。

 ドコモでは、2010年の秋冬商戦向けに7モデルのスマートフォンを投入することを既に明らかにしている。このうち、1機種はサムスン電子製の「Galaxy S」が予定されている。今回の会見で辻村氏は、7モデルのうち1機種が電子書籍専用端末であると述べ、2010年末もしくは2011年早々に発売予定であると語った。

 なお、今回の発表文には、NEC、LGエレクトロニクス、サムスン電子といった端末メーカーが賛同のコメントを寄せている。出版社からは講談社と小学館の2社がコメントしている。



DNP高波氏、DNPのリアル連携電子書店に弾み

 DNPの代表取締役副社長である高波光一氏は、今回の業務提携について、「DNPが目指している、オープンなプラットフォームで生活者の最大ベネフィットを実現することに大きく近づくのではないか」と語った。

 DNPでは今年7月、子会社のCHIグループ傘下で図書館流通センターが運営するオンライン書店「bk1」と、DNPグループのリアル書店である丸善、ジュンク堂、文教堂などの各書店が連携し、秋にも電子書店をオープンすると案内している。

 また同月、凸版印刷とともに「電子出版制作・流通協議会」を設立し、電子出版ビジネスに関するスタンダード作りを標榜し、電子書籍への注力している。高波氏は、こうしたDNPの取り組みに、ドコモの5600万ユーザーと通信インフラが連携することで、他社にはないサービスが提供できるとした。



電子出版は黎明期

 なお、コンテンツの価格や提供形態などについては今後、出版社などと協議しながら検討していく。ドコモの辻村氏は、電子書籍事業に乗り出したアップルが販売手数料として30%を得ていることについて、「ちょっと高めの印象」と話す一方、ドコモとDNPの課金手数料の詳細は決定していないとして語られなかった。両社は共同事業会社の出資比率などの詳細も今後詰めていく。

 辻村氏は、記者の質問に回答する形で電子出版の市場規模について語り、「出版ビジネスは全体で3兆~4兆円ぐらい。どのくらい時間がかかるかは別として、今後その2~3割は電子コンテンツに移っていくのではないかと考えている。そのうちの何割か、つまり数百億円をとりたい」と述べた。その達成時期については、利用者の利用動向などに関連するため「正直、わからない」とした上で、「とりあえず3~5年後」と一応の目途を示した。

 電子出版に関しては、KDDIやソニーらの提携、シャープの次世代XMDF、ソフトバンクとアップルの「iPad」やAmazon.comの「Kindleなど、さまざまな取り組みが発表、ないしサービス提供されている状況だ。辻村氏はこうした現状について「電子出版ビジネスは黎明期。配信方法も知恵比べの時期」などと語り、今後まだまだ動きがあるとの見方を示した。

 また同氏は、電子書店がプラットフォームについて、将来的に1つに絞られるということはないだろうと予測し、他の電子書店やプラットフォームと連携を図りつつ、需要に即して淘汰されていくとした。

 



(津田 啓夢)

2010/8/4 15:42