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総務省の中の人が語る「楽天モバイルの料金」とは――5G時代×MVNOに向けたイベント「MVNOフォーラム」

 これからのMVNO市場について、有識者や業界関係者が語るイベント「MVNOフォーラム」(テレコムサービス協会 MVNO委員会主催)が6日、開催された。

 基調講演に登壇したのは、総務省 総合通信基盤局の竹村晃一 電気通信事業部長だ。MVNOをテーマにした講演で、同氏が触れた内容は、国内の携帯電話市場に関するさまざまなデータ、改正電気通信事業法の目指すところ、5Gサービスの展望と今後のMVNO向け機能開放の考え方などで、いずれも業界の動向を知る上で重要な話題だ。

竹村氏

 それらは後ほどご紹介するとして、まずは社会的にも大きな注目を集めた楽天モバイルの料金について、竹村氏がどのようなコメントを寄せたかご紹介しよう。

「かなり斬新」

 4月8日からの正式サービスをいよいよ発表した楽天モバイルは、月額2980円で、同社サービスエリア内であれば使い放題(auのネットワークを利用するローミングエリアは月間2GB)というプランを打ち出した。

楽天モバイルの4Gサービス開設計画

 そんな楽天モバイルについて、竹村氏は、「設備投資額もとても少ない印象はある」とコメント。楽天側からの報告をもとに基地局数の設置計画について、目標をおおむねクリアできるだろうと見る。

 そして3月3日、ついに発表された月額2980円のプランについては「かなり斬新なプラン」と評価。その上で「ワンプランのみの新鮮なプランを出して参入するエリアをどれくらいのスピードで広げられるかが鍵だろう」とした。また同氏は、楽天モバイルのプランと競合他社を比較する資料を提示し、「エリアは限定されるが、MVNOでのサービスと同水準の価格」と解説し、競合他社よりも大幅に割安になっている状況とした。

改正法根拠となったデータの数々

 楽天モバイルの参入は、携帯電話市場において競争を進め、料金を引き下げる効果をもたらす、と総務省では期待している。改正電気通信事業法などを含む2019年度に進められた施策のひとつと位置づけられる。

 引き下げが期待される通信料金は増え続けており、家計において大きな比重を占める、と竹村氏はデータを示す。今回あわせて紹介されたそれらのデータは、総務省がなぜ、改正電気通信事業法のような規制を新たに導入するにいたったかその根拠と言える情報だ。

現在の状況
家計における通信費
携帯電話料金(緑のライン)は10年間で1.4倍
通信費が占める割合
MVNOの契約数
MVNOのシェアの伸びは鈍化
純増数で見るとMNOとMVNOの違い
LTEサービスが伸び続けている
スマートフォンが行き渡ってきたが、まだ3Gフィーチャーフォンユーザーは多い
MNO各社のARPU
データ通信量の動向。半数が2GB未満だという
MNO各社は通信以外の領域へ進出し一定の規模へ成長してきた
パートナー企業との連携が進む

検証は今後

 そうして導入されたのが端末割引の上限が2万円に制限されることなど。折りしも5Gサービスが始まろうとしている現在、ハイエンド機種が購入しにくくなる、といった指摘が多く挙がっているが、竹村氏は「市場を過度に冷やさないかといった意見があるが評価検証していきたい」と述べ、総務省で新たな有識者によるワーキンググループを立ち上げ、政策の効果を検証していくと説明した。

競争促進のための政策
改正電気通信事業法の骨子
法改正にあわせた制度の整備
SIMロックもクレジットカードでの支払いでは即時解除などルールが変わった

料金値下げのためにMVNOも

 楽天モバイルが安価なプランで本当に展開していくのであれば、今後影響が出そうな企業が“格安SIM”とも呼ばれるMVNOによるサービスだ。

 総務省では、競争を進めるため、楽天モバイルの新規参入とともに、MVNO促進も主要な政策としている。

 では具体的にどんな点に着目するのか、竹村氏が紹介するのが「接続料」だ。

 大手携帯各社が設備投資を進めれば、容量が増え、余裕が増える。その分、接続料も下落してきたが、国内の4G LTEサービスの品質が一定レベルに達したこともあって、携帯各社の設備投資は一服している。そのため接続料があまり下がらない環境となっており「低廉化は下げ止まっている」と竹村氏。

卸役務に関する資料
eSIMに関する機能をMVNOへ開放すべきとされている

 新たに総務省では、将来原価方式と呼ばれる形式で、接続料を算出する仕組みを導入する。これによりMVNOは、これまでよりも回線調達費用の目算を立てやすくなる。

 そして次なるターゲットは、音声通話の接続料。「10年くらい音声の料金が下がっていない」とした竹村氏は、有識者会合でも問題視されている、とした上で、今後、検証や必要な措置などを検討するとした。

5GでもMVNOへ開放を

 いよいよ登場する5Gサービスについては、「機能開放が重要なポイントになる」と説明。大手携帯各社から、MVNO向けにちゃんと情報を提供することが重要であり、「春からMNO(大手携帯会社)が5Gを始めるが、総務省としては、MVNOも同時期に提供を開始できるよう機能開放が行われることが適当」としており、時間差を設けずにMVNO版の5Gサービスが登場するよう、携帯大手に求めているとした。

5Gの特徴
MNOの5G基地局計画
全国を10km四方のメッシュに区切って展開
4Gから5Gへの移行シナリオ

 その際には、5Gでも接続料が設定されると見られるが、竹村氏は「当初は、ノンスタンドアロン方式で4Gと一体化されており、接続料も一体になるだろう。5G単独になったとき、4Gより高額になるのなら、適正な差額か検証が必要だ」とする。

ネットワーク仮想化時代における環境
MVNO委員会の提言

 さらに竹村氏からは、MVNO委員会が、自前のコアネットワークを持つフルVMNOと、MNOのコアネットワークの機能をAPI経由で利用するライトVMNO」という新たな仮想通信事業者を提言していることが紹介される。そのためにはMNO側へ新たな機能開放を求めるかどうかなど、今後の在り方も議論していくこととが示された。

クロサカタツヤ氏が指摘する「5Gの幻滅期とMVNO」

 今春、大手携帯各社がついに導入する5Gでは、新たな通信技術がもたらすバラ色の未来が期待されているのではないか――と語るのは、総務省での有識者会合構成員などを務めるクロサカタツヤ氏だ。

クロサカタツヤ氏

 ドクターヘリが移送中に手術する、スポーツの試合で選手目線の3Dライブ中継が行われる、といったイメージは「最終的には訪れるだろう」と見立てるも、2020年のこの春に実現するかどうかと言えば、まだまだ時期尚早とクロサカ氏。

 5Gへの注目が高まる現在、これまでの通信サービスから一気に5Gへ乗り換える、といったイメージを持つかもしれないが「もとも通信技術は20年を超えて利用されるものであり、2000年前後に登場した3Gサービスもまだ使える。4G LTEが登場してちょうど10年と折り返しであり、まだ生き残っていく」とクロサカ氏は述べ、5Gサービスはしばらくのあ間、4Gを前提にした使われ方になっていく、と説く。

 こうした予測を裏付けるものは、5Gが先行してスタートした海外での状況だ。たとえば米国サクラメントでは、宅内回線向けにベライゾンによる5Gサービスが提供されている。とある地域で展開されている基地局は107で、そこには2861の世帯が暮らす。

 単純に計算すると、基地局1カ所で約27世帯をカバーすることになるが、基地局から約100mほど離れると、電波が届きづらく実際に利用できる世帯は半分以下になってしまう。電波が届きにくいといっても、そこはさほど高さのない住宅が並ぶエリアで、遮るものが少ない。それでも届きにくいのは、5Gで用いる電波がとても高い周波数帯で、扱いづらいため。その結果、その地域で契約するユーザー数は基地局1つあたり1.5世帯と推定されている。

 こうした状況は日本でも同様と見られ、クロサカ氏は5Gが実際に始まってみると、ガートナー社のハイプ・サイクルで言うところの「幻滅期」になると予測する。それでも5Gは今後の社会に欠かせない通信技術であり、時間をかけて広まることは確実。そこで業界を牽引するのは誰か、そこでMVNOの知見ではないか、と同氏は指摘する。

MVNOにとっての5G
高い周波数は広い帯域になるがカバーエリアは狭い
周波数の違いでカバレッジを変えることも
周波数やローカル5Gなどがそれぞれ異なる役割を担っていくとの指摘
ハイプ・サイクルでは5Gはこれから幻滅期に
デバイスもスマホ以外に広がっていく
徐々に5Gらしい世界へ
MNOもまだ悩んでいる

パネルディスカッションで示された? 5G時代のMVNO

 イベントの最後には、ジャーナリストの石川温氏、MM総研研究部長の横田英明氏、そしてIIJ取締役で、MVNO委員会委員長の島上純一氏の3人がパネラー、クロサカタツヤ氏がモデレーターとなってパネルディスカッションが実施された。

クロサカ氏がモデレーター

 楽天モバイルやソフトバンクの発表会が相次いだ週だったこともあり、石川氏は「5Gといっても4Gとあまり変わらない。ソフトバンクのサービスも未来感を演出するが、4GやWi-Fiでも使える。キャリアも5Gらしさの追求に苦労しているのでは」と指摘する。

石川氏

 「アンリミテッドがキーワードになりそうでは」と話を振るクロサカ氏に、横田氏は「将来的には間違いない。そのときには宅内向けの固定回線も影響を受けるのではないか」と分析する。さらに横田氏は、大手キャリアの使い放題プランが一般的になるとMVNOへの影響大きくなり、事業規模として耐えられない事業者も出てくると予測した。

横田氏

 この予測にクロサカ氏も「3GPPでの5Gの規格を見ると、モバイルも固定も区別しなくていいと考えている節がある」と応じる。さらに使い放題になれば、いわゆるゼロレーティング(特定のコンテンツの通信料を無料にするサービス)も意味がなくなるとして、そうした中でMVNOはどんな価値を見いだすべきか、と島上氏に問いかける。

島上氏

 島上氏は、大容量/使い放題プランはITリテラシーの高い層では多く利用されるだろう、とした上で、「まだまだそこまでいっていない人も多い」とする。総務省の竹村氏が示したデータでも、2GB未満のユーザー数は一定数いる、とされており、割安さを引き続き武器にできるとの見立て。その上で島上氏は、音声通話の卸料金の見直しなどが今後さらに進むことに期待感を示した。

 総務省の施策に期待するMVNO側の島上氏の言葉に対し、石川氏は、クロサカ氏の「総務省はグランドデザインを描けているか」という問いに「できていない。ルールを作ることで、MNO、MVNO(両方の)足かせになる」と厳しい一言。

 たとえば、ソフトバンクの料金プランには大容量のものと低容量のものがある。これは総務省が低容量プランの導入を大手キャリアに求めたからと語る石川氏は「MVNOがわりを食っている」と述べ、市場競争を進める上で、総務省が事業者ごとに求める役割のちぐはぐさを浮き彫りにした。

 そうした中でもMVNOには消費者向けサービスもあれば、モジュールを活用するものがあり、制約のなかで通信だけを共通項にしてさまざまな異なる分野でのビジネスが展開されていると島上氏が語ると、クロサカ氏は、5G時代でのMVNOの可能性を見いだす。

 これに石川氏は「可能性は感じる。さまざまなものに通信が入る」としつつも、「それは総務省の言う通信と端末の分離と矛盾しないのか?」とチクリ。

 総務省の会合で有識者の1人として参加していたクロサカ氏は「言い訳させてください。でもその指摘には共感する」として、未来の姿として、端末と回線云々ではなくユーザーはサービスを求めると会合で説明してきたことを紹介。総務省側にも、将来的に課題が出てくれば対応を考えるべきであり、先回りして規制することはやめる、という方向で理解してもらっているはず、と語った。

 パネルディスカッションでは、MVNO自身がさまざまな分野で展開するプレイヤーになり得るのではないか、という論が紹介された。例として石川氏からクラウドSIMやGoogle Fiのようにキャリアを横断する通信サービスがすでに存在することや、クロサカ氏が条件ごとにより良いパートナーと手を組み“事業上の仮想化”を展開できる時代環境ではないかと指摘する。

 5Gサービスに対し、大手キャリアは異業種の事業者をパートナーとする戦略を強く押し進め、また技術面でもネットワークスライシングという仕様で、サービスごとにネットワークの機能を使い分けられるようになる、とされている。

 今回のパネルディスカッション終盤では、来たる5Gのスタンドアロン仕様の導入時期を想定し、MVNO自身がネットワークの価値や機能、役割を、必要に応じて提供し、MNOよりも小回りを効かしていく姿を描く。MVNO委員会が提唱するフルVNO、ライトVNOといった事業者の形態が本当に実現できるのか、5Gが社会に実装され、さらにデータやセンシングを活用すると言える時代になり得るのか、MVNOが担える大きな役割があることが示されたディスカッションとなった。

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