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孫氏「ARMはソフトバンクの中核事業」、決算会見で語る

 「ARMは圧倒的にソフトバンクの中心中の中心になる」「時間の使い道、これからはARMとスプリントが45%ずつ。残り10%はその他のこと」

 28日、ソフトバンクグループの2016年度第1四半期決算において代表取締役社長の孫正義氏が、先ごろ買収にいたった英ARM社と、米国子会社の携帯電話事業者であるスプリントについて、注力する姿勢をあらためて示した。

孫氏

ARM買収、活き活きと語る

 会見冒頭、ARMの会長へ買収の提案を行ったのはテロが発生した直後のトルコでのことだった……と振り返った孫氏。英国のEU離脱選択や、ARM会長との会見後にトルコでクーデター未遂が発生したことなどに触れて、「歴史的な偶然が重なった」と感慨深く振り返る。

 直前にARMの決算が発表され、増収増益だったことを紹介した孫氏は、「営業利益率が50%を超えている。このままでも成長するが、2~3年は目先の利益を少し減らしてでも、IoTというパラダイムシフトに向けて先行投資しよう、技術者を増やしましょうと提案したら、(ARM側が)非常に強く共感してくれた」と説明する。

 ARMは自社工場を持たず、CPUのコア技術を開発して、他社へライセンスを供与する企業。主な顧客として、ルネサス・エレクトロニクスやクアルコムなどがいる。消費者が手にするスマートフォン、自動車などに搭載されるCPUの大半がARMの技術を利用していると見られ、孫氏は「スマートフォンの97%に搭載されているのではないか」と説明する。

 さらに孫氏は、ARMの主力製品についての解説まで行う。現在はアプリケーションプロセッサの「Cortex-A」、リアルタイム処理が求められる自動車などに利用される「Cortex-R」、省電力性に優れIoTデバイスなどでの利用に向けた「Cortex-M」があり、さらに2017年には、新製品の「Cortex-A73」が登場し、そのスペックは現在のスマートフォンに搭載される「Cortex-A57」の2倍になる、と説明する。

 そうした先進的な機能開発は今後も継続し、特許も取得していく、と語る孫氏は、「20年後、1兆個のチップがばらまかれる」とさまざまなデバイスにARMのチップが搭載されるという未来図を描き、ハードウェア~コンテンツにいたる、“総合インターネットカンパニー”になる、と意気込む。

ARMとのシナジーとは

 一方で、CPUの内部にあるコア技術という、現在のソフトバンクグループの事業とは遠く離れた分野であるARMとのシナジーを問う声が挙がると、「(シナジーがよくわからない)だからいいんです」とにんまり。

 孫氏は、クアルコムやインテル、あるいはアップルなど、ARMとの相乗効果が直接的で、わかりやすい企業が買収に乗り出そうとしても、各国の独占禁止法に触れてしまい、買収できない、と説明。

 またソフトバンクと同じような立場の他社がARMを買収しようとしても、「シナジーがわかりづらい」と取締役会で取り沙汰されて買収できない、とも語った孫氏は「囲碁で、自分の置いた石のすぐそばに次の手を打つのは小学生の囲碁。名人戦だとぽーんと離れたところに置く。(ソフトバンクの既存事業との関連について)繋がりを説明する気はないし、競争があるなかで繋がりを言うことはできない」と明言を避けた。

スプリント、「会議が楽しくてしょうがない」

 1年前、「必ず改善してみせる。光は見えた」と語っていたスプリント事業について、今回、孫氏は解約率が改善したこと、ドルベースで売上高を見ると前年同期から横ばいになったことから、業績悪化は底を打ち、2016年度は黒字へ転換できる、と自信を見せる。

 これまでの会見でも触れていたように、今回もまた、ネットワーク設備の整備によるエリアの拡充、そしてコストカットといった手法を採っていることをあらためて紹介。規模としては日本の携帯電話事業よりも大きく、日米あわせれば、米国トップクラスのAT&T、ベライゾンに匹敵する収益源になる可能性がある、とその未来を描く。

孫氏
「1年、2年前は地獄のような苦しみだった。早く売りたくて仕方なかった。しかし、今、スプリントの会議が楽しくてしょうがない。いよいよ改善が見えてきた。フリーキャッシュフローが改善し、今年初めて、年間を通じて黒字になりそうだ」

国内事業、もう興味なし

 その一方で、国内の携帯電話事業については、「キャッシュフローの一番の稼ぎ頭」と述べて、現時点では最も重要な収益源との見方を示すも、現在ソフトバンクのモバイル事業として1つのブランドになった「ワイモバイル」を、1つの子会社と勘違いしてコメントする場面があるなど、関心が薄れていることは隠しきれない。

 これからの時間の使い方も、スプリントとARMに45%ずつ割り当てる方針と明らかにした孫氏。スプリントのチーフネットワークオペレーター(ネットワーク関連の責任者)職は2017年末まで務める意向で、ARMについては中長期の戦略に関わっていく方針だという。