インタビュー
ファーウェイのSIMフリースマホ戦略
ファーウェイのSIMフリースマホ戦略
端末事業プレジデント呉波氏に聞く
(2015/6/19 18:17)
ファーウェイは最近、国内の大手キャリア経由ではスマホを発売していないが、昨年夏よりSIMフリースマホの販売を開始しており、その取り扱い機種数もどんどん増やしている。
最近のファーウェイの動きとしては、5月には楽天市場に初の公式オンラインストア「Vモール」をオープンし、オンラインチャネル向けのhonorシリーズを展開。SIMフリースマホ「honor6 Plus」を同ストアと楽天モバイルから発売。6月にはさらに新モデルの「HUAWEI P8lite」と「HUAWEI P8max」、ウェアラブルの「TalkBand B2」、タブレットの「MediaPad M2 8.0」を発表した。ファーウェイがグローバルで展開している機種数に比べると、これでもごくほんの一部に過ぎないわけだが、それでもこのペースは、国内SIMフリー端末市場に対するファーウェイの積極性が表われている。
そもそも日本国内においては、SIMフリースマホのマーケットはまだまだ立ち上がったばかりだ。今回はこのファーウェイによるSIMフリーマーケットへの取り組みについて、ファーウェイ・ジャパンの端末部門を統括するデバイス・プレジテントの呉波(ゴ・ハ/Wu Bo)氏に最新の国内戦略についてお話を伺った。
honorブランドとHUAWEIブランドの違い
――5月にはhonorブランドのスマートフォンを国内で発表されていますが、今回はファーウェイ(HUAWEI)ブランドです。この2つのブランドはどう違うのでしょうか。
呉波氏
honorブランドは海外では2年前に打ち出したものになります。honorブランドについてはオンラインストア、Eコマースで展開するもので、日本国内では楽天モバイルでの独占販売になります。このEコマースで展開するというのが違いになります。
――楽天をパートナーとして日本でのオンラインストアオープンさせた狙いとは?
呉波氏
少し前まで、日本ではEコマースで販売されるSIMフリースマホはほぼゼロでした。しかし海外、とくに中国では過去2年間に急速にEコマースのスマホ市場が伸びていて、数千億人民元(1人民元は約20円)の市場規模となっています。
たとえば中国のEコマースサイト「JD」(京東)においては、昨年の11月11日(中国ではシングルの日としてパートナーがいない人が買い物する日となっている)に約500億人民元を売り上げました。約1兆円です。
JDは日本でいう楽天のようなショッピングサイトです。日本では楽天と一緒に、この新しいビジネスモデルを成功させていきたいと考えています。
――今回はスマートフォンとしてHUAWEI P8maxとHUAWEI P8liteの2機種を発表されていますが、こちらはどういった製品なのでしょうか。
呉波氏
まずHUAWEI P8liteは日本市場では初となる、税別3万円以下のオクタコアスマホとなります。一方のHUAWEI P8maxは1300万画素以上では世界初のRGBW4色センサーを搭載したスマホです。
Pシリーズは主にカメラ機能にフォーカスしたモデルになっています。どちらのモデルもカメラアプリにパーフェクトセルフィ機能やタイプラプス機能(コマ撮り)を搭載しています。さらにHUAWEI P8maxには、車のテールランプの軌跡を撮る機能、暗闇にライトペンで絵文字を描く機能、小川をなめらかに撮る機能、夜空の移り変わりなどを撮る機能から成る、ライトペインティングモードを搭載しています。
――P8maxはサイズ的にファブレットですね。この大きさのモデルを投入する狙いとは?
呉波氏
非常に良い質問ですね。そこにHUAWEI P8maxを日本に投入する理由もあります。
今年頭の時点で日本には約6000万のフィーチャーフォンユーザーがいます。日本ではフィーチャーフォンユーザーがスマホに乗り換えるペースが遅いです。こうしたスマホになかなか乗り換えてくれないユーザーにも、7インチタブレットの需要があることがわかっています。しかし7インチタブレットでは大きくなり、携帯性には優れません。
HUAWEI P8maxは6.8インチとタブレット並みのサイズですが、タブレットと異なり狭額縁デザインとすることで、ポケットに収まるレベルにしました。主にフィーチャーフォンを使っているユーザーをターゲットとし、HUAWEI P8maxを第2の端末として併用してもらえるように投入します。フィーチャーフォンを音声通話に使っていただき、それ以外のデータ通信をHUAWEI P8maxと使い分けていただければと考えています。
――初心者やシニアでも使いやすいシンプルモードや文字を大きくするモードはあるのでしょうか。
呉波氏
HUAWEI P8maxに限らず、HUAWEI P8liteでも文字を大きくしたりシンプルなUIを選べます。逆に片手操作が難しくなるので、親指が届く範囲に画面を縮小表示させる機能も搭載されています。
――スペックを細かくチェックすると、HUAWEI P8maxとHUAWEI P8liteでLTE対応帯域(バンド)に微妙に違いがあります。
呉波氏
日本市場でどういった周波数帯域に対応すれば良いかを検討する際にどのモデルもグローバルモデルがベースとなるため、日本のバンド要求に完璧にはマッチできない場合かありますが、影響を最小限に抑えたところで対応しております。対応帯域に違いはありますが、ユーザーへの支障を可能な限り抑えたいと考えています。
――honor6 Plusではカメラを2個搭載していました。honorシリーズとPシリーズではコンセプトが違うのでしょうか。
呉波氏
honorシリーズはオンライン販売向け、ファーウェイブランドはオフライン販売向けと、ユーザー層が違います。オンライン販売を利用するユーザーは、コストパフォーマンスを重視します。オフライン販売を利用するユーザーは、よりユーザーエクスペリエンスを重視する傾向があると考えています。といっても販売ルートでユーザーエクスペリエンスに大きな違いがあるわけではありませんが、オンラインだとディストリビュータ費用が省かれています。
日本のオープンマーケット、予想より発展が遅い
――ファーウェイが日本のオープンマーケットで商品展開をして1年が経ちました。この1年で日本市場の特徴や変化で何か見えたことはありますか?
呉波氏
日本のオープンマーケットの発展速度は我々の予想より遅い、というのが本音です。しかし、大きな方向性のトレンドとして間違いなくそちらに発展していくと考えています。
去年はまだ通信事業者から購入するスマホの価格は安かったのですが、今はだいぶ上がってきています。以前のインタビューで「10年前の欧州と同じ」と言いましたが、その通りで、通信キャリアによるインセンティブも減っています。消費者からすると、オープンマーケットで購入した方が安く、便利で、いち早く価値ある製品を入手できることになります。
――国内では5月よりSIMロック解除ガイドラインが変更されました。ここは御社のオープンマーケット製品に影響があるとお考えでしょうか。
呉波氏
弊社にとっては有利だと考えています。以前に比べると大きな進展です。やはり何事も過程と順番が重要です。一気に望むような状況に変わることはありません。
ですので、今回の変更はSIMフリー端末のマーケット全体にとっても有利だと考えています。マーケットの立ち上がりは私たちが考えているよりも遅かったのですが、以前のように停滞しているわけではないことに注目したいです。
――今回はTalkBand B2も発表されています。前回のモデル(TalkBand B1)に比べると機能も強化され、かなり良くなったと感じました。
呉波氏
大幅に改善しています。Jawboneと提携して展開します。TalkBand B1でユーザーからいろいろなフィードバックをいただき、こういった製品になりました。今後はファンコミュニティを作り、ソーシャルで双方向にコミュニケーションを取れるようにしたいと考えています。
パッケージも新しくなりました。ほかの国ではすでにこういった形で展示しています。製品だけでなく外箱パッケージもしっかりやらないといけないと考えています。
――タブレット製品も発表されていますが、こちらはどういった製品でしょうか。
呉波氏
MediaPad M2 8.0は音をしっかり作り込んだタブレットです。Harman社のサウンド技術「クラリファイ」を搭載する初のタブレットになります。正面でビデオを再生すると、ステレオ音声が回り込んでくるように聞こえるかと思います。タブレットではビデオ再生の利用が多いので、「見る」と「聴く」の2つが重要です。
アメリカではスマホの販売が減っているので、どのキャリアもタブレットに力を入れています。多くのユーザーがフィーチャーフォンとタブレット、2つの回線を契約しています。
――そこはTalkBandがあるとファブレットであるHUAWEI P8max の1台だけでも済ませられそうですね。
呉波氏
中国では実際にそのようなセットで販売していて、日本でもセット販売を行います。また、TalkBand B2の連携アプリもたくさん作っています。
――Ascend Mate7では指紋認証センサーを搭載していましたが、今回のPシリーズでは搭載されていません。
呉波氏
今回のモデルは異なるシリーズなので、指紋認証センサーを搭載していません。そこはMateシリーズならではの特徴として搭載しています。
――HUAWEI P8maxはかなり画面が大きいですが、逆にコンパクトな製品を日本に投入する可能性はないのでしょうか。
呉波氏
日本では小画面のスマホ需要もあると思うので、今後、そういった製品を投入する可能性は排除しません。大画面にするにしても、狭額縁デザインにしないといけません。しかし4インチくらいだとビデオを見るのにちょっと物足りません。やはりスマホではビデオやゲーム関連の利用シーンが多く、あまりサイズが小さいとUXに影響が出てしまいます。
――今夏のスマートフォンは一部機種で発熱問題が取り沙汰されています。P8シリーズもオクタコアのプロセッサーを搭載していますが、オクタコアで発熱などの問題はないのでしょうか。
呉波氏
これは本当に全世界で起こり得る問題です。ご存じかもしれませんが、スマートフォンではファーウェイが最初にオクタコアのチップセットを搭載しました。今回はそこからさらにアップグレードしたオクタコアです。消費電力の改善を継続していて、3割節約しています。
また、ファーウェイは世界170カ国以上で事業を展開していますが、日本は比較的、北に位置していて、気候的には涼しい地域に入ります。一方、中東などでは気温が50度以上になったりします。設計段階ではそこまで見込んでいます。上海の研究所ではマイナス20度からプラス55度までの気候変化で試験をして、ソフトウェアを含めて発熱をクリアしています。
――チップセットはファーウェイグループのハイシリコン製ですが、ここはグループ内でチップを作っているという強みがあるのでしょうか。
呉波氏
これは今後の大きなトレンドになると思っています。しかし、ファーウェイにとってハイシリコンという会社は、他社と同じような扱いをしています。どのメーカーの作ったチップセットが一番品質が高く、より先端技術を採用していて、安いか、ということを判断して選んでいます。
もちろん品質が最優先です。製品の評価と信頼は長年かけて培うものですが、一夜で崩れ去ることもあります。設計段階であらゆる問題点を考慮し、取り組んでいます。
――本日はお忙しいところありがとうございました。