インタビュー
スマートフォンアプリ開発のツボ
スマートフォンアプリ開発のツボ
いよいよ全国対応、25億円売り上げたタクシー配車アプリの秘密
(2013/12/11 10:00)
ダウンロード数が100万件、売上が25億円――日本交通が提供するタクシー配車アプリ「日本交通タクシー配車」「全国タクシー配車」をあわせたこれまでの実績だ。そして2013年12月、「全国タクシー配車」で利用できるタクシー会社は、全国47都道府県に行き渡ることになった。
タクシー会社は営業区域が法令で定められており、47都道府県に拡がったとは言え、まだまだ利用できない地域は残る。その一方で、スマートフォン時代を受けて日本交通が投入したタクシー配車アプリの後を追って、他社も同様のアプリを投入し、さらには海外発の配車アプリも日本市場に参入してきた。
今回、日本交通のアプリを開発した、日交データサービスの若井吉則氏に、タクシー配車アプリの開発経緯や、ユーザーの利用動向、日本全国での展開について話を聞いた。
配車の2割弱を占める、新規ユーザーを開拓
――サービス開始から「日本交通タクシー配車」はほぼ3年、「全国タクシー配車」が約2年とのことですが、利用動向から教えてください。
タクシーが利用されるシーンは地域によって異なります。たとえば東京はいわゆる流し営業が中心で、道端でタクシーを拾う、という利用が全体の7~8割を占めます。残りが電話での配車です。地方ですと、流し営業ではなく、駅前や待機所での利用が中心です。そうした中、当社の配車アプリは、配車全体の2割弱を占めるまでになってきました。
――どういった方が利用するのでしょう?
リピーターが多いですね。それから新規のお客さまが増えました。過去に配車依頼いただいたときの電話番号と、配車アプリで利用いただいた電話番号を比較したところ、8割が新規の方でした。
――それはかなりの割合ですね。
ただ、スマホアプリですから登録されている電話番号が、固定電話から携帯電話に切り替えられた方もいらっしゃいます。そうした方々を差し引いても、新規の方は5割にのぼりました。
――新規ユーザーはどういったきっかけで利用するのでしょう。
大々的に広報活動はしていないのですが、台風や大雪など、悪天候時の利用がきっかけになっているようです。そうした状況でタクシーに乗る場合、配車を依頼しようと電話しても、電話が殺到していて繋がりにくい。ところが配車アプリですと、ダイレクトに配車システムへ依頼が伝わります。すぐタクシーを呼べる、という形になるんです。そこで「アプリは便利だ」といったクチコミがソーシャルで広がっているようです。
――なるほど、電話の繋がりやすさは言われてみれば確かに、ですね。利用者の年齢層は?
一般にスマートフォンは若年層のほうが普及していると言われていますよね。しかし配車アプリについてはこれまでの利用者とあまり変わらず、30代~50代が中心です。ただ、アプリを提供したことで、20代、あるいは60代と、幅が広がったかなという印象です。利用時のハードルが下がったのかもしれません。利用される時間もこれまでとあまり大きな変化はなく、朝方や夕方、つまり出勤時間や帰宅の時間での利用が多いですね。
これは全国版も同様の傾向です。もちろん地方でのタクシーは、高齢者の利用が主ですが、そういった層でのスマートフォンの利用はまだあまり多くはないという形です。
――アプリで配車を依頼すると、どういった流れで実際にタクシーが現地へ到着するのでしょうか。
通常、電話での配車の依頼には、当社のセンターでオペレーターが対応します。このとき、お伺いする場所を教えていただければ、その地点をオペレーターがシステム上で指定するだけで、自動的に近くにいるタクシー運転手へ依頼が伝わり、現地へ向かいます。いわゆるタクシー無線も既にデジタル化が進められており、目的地の住所は直接カーナビにセットされる、という仕組みもあります。一方、アプリからの配車も基本的には同様なのですが、アプリからの依頼はオペレーターを介さず、直接、配車システムに伝わり、そのまま依頼者の近隣のタクシー運転手に伝わる、という流れです。配車システム上では、リアルタイムでどこにタクシーがいるかわかります。配車アプリでも、そうした状況が見えますし、配車依頼をした後もタクシーがやってくるまでの状況がわかるようになっています。
――ちなみに、“日本交通版”と“全国版”を1つの配車アプリにまとめることはないのですか?
そもそもなぜ2つアプリがあるのか、という話なのですが、これは新しい取り組み、機能を導入するにあたって、全国版ですと影響範囲が広いわけです。新しい取り組みを日本交通版で実施して、受けが良い機能を全国に移植する、という流れにしています。仮に失敗しても我々だけの影響で済みます(笑)。そうした流れで、実際に全国版にも搭載された機能は、時間指定できる予約機能や、ネット決済(アプリにクレジットカード情報を登録しておき、下車時の決済手続きを省く機能)ですね。
シンプルな使い勝手を目指す
――さまざまな機能が追加、搭載されていますが、アプリとしての大事にしていることは?
シンプルな使い勝手ですね。分かりやすく手間が少なくなることを目指しています。ネット決済もそうした点から導入した機能で、特に一日何回もタクシーを利用されるような方からは、かねてより「降りるときの決済に時間がかかる」という点は指摘をいただいていました。
そういった利用頻度が高い方からは、ネット決済で、降車時の手間が省けるというのは非常に利便性が高いと評価いただいています。配車依頼するときにも、ワンタップですぐ配車依頼を完了する操作も導入しています。
――それもヘビーユーザーには使いやすい機能と言えそうですね。しかし利用頻度が高い人と、そうではない人と、それぞれが求める機能やユーザーインターフェイスは違いがありそうですよね。
そこは現状の課題ですね。初心者にもわかりやすく、なおかつ、利用頻度が高い方にも便利という点は、今後も検討しなければいけません。機能面もシンプルな使い勝手を目指しているものの、利便性を高めるため新機能を入れることになり、悩む点です。今はタクシーというサービスを利用するためのポータル的な部分と、配車だけに特化したシンプルな部分の中間にあたるのかもしれません。
――都市部と地方で、求められる機能の違いはあるのでしょうか?
あります。もともと配車アプリでは依頼から15分でお伺いできることを基本にしています。しかし山間部などでは、15分以内にお伺いできる場所に車がない、ということが往々にしてある。でも配車依頼から30分まで待てるというお客さまもいらっしゃいます。そこで15分以内ではなく、30分での配車になっても依頼できる機能を採り入れました。東京だけでは想定していなかった機能ですね。
――なるほど。
実は提携タクシー会社さんとは、情報交換会を実施しています。アプリにこういう機能が増える、といったことを伝えたり、提携タクシー会社の中で新たな取り組みをした場合に他の提携タクシー会社へ紹介したりしています。そうした場で、東京のような場所ではあまりニーズがないものの、地方では必要な機能があることが判明して、新たに導入した機能なのです。
――ほかにも配車アプリならではの要素はありますか?
乗車後、お客さまから運転手の評価を付けられるようにしています。当社は80項目のマニュアルを作成して、運転手教育を実施し、時には覆面調査のようなことも行って、運転手のサービス品質を維持、向上を図っていますが、実際にお客さまからどう評価されるか。日本交通版では、アプリで仮に「☆1つ」と評価された場合、対象の運転手は、同じお客さまの元には行かないよう、配車システム側で調整しています。ちなみに「あの運転手さんは良かったからもう一度」という要望もありますが、これは配車ですと実現するのが非常に困難です。そのお客さまの現在地近くを、同じ運転手が走っていることはほとんどないからです。
社長直下のプロジェクト
――社長直下のプロジェクトとして、少数精鋭でスタートしたそうですね。
今も少人数でやっていますが、おかげさまで新入社員としてデザイナーが1人加わりました(笑)。当初は私自身とプログラム担当がユーザーインターフェイスを設計していたのですが、どうしてもシステム設計者が作ったデザインになってしまうんですね(笑)。見栄えの面でも、使い勝手の面でも、これからデザイン面の向上を図ります。社長(川鍋一朗氏)とは毎週打ち合わせをして、アプリの開発もチェックしていますね。
スマートフォン以前のフィーチャーフォン時代にも似たようなサービスは提供していたのです。しかし事前の会員登録が必要で、配車先の指定も細かくどの場所に停車するか、文字で指定していただく形でした。いわば、タクシー会社側のリスクを減らした形態だったのです。しかしスマートフォンが普及するなかで、あらためてサービスを検討した結果、タクシー配車アプリを開発したのです。
――「相乗りアプリ」のようなアイデアもあるとか。
はい。ただし、現状ではまだ課題があります。目的地が同じ方を集めて乗車、というところまではある程度できそうですが、その中で我々のタクシーに乗っていただく、という点が難しいところです。いろいろと工夫のしがいがありますね。
競合増える、海外からも
――今回、47都道府県全てで提携会社ができた、という形になりました。
私自身も全ての都道府県を訪れました(笑)。実は、全国版では当初、利用できるタクシーの数を全体の3割にしようと目標を掲げていました。全国でタクシーは20万台以上ありますが、今、全国版で利用できるタクシーは2万台を超えたところですので、シェアは約10%。エリアの拡がりに対する要望は強いですし、これからは、各都道府県で第2、第3の規模の都市でも利用いただけるようにしたいと考えています。
タクシー配車アプリ自体は、当社が先駆けて投入したもので、2012年までは日本交通版、全国版と当社のアプリしかありませんでした。その後、続々と他社さんから投入され、50以上のアプリが存在しています。
――各社のアプリが出てくる中で、日本交通としてはどういった点でアドバンテージを打ち出していくのでしょうか。
もちろんアプリ開発も工夫し続けますが、配車アプリ自体が一般的になると、最終的にはタクシー本来のサービスの品質が問われるのでしょう。
――となると、タクシー会社自身がアプリを開発する、ということが強みになりそうですね。
はい、そうです。先に触れたように、当社にはマニュアルや品質を管理する仕組みがありますし、一定の資格を得ないと運転できない高品質な「黒タク」も運用しています。タクシー会社がアプリを作ることで、高い品質をお客さまと、タクシー会社のそれぞれに提供していければと思います。
――最近では、大阪でドイツ生まれのタクシー配車アプリ「Hailo」など、海外から日本に参入する事業者も出てきました。
我々としては、配車アプリというジャンルが盛り上がって、もっと当たり前になっていくと嬉しいですね。
――そうした他社サービスを、競合としてどう見ていますか。
プロモーション面がうまいなと思います。アプリを使ってタクシーを利用することのハードルが下がり、お客さまが便利に利用していただくことで、タクシー全体の活性化に繋がればと思います。
――なるほど。今日はありがとうございました。