「MEDIAS N-04C」開発者インタビュー

最薄ながらワンセグ入り、NECカシオ初のAndroid端末


MEDIAS N-04C

 NECカシオモバイルコミュニケーションズが開発したAndroidスマートフォン「MEDIAS N-04C」がNTTドコモから発売された。NECカシオ初のAndroidケータイでありながら、4インチクラスのスマートフォンとしては最薄・最軽量、さらに赤外線通信・ワンセグ・おサイフケータイを搭載するという、スペックの充実した欲張り仕様な端末となっている。どうやってここまで欲張り仕様の端末を作れたのか。NECカシオの各担当者に話を聞いた。

デザインと薄型化で重要な役割を果たす側面のアルミフレーム

板のような7.7mmの薄さ

 NECカシオでN-04Cのプロジェクトマネージャー有田行男氏によれば、同端末の先行試作機の開発が始められたのは昨年春のこと。通常、新端末の立ち上げには1年半以上の時間が割かれるが、同社としては初めてのプラットフォームとなるAndroidが使用されていることを考えると、極めて異例のスピードで同端末が開発されたことがわかる。

 「カシオ日立との事業統合もあり、NECブランドのAndroid端末にどんな特徴付けをするのか、社内でも自問自答を繰り返した」と語るのは、NECカシオ チーフクリエイティブディレクターの佐藤敏明氏。その結果、“薄さ”をもって世界に驚きを与えようという結論に至り、N-04Cが登場することになったという。

 NECカシオ デザイナーの根本実氏は、「スタイリッシュで薄いながらも、使い勝手にこだわるのがNECらしさ」と、同端末のデザインコンセプトを説明する。側面のアルミフレームはデザイン面でのアクセントとして機能しているが、段差を設けることで机に置いた時でも隙間に指が入り、持ち上げやすいように工夫されている。

カスタムジャケット

 スマートフォンには、ジャケット(カバー、ケース)を装着してカスタマイズして楽しむ文化があるが、N-04Cではジャケットを装着できるよう、側面に凹みを設けられている。この凹みは、ジャケットでアルミフレームの部分が隠れてしまわないように配置されている。

 このアルミフレームについて、NECカシオ 技術マネージャーの白石充孝氏は、「このパーツはデザイン面で重要な役割を担っているが、それと同時に7.7mmにまで薄型化する上で強度を保つという役割も果たしている」と解説する。同氏は過去にN703iμなどの薄型端末も担当しており、その際のノウハウや、海外向けに投入した薄型カードタイプのGSM端末での設計思想がN-04Cに受け継がれているという。

薄さゆえの部品実装の難しさ

アンテナや端子は本体上面にある

 「とにかく電気部品を載せるスペースがないので、ワンセグのアンテナもどこまで短く、細くできるかといった風に、一つ一つがチャレンジだった」と語るのは、NECカシオで電気設計を担当した志摩誠氏。従来は3段構造だったアンテナを4段にし、性能を保ちながら小型化を実現した。

 同氏によれば、背面のカバーを開け、バッテリーを外すと左側に下まで伸びた“半島”が存在し、この部分にも基板が入っており、さらに液晶パネルを制御するためのフレキシブルプリント基板がここを通っている。そのため、この“半島”上部に配置されたワンセグのアンテナの長さや太さは、ここに配線を回すためにクリアしなければならない大きな課題となったのだという。

 「これだけ薄い中にいろんな部品やフレキシブルプリント基板が絡み合うように配置されていると、試作機を作るのも非常に繊細な作業だった」と、開発初期を振り返るのはNEC埼玉 携帯端末開発部 技術課長の江原立二氏。NEC埼玉 生産技術部 技術課長の近藤弘章氏も、「従来のような折りたたみ型や二軸ヒンジの端末とは違い、今回はストレート型なので製造は簡単だろうと考えていたが、実際はそうではなかった」と苦笑する。

“半島”部分も有効に活用していることがわかる開発陣が“貼っていく組み立て”と表現する製造現場

 同端末の開発陣は、N-04Cの作り方を“貼っていく組み立て”と表現する。部品と部品の隙間を埋めるなどする際には、絶縁シートなどが載ったフィルムを一旦基板に貼り付け、剥がすことで実装するという工法が用いられる。薄さにこだわったN-04Cでは、高密度で部品が実装されるため、隙間を埋める精度も求められるようになったため、製造現場への影響も大きかったという。

 製造を海外にアウトソーシングするメーカーが多い中、東京近郊に工場を持ち続けるという選択をしたNECカシオだが、こうした繊細で複雑な構造をした端末を短期間で商品化できた背景には、開発の早い段階から企画(NECカシオ)側と工場(NEC埼玉)側が意見を交換しあい連携できる体制の存在があるのだろう。

(左から)白石氏、志摩氏、江原氏、近藤氏(左から)佐藤氏、根本氏、有田氏

初のAndroidでも従来のノウハウは最大限に活用

上田氏

 NECブランドのiモード端末は、LinuxをベースにしたOSを採用している。AndroidもLinuxをベースとしたOSだ。その点について、Androidプラットフォームの実装開発を行ったNECカシオの第一ソフトウェア開発本部 マネージャーの上田賢志氏は、「同じLinuxなので、ノウハウの活用はできているが、ハードウェアのプラットフォームは違う。今回はクアルコムのチップセットなので、そういったハードウェアを制御するソフトウェアは、従来のiモード端末とはまったく異なっていた」と語る。

 しかしNECカシオが担当しているカシオブランドや日立ブランドのau端末は、従来からクアルコムのチップセットを使っていた。NECの携帯電話事業とカシオ日立モバイルコミュニケーションズは昨年合併し、NECカシオモバイルコミュニケーションズとなったが、N-04Cではこの合併の効果が活かされているわけだ。

 N-04CのAndroidは、比較的カスタマイズが少ない作りになっているという。N-04Cの商品企画を担当したNECカシオのNTTドコモ事業部 主任の松川裕雄氏は、「今回の端末のターゲットとしては、Androidを思う存分楽しめるユーザーを想定しているので、中のソフトはシンプルな構成にした。あとはユーザーがアプリをダウンロードし、自分好みに楽しんでいただければ」と説明する。Androidは仕様がオープンなので、端末メーカーは独自にカスタマイズして実装できるようになっているが、NECカシオはあえて可能な限りAndroidのベース部分を改変しないようにしたのだ。その理由のひとつは、OSのバージョンアップを容易にするためだという。

 「できるだけ最新のOSを提供したいという意識もある。バージョンが上がっていくことを前提に、できるだけAndroidのOSには手を入れない方針で開発した」(松川氏)。たとえばAndroidの持つベース部分を改変して機能を実装すると、次のAndroidバージョンでそのベース部分の仕様が変わったとき、新たに作り直す部分が増えて工数が増えてしまう。ベース部分には改変をなるべく加えない方が、バージョンアップ時には有利なのだ。

 しかし、ベース部分をまったく改変しないわけにはいかない。一般的に、まだAndroidは成長途中のプラットフォームなので、未完成な部分や日本人には使いにくい仕様も多いとされていて、その部分を改変する必要性は大きい。そこでNECカシオでは、Androidのベース部分への改変を管理するようにしたという。

 N-04Cのアプリなどの開発を担当したNECカシオの第一ソフトウェア開発本部 主任の犬塚祐介氏は、「Androidのベース部分であるフレームワークを改変する必要がでたときは、NECカシオ内を横断してAndroidの開発をまとめるにチームの確認を得てから実装するようにしている」と説明する。ベース部分の変更を最低限としつつ、さらに変更される箇所も管理することで、OSのアップデートや後継機種の開発を容易にしようとする考えだ。

 そうなると、おサイフケータイワンセグなどは実装が大変そうな印象もある。しかしこの部分については、「おサイフケータイやワンセグなど、標準のAndroidにないものを搭載することが最初からわかっていたので、このあたりは早めに先行開発していた。」(犬塚氏)という。

 ちなみにアップデートの方針としては、「これまで通り、新端末は順次リリースしていくことになるので、最新機種向けに開発したソフトウェアの中から、可能なアップデートを発売済みの端末向けにも提供していく」(松川氏)のだという。なおN-04Cは、夏頃にAndroid 2.3へのバージョンアップが提供される予定だ。

松川氏犬塚氏

薄型ながらワンセグ・おサイフケータイ・赤外線通信に対応

 N-04Cは世界最薄でありながら、ワンセグなども搭載している。薄型と両立させるには困難な機能だが、それでもあえて搭載した理由について、松川氏は「スマートフォンとしては後発になるので、何らかの特徴がないといけない。ただ薄いだけではダメ。そこで、従来から日本市場で展開してきたNECカシオとしては、従来のケータイからの乗換に対応するために、ワンセグやおサイフケータイ、赤外線通信を入れたいと強く考えた」と説明する。

 そのほかにも、N-04CにはNECカシオらしいアプリも搭載している。その最たるものは、電話帳アプリだ。松川氏は、「電話帳に関しては、従来のNECブランドの端末が大切にしてきた『コミュニケーション』の部分なので、使いやすいものを提供したいと考えた。ここはAndroid標準のものを使うのではなく、独自で開発するべき項目だと考えている」とその重要性を訴える。

 N-04Cの電話帳アプリは、Twitterやmixi、Facebookと連携するという、スマートフォンで流行の機能を搭載しているが、それだけでなく、グループ分類にも対応している。電話帳におけるグループ分類機能は、従来のケータイでは当たり前の機能だが、Android端末ではあまり一般的ではない。しかしN-04Cの場合、従来のケータイから移行してきたグループ分類を維持でき、さらにGoogleアカウントのグループ分類(ラベル分類)との同期もできる。日本のケータイにとって当たり前の機能を使いやすい形で実装する、これは日本のケータイを作り続けてきたメーカーならではのこだわりと言えるだろう。

 そして日本語入力にもこだわりがある。「フルタッチインターフェイスになったことで、文字入力の煩わしさを解消するために、ATOKを採用するとともに、タップサーチという機能を搭載した」(松川氏)。

 タップサーチは、画面上に表示されている文字列をタッチすることでGoogle検索にかけるという、N-04Cオリジナルの機能だ。通知パネルのアイコンでタップサーチモードに切り替え、検索したい文字列をタップすると、タップした位置の文字列がGoogleで検索される。実はこれ、画像として文字を認識する、いわゆるOCRになっていて、Webページ上の画像などからも文字を読み取れるようになっている。漢字とアルファベットのみの対応だが、文字入力を省ける便利な機能だ。

電話帳アプリのグループ選択画面タップサーチ機能

 また、ホーム画面アプリもNECカシオ独自の拡張が施されている。「ホーム画面アプリは、できるだけAndroid標準の操作性を維持したまま、使い勝手を改善した。いろいろなAndroidのアプリを使い、不満を感じた部分をつぶしていった」(松川氏)。とくにアプリケーション画面は、一見するとAndroid標準の縦スクロール形式そのままのようにも見えるが、アプリケーションだけでなくウィジェットの管理も可能で、アイコンの並び替えにも対応している。さらにアプリケーションの終了も行える独自のタスクマネージャーアプリも搭載され、ホームキーの長押しで起動できるようになっている。

 NECカシオ独自のコンテンツは、搭載アプリだけではない。NECブランドのiモード端末では、「みんなNらんど」というメーカーサイトがあったが、Android端末であるN-04Cには、「MEDIAS NAVI」という新たなメーカーサイトが提供される。MEDIAS NAVIではサポート情報やおすすめアプリと言ったAndroidの使いこなし情報、壁紙などのダウンロードコンテンツに加え、「MEDIAS使い方ガイド」というオンラインマニュアルコンテンツも提供される。

 もともとN-04Cでは、ドコモの取扱説明書の電子アプリ版、「eトリセツ」が提供されている。どんな機能でもeトリセツを検索すれば使い方を調べられるが、MEDIAS使い方ガイドはもっとガイドブックのようになっていて、索引を順番に追いながら、わからない項目を読んでいくことで、Androidに慣れない人も基本操作を学べるようになっている。

ウィジェットも管理できるアプリケーション画面通知パネルもカスタマイズされている
タスクマネージャーアプリMEDIAS NAVIの使い方ガイド

 このほかにもMEDIAS NAVIには、スペシャルコンテンツとして、4月8日より「MEDIAS 女子部」という女性向けのコンテンツが提供される予定だ。

 N-04Cのスペックを見ると、CPUに800MHzのSnapdragonを搭載していることに気がつく。現在、国内で販売されているAndroid端末は、多くがCPUに1GHzのSnapdragonだ。

 CPUのクロック数は800MHzが、実際に実機を触ってみると、不思議とユーザーエクスペリエンスに影響しているようには感じられない。タッチの操作感については、むしろAndroid 2.1世代の1GHz端末より良好な印象すら受ける。CPUパワーを使い切るような3Dゲームなどでは違いがあるかもしれないが、普段の使い方では、CPUクロックの差を感じることはなさそうだ。

 この点について上田氏は、「ムダな処理をしないようにするなどチューニングを行い、CPUのパフォーマンスを最大限に発揮できるようにしている」と語る。

 操作レスポンスの良さ、薄さ、ワンセグをはじめとする日本的な機能など、さまざまな特徴を持っている。Android端末の購入を検討している人は、是非とも店頭などで実機を手に取り、ほかの製品と比べつつ、N-04Cの快適さを確かめてもらいたい、そう感じる端末だ。




(白根 雅彦/湯野 康隆)

2011/3/25 06:00