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槻ノ木 隆の発表会レポート
インテル、PDA/携帯電話向けXScaleプロセッサを発表

今回の発表のために来日した、ピーター・グリーン氏(インテルコーポレーション ハンドヘルド・コンピューティング事業部長)
 インテルは2月12日、「Intel Network & Communications Day」と題した発表会を開催し、この中で将来のPDAや携帯電話のアプリケーションプロセッサ向けにXScaleテクノロジを搭載した「PXA250/PXA210アプリケーション・プロセッサ」を発表した。

 現在の携帯電話は、ベースバンドチップと呼ばれる統合チップだけを用いて全ての処理を行なっているのが一般的である。しかしiアプリを初めとする様々なアプリケーションの動作速度向上や、トレンドが静止画から動画に移りつつあるマルチメディア対応を考えた際、これまでのようにベースバンドチップ1つで全てをまかなうのは無理がある。このため、次世代携帯電話ではベースバンドチップは通信のみを司り、その他の作業はアプリケーション・プロセッサと呼ばれる別のチップを搭載するのが一般的になるとされている。一方、PDAの世界はというと、こちらも将来の性能アップにむけて製品革新が絶えない。特にPalmが次世代製品にARMアーキテクチャを採用することを決定し、またPocket PCもARMアーキテクチャをサポートする(特にPocket PC 2002はStrongARMのみをサポート)などARM一色になりつつある。とはいえ、実際に利用する中ではまだCPU性能が不足している面も少なくない。


高性能PDA向けのPXA250、携帯電話向け低消費電力のPXA210

現在はやっと図中の第2段階に達したところだ、とインテルは説明する。今後、もっと多くの機能がPDAや携帯電話に搭載されるようになり、これに伴いより高い性能が必要になるというわけだ
 本日発表されたのは、この将来のPDA/携帯電話向けのプロセッサをターゲットとした製品である。PXA250は高性能PDA向けとされ、相対的には機能とパフォーマンスに振った製品だ。内部は最大400MHzで動作するXScaleコアにメモリインターフェイス、サウンド、USBや赤外線、Bluetoothなどのインターフェイスと汎用I/Oポートをワンチップに集約したSOC(System On Chip)製品である。一方PXA210は次世代の携帯電話をターゲットとしており、相対的には低消費電力に振った製品である。駆動速度は最大200MHzに抑えられ、メモリインターフェイスや不要な周辺インターフェイスが省略され、その分小型化・省電力化が実現されている。


新しいプロセッサコア、XScale

前世代製品であるStrongARM(SA-1100)と今回のPXA250/210の消費電力を比較したもの。同じ消費電力なら倍以上の動作クロックで、同じ動作クロックなら半分以下の消費電力で動作することが示された
 キーとなるのは、XScaleという新しいプロセッサコアである。元々、英ARMからARM V3アーキテクチャのライセンスを受けた旧DECが、最速のARMプロセッサとして開発したのがStrongARMである。その後そのStrongARMの構造はARM V4アーキテクチャとしてARMに受け継がれ、その一方IntelがDECの半導体部門を買収したことで、StrongARMはIntelが販売してきていた。ところがその後、ARMアーキテクチャはV5に進化、このアーキテクチャライセンスを受けたIntelが、新たに開発したのがこのXScaleである。当然ソフトウェアから見ればStrongARMと完全互換(なので、Pocket PC 2002でもXScaleは利用できる)だが、内部構造は大きく変わっている。

 この結果何が得られたかというと、StrongARMよりもさらに高いMIPS/mW値、つまり消費電力あたりの性能である。PDAにせよ携帯電話にせよ、重要となるのは性能と電池寿命の両立である。単に性能値だけが必要なら、Pentium III/4を搭載すれば圧倒的な性能を得ることができるが、電池寿命は分のオーダーだろう。XScaleは、StrongARMより高い性能を、より低い消費電力で得ることを目的に設計されている。実際に利用してみると、ランモード(実行中)におけるPXA210/250の消費電力は、SA-1110(StrongARM)の半分以下であり、(液晶その他の消費電力は別にすれば)同じ性能でよければ倍の電池寿命が、同じ消費電力を許すならば倍の性能が得られることになる。


パッケージサイズは13mm×13mm、225ピンのTPBGA(Thin Plastic Ball Grid Array)。0.18μmプロセスで製造される ピン数が256ピンに増えた結果、多少パッケージサイズは大きく(17mm×17mm)なっている。製造プロセスはこちらも0.18μm

製品開発期間短縮を狙いとする、ミドルウェア「IPP」の提供

IPPの効用を示す一例。XScaleに搭載されたインテル メディア・プロセッシング・テクノロジ(Pentium IIIのSSEとかPentium 4のSSE2と同種のもの)を直接アクセスするのでなく、IPPを経由してアクセスするようにすれば、過去のプロセッサから将来のプロセッサまで、一切アプリケーションを変更する必要がない。これは当然(PDA/携帯電話上の)アプリケーション作成の手間を節約することに繋がる
 もっと広い視点に立てば、これからのPDAあるいは携帯電話の設計や製作にあたっては、単にマーケットを日本に限るのではなく、世界中で通用する製品を短期間で作ってゆかねばならないという状況になりつつある。たとえば携帯電話の場合、独自のハードウェアと独自のソフトウェアですべてを構成してゆくという従来の方法は、製品の企画から市場投入までのターンアラウンドタイムが長くなる恐れがある。これは最近のすばやい流行に追従することを難しくするし、機能の肥大化と開発期間の短縮化が大きなトラブルにつながることは、昨年のiモード携帯電話の相次ぐリコールを考えれば明白である。

 PDAの場合、サードパーティーをいかにすばやく取り込むかがキーになる。たとえば仮名漢字変換ひとつとっても自社で全部作りこむのは非常に難しいから、当然サードパーティに開発を頼むことになる。が、ここで独自アーキテクチャを採用したりすると当然その工数(=開発コスト&開発期間)が大きくなり、これも普及の妨げになる。

 こうしたことを避けるためには、基本的なアーキテクチャはなるべく標準的なものを採用し、製品の差別化はもっと別なところで行なうほうが有利である。冒頭でも述べた通り、PDA/携帯電話の標準は事実上ARMアーキテクチャになっており、その意味でXScaleを採用することで自動的に標準に準拠するということになる。加えてインテルは「インテグレーテッド・パフォーマンス・プリミティブ(IPP)」と呼ばれるミドルウェアを提供することで、より容易にPDA/携帯電話上のアプリケーションを作成できるように配慮している。


ワイヤレス市場へのインテルの意気込みを感じさせるデモ

 また今回会場には、PXA250を利用したPDAのサンプルを持ち込んでの動作デモなども行なわれたほか、XScaleに対応した開発キットや開発環境、XScale上で動く各種ミドルウェアなどのベンダーの展示会も行なわれるなど、XScaleのプラットフォームが既にデファクトスタンダードに近いことを印象付けようとする、インテルの強い意気込みを感じさせるものであった。


台湾ASUSTeK製と思われる、400MHzのPXA250を搭載したPDA。ただこれはまだサンプルだそうで、この製品がもう発売されているという訳ではないそうである スクリーンでのデモ風景。フルポリゴン3Dという訳ではないようだが、それなりに激しい動きをスムーズに表示してみせた

 インテルが日本の通信事業本部の中に、ワイヤレス製品の普及を目的としたワイヤレス・コンピタンス・センターを設けてからまもなく2年が経過しようとしている。実際、何社かの携帯電話のベースバンドチップやフラッシュメモリに採用されているから、それなりに成果が上がっているのは事実であるが、十分その目的を達しているとも言いにくい状況である。折しも世界的なデフレ傾向で通信関係の投資が(やっと復調の兆しが見えてきたとはいえ)まだ渋いままであり、当然インテルの通信関連製品の売上も決して芳しいものではなく、また急速に復調するとも思いがたい。当然ながらワイヤレス製品には大きな売上の飛躍が(社内で)求められている訳であり、その一方でARMアーキテクチャの普及という追い風も吹いている。この追い風をバネに大きくシェアを増やすことが出来るかどうか、が今年のインテルの大きな課題になるだろう。


・ ニュースリリース
  http://www.intel.co.jp/jp/intel/pr/press2002/020212a.htm
・ インテル Xscaleテクノロジ
  http://www.intel.co.jp/jp/homepage/land/02ww07.htm?iid=jpHomepage+Feature_Text
・ PXA250製品情報
  http://www.intel.co.jp/jp/homepage/land/02ww07spotland.htm?iid=jpHomepage+Spot2_Image&


(槻ノ木 隆)
2002/02/13 04:33

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