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6月3日から7日にかけてサンフランシスコで開催されたJava業界の世界最大の展示会「JavaOne」。年に1回、世界中のJava業界の関係者たちが集まり、この1年間に開発してきた最新Java技術を披露する展示会だ。Java業界としての専門展示会はこのJavaOneが唯一で、かつ最大ということもあり、まさに「お祭り」ムードいっぱいの楽しいイベントでもある。
毎年JavaOneではその1年間のJava業界における最も注目すべき技術やプロダクトがテーマとして発表されるが、今年のJavaOneはJ2EEベースのサーバサイドJavaの各種ソリューションが大勢を占めつつも、2~3割はなんとJ2MEベースのPDAやケータイを対象としたJavaに関連した企業が出展ブースを連ね、まさに「ケータイJava元年」と言っても過言ではないくらい話題を賑わしていたのが非常に印象的だった。
思えば昨年のJavaOneで、韓国のLGテレコムがNTTドコモに先駆けて世界初の商用Java対応の携帯電話を発表し、日本のコンテンツプロバイダーがプロトタイプ・アプリケーションを提供したというのが、まさにケータイとJavaの初めての出会いであった。
今年はJava対応の携帯電話を製造する各メーカー、それに対してサービスを提供する通信事業者(オペレータ)、Javaアプリケーションを開発するソフトウェアベンダー、提供されるアプリケーションをバックヤードで管理するケータイ向けのJavaアプリ専門のサーバサイドアプリケーションベンダー、さらにはJavaCard技術をベースにした周辺デバイスメーカーなど、多種多様な業種の企業が展示会に出展していた。
日本をはじめとして世界中の企業が同時にこのケータイJava市場に参入してきたということから見ても、世界中がいかにこの市場性に注目を集めているかが容易にうかがえる。
6月4日のオープニングカンファレンスではJ-フォンが大々的なプレゼンテーションを行なったり、世界の端末シェア1位のノキアが「2002年度中には世界市場で5000万台のJava対応携帯電話を販売する」と非常に強気な発表を行なうなど、カンファレンス会場でもケータイで始まった感のあるJavaOneであったが、パビリオン(展示会場)を実際にまわってみると意外と日本企業の出展が少なく、欧米企業が積極的にこのケータイJavaビジネスに取り組んでいたというのが全体的な印象だ。
次々に世界メーカーから発表されたJava対応ケータイ
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MapInfo社提供のモトローラ端末向け地図アプリ
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日本ではNTTドコモの503iシリーズをはじめとしてJavaケータイは各社からリリーズ済だが、今回のJavaOneでは世界トップシェアクラスの携帯電話メーカー各社からJavaケータイが次々と発表された。
まずはじめに紹介したいのは、既に米国通信キャリアNextel社で今年4月から発売開始されているモトローラの「i85」。
写真の通り、白黒2色の端末で、画面サイズは比較的小さい。機能的にはピュアなMIDPベースの端末で、非常にスタンダードなJavaケータイといったところだ。とはいえ、米国内で発売されいている唯一の商用Javaケータイということで、今回のJavaOneに出展していたケータイ系Java関連企業のほとんどがこのモトローラのMIDPベース端末向けにソリューションを提供している企業である。白黒2色とはいえ、既にいくつかのアプリケーションが提供されており、例えばMapInfo社からはラスターデータベースの地図アプリケーションが提供されていた。
また、プロトタイプではあるものの、カラーのJavaケータイもモトローラブースで発表されていた。いくつかのゲームデモが動いていたところを見ると、独自のゲームAPIの搭載を検討しているのかもしれない。また、Nextel社より来年にかけて発売を予定しているJavaケータイのプロトタイプもいくつか展示されていた。
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モトローラのカラーJavaケータイのプロトタイプ(i85改造版)
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Nextel社向けのJavaケータイのプロトタイプ
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シーメンスのJavaケータイ
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次に世界市場で発売されるJavaケータイとしては、ドイツのシーメンスが新端末「SL45」を発表していた。
シーメンスは日本では馴染みの薄い企業だが、ドイツを本社とする家電製品業界では最大手のメーカーで近年携帯端末事業にも積極的に乗り出し、市場シェアを拡大しつつある。シーメンスの担当者によるとこの春に世界シェア第3位になったそうだ。ダントツ1位のノキア、そしてモトローラ、シーメンス、エリクソンが世界ケータイ端末メーカーの強豪と言えるだろう。
今回発表されたシーメンスの端末は主にヨーロッパ市場を中心として8月に発売が予定されいている。モトローラと同じくMIDPをベースとしていながらも、バイブレータ機能などいくつかの携帯電話特有のAPIが実装されていることや、J-フォンのようにスプライト機能を使ったキャラクター制御など、ゲームに特化した「ゲームAPI」を独自に採用している点が他社との差別ポイントとなっている。
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ノキアのJavaケータイ (NOKIA6310改造版)
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そして、やはり話題を独占していたノキア。
今年3月のCeBIT 2001で発表された「NOKIA6310」をベースとしたJavaケータイを今回のJavaOneでは展示していた。エミュレータとプロトタイプ機によるデモが行なわれていたが、実際に通信を行なってのアプリケーションダウンロードなど、基本的な機能が未完成ということで、ケーブル経由でのデータ転送という開発段階だ。
カンファレンスでの発表もあったが、ノキアはこのJavaケータイを来年から市場に投入、そして初年度5000万台、次年度1億台の販売を目標としている。とはいえ、純粋なMIDPベースで白黒端末という先行他社と比較して目新しさに欠ける印象は拭い切れず、Javaケータイ戦争において苦戦している状況もうかがえる。
また、ノキアはPDA一体型のJavaケータイも発表していた。閉じた状態では非常に大きなケータイ。そして真中を開くとポケットボードのようなPDAになるというものだ。
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ノキアのPDA一体型Javaケータイ
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閉じたところ
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一方、日本のJavaケータイとして発表していたのはJ-フォンだけだった。
J-フォンは今回のJavaOneのスポンサー企業でもあり、発表していたのはもちろん日本で発売間近の「J-SH07」。シャープも出展しており、どちらのブースでもこの新しい端末が展示され、来場客の注目を集めていた。
先に挙げてきた世界強豪の携帯電話メーカーのJavaケータイと比較すると、その圧倒的な性能の差に、改めて「ケータイ先進国ニッポン」を感じざるを得ない。TFTカラー液晶、3Dポリゴン、ゲームAPI、ハイレベルなサウンドなど、どれもまだまだ世界市場では当分出てこないだろうというのが、今回の各社の発表を見て印象付けられた。
しかしながら、展示ブース名が「J-Phone Vodafon」。当たり前と言えば当たり前ではあるが、非常に不思議な気分だ。
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J-Phone Vodafoneのブース
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J-SH07は注目の的
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MIDPベースのJavaケータイ市場を狙うアプリケーションベンダー
メーカー各社から発表・発売されたJavaケータイにターゲットを絞り、各種アプリケーションを提供する企業が多かったのが今回のJavaOneの特徴の1つだ。
アプリケーションベンダーを分類すると以下に分けられる。
- MIDPベースの開発環境を提供する企業
- 端末組み込み型Javaソリューションを提供する企業
- サーバサイドJavaを使ったアプリケーション配信システムの開発企業
- 携帯電話向けにJavaアプリケーションを提供する企業
その中でいくつか代表的な出展企業をピックアップしてみた。
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Data Representations社はGUIベースのプログラミングツール「Simplicity」を披露
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日本の状況を眺めてみれば分かるが、携帯電話向けのJava開発環境は、テキストエディタで作成したJavaソースコードを専用のコンパイラでバイトコードを生成し、携帯電話のスキンが貼り付けられたエミュレータで確認するというものが一般的。しかし、Data Representations社が開発しているGUIベースのプログラミングツール「Simplicity」は非常に面白い製品だ。
GUIベースということで、パネルでの部品の配置やキャンバスでのグラフィックの描画などマウスで部品を選び、ドロップするだけで基本的なUIを構築していくことが可能で、開発効率が非常に高くなりそうだ。担当者によると現在まだ開発中であり、60日以内に製品版をリリースする予定とのこと。携帯電話の画面サイズなどは自由に設定できるため、MIDPベースのJavaケータイであれば各社一通りの端末に対応が可能と思われる。
組み込み型ソリューションを開発している企業としては、4thpass社とRedWave Technology社を紹介しよう。
4thpass社は、組み込み用ブラウザ「K Browser」を開発している。64KBという軽量なサイズながら、海外標準のWAPそしてXHTMLの両言語を同時にサポートし、ブラウザ上でJavaアプリケーションを起動することが可能だ。また、サーバサイドのアプリケーション配信システムも別プロダクトとして発表している。
RedWave Technology社は、組み込み用のミドルウェアプラットフォーム「ONYX」を開発している。スタンダードなMIDPベースのJava環境を提供し、既にQualcomm社と提携しBREWベースのJavaプラットフォームの提供が決定しているという。
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4thpass社のブース
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RedWave Technology社のブース
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Sun Microsystemsブースでの映画館予約と地図アプリのデモ
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一方、Javaアプリケーション分野の出展は非常に少なかった。商用サービスとしてJavaケータイがほとんど市場に出ていないため、コンシューマアプリケーション自体が発展途上なのだと言える。その中でSun Microsystemsが面白いデモを行なっていた。
既に米国市場で販売中のモトローラのJava端末向けにサービスが提供されている映画館のチケット予約アプリケーションなのだが、ただ単にチケットが予約できるだけでなく、リアルタイムに空席情報が確認でき、Javaアプリケーションから希望の席を選択して予約することができる。前述のMapInfo社から白黒2値で地図アプリも提供中だ。
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ケイ・ラボラトリーのブース
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ミドルウェアとアプリケーションの両面を開発している会社としては、日本のケイ・ラボラトリーが出展していた。
日本の商用アプリケーションを実際に実機でデモンストレーションしているブースがここだけとあって、欧米の来場客の注目を集めていた。今回のJavaOneで出展された他社アプリケーションと比較すると、「Disney-i ToonTime」の待受時計や、インスタントメッセンジャー「KIMA」など、端末と同じくやはり完成度の違いを改めて感じさせられた。
このほか、同社が開発している独自VMである「Kamiya」のiアプリ版も披露されていた。ブースではNTTドコモの503iを使い、テトリスゲームをiアプリ向けに作成すると8KBとなるところを、Kamiya版では800バイトで実装可能であることを示すデモが行なわれていた。
その他の展示
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Zucotto Wireless社のブース
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まだまだ数こそ少なかったが、Javaに関連するハードウェア関連の企業もいくつか出展していた。
Zucotto Wireless社は、携帯電話向けのJavaチップを開発している企業だ。撮影禁止ということでCPU自身の写真はお見せできないが、Bluetoothモジュール搭載のタイプと通常タイプの2種類がある。どちらも非常に低電力で10MHz、0.5Wを実現しているという。このJavaチップ向けの開発環境も同時に提供しており、提携した開発者に対しては提供を検討している。ただし、現在の段階でこのチップの採用を決めているメーカーは公表できないとのこと。
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Gemplus社のデモ
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最後に紹介するのはGemplus社。同社はJavaCard技術をベースとしてICカードでJavaソリューションを提供している。ブースでは個人認証としてのICカード技術をJavaで提供するデモを行なっていた。今後は次世代ケータイのSIMカードのソリューションを提供していくという。
今年のJavaOneを振りかえって
昨年のJavaOneと比較すると急激に携帯電話関連の企業の出展が増えたというのが、最も大きな印象だった。市場こそまだまだ小さいものの、これだけの世界中の企業がJavaケータイという新しい端末と市場性に魅力を感じ、開発に取り組んでいるのはすごいことである。
また、この業界においては、日本が常に先行し続けているということも、今回のJavaOneを通して再確認できた。今年から来年にかけて世界各地でJavaケータイが販売されることを考えると、来年のJavaOneが今から非常に楽しみである。
・ JavaOne
http://java.sun.com/javaone/
(kota)
2001/06/14 00:00
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