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クアルコムジャパン 代表取締役会長兼社長の山田 純氏
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クアルコムジャパンは、同社の今後の取り組みを解説する報道関係者向けの説明会を開催した。従来は米国のクアルコムから社長や幹部が来日したタイミングで説明会が開催されていたが、日本国内の3G契約者数が1億件を突破したことを受け、クアルコムジャパン 代表取締役会長兼社長の山田純氏による戦略説明が行われた。
山田氏は冒頭、日本国内の3G契約者数が1億件を突破したことについて、「8年弱で1億件突破はすごいことだ」と切り出し、「スマートフォンと呼ばれる端末が世界で一世を風靡しているが、日本の端末は、3Gが、あるいはiモードが始まった時からネットフレンドリーな、スマートフォンと呼べるものだった」と日本の携帯電話がネットサービスと連携して発展してきたことを紹介。同氏がこの10年を日本の3Gの発展とともに歩んできたことを「幸運なこと」と振り返りつつ、「これからどういう取り組みをするのかが重要」と今後の戦略に話題を移した。
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日本での3G端末の推移
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携帯電話向けチップセットに加え、ノートパソコン向け通信モジュールや、Snapdragonによるハイエンドな端末を実現する3つの戦略
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■ 3Gは今後も拡大
同氏はまず、3G市場の今後の見通しについて、全世界で30億台の携帯電話に対し、3Gの携帯電話は7億5000万台であるという数字を示し、「世界を3Gで埋め尽くすには時間がかかり、事業として明るいと見ている。今年は中国で3Gの採用が決まった記念すべき年で、極めて勇気づけられている。これをテコに次のステップに向かっていく」と語り、3Gの市場が依然として拡大していくとの予測を示した。
■ LTEは10MHz幅以上で本領を発揮
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無線通信技術のロードマップ
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同社が手がける通信技術のロードマップでは、CDMAのEV-DO Rev.B、W-CDMAのHSPA+が実用化目前であるとし、「5MHz幅で利用効率を高める技術は、かなりのところまできている」と高度に発展している状況を紹介。「10MHz幅以上なら、これにLTEも加わる。こと無線技術では我々は全方位外交で、すべての技術に対応できるように進めている」と幅広い技術に対応している姿勢をアピールした。
日本国内のキャリアが次世代通信技術として導入を明らかにしているLTEについては、「周波数の利用効率という意味では、5MHz幅なら、LTE、HSPA+、EV-DOのどれでも、取り出せるデータの容量はほとんど変わりがない」と指摘するものの、「LTEは10MHz幅以上になるとローコストで実装でき、MIMOアンテナなども回路規模がやさしくて済む。より広帯域のバンドに向いているのがLTE」と開発面でのポイントを解説。「過去数年来の開発で技術を蓄積しており、今年から来年にかけてチップを形にできる」との見通しを明らかにしたほか、実際のサービス展開では「現在の3Gにオーバーレイで展開し、都市部でのより大きなデータ通信のニーズに応える形で、デュアルモードでの運用がまずは一般的になるのではないか。それを見据えた開発を行っている」との見方を明らかにした。
■ 幅広いオープンプラットフォームをサポート
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幅広いオープンプラットフォームのサポートは、同社の戦略上でも重要であるとした
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クアルコムの事業戦略としては、同社が開発するチップセット上で幅広いオープンなプラットフォームをサポートしていくという戦略を改めて示し、「多くのプラットフォームに対応できているのは、戦略的にも重視している部分」と同社の戦略上も重要な要素であるとした。この中ではノートパソコン向けの通信モジュールが拡大している例も挙げ、「ノートパソコンの3Gコネクト戦略も着々と実を結んでいる」と、携帯電話端末にとどまらない市場の拡大を示した。
■ 「MediaFLOを、日本で成功させるべく取り組んでいく」
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専用端末も試作されているMediaFLO。米国ではサービスが開始されている
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半導体の開発を中心に据えている同社だが、その半導体が使われるような、サービスプラットフォームの開発も積極的に行っている。日本国内でも開発中の「MediaFLO」は、米国では既にサービスインし、全米主要都市をカバー、年末からプロモーションが本格化するという現状が紹介され、携帯電話での視聴のみならず、専用端末やUSBチューナー、車載端末などの試作機も紹介された。
日本国内では沖縄県と島根県のユビキタス特区でMediaFLOの実験が行われており、その様子が紹介された。同社も支援する沖縄県の実験では、地上デジタル放送と同じ6MHz幅で映像20チャンネル、音声3チャンネルを同時に放送できるといった、周波数利用効率の高さがアピールされており、「積極的に、日本で成功させるべく取り組んでいく」との姿勢を明らかにした。一方の島根県の実験では、インターネット上のコンテンツを連携させ、クリップキャスト型で放送する内容を「ユニークな実験」と評し、「ネットと放送の融合型サービスをできないかというもの」と紹介した。
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沖縄県のユビキタス特区での実験
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島根県のユビキタス特区での実験
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■ BREWアプリ配信プラットフォームは「Plaza Retail」に発展
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BREWのアプリ配信プラットフォームは「Plaza Retail」としてマルチコンテンツ、マルチOS対応に拡大
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BREWに関連したアプリ配信プラットフォームに関しては、「BREWのアプリ配信システムを拡大させ、Plaza Retail(プラザ リテール)に名称を変更する。Plaza Retailでは、BREWのみならずAndroid、Windows Mobileなど通常のスマートフォンのどんなアプリも配信できるように拡張した。あらゆるパブリッシャーが参加でき、グローバルに、どこでもマッチメイキングが可能な、そんなプラットフォームを立ち上げた」と解説。その背景については、「端末プラットフォームはフラグメント(断片化)がまだ終わらない。BREWのみならず、メジャーなプラットフォームがまだまだ誕生している状況。しかし、“適切な”配信プラットフォームはいまだ生まれていない」と語り、端末プラットフォームで分断されない、統合的なアプリ配信プラットフォームであることを紹介した。同氏は、「ユーザーは、欲しいコンテンツがどのOS向けかを意識する必要は、いずれ無くなっていく」との予想を示した。
■ クラウド時代を見据えた戦略
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無線技術を使った新サービスの一例。右は途上国向けのゲーム配信プラットフォームと端末
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同氏はさらに、「クラウドコンピューティングが発展すると、それにうまく溶け込んでいく端末であればいいという、ユーザーニーズが高まってくるだろう」との予測を明らかにし、「(クラウドで成功するのが)グーグルなのかマイクロソフトなのか、あるいはキャリアなのか分からない。先行きが分からない状況で準備を整える意味においても、端末側のマルチプラットフォームに対応し、マルチコンテンツ、マルチOSとするのは当然ではないか」と、クラウド時代迎える上での姿勢を明らかにした。
同氏はまた、クラウドに関連して、米Amazonが発売した電子書籍専用端末「kindle」に例に挙げ、「アップルとスティーブ・ジョブズによって音楽が変わったように、kindleで出版が変わる可能性がある。kindleなどを支えているのが3G通信技術で、(通信の使われ方として)極めて美しい形。今後もこういうことが起こっていく」と、コンシューマエレクトロニクスの分野における通信技術の発展に大きな期待を示した。一方で同氏は、「電子ブックや出版業界とのつながりもあったのに、なぜ日本でこういうことが起こらなかったのか。通信回線では劣っている米国でkindleのようなサービスが開始されたのはじくじたるものがある。これに勝るとも劣らないサービスを日本でも出していきたい」と意気込みを語り、通信技術でもって日本国内の新サービスを積極的に支援していく姿勢を強調した。
同氏はプレゼンテーションの最後として、「次世代に向けたポイントは、クラウドにあった端末プラットフォームとコンテンツ配信プラットフォームで、ここにフォーカスがある。新しい無線技術の使い方はまだまだあり、3Gや4Gだけでなく、近距離無線通信や非接触の充電をふくめて、活動を行っていく」と活動方針を示した。
■ 「クラウドに対応できるかどうかで、業界の地図が塗り変わる」
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1GHz駆動のチップセット「Snapdragon」を初めて搭載した東芝製の「T-01A」。Snapdragon自体はAndroidへの対応も進められている
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質疑応答の時間には、「ネットブック対スマートフォン」といったような、パソコンと、ハイエンドな携帯電話端末の勢力争い、その動向の予測が問われた。山田氏は、「単純な解は無いが、競争はまだ始まったばかり。ここ数年はしばらく続くだろう」との見方を示した。加えて同氏は、そのポイントが「クラウド」であると指摘し、「たとえばグーグルのマップ、ストリートビュー、Gmailなどがコンシューマに受け入れられれば、大半のニーズは満たされるだろう。そこにうまく適応しているローコストな端末が、重要な役割を担う」とクラウドにうまく適応した製品が大きな鍵を握るとした。
さらに同氏は、「我々はグーグルとの協力関係を深めている。今クラウドを最も進めている急先鋒(せんぽう)がグーグルで、我々のチップセットを搭載した端末との親和性も高い。“グーグルフォン”をサポートしているチップは我々の製品のみで、Snapdragonについても、Android対応は着々と進んでいる」とグーグルのサービスを積極的にサポートしていく姿勢を示し、「クラウドに対応できるかどうかで、業界の地図が塗り変わる可能性がある」とクラウドが重要な焦点になるとの見方を明らかにした。
■ URL
クアルコムジャパン
http://www.qualcomm.co.jp/
(太田 亮三)
2009/05/29 19:28
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