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ラリージャパンで見えた北海道のネットワーク事情

NTTドコモの移動基地局車。数キロ離れた既存の基地局からの電波を拾い、中継する仕組み。同じ会場にもう一台と札幌ドームに1台の計3台を出動させた
 10月31日から3日間、北海道・札幌周辺でWRC(世界ラリー選手権)第14戦「ラリージャパン」が開催された。

 WRCは国際自動車連盟(FIA)が主催する世界選手権で、市販車をベースとした競技用車両で林道や一般道を閉鎖したコースなどでの合計タイムを競う。自動車メーカーのフォードやシトロエンに加え、日本からはスバルとスズキが参戦している。

 レースは札幌を中心に千歳や夕張、苫小牧などの林道や特設コースで行われる。山の上の牧草地帯や周辺になにもない山の中など、過酷な環境で行われている場合がほどんどだ。観客も当然ながら、林道の近くに設置された観戦エリアに行ってマシンを見ることになる。当然、普段は人が誰もいかないような場所だけに、携帯電話のエリア外というケースも多い。

 そこで、大手3キャリアは今回のラリージャパンのために移動基地局車などを出動させ、臨時にエリア対策を行った。各社が移動基地局で対応するのはイベント対応だけでなく、将来的に大規模災害が起こったときの「予行練習」という意味合いもある。

 各キャリアの取り組みを取材すると、それぞれの北海道ネットワーク事情が見えてきた。


洞爺湖サミットを契機にさらにネットワーク品質が大幅向上したNTTドコモ

観客席から見えるNTTドコモの移動基地局車。こちらに向けFOMAの2GHz帯の電波が飛んでいるというわけだ
 NTTドコモは、新千歳にある仮設コース(イメル)に2台、札幌ドームに1台の移動基地局車を出動させた。

 いずれも圏外ではなく、多くの観客が来るので「バックアップ的に容量を確保するため」(NTTドコモ北海道支社ネットワーク部移動無線統括室・土門正人移動無線計画担当主査)に出動させたという。

 移動基地局車は、遠くにある既存の基地局からの電波を中継し、観戦エリアに再送信するいわば「ブースター」の役割を果たしている。「ドコモでは8月ぐらいからWRCが開催されるコースをすべて下見し、対策することにした」(ネットワーク部移動無線統括室・新屋晋移動無線計画担当)。

 北海道地区のネットワークは「auが強い」というイメージがあり、FOMAを導入した頃のNTTドコモはかなり苦戦していたという。しかし、「すでに800MHzのオーバーレイ対応をほとんど終え、品質は他社に負けないと思う」(営業推進部営業部門ソリューション担当・秋元秀幸担当部長)という。

 またFOMAプラスエリアとして、スキー場などでのエリア対策も完備済みだ。すでにFOMAプラスエリアを導入済みであったが、北海道地区のネットワーク品質がさらに充実したのは7月に開催された洞爺湖サミットの影響もあるという。かつて、NTTドコモの中村維夫社長(当時)が「ネットワーク対策のために30億円ほど投入する」と語っていたことがあったが、「サミット対策に向け、通常は工事を行わない真冬にも稼働するなど急ピッチで対策を施した」(秋元氏)という。

 かつては「FOMAはつながりにくい」というユーザーの声もあったが、いまでは挽回し、「他社に流出したユーザーも、FOMAのエリアの良さを知って戻りつつある」(NTTドコモ関係者)とのことだ。


800MHzでエリアの良さに定評のあるau

 一方、電波が届きやすいとされる800MHz帯がメインとなっているのがauだ。そのため、北海道でも「つながりやすい」というイメージが強いキャリアでもある。

 今回、WRCではキナという場所に移動基地局車を1台出動させていた。観戦エリアに3000人の観客が訪れることを想定。事前の調査ではすべての観戦エリアで圏外ではないものの、不安定な状況であったため、移動基地局車での対応となった。

 ただし、他キャリアと違い、周辺にある既存の基地局から中継するのではなく、衛星を経由して圏外だったエリアを圏内にする仕組みを採用していた。「災害時などは周辺の既存基地局も影響を受けて使えなくなることが予想される。中継タイプの移動基地局車では対応できないことが考えられる。しかし、衛星を経由すれば、どんなに圏外でもすぐに圏内にできるメリットがある」(KDDIコンシューマ北海道支社au営業部・米田康二主任)という。

 移動基地局車にはパラボラアンテナが設置され、衛星からの電波を受けている。さらにここから電波を飛ばすことで半径数キロの範囲をエリアにできる。収容できるトラフィックは「既存の基地局と変わらない」(米田氏)とのことだ。

 KDDIでも同様に洞爺湖サミットを契機にさらなるネットワーク対策を実施。「国有林などに基地局を設置するのは難しいため、他キャリアと協力して対策を行うなど、環境に配慮してきた」(米田氏)という。


KDDIの移動基地局車。シャトルバス乗降場に駐車していたため、KDDIのロゴが観客からもよく見えており、宣伝効果もバッチリ 基地局車の上に設置されたパラボラアンテナ。衛星からの電波を受信して、ポール状のアンテナから観客席に電波を飛ばす

25mのクレーン車を出動させ、6つのエリアで対策を行ったソフトバンク

牧場に設置したソフトバンクモバイルの移動基地局。テントには中継装置などを置き、発電機で稼働させている。数キロ離れた基地局からの電波を中継している
 800MHz帯を使い、ネットワーク対策として有利なNTTドコモとauに対し、2GHzしかないために、他社以上に努力が必要なのがソフトバンクモバイルだ。2GHzは800MHzに比べ電波到達距離が短いため、必然的に基地局を数多く打たなくてはならない。

 WRCは通常、人が来ないような場所で開催されているため、ソフトバンクモバイルの電波も届いておらず、エリアになっていない。そのため、他社以上のエリア対策が求められるのだ。

 ソフトバンクモバイルは、WRCが昨年まで帯広で開催されたいたころから、積極的にエリア対策を実施しており、かなりのノウハウを持っている。今回、KDDIが対策を施したキナという場所ではアンテナをつけたポールを2本立てて、遠くにある基地局からの電波を拾い、中継して観客席に飛ばすということを行っていた。

 また、NTTドコモが2台基地局を出したイメルでは「イベントが頻繁に行われるので、ブースタータイプの基地局を新設した」(ソフトバンクモバイル・ネットワーク統括本部モバイルネットワーク本部北海道技術部無線建設課、野村佳宏課長)という。

 今回、ソフトバンクモバイルが最もマンパワーを割いたのが苫小牧市にあるコイカという林道だ。キナの場合、山の上にあり、また牧場でもあるため、見晴らしがよくまわりの基地局を目視することもできる。そのため、遠くの基地局の電波をしっかりと受信することが可能だ。しかし、コイカの観客席は山の谷間のような場所にあり、さらに木が覆い茂った環境となっている。そのため、周辺にある基地局の電波を拾うことができないのだ。

 そこで、ソフトバンクモバイルでは、山のなかに高さ25mまで伸びるクレーン車を導入。クレーンの上にアンテナと基地局設備を載せ、2kmほど離れた基地局から受信し、観客席に向けて再放射する仕組みを作り上げた。クレーンによって、樹木よりも高い位置にアンテナを設置できるため、しっかりと電波を中継できるのだ。

「昨年の帯広では3台の移動基地局車を出動させていたが、今年はあえて使わなかった。なぜなら、災害時などを想定した場合、災害地が必ずしも移動基地局車が入れる場所ではないことも考えられる。そういったときは手で基地局設備を搬入するのがいちばん手っ取り早い」(野村氏)。

 キナの基地局は、アンテナと中継設備、発電機を人力で搬入しており、どこででも移動基地局設備をつくれるようにコンパクトに設計されている。

 各キャリアとも、集客力のあるイベントにおいてのネットワーク対策をしつつ、大災害時を想定して「いかに損害を受けた基地局をカバーし、エリアにするか」といった課題に取り組んでいるのだ。


クレーンの上にアンテナを設置する作業員たち。アンテナと中継機器がクレーンの上に載っている 完成したクレーン型簡易基地局。クレーン下に手前を向けて設置された四角いアンテナが数キロ離れた基地局からの電波を受信。クレーン上のポール状のアンテナを使って観客席に向けて中継する

クレーン型基地局をしたから見上げたところ。高さは約30mにもなる クレーンの下では特別に開発された機器を使い、電波状況をチェックする

クレーン型基地局を観客席のほうから見るとこんな感じ。樹木の上から電波を飛ばしているのがよくわかる クレーン型基地局を観客席のほうから見るとこんな感じ。樹木の上から電波を飛ばしているのがよくわかる

WRCの観戦エリア。シートなどはなく、牧草地や山のなかにある道のそばでWRCカーが来るのをじっと待つ。テレビやラジオ中継がないだけに、ケータイからの速報情報だけが頼りになる 泥道を駆け抜けるWRCカー。普段は人がいないような場所を走ってタイムを競い合う


URL
  Rally JAPAN
  http://www.rallyjapan.jp/j/
  NTTドコモ
  http://www.nttdocomo.co.jp/
  KDDI
  http://www.kddi.com/
  ソフトバンクモバイル
  http://www.softbankmobile.co.jp/


(石川 温)
2008/11/11 18:30


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