BWA(Broadband Wireless Access)ユビキタスネットワーク研究会は10日、「BWAユビキタスネットワーク研究会の取り組み~検討課題の進捗状況について」と題して都内でセミナーを開催した。カメラを用いた実証実験の紹介や検討課題に関する発表が行われた。
発表に先立ち、同研究会の会長であり京都大学教授の美濃 導彦氏が挨拶。その後、パナソニック株式会社 ソリューションシステム社の栗原 紹弘氏、ウィルコム 次世代事業推進室の上村 治氏、同研究会事務局のクロサカタツヤ氏らが登壇し、技術面、法律面で協力する関係者らもコメントした。
■ 観測される人に「優しいカメラ」を目指したい
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京都大学の美濃 導彦氏
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センサーネットワークの状況
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挨拶に立った京都大学教授の美濃 導彦氏は、RFIDタグを用いたセンサー情報の有益性を説いた上で、同研究会の目的を説明。「カメラというものを中心にしたマルチメディアデータを、できるだけ広く、社会的に有効利用したい。情報共有と運用部分では、プライバシー問題にどう対処するか、社会的コンセンサスを得たい。技術と社会の話を一緒に議論していくような協議会を作ろう」と話し、高機能センサーの設置方法や、定常的に取得されるストリームデータの扱い、情報基盤、どういう機能を共有してサービスに活かすのかが議論対象だとした。
また、2003年5月~2006年6月までNICT京阪奈研究センターで行われた「ゆかりプロジェクト」とよばれる生活実験も紹介。観測対象者を支援するための撮影が目的であり、監視ではないと説明した上で、カメラやマイクを30~40台設置した住宅に、20代から60代までのさまざまな世代に2週間暮らしてもらったという。実験の結果、多くの被験者から「生活開始の3日間は緊張感があり、見られているのはいやだと思ったが、4日目以降は気にならなくなった」という感想が得られたと話した。
同氏は「撮られていても、自分のためと思えば気にならなくなるようだ。カメラというと全部監視カメラという世の中は、もう少しなんとかならないのかというのが私の考え。目的を明確化し、優しいカメラがあるんだという概念を作れたらいいと思う」と話した。
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研究会の設立
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研究会の目的
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生活実験概要
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生活後のインタビュー結果
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■ 「子ども見守りシステム実証実験」の結果は好評
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パナソニックの栗原 紹弘氏
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街角見守りセンサーシステムのコンセプトモデル
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パナソニック ソリューションシステム社の栗原 紹弘氏は、「BWA技術のビジネス展開への期待 街角見守りセンサーシステムの事例」と題して講演。同社が「ユビキタスの技術を使って、安心、安全な世界を作っていこう」をテーマに、4年前から行ってきたというRFIDを用いた子供の見守りに関する2度の実証実験について、その仕組みや利用者の声などを紹介した。
実証実験が行われたのは大阪市と弘前市。大阪市では通学路にカメラを設置し、子供が前を通る瞬間に写真を撮影し、その画像を母親に伝えるため、母親は登下校のタイミングが分かり、子供の安全を確認できる仕組み。通学路に設置するノードに電源が必要だということで、自動販売機を利用。自動販売機の上にカメラを設置した。
大阪市の経験を踏まえて行われた弘前市の実証実験では、事前にアンケートを行い、登下校のシステムに関する期待感の高かった学校で行なわれた。電子タグを所有した子どもをタグリーダとネットワークカメラがとらえ、登下校が保護者に伝わる仕組みとなっている。
同氏によれば、いずれのケースも事件が起きそうもない場所にカメラを設置した1つの事例になったという。「わざわざ写真を撮る必要があるのか?という議論が必ずあるが、より安心感を与えるということが非常に大きい。携帯電話の偽装などの問題もあるため、本人確認のためには必要だ」と語った。
一部の利用者からは監視されているという声が聞かれたが、結果は非常に好評で、大阪では学校にも設置して欲しいという声が全体の71%に達した。弘前市の場合、実施前には画像を撮影されることに違和感を感じていた利用者も、今年度の参加率は100%に達しているという。他の地域への展開を望む声も聞かれ、電子タグを所有していること自体が防犯につながる可能性も期待されているという。
「街角見守りセンサーシステム」は、すでに長崎県島原市、北海道岩見沢市、横浜市南区、岡山県岡山市の4地域に納入されている。「画像撮影の難しさ、検出時間の集中とそれによる帯域の混雑や通知遅延、タグシステムが課題。現在のインフラはケーブル網、地域網、公衆網、インターネットなどを利用しているが、BWAのネットワークがあれば、一気に様々な問題が解決するだろう」と、BWAに期待を寄せた。
質疑応答では、最初に実施する大阪での説明が最も苦労したと語り、父母、学校などと密接なコミュニケーションをはかって周知徹底したことや、総務省などの公的機関の協力があったことが功を奏したと語った。
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実証実験の概要
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弘前氏内実証実験結果(保護者の声)
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「子どもの見守り」の機能・コンセプトのまとめ
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情報提供画面イメージ
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■ XGPはマイクロセルである
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ウィルコムの上村 治氏
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BWAとは
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ウィルコム 次世代事業推進室の上村 治氏は「BWA技術とXGPについて」と題して講演。BWAとはなにか、XGP(eXtended Global Platform/次世代PHS)のコンセプト、マイクロセル方式の有用性、ならびに「WILLCOM CORE」の概要について説明した。
まず、BWAの定義については「BWAとIMT3.5Gとの区別は不明確ではないか」としたうえで、「BWAとは、高速大容量データ通信にて、際限なく使用することを許容または前提とするシステム」と位置づけた。代表的なBWA技術として「WiMAX」「LTE」「HSPA」の3つをあげ、来年からウィルコムが開始する「XGP」と条件を合わせて比較した場合、最大速度はほとんど変わらないとして「よく似たシステムといえると認識できる」と語った。
BWAの課題として「増大するブロードバンド通信量の収容」であると指摘。電波をどのように効率的に利用するかが課題だという。固定通信の場合でも月当たりの加入者平均で5GBに達しており、さらに将来的に増えると想定されている。それを踏まえ、BWA技術の真価のポイントとして周波数リソースの有効利用が最大のポイントで、セルの範囲が小さいほど効果的と述べた。
ウィルコムがPHSで10年来運用しているマイクロセル方式は、セルが重なりあってエリアをカバーしているため、1箇所から多くのセルにアクセス可能となり、ユーザ数が増えても、マクロセル方式よりもトラフィックを分散でき、速度が落ちにくいと説明。「BWAで重要なのは“カタログスペック”ではなく、どれくらいの速度が出るかという実効速度である」と語り、「XGPはマイクロセルである」と重ねて強調した。
また、XGPサービスのブランドとして「WILLCOM CORE」のロゴを披露。BWAを実現するとして、2009年10月のサービス時より、PCカードやUMPC、MIDなど、多数の端末を提供していく予定だという。基地局と端末は現在開発中であり、基地局を京セラが、端末は現在NECインフロンティア、ネットインデックスが開発中。「本日、基地局の無線局申請を実施した」と報告も行った。
同氏は、映像配信、広告配信、安全・安心プラットフォームなどの利用のほか、固定ビデオカメラ、モバイルビデオ端末、オーディオ端末によるアプリケーション開発などで「高速性を活かして優位に立てるのではないか」と自信を見せた。
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代表的なBWA技術
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XGP(次世代PHS)コンセプト
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WILLCOM COREとロゴ
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XGP利用イメージ
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■ 目的と対応策を明確することが重要
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事務局のクロサカタツヤ氏
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概要
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講演の最後には、同研究会事務局のクロサカタツヤ氏による「本研究会で検討するサービスのあり方~プライバシー問題を中心に~」と題した講演が行われ、BWAユビキタスネットワーク研究会の目的を解説するとともに、カメラネットワークについて、今年日本でも公開された「Googleストリートビュー」への利用者の反応を例に、プライバシーや肖像権といった法制度の問題について語った。
同氏は「WILLCOM COREの発表を受けて、これだけリッチな環境をPHSやPCベースのデータ通信だけで使うのはもったいない。広く細かい領域で使えるのであれば、これまで語られてきた夢のようなサービスが展開できるのでは、と考えた」として、研究会には新しい技術やサービスに相応しいインフラのあり方を検討する目的があると語った。
同研究会が推進している定点カメラセンサーネットワークについては、プライバシーや肖像権の問題について十分検討しなければならないと指摘。「Googleストリートビュー」リリース後には、知らぬ間に撮影されていたことや、高すぎる目線、私道に入っての撮影、不十分なマスキング、オプトアウト用の窓口が不明確など、懸念や反発に近い反応が起こった。
これら抵抗感の原因について「類似の先行サービスではあまり批判されていない。サービスの目的が不明確で、犯罪ほう助もふくめ、誰がどう使うか分からないと思わせていることが不安を高めている」語り、目的と対応策を明確にし、ユーザーとのコミュニケーションを取ることが大事だと強調。あわせて、プライバシーや個人情報に関する法制度や法源が不足しており、判例が揺れていることも問題だと指摘した。
これらを踏まえ、審議会で検討すべき領域として、プライバシーポリシーの明確な基準の策定と公開や、ポリシーの維持、メンテナンスの体制構築、社会的なコミュニケーションなどをあげた。
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法制度面での位置づけ整理(なぜ抵抗感を招いているのか)
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法制度面での位置づけ整理(図解)
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■ 技術面、法律面で協力する関係者らは、XGPのこれからに期待
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筑波大学の亀田 能成氏
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講演の最後に、同研究会をサポートする関係者がコメントした。審議会、部会の双方で技術やサービスの具体的な内容について検討しているという筑波大学の亀田 能成氏は「すべての技術は得るものと失う物のバランスの上に成り立っている。いい技術はそれなりに悪い側面を必然的に連れてくるのは仕方がないこと。その上で、このような研究会を通じて、そのバランスをどこにもってこれるかということをしっかり見極めた上で実用化できたらいいと思う。そのことについて協力していければいいと考えている」と述べた。
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弁護士の牧野 二郎氏
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審議会で法制度面を担当している弁護士の牧野 二郎氏は、利用者に受け入れられたパナソニックの見守りシステムについて触れ、「目的が明確だからということ、見ている人の範囲が地域であるということがポイントだろう。情報が拡散していないことと、それに有益性というものがひも付いており、“気持ち悪さ”が全くない。またパナソニックという非常に有名な企業が献身的にやっているということも大きく関連しているだろう。非常に素晴らしいビジネス実験で有益だ」と賞賛。一方で、個別サービスとプラットフォーム事業という2つが、どういう関連でつながっていくのか、ウィルコムがどのように制御していくのかが今後の重要な問題になると語った。
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上智大学の服部 武氏
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これまでPHSの概念や、パケットシステムそのものに関わってきたという上智大学の服部 武氏は、「PHSが開拓した道は、大変な逆風を受けながらよく育ってきたと思う。XGPは非常に大きな可能性を持っている。新しいインフラが出来る可能性がある。ただしいろいろな課題もある。あまりに一般的にするとコンセンサスを得にくくなるという面もある。具体的な例から進めて汎用化すると、非常に大きなサービスになるのではないか」とアドバイスした。
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ウィルコムの黒沢 泉氏
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セミナーの最後には、ウィルコムの執行役員である黒沢 泉氏が挨拶。「年度内までにある一定の方向性を出して、来年度以降は実証実験を考えている。信用があって初めてできること。みなさまのプライバシーを守りながら、きちっと活用することによって、多くの方にご利用いただけると思う。事業化にむけて立ち上げてゆきたい」と目標を述べた。
■ URL
BWAユビキタスネットワーク研究会
http://www.bwaun.jp/
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(すずまり)
2008/10/14 12:18
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