京セラは9日、同社が提唱するモバイルブロードバンド技術「iBurst」に関する説明会を開催した。説明会ではiBurstの技術的メリットに加え、CATV事業者を中心とした事業展開などが明らかにされた。
■ 1基地局で下り24Mbps、1ユーザーで1~2Mbpsの通信が可能
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iBurstのシステム概要
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iBurstは、京セラと米ArrayCommが共同開発したモバイルブロードバンド技術。1基地局あたり下り24Mbps、上り8Mbpsの通信が可能であり、1ユーザー単位では下り1~2Mbps、上り333kbpsの通信が可能。この通信速度を5MHzの周波数幅で実現できるという周波数利用効率の高さを特徴としている。
海外では2004年3月にオーストラリアで商用サービスを開始して以降、2008年には17カ国で事業を展開しており、さらに9カ国で商用サービス開始を計画中。現在商談中の国も日本を含めて20カ国以上あるとした。
iBurstの国際標準化も進めており、2005年9月14日にはANSI規格で「HC-SDAM」の名称で承認を受け、続く2007年3月28日はITU-R M.1801勧告仕様としてITUに承認。2008年6月12日にはiBurstをベースとして変調方式や暗号化仕様、BCMCS(Broadcast/Multicast Services)仕様などを追加した「625k-MC」がIEEE 802.20として承認された。IEEE 802.20 625k-MCの技術仕様のうち80%近くはiBurstの技術であり、IEEE 802.20とiBurstの互換性も保てるという。
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17カ国で商用サービスを展開
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2008年にはIEEE 802.20として標準化
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■ 周波数利用効率の高さがiBurstの特徴
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京セラ 通信機器関連事業本部 システム第1技術部 副部長 兼 ブロードバンド技術部責任者の小山克志氏
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京セラ 通信機器関連事業本部 システム第1技術部 副部長 兼 ブロードバンド技術部責任者の小山克志氏は、iBurstの周波数利用効率をアピール。「理想的な条件で計算されたカタログ性能ではなく、複数の基地局に複数のユーザーが接続する場合の実効実現性能が重要」とした。
具体的には下り24Mbps、上り8Mbpsという非対称構成に加え、6つの変調方式によってダウンリンク9クラス、アップリンク8クラスを環境に応じて切り替える「アダプティブ・モジュレーション(適応変調クラス)」方式を紹介。変調方式は高速になるほど切断されやすくなるという特性があるため、電波の環境によって速度と安定性のバランスを調整し、最適なモジュレーションを選択しているとした。
SDMA技術の採用も特徴の1つ。SDMAとは空間を多重する技術で、通常1つの周波数を1ユーザーが利用すると他のユーザーが利用できないが、iBurstでは空間を多重することであと2ユーザーまで同じ周波数を利用でき、単純に3倍の効果があるとした。
京セラが10年以上取り組んでいるというアダプティブ・アレイ・アンテナ技術も紹介。ターゲットの端末に電波を集中し、それ以外には電波をいかないようコントロールすることで干渉を抑える技術で、この技術により隣接するセルでも同じ周波数が利用でき、トータルの利用帯域を狭く抑えることができるという。これら技術によってiBurstは「理論値に比べて50%程度の利用効率で抑えられている。一般的に50%は高い数値」とした。
小山氏はiBurstが使用する周波数幅が狭い点もアピール。下り24Mbps、上り8Mbpsという数値は5MHz幅で実現しており、「十数カ国でサービスを提供できているのは、獲得する周波数幅が狭くて済むというメリットもあるため」と説明。「2.5GHz帯を割り当てられているウィルコムやUQコミュニケーションズは30MHz幅」とした上で、「他の技術でも5MHz幅でのサービスは提供できるが効率は落ちる。逆に我々は周波数幅が増えればさらに高速化できる」とし、「2GHz帯の割り当てはわずか15MHzで、30MHz必要なシステムでは利用できないが、我々のiBurstなら十分」と補足した。
時速100km以上で通信できる移動性・常時接続性やVoIPもサポート。VoIPでは音質の基準であるR値でほぼ固定電話と同等、遅延では固定電話より高い品質を維持できるという。ただし、遅延に関しては「あくまで無線区間のデータであり、その先のネットワーク区間も考慮しなければいけない」としつつ、「少なくとも携帯電話と同程度の遅延で抑えられるだろう」とした。
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周波数利用効率の高さがiBurstの特徴
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6つの変調方式を切り替えるアダプション・モジュレーション
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ターゲットの端末に電波を集中するアダプティブ・アレイ・アンテナ
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5MHz幅で上下合計32Mbpsの通信が可能
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時速100kmでも通信が可能
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VoIPもサポート
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■ 2GHz帯の再割当候補として検討中。CATV中心の事業展開
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国内の2GHz帯再割当状況
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日本では総務省が新規事業者向けに2GHz帯を割り当てる方針を示した際、ライブドアがiBurstを採用したモバイルブロードバンド事業の構想を示していたものの、実際に2GHz帯はアイピーモバイルに割り当てられた。しかし、アイピーモバイルが自己破産により2GHz帯の返上申請を行い、総務省が認定取り消しを決定したことで、現在は携帯電話等周波数利用方策委員会によって2GHz帯の再審議が検討されている。
携帯電話等周波数利用方策委員会では2008年1月より4回の作業班会議と7回のアドホック会議を実施し、この中でiBurstをベースとした625k-MCのほか、IEEE 802.16(WiMAX)、次世代PHS、LTE TDD、UMB TDDの5技術が検討されている。6月10日から7月9日は同委員会の報告案に対する意見募集を行っており、ここで寄せられた意見を踏まえて次には事業者による申請を募集する流れという。
京セラはiBurst関連機器を製造するメーカーであり、iBurstを採用した事業展開に関しては他事業者がiBurstを採用したサービスとして展開することになる。具体的な事業者名などは明らかにされていないが、現在のところCATV事業者をターゲットとして、10社程度と交渉を進めているという。
CATV事業者の場合は全国展開している事業者が存在しないため、サービス開始当初はCATVインターネットを代替するような固定サービスとして展開し、事業者間の連携やサービスの普及が進んだ段階でモバイルサービスへと移行していく流れを想定しているという。具体的なサービス開始時期などは事業者次第だが、「免許さえ割り当てられれば1カ月でサービスは可能。早ければ2008年にもサービスを提供できるのではないか」とした。
国内のモバイルブロードバンドサービスは、イー・モバイルに加えてNTTドコモやauもサービスを提供しているが、iBurstでは周波数の利用効率が高く、設備投資も低く済ませられるというメリットを武器にとして事業者と交渉していく方針。「事業者にとって投資の回収は重要な問題。iBurstは非常に早く展開でき、設備投資の回収もしやすい」とした。
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会場に用意されたデモ。14台のPCから同時に動画をストリーミング再生
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基地局とアンテナ。実際にはビルの屋上に設置されている基地局と通信している
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クライアント端末
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来日中のタンザニアの大統領もiBurstの技術デモを見学
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■ URL
iBurst(京セラ)
http://www.kyocera.co.jp/prdct/telecom/office/iburst/
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・ 第221回:iBurst とは
・ 無線ブロードバンド技術「iBurst」
(甲斐祐樹)
2008/07/09 19:19
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