日本エリクソンは11日、都内で報道関係者やアナリストらを対象にしたセミナーを開催した。エリクソン本社の技術部門シニアバイスプレジデントで、前CTOのJan Uddenfeldt博士とGovernment & Industry RelationsディレクターのMikael Halen氏が登壇し、高速無線通信の今後について説明を行なった。
■ Uddenfeldt氏「WiMAXよりHSPAが有利」
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エリクソンのUddenfeldt氏
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HSPAの性能表
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まずUddenfeldt氏は、エリクソン本社が進める企業買収・投資を紹介し、「過去2年間で約60億ドルを投資したが、無線通信以外の分野の企業を買収している。たとえばIPテレビ技術のタンベルグ(TANDBERG)や、ルーター市場第3位の企業だったレッドバック(RedBack)だ。既に、モバイルブロードバンドサービスは登場しており、今後はLTE(Long Term Evolution、3.9Gとされる通信技術)になるだろうが、たとえばIPテレビは大容量のため光通信が必要となるだろう。それ以外の分野はモバイルブロードバンドが活用できる」とした。
HSPA(HSDPA、HSUPAの総称)については、「現在は約7Mbpsだが、2009年には下りで約42Mbpsを実現できる」とした。
現在、日本でも事業化が進められているWiMAXに対しては「HSPAと同じ物を提供するにすぎない。WiMAXは2007年よりサービスが提供されるとのことだが、現在遅れている。カバレッジ(基地局のカバー範囲)を比べても、HSPAのほうがWiMAXより優れている。ソフトハンドオーバーやリンクバジェット(基地局からの電波到達距離を意味する数値)でもHSPAのほうが優位と言える。また、WiMAXは2.6GHz帯(日本では2.5GHz帯での採用が有力視されている)で良いマーケットを作るのは難しいのではないか。端末もWiMAXはこれからだが、HSPAは既に発売中でスケールメリットが活かせる」と語り、HSPAのスペックが向上することにより、WiMAXの優位性は失われるとの見方を示した。なお、日本エリクソンでは「3GとWiMAXは補完的な関係と考えている」とコメントしている。
Uddenfeldt氏は「モバイルブロードバンドの牽引力という点では、携帯電話だけではなく、ノートパソコンが重要となる。エリクソンで内蔵型モジュールをパソコンメーカーに低価格で提供する。また、郊外型製品では壁掛型/据置型モデムも存在する。これはモバイルではなく、郊外での高速通信用において、DSL代わりに使われるだろう」とも述べていた。
このほか、第4世代(4G)の到来に向けて、現状の技術をさらに発展させた3.9Gの通信技術として開発が進められているLTEについて、Uddenfeldt氏は「HSPAからLTEには、ソフトウェアアップデートで対応できる。既に下り144Mbpsという通信速度でデモできる状態にある。CDMA2000陣営は今後、UMB(Ultra Mobile Broadband)に行くとのことだが、CDMA2000事業者にはLTEの採用を検討しているところも多いようだ。これはLTEのほうが安価な導入コストになると見られているためだ。エリクソンでは商用のLTE製品を2009年上期に登場すると推測している。標準化作業は基本的に終了しており、今後も標準化策定に向けた問題はないだろう」とした。
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HSPAの進化によってWiMAXの優位性は失われるとの見方が示された
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HSPAとWiMAXのカバレッジ能力比較図
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■ Halen氏「HSPAはコスト効率の良い技術」
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エリクソンのHalen氏
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2010年にはトラフィックの7割をHSPAが担うとの予測
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Halen氏からは、HSPAおよびLTEについて、市場動向を踏まえた分析が語られた。同氏は、「モバイルブロードバンドは全ての人がすぐ使えるものではない。しかし今後数年で固定網のユーザー数を上回るのではないか。実際に、オーストリアの3Gオペレーターでは新規顧客の66%がモバイルブロードバンド。一般ユーザー向けの通信事業者にとってモバイルブロードバンドは有望なものになる」とした。
今後の動向について、「現時点で3Gはパケット通信の50%以上を占めているが、2010年には、パケット通信の7割をHSPAが担うことになるだろう。無線LANのような技術もあるが、重要な点の1つはカバレッジ。たとえばPDAにはモバイルブロードバンドが必要であり、スマートフォンが急速に伸びているのは、こういった傾向を明確に示している」と分析。
さらに重要なポイントを、パソコンでの通信を含めたパケット通信定額制プランの実現、と指摘したHalen氏は「欧州では、定額制を導入した事業者でARPUが向上したという実績がある。ライフスタイルや使い方を踏まえると、バラエティ豊かな製品が求められるが、HSPA対応製品は既に内蔵モジュールやルーター型など300種類以上に及ぶ。固定網とモバイル両方でトラフィックが急速に拡大するだろう」と語った。
パソコンでの定額制が実現する場合、無線通信では周波数幅などの限界によって容量の逼迫が懸念される。この点についてHalen氏は「W-CDMAでは、セルを細かく分割したりすることで、容量向上が図れるだろうし、搬送波を追加できればさらに容易だ。また、LTEは効率よく周波数を活用でき、日本にとっても重要な技術になるだろう」とした。
HSPAがコスト面で優位という判断の背景については、「66カ国でHSPAは展開している。対応端末も数多く出荷され、スケールメリットが活きる」と説明した。
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HSPA導入・導入予定のエリアを示した図。赤は導入済み、緑は2007年中の導入予定地域
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欧州では、定額制導入によりARPUが向上したというレポートが報告されている
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■ URL
日本エリクソン
http://www.ericsson.co.jp/
(関口 聖)
2007/09/11 16:17
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