慶應義塾大学、KDDI、エフエム東京は20日、デジタル放送上にIPネットワーク環境を構築する技術「IP over デジタル放送」を開発したと発表した。3社では、同技術を利用した放送サービスの実現可能性について共同で検討することで合意した。
■ 放送波にIPデータを組み込んで配信する「IP over デジタル放送」
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3社が共同開発したシステムの概要
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「IP over デジタル放送」は、デジタル放送上にIPデータを乗せて配信する技術で、インターネット上のコンテンツを放送波経由で配信できる。3社ではまた、通信回線との組み合わせによって、デジタル放送が持つ即時同報性とインターネットが持つ双方向性のメリットを活かした新しいサービス提供も考えられるとしている。
3社が開発した汎用システムでは、インターネットコンテンツをIPパケットの状態で、MPEG-2 TSの中にカプセル化し、デジタル放送波を使って配信する。視聴者側は、ソフトウェア上でカプセル化したIPパケットを取り出すことで、放送と同時配信が可能になるという。
受信時に使用するデジタル放送チューナーボードは市販の製品を利用。IPパケットを取り出すソフトウェアをパソコン側に追加インストールするのみで、ハードウェア的な追加は必要ないという。配信の際はデータ放送の部分を利用し、通信速度は利用する放送波によって異なる。ワンセグでは最大400kbps、3セグメントの地上デジタルラジオの場合は最大1.2Mbpsで、配信速度は放送部分での利用状況に応じて調整が行なわれる。
通信部には、衛星放送や地上波放送など片方向にデータ配信が可能な「Uni-Directional Link(UDL)」を、双方向通信が可能なインターネット回線と組み合わせて擬似的な双方向環境を実現する「Uni-Directional Link Routing(UDLR)」技術を実装。また、通信プロトコルにはIPv4およびIPv6をサポートした。なお、デジタル放送波の使用技術は各国が定める技術に沿う形になるという。
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システムの実機
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3社がそれぞれ担当する役割
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■ 災害発生時の通信インフラの代替え手段としても活用を想定
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「ネットサーフィン同期型ディスクジョッキー」概要図
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20日に開催された発表会では、同汎用システムを利用したアプリケーション例として「ネットサーフィン同期型ディスクジョッキー」が紹介された。これは、放送局のパーソナリティが番組で取り上げた話題や楽曲に関連したWebサイトの情報を、デジタル放送波を利用して利用者のWebブラウザに同時に通知・同期できるというもの。
利用者は、関連情報などをインターネット回線を利用してメールなどで投稿し、パーソナリティが取り上げていくことで、視聴者参加型の番組やサービスが実現可能になるとしている。また、大規模災害などで通信インフラが機能しない場合の情報伝達手段としても活用が可能だとしている。
このほか、同技術の利用イメージとしては「視聴者参加型リッチコンテンツの作成」、「利用者別マルチキャスト」などが考えられるという。3社では、11月22日と23日に開催する「SFC OPEN RESEARCH FORUM 2006(主催:慶應義塾大学 SFC研究所)」で、デモンストレーションを行なう。会場は、東京・丸ノ内地区にある丸ビル、三菱ビル、東京ビル TOKIA ガレリアで、参加費は無料。
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放送波を通じて、パーソナリティが配信したWebサイト情報の反映がクライアント側で可能
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Webサイト情報に加えて、地図に描いた赤丸なども通知できるという(写真右のディスプレイがパーソナリティ機)
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■ KDDIが掲げる「ウルトラ3G構想」における放送波の活用も
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(左から)KDDIの安田氏、慶應大学の村井氏、エフエム東京の仁平氏
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慶應義塾大学の村井純 常任理事 兼 環境情報学部教授は、「IP over デジタル放送」について「既存のデジタル放送を利用して、IPパケットデータを1対多に情報配信が可能になる技術」と説明した。「放送波にIPパケットをカプセル化して組み込んでいるだけであり、これまで蓄積したIP技術のノウハウが活用できる」と語り、デジタル放送側の技術にも手を加える必要がないことから、「放送プラットフォームが進化した際にも対応できる」という見通しを示した。
村井氏は、「有線および無線ネットワークに加えて、放送波をインターネットと組み合わせることが可能になる。技術的な課題を解決できた際には、新しい社会基盤を整えることができるのではないか」と発言。「すでにいろいろな力を持っているデジタル放送が、インターネットという力を手に入れることで、国や地域に止まらず世界との繋がりも見えてくると思う」と語った。
KDDIの安田豊 執行役員 技術統轄本部長は、同社がKDDIが進める有線と無線をシームレスに利用できる「ウルトラ3G」においても本技術により、放送波の活用も可能になる考えを示した。また、「Web 2.0型のサービスも放送との組み合わせによって、地域や地方活性化に繋がる情報が放送波に通じて提供できるようになれば」と述べた。
同技術の実利用での可能性について、エフエム東京の仁平成彦 執行役員は「こうした技術の中で、どういった可能性があるか模索しているところだ」と述べる。その上で、「インターネットと放送の融合は、著作権や制度的な問題をはじめとした解決すべき課題はあるが、放送側としても前向きに取り組んでいきたい」と語った。
■ URL
ニュースリリース
http://www.kddi.com/corporate/news_release/2006/1120/
(村松健至)
2006/11/20 22:25
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