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26日、都内でNTTドコモ モバイル社会研究所主催によるセミナー「モバイル社会フォーラム 2005 子どもとモバイルメディア」が開催された。帝塚山学院大学 人間文化学部教授の香山リカ氏による基調講演、教育関係者5名のパネルディスカッションなどを通じ、子供と携帯電話の関わり合いについて議論を交わした。
■ ケータイが『心のツール』に
帝塚山学院大学 人間文化学部人間学科 教授の香山リカ氏による基調講演では、「携帯電話が便利な仕事道具としての枠を超え、『心のツール』へと変化しつつある」と自説を展開。「メールを媒介としたコミュニケーションが単なる道具ではなく、心の寂しさを埋める役割を果たすことすらある」と、精神病理学者として現在でも患者の診療にあたる立場から語った。
「心のツール」化が進む背景として、香山氏は、子供たちの性格傾向として今般多く見られる「自尊感情の欠如」が原因ではないかと分析。「自分に自信のない子供たち、『自分はここにいてもいいの?』と悩むような子供たちが、簡単にはじめられる携帯電話コミュニケーションに安息感を求めているかもしれない」と説明する。
また「インターネットや携帯電話の存在が引きこもりや不登校を生み出しているという指摘もあるが、それらが最後の救い、よすがにもなっている患者もいる」と言及。携帯電話を取り上げるだけでは、子供を取り巻く問題の解決に直接繋がらない可能性もあるといい、二元論では語れない難しさを吐露した。
■ 小学生にも携帯電話の普及が進む
モバイル社会研究所の研究企画/リサーチャーである遊橋裕泰氏からは、同研究所がNPOなどと協力している研究活動のレポートが発表された。独自に集計・調査したアンケート結果によれば「若年層への普及ペースはすさまじいものがあり、小学生166名から得たアンケートでは3カ月で8%程度も携帯電話保有率が伸張するケースがもあった」と説明。アンケート対象のうち小学生で25%、中学生で50%、高校生にいたってはほぼ全員が携帯電話・PHSを保有している結果が明らかになったという。
アンケート結果の興味深い点としてもう1つ挙げられたのが、携帯電話を保有する動機だ。携帯電話を買い与える理由として親側からは「子供との緊急連絡用」「居場所確認」という回答が1位・2位を示したのに対し、子供側からは「友人が利用しているから」という理由が筆頭に上っており、「親子の間で意識にギャップがある」と遊橋氏はコメントした。
また携帯電話の保有と、児童の行動特性に関する因果関係も分析されている。「1日あたりの携帯電話利用時間が長い子供は、ほとんど利用しない子供に比べて、先見性、課題発見力では劣るものの、情報収集、チャレンジ精神、関係構築、行動力といった指標では優秀であるとの結果が出た」と遊橋氏は解説し、携帯電話だけが『悪の要因』とは断じられないと述べている。
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モバイル社会研究所の研究企画/リサーチャーである遊橋裕泰氏
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携帯電話を保有する動機について、親と子では認識が大きく異なるという
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■ インターネットとマスコミの違いとは
群馬大学 社会情報学部大学院研究科の下田博次教授による講演では、「インターネットはマスコミ報道と違い、利用者のレベルに応じて情報環境を変えるメディアである」を最重要キーワードに、説明が展開された。
象徴的な事例として「親が『勉強のために』とインターネット環境を与えるのに対し、子供側は遊び・癒し目的にインターネットを使う」点を指摘。利用に際して十分な注意を払うべき携帯電話を、比較的安易に与えていると分析する。下田氏は「出会い系サイトなどで被害を受けた児童の親が、『買い与えた携帯電話から、出会い系サイトに接続できるとは思わなかった』と話すケースは非常に多い」と現状を語る。
またコンビニエンスストアでの決済や商品受け取りを利用すれば、親になんら知られることなくショッピングできる事例などを示し、下田氏は「やろうと思えばなんでもできる『インターネット世界』の危険性を、親は早急に認識すべき」と警告。モラル啓発小冊子の作成などを通じ、問題解決に尽力していきたいと発言している。
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群馬大学 社会情報学部大学院研究科の下田博次教授
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インターネットを捉える視点は、保護者とこの間で異なる
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■ 子供のケータイ所持を禁止にすべき?
シンポジウムの最後には、現役の学校教諭らによるパネルディスカッションも開催された。パネラーからは「携帯電話をおもにメール端末して活用しするため『電話もできる道具』と発想する児童もいる」「携帯メールはリアルタイムで届くため、すぐに返事をしなければ、それこそ友達を減らしかねないという認識すらあるようだ」など、幼いころから携帯電話に触れている世代特有と思われる事象について、数々の言及がなされた。
聴衆からの質問も受け付け、児童の携帯電話所持を法律などで規制する可能性について論じるシーンもあった。携帯電話利用の学習教材作成などに取り組むパネラーの榎本竜二氏(東京都立江東商業高等学校 教諭)は「規制には半分賛成。個人的には小学校低学年にはいらないと思う。ただし仕事で忙しい保護者からすると、(携帯電話を)持たせたいという要望は強い」と実情を明らかにする。学校レベルで所持禁止ルールを設けているにもかかわらず、ひそかに携帯電話を持たせる親は少なくないという。
講演者としても登場した野間俊彦氏(東京都北区立赤羽台西小学校 主幹)は、「正直なところ、携帯電話は小中学生にとって不要だと思う。ただ現実的には(保護者からの要望は強く)利用法の指導を行なうしかないだろう」とコメント。慶應義塾大学経済学部の武山政直助教授からは「(年齢や習熟度に応じて)段階的に携帯電話の機能を利用させては」などの意見も寄せられた。
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左から東京都立江東商業高等学校 教諭の榎本竜二氏、東京都北区立赤羽台西小学校 主幹の野間俊彦氏
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左よりモバイル社会研究所 副所長の山川隆氏、慶應義塾大学経済学部の武山政直助教授、同大学大学院 政策・メディア研究科の研究員、河村智洋氏
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■ URL
モバイル社会フォーラム2005 子どもとモバイルメディア ~わたしたちの役割を考える~
http://www.moba-ken.jp/forum/index.htm
NTTドコモ モバイル社会研究所
http://www.moba-ken.jp/
(森田秀一)
2005/07/26 19:53
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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