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モバイル社会研究所 所長の東京大学教授 石井威望氏
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3月5日、東京都内で「モバイル社会シンポジウム2005 モバイル社会の生活の質と安全」と題したシンポジウムが開催された。主催するモバイル社会研究所は2004年4月に設立されたNTTドコモの社内組織。所長を勤める東京大学教授の石井威望氏をはじめ、内外の識者で構成され、モバイルがもたらす社会への影響を主なテーマとして研究することが目的だ。今回のイベントはその研究成果を発表する場として、同研究会初めてのシンポジウムとなる。
冒頭の基調講演には所長の石井氏が登壇。ケータイの歴史を振り返りながら、「これまでのケータイの進化は、iモードによるインターネット接続機能の搭載から、カメラ付きケータイという流れだった。これまでも常に仮想世界と現実世界を結ぶ、エンタングルメント思考に基づいた進化だったが、今後はさらに非接触ICによって“生活ケータイ”になっていく。常に持ち歩き、最先端の技術が詰め込まれたケータイはひとつのツールではなく、最適化された複合ツールへと向かうだろう」と今後の見通しを語った。
このほか、著作権保護や迷惑メール、災害時の通信手段としての役割など、ケータイにまつわるさまざまな社会的事象を取り上げ、識者と来場客が活発に意見交換を行なっていた。
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ケータイは通信インフラからITインフラ、そして生活インフラへ
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“エンタングルメント”がキーワードだという
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慶大田中助教授、「WinnyによるCD売り上げ影響はない」
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慶應義塾大学経済学部助教授の田中辰雄氏
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デジタルコンテンツの著作権保護について研究発表した慶應義塾大学経済学部助教授の田中辰雄氏は、「Winnyによる音楽ファイルのダウンロードはCDの売り上げに悪影響どころか、むしろいい影響を与えている」とする研究結果を発表した。
冒頭、田中氏は「著作権保護の水準をどの程度に定めるかは今後非常に重要なテーマだ」と問題提起した。著作権保護の意義について「情報材は基本的に無償で全員が利用できることが社会的には最適。しかし、そうなると誰も作らなくなるので、著作権で保護するというのが本来」とし、「著作者の報酬に影響がなければ、保護水準は弱めるべき。売り上げにどういう影響があるかを調べるのが重要だ」と今回の調査の背景を語った。
調査は週末ごとオリコンベスト30に名を連ねた作品について、Winnyネットワーク上において、参照量をリサーチ。曲の容量で割ることで、おおよそのダウンロード数を計測する形で行なわれたという。
その結果を、ダウンロード数を横軸、売り上げを縦軸にとってグラフ化すると、「ダウンロードされている曲ほど、CDが売れている」ことを示す、右上がりの線になるという。この結果を受けて田中氏は、「ダウンロードしたから買わないというよりは、ダウンロードしてよかったから買うという“宣伝効果”があったのだろう。CDを買わない人間はダウンロードしようがしまいが買わない、という傾向がわかった」とし、「ダウンロードしても売り上げに影響はない。むしろ増えてしまった。Winnyによる売り上げ被害はないという結論に至らざるを得ない」と結論づけた。
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ケータイは“iPod化”しようとしているが、音楽業界が恐怖感をいだいているという
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さらに田中氏は「歴史を見てもらえばわかる。レコードが最初現われたとき、“レコードを聴かれたら、ライブに人が来なくなる”と権利保持者は心配した。ビデオデッキができたときも同様だし、ラジオで野球放送をさせたら球場に来なくなるという心配もかつてはされた。しかし、結果的に杞憂で、むしろそれぞれを普及させるのに大きな役割を果たした。これと同じこと」とコメント。今後のケータイの進化について「音楽業界およびケータイ業界は著作権保護について恐れず、“iPod化”を進めるべき」とまとめた。
田中氏の発表についてソニー 知的財産センターの大塚 祐也氏は「着うたのヒットの要因のひとつにプロテクションの強さというものがあったのではないか。権利者は常に保護水準を強めたいという思いがある。Winnyは合法ダウンロードに影響を与えないのか、という懸念もある」とコメント。それについて田中氏は「着うたは通信業界が中心になって進めたもので、レコード会社が大きく絡まなかった事例で特殊。合法ダウンロードへの影響はデータがないが、まず、レンタルに影響があるかどうか調べたい」と答え、締めくくった。
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「売り上げに影響がなければ、保護水準を低くするのが妥当」だという
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参照量をファイルサイズで割ると、おおよそのダウンロード数が推し量れる
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売り上げに悪影響を及ぼすどころか、宣伝効果も見られるという
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違法ダウンロードがCD売り上げに影響を及ぼすことはない、との結論
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■ モバイル社会研究所
http://www.moba-ken.jp/
(伊藤 大地)
2005/03/07 11:58
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