今回は連載最終回ということで、サイトオーナーの心得について、ざっくばらんに話のほうを進めていきたいと思います。
■ EZwebのポテンシャル
前回のCGIの話の部分で、EZgetについて軽く触れたのですが、実はEZwebにはそれ以外にも色々な「拡張」サービスがあります。これは、EZwebが単なるマークアップ言語ベースのコンテンツという位置付けから、より拡張性の高いものを実装してきている表れとも見ることができます。この連載では、そうしたサービスのベースとなっているHDMLについて詳しく見てきました。当然ですが、これらの拡張サービスを実装するためにはHDMLを理解していく必要があるのです。
では、どのような拡張サービスがあるのでしょうか? 少しだけ具体的に見ておきましょう。
- ダイジェスト機能
- アラート機能
- キャッシュ操作
- EZget
- ロケーションサービス機能
- CMX機能
ダイジェスト機能というのは、デッキとカードについてきちんと理解されていれば容易に想像がつくサービスです。すなわち1つのデッキ制限内で複数のデータ・ページをまとめて送信する機能です。
アラート機能は、メールが届いた際に告知してくれる「EZチャイム機能」などが具体的な内容になります。メールのチャイムはUP.Linkサーバー自体が配信しているのですが、このアラートを普通のWebサーバーから配信することも技術的には可能です。例えば、UP.SDKにはそのためのライブラリーも用意されています。ただ、現状のネットワークでは、このようないわゆる「プッシュサービス」は過度な負担がかかるので、現在は一部を除いて実現できないようになっています。この機能を使用すれば、メールを使用しなくても簡単なメッセージで際と更新情報や渋滞情報・バーゲン情報などをリアルタイムに送信できるようになります。
キャッシュ操作。これもWebサーバーなどから各端末にめがけて配信するというものです。これによってコンテンツ提供側で自動的に過去のキャッシュデータをクリアさせたりすることが可能となります。
これら3つの機能については、UP.SDKの「Developer’s Guide」の3章に詳しい記述がありますので、興味のある方はそちらを参照してください。それそれ特有のMIME形式を持っているので注意しましょう。また、これらはPerl等の技術力がないと実現は難しいと思います。
下の3つについてはKDDIが中心になって追加された拡張機能です。これらを使用すれば、マルチメディアコンテンツや位置情報を反映したコンテンツの配信が可能となります。最近登場したカラオケサイトなどはこれを使用した実用例でしょう。ただし、これらの機能は公式サイトのみが提供可能な仕様となっているところもあるので、詳しくはKDDIにお問い合わせください。
■ サイトマスターとしての心得
さて、この連載をお読みいただいてようやくEZweb対応のコンテンツが立ち上げた皆さんもずいぶんいらっしゃると思います。ここからはサイトを育てるコツみたいなものを簡単にまとめてみたいと思います。
(1)サイトの立ち上げ
まずは、サイトのテーマとコンセプトを決めましょう。次に「絵コンテ」を作ります。デジタルだからといってパソコンにいきなり向かうのは素人的な発想です。ましてや画面サイズが小さく、ユーザビリティが問われる携帯サイトの場合、このプロセスは意外と重要です。「シナリオ」を作るような感覚でサイトマップを作りましょう。特にカードやデッキといったものを使いこなすためには、ページ(カード)同士の関係を把握するためにも、この捜査過程は重要です。
そして、ユーザーインターフェイスやデータベース、ページ内容等の作りこみに入ります。ただ、この時点であまり完璧なものを目指すというよりは、ベータ版のような形で初期公開を目指し、細かい修正・バージョンアップはそれから行なう、というのがいかにもインターネット的なやり方だと思います。
公開できる段階に到達したらURLを決めましょう。ドメインはサービスのブランドに重要な影響を与えますので、本格的なサービスを立ち上げるのであれば、是非取得されることをお勧めします。最初にトップページのURLを決めるのですが、EZwebの場合、
http://▲▲▲.com/ez/
http://▲▲▲.com/ezweb/
http://▲▲▲.com/e/
http://▲▲▲.com/wap/
という形でディレクトリーを切ることが多いようです。また、サイトのトップページは、できればカラー対応端末とモノクロ端末との識別ができるように設定すべきでしょう。携帯電話のダイヤルキーで押しやすいドメインを別途取得し、そこからメインサーバーへ転送させるという手段も最近ではよく目にします。
さて、サイトを立ち上げたら告知する、というのは他のメディアと同様に重要です。HDMLのページはHTMLのブラウザーからアクセスしてもらえないので、一番手っ取り早いのは、それ専門の検索エンジンやリンク集に登録してもらうことです。現在、EZwebサイトを登録・紹介してくれるサービスとしては、公式・非公式のものまで含めて下記のようなものがあります。
・EZサーチ(公式・無料)
http://ezsearch.shoeisha.co.jp/
翔泳社が提供する公式検索エンジン。フレーズで検索するスタイル。
・EZseek(公式・無料)
http://ezseek.infoseek.co.jp/
Infoseekが提供する公式検索エンジン。キーワード・カテゴリー検索型。
・w@pnavi(独立・無料)
http://wapnavi.net/
キーワード・カテゴリー・人気・ランダム検索など。PCからもアクセス可能。
・lycos(独立・無料)
http://ez.lycos.co.jp/
Lycos提供。カテゴリー検索型。
・pYappo(独立・無料)
http://p.yappo.ne.jp/
ロボット・カテゴリー併用型。
・ICON search EZ(独立・無料)
http://fromtokyo.com/ez/
カテゴリー・キーワード併用型。
どの検索エンジンも、登録に関してはある程度の審査基準はあるようですが、ほとんどはスムーズに登録されているようです。ただ、コンテンツを登録するタイミングは間違えないようにしましょう。一度しかないチャンスとも言えるので、「ここぞと思う時」に登録するようにします。その時点でコンテンツの大半が工事中とかいうのは言語道断です。
(2)軌道に乗せるまで
携帯サイトはPC向けのサイトよりも即応性が問われます。「普通」のユーザーが利用するということもあり、時にはとんでもない質問も来ます。したがって、サイトを立ち上げて、告知をはじめたら、そこからが地獄であり、逆にうまく行けば、これほどエキサイティングな瞬間はないと思える時間の連続になっていくと思います。
この段階では、どんな人たちをターゲットにするのかをしっかり考えることが重要になってきます。ユーザーをセグメント化すると、大体3つのパターンに別れてきます。
ビジターとは、検索エンジンやその他の告知によって、あるいは友人の紹介によって、初めてそのサイトにアクセスしてくるユーザーのこと、リピーターとは、過去にそのサイトにやって来たことのある経験者のこと、レギュラーとは、一定の期間を経て、常にサイトを利用してくれるユーザーのことをそれぞれ指します。
ユーザーはアクセスの度合いによって、ビジター→リピーター→レギュラーと順に成長していきますが、ビジターがいきなりレギュラーになるケースもあります。サイトの価値を高めていく上では、ビジター層を取り込んで放さないようにしていくことが重要なのです。
常にターゲットとするユーザー層を意識し、日々戦略を刻々と変化させていくためには、アクセス解析やアンケート等を定期的行なっていく必要があるでしょう。幸いにして、EZwebには「サブスクライバーID」という強力な個人認証機能がついているので、これを使用しない手はないでしょう。
[ビジター層へのアピールのポイント]
- どのようなサイトなのかが一言で表現できるくらい分かりやすいこと。
- 見た目でサイトの構造が理解できること。表現力の限定された携帯電話では特に気をつけましょう。情報アーキテクチャーの理論を参考にするのもよいでしょう。
- 親しみが持てること。カラー画像を適所で使用するなど、ユーザーフレンドリーな印象をもたせたり、言葉使いに気をつけましょう。ビジネス用語は意外と嫌われます。
- 表示や入力に時間がかからないこと。小さな画像を多用するサイト、入力内容が異常なほど多いサイトは、まず間違いなく嫌われます。
- 初心者を意識した内容を盛り込むこと。ヘルプ・Q&Aメニューを分かりやすい場所に配置することなどが効果的です。
- ブックマークしてもらうことを促し、その操作をスムーズに行なわせる構造に。
[リピーター層へのアピールのポイント]
- 更新頻度が高いこと。ユーザーは、とにかく新しい情報・タイムリーな情報を求めます。
- 付加価値の高い情報・データの価値が多いこと。他のサイトと相対的かつ徹底的な差別化ができているかが重要です。
- 使い勝手がよいこと。ページや操作の1コマ1コマを分かりやすく、簡潔にしましょう。
- 雑誌などのメディアでそのサイトが評価されること。掲載実績等のPRを効果的に行ないましょう。ユーザーは他人の評価を結構気にするものです。
[レギュラー層へのアピールのポイント]
- 更新頻度が高いこと。
- 使い勝手がよいこと。
- データが軽いこと。
- きめ細かいユーザーサポート。サイトが大規模になってくると、苦情の問い合わせや、無言メールなど、色々なメッセージが届くようになりますが、どれも失礼のないよう冷静に対応するようにします。
(3)より効率的な運営を目指す
ある程度のアクセス数が獲得できるようになってくると、サーバーのスペックやネットワークの混雑状況などが問題になってきます。また、扱うデータ量が大きくなり、対象とするユーザー層が幅広くなってくると、データのメンテナンスやユーザーサポートなどを行なう必要も出てきます。
効率的な運営を目指すというのであれば、手っ取り早くは、収益源を得て、それを元にした効果的な分業体制の確保したり、他のサイトと情報交換し、共同で運営したりするなどの手が考えられるでしょう。収益源としては、勝手サイトでも試験的にバナー広告やコンテンツ課金といった手法をとることができるようになってきています(例えば、私のサイトは広告代理店2社と提携してバナー広告配信を行なっています)。
また、サーバーのスペックやネットワークのトラフィックについてですが、携帯電話の場合、PCとは多少事情が異なりますので注意が必要です。携帯電話では、以下のような特徴があります。
- アクセスピークの時間帯がPC向けのサイトと異なること
- 1つ1つの転送リクエスト回数が多くても転送量全体としては大した量にはなっていないこと
携帯電話の場合、お昼の12時30分から午後2時にかけて、午後7時から8時にかけて、午後10時から午後11時にかけてがピークの時間帯です。これは、ちょうどユーザーが携帯電話でアクセスできるお昼休み、帰宅時間、寝る前という3つの行動をとる時間帯に合致しています。
また、データの総量についてですが、サーバーを提供しているプロバイダーによっては転送量制限をかけているところもあります。ただ、携帯電話の場合、1つのファイルサイズが1.5KB以下(EZwebの場合)なので、実は全然心配するには及ばないのです。CGIの文字処理も、意外なほど深刻なパフォーマンスの低下にはつながりません。
CGIの使用言語については、頻繁にメンテナンスを行なっていく必要がある場合はプログラム内容の差し替えがきわめて簡単なPerl、データベースが絡んだ場合はPHPに軍配が上がります。ただ、公式サイト並みにユーザーが20万人、30万人というレベルになり、課金シスシステムを装備しているような場合は、最近ではJava Servlet等を利用し、パフォーマンスを向上させるということを検討する必要が出てくるかもしれません。
それから、著作権・肖像権にも十分気をつける必要があります。少なくとも現行の法律体系が存在する限り、そうしたものに違反する行為をとった場合、後からとんでもない金額を請求されることにもなりかねません。
逆にソースの複製を禁じるために様々な形でパソコンからのアクセスを制限して安心しきっているサイトも随分ありますが、その判別のために用いる「HTTP_USER_AGENT」などの環境変数は簡単に偽造が可能ですから、過度に信頼しないほうがよいでしょう。
(4)EZwebならではのポイント
これまで述べてきた内容は携帯電話サイト一般にある程度共通する話ですが、最後にEZweb向けということでまとめておきたいと思います。EZwebサイトには以下のような特徴があるようですから、これを有効に活用することも考えるようにしましょう。
- 公式サイトも勝手サイトもまだまだ少ない(特に勝手サイトの認知度が低い)
- 利用ユーザー層に一定の傾向がある
前者についてですが、正直、今は非常にチャンスで、他のキャリア向けに作りられたが膨大な数の中に埋もれていたサイトがEZwebで大ヒットしたという例が最近いくつか見られます。EZwebユーザーは現時点で既に約400万人ですから、iモードより少ないとはいえ、馬鹿にはできません。
また、後者についてですが、EZwebの利用者は、以下のような属性に分類される人たちが多いようです。これらの層を意識したテーマやユーザーインターフェイス(色・言葉使い・内容の見せ方)などを工夫すると効果的でしょう。
- 最先端の機械好きなモバイラー
- 会社の関係で持たされている所有者(法人契約)
- 中高年齢層、キャリアウーマン
- 通話料、携帯電話購入時にあまり費用をかけたくない主婦、フリーターなど
■携帯電話サイトの未来
私のような凡人がこのようなことを語ってしまってよいのか少し怖いところですが、今後の携帯電話、とりわけEZwebのロードマップについて、私のほうからお話しできるところまで書いておきたいと思います。
- 2000年秋
- CMX実装・ロケーションサービス・カラー端末の発売・コンテンツの充実
- 2000年冬
- WAPフォーラムでWAP 2.0の仕様がかなり固まる
- 2001年春
- IMT-2000サービスのスタート
- 2001年冬~夏
- WAP 2.0ベースの実装に関して何らかのアクションが始まる
現状の携帯電話向けコンテンツは、小さな画面に表示される電話帳の延長線上にあったコンテンツでした。元々はポケットベルの文字情報提供サービスの延長から携帯電話へとシーンが移っただけの話だったのです。しかし、そこには「どこでも、だれもが、気軽に、一人一人にカスタマイズされたサービス」という新しい世界を私たちに提供し、このように日本では空前の普及速度を実現してきました。
こうした中、EZwebもWAPの流れを踏んで進化していくものと言われています。2001年にサービスで実装されることが予想される「WAP 2.0」においては、「XHTML」という新しい次世代の記述言語がナインナップの中に入っています。これは、WAPフォーラムとW3Cが協力したことによってもたらされた利益と言えるでしょう。これにより、EZwebにおいては、インターネットの世界とモバイルの世界を融合させること(ユニバーサル・アクセシビリティ)が約束されているのです。
そして、HTMLの世界ではおなじみの「CSS(スタイルシート)」がモバイルの世界においてもXHTMLとワンセットで実装されると言われています。さらには、「WML 1.0」で採用された「WMLScript」をサポートする形で、携帯電話上で動作するスクリプト言語も提案されています。これは、JavaScriptのサブセットになる可能性もあります。
これらのことが実現すれば、既存のHTMLとHDMLの“いいとこ取り”をした新しい世界が待っていると考えられるのです。
また、モバイルだけではなく、テレビや家電にもインターネットの世界で培われたマークアップ言語は確実に浸透しています。近い将来これらが融合されるのは確実視されていて、そのコアのテクノロジーへは、ほとんど今まで砂上の空論であり続けたXMLでしょう。WMLにしろ、XHTMLにしろ、このXMLのサブセットであるということから、今後のEZwebのポテンシャルは様々な方向に開けてくるかもしれません。
マークアップ言語の違いや、ユーザーインターフェイスの違いに悩まされる時代と、それが提案する新しい時代との間は急速に縮まってきているようにも見えます。
ただ、現状のサービスは、あくまで文字が中心となっています。検索するにしても、データを入力するにしても、すべてが文字ベースで行なわれているのです。やはり次世代は“音”や“映像”をいかに扱うのかが、広帯域サービスをより身近なものにするための鍵になっていくような気がします。既に水面下では特許取得など様々な形の動きがあると聞いていますが、それらの中から真に画期的な技術が登場すれば、コンテンツという考え方自体も根本から変化してしまうような気がします。
とにかく、この携帯電話コンテンツの分野は、とてつもなくエキサイティングだ、ということです。
■ 最後に
さて、8月の終わりから今まで数回に渡って「EZwebサイトを作ろう」ということで、HDMLを中心に話をしてきました。連載という形でここまでまとまって提供されたものはなかなかないと思っています。
ただ、よくHDMLを分かっていらっしゃる方から見れば、説明が中途半端に終わっていたり、色々とご不満もおありではないかと思います。また、初心者から見れば、初級編はなんとかついていけたけれども、上級編で一気についていけなくなってしまった、という方もいらっしゃったかもしれません。できるだけ幅広い方に対応して、とにかく裾野を広げる「きっかけ」を作ってもらう、ということに終始したため、このような結果となりました。
私はPhone.comでコンテンツプロバイダーの方々をいろいろとサポートしていますが、個人的にもEZwebサイトのウェブマスターとしてコンテンツの制作者やこの連載の読者のみなさんとの繋がりを大切にしてきたいと思っています。近い将来、自サイトでウェブマスター向けのマーケティング・プロジェクトを行なう予定でもいます。
EZwebやWAPについては、色々なことが囁かれていますが、今後も当分の間はHDMLに対応した携帯電話は発売されますし、そうした端末を利用するユーザーは既に400万人もいます。今回書きましたが、携帯電話コンテンツの分野はとてつもなくエキサイティングだということで、少しでも多くの方がこの連載を通じてHDML対応のページを作って、喜びを分かちあっていただくことを切に祈っています。
■ URL
Phone.com Developer Program(HDML WMLコンテンツ制作支援サイト)
http://developer.phone.com/ja/
(佐藤 崇)
2000/11/02 00:00
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